20
ヘリーナが戸惑いながら言葉を詰まらせている間に、ジーンはためらいもなく部屋へ足を踏み入れた。
「お邪魔する」
その声は妙に落ち着いていて、まるで自分の部屋に帰ってきたかのようだった。
「ちょっと、あんた、何してるのよ!」
ヘリーナが慌てて声を荒げる。
「落ち着け」
ジーンは軽く手を上げて制した。その動作には無駄な力も焦りもない。まるで全てが予定のうち、というように。
「それで――あんたが本当に元魔女だって証拠は?」
ヘリーナの視線は鋭く、相手の目を射抜くようだった。
「証明なんてできない。やれば俺は死ぬからな」
ジーンはあっさりと返す。声に迷いはなかった。
「じゃあ、嘘つき魔女の可能性もあるわけね」
「あるさ。だがもし俺が嘘をついていると分かったら――お前は聖女だ、俺をすぐに吊るせるだろ」
ジーンは視線を外さず、淡々と続けた。
「危ない橋を渡るのは、俺の方だ」
ヘリーナは眉をわずかにひそめ、心の中で言葉を反芻する。
(確かに……こいつは誰とも馴れ合ってない。一緒にいたあの子とも距離があった。もし本当に元魔女なら――)
部屋の外では、廊下を吹き抜ける冷たい風の音だけが響いていた。緊張が、じわりと二人の間を満たす。
「……それで?」
「今夜、ガーヴィンの身に“何か”が起こる。ガーヴィンの部屋のクローゼットに隠れていろ。
お前の欲しい答えが、そこに現れる」
「それって……魔女の正体が分かるってこと?」
「肯定も否定もしない。ただ――そこに行けば、このゲームを終わらせられる」
ヘリーナは短く息をついた。
疑いは消えていない。それでも、心の奥に小さく芽生えた期待を無視できなかった。
「信じたわけじゃない」
低く言い切る。
「でも――私は、このゲームを終わらせたい」
ジーンの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。
「……ありがとう」
そう言うと、彼は勢いよく立ち上がり、ヘリーナの肩をがしっと掴んだ。
「ちょ、なに――」
抱き寄せられた瞬間、ヘリーナのこぶしが反射的にジーンの頭頂を叩く。
「やめろ、バカ」
鈍い音がして、ジーンは眉をしかめながら頭を押さえた。
一瞬だけ空気が緩む。それでも、互いの瞳の奥にある緊張は、まだ解けていなかった。




