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才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。  作者: マボロシ屋
10章 月は東に日は西に

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137:殴りこみに来てるらしいと言われても対応に困る

 朝食を黙々と食べ終え、食器を片付けながら先程の事を考える。


 いつも先に進んだと思えば、立ち位置は(ほとん)ど変わらないな。いつも希望や可能性を見せられながら、一向に辿(たど)り着けないまま。

 一体、これからどうなるのか……俺の冒険者ランクの昇格から一気に事が動き出して行ってる……


 新たなランク、新たな(つぼみ)、新たな希望、新たな出会い、新たな真実、新たな危険……

 俺の止まっていた(とき)が動き出したのか、俺が導いているのか、何かに導かれて動き出したのか……それとも、その両方なのか……


 考えても分からない事だらけだ。


「ははっ……ヒトの身には、抱えるには大きすぎる量だな」


 最近はそんな事ばかり思うようになってきたな。

 前を向いて慣れ親しんだ道を歩いていたと思えば、気付けば自分が進んでいた道は一歩先にはとうになく、見えない(きり)の中で必死に前に進んでいると思い込みながら歩いている気分だ。


 その先に何が待ち受けているのかも分からないのに、必死に手足をもがきながら……


「ノーマ、君はよく思考するね。それは癖みたいなものかい?」


 思考の海へ潜っていた俺へジーニャが声をかけてきた。

 ふむ、と顎に手を当てながらその言葉に返答する。


「13歳以前まではそうじゃなかった。才能に夢を見て、冒険者に未来を見出し、自分の将来を明るいものと信じてやまなかった。だが、13歳以降は無能者の可能性が脳裏に(くすぶ)り続け、思考と人一倍の努力を求めた。それしか恐怖を払えなかったからだ」


 自分の両手を見ながら、言葉を続ける。


「そして事実、この身に才能はなかった。だからこそ、より一層の知識、研鑽(けんさん)を求めてきた。成長が見えない中でも、壁は打破できなくても傷をつけ続け、いつか向こう側が見える時のために」


 俺の言葉を聞いて、納得したかのように(うなず)きながら鼻息をふんふん鳴らすジーニャ。


「なっるほどねぇ! 無開花者としての基礎能力の向上も(かぎ)の一つなのかもしれないねっ!」


 そう言いながら手元のメモに俺の言葉を書き記していく。


「なぁ、お前は『機構の探求』の所属クラン長だろ? それに、魔義体の製作者のはずだ」


「そうだね」


 ジーニャは俺には目を向けず、メモに記した内容を見続ける。


魔義体(かのじょたち)の才能――性能は現時点で既に俺より優れている。その上で、お前が言う無能者から変質したかもしれない『ノーマ(おれ)』にも目を向けて先を見続けているのは何故だ?」


「それは愚問だね! 上が目指せるのなら上を追い続けるべきでしょ? 君は今の君で終わりたい? 私は今の私のままで終われない、終わりたくない。そりゃ、魔義体は破格の性能だろうね? だけどね?」


 それまでメモを見ていたジーニャの目が俺にじっと向けられる。


「ヒトの可能性は今の魔義体じゃ、簡単に引き出せるとは思えない。活動限界は見えてるからね! でも、もしも、もしもだけど」


 その次に出る言葉は、俺にも分かった。


「ヒト自身の後天的な性能――才能が解放されたなら、その先に……?」


「そう! まぁ、現時点での魔義体はあくまでも欠損した体を補うのに加えて能力の強化があるけど。そこにヒトの後天的成長を導く補助が行えるようになれば、魔義体にこだわる必要はなくなるからね!」


 ジーニャは、うんっ、と(うなず)くと嬉しそうな顔で告げる。


「だからこそ、ノーマは貴重で希少なんだよ! もしかすると道が見えるかもしれない! 新しい、ヒトの可能性の道、だよ!」


 俺を見る目がそれこそ、恋焦(こいこ)がれた者を見るかのような視線だ。


「そう、か。まぁ、俺は俺で無能者として才能はなかったのは理解しているが、このままでは終われないのはその通りだ……誘拐まがいの出会い方はどうかと思うが、その考え方は共感が持てる」


「へっへっへ! そう言う訳で検体をまだまだいくつも集めたい訳ですよ!」


 俺の言葉に気を良くしたのか、にへらっとした笑みを向けてくるが――


「だが断る!」


「なんで!? 今の話聞いて、君だってメリットがあるかもしれないのにっ!?」


 俺の言葉にびっくりした顔で、それまでの笑みは吹き飛んで(わめ)くジーニャ。


「お断りいたす!」


「なんでだよぉっ!!」


 そそくさと食器を片付け終えると、その場を後にして部屋に戻る。

 ジーニャは尚も俺の背中に向けて「協力してよーっ!!」と叫んでいた。


 部屋に戻ってからしばらく。

 のんびりと、どうやってアマテア皇国からディアナ王国まで帰ろうか、などと思案していると……


 バタバタと廊下から音が聞こえだしたと思えば、聞きなれない声音でジーニャを呼びだした。


「く、クラン長!! ジーニャクラン長ッ!!」


 複数人の男女がジーニャを探しているようだ。

 廊下の奥――朝食を食べた研究室へとドタバタと走っていく者たちに遅れるように、ゆっくりと静かに歩く音が聞こえてきた。


「今度は何をしたんだ、ジーニャッ! 出てきなさいッ!! 今回の件、事と次第ではクランの存続問題にかかわるよッ!!!」


 歩く音は静かだったが、口から出てきた言葉は先を言った者たちの誰よりも、大きく、そして響く男の声だった。


 そして、その声の主が俺の部屋の前を今、まさに通り過ぎようとし――


「んぇ……?」


 声の主がふと、部屋の中にちらっと目を向けると動きが止まった。


「あ……どうも?」


 ベッドに腰かけて廊下を見ていた俺は、つい挨拶(あいさつ)を返す。

 相手は俺と目を合わせ、動きが静止したまま。


 年は……ジーニャよりも上、俺と同じくらいに見えるか?

 眼鏡の奥の目はきょとんとしたかのように、誰だろ?、と見つめてくる。

 声から男なのだろうと分かるが、茶髪のポニーテールが異様に似合い、低い声の女性ですと言われても納得できそうな美形。


 華奢に見えるが筋肉もついており、均整(きんせい)の取れたスラっとした肢体(したい)。しなやかで品のありそうな――


「…………すまん、何があったんだ?」


 そこまで考えて、俺は何馬鹿な事を、とはたと気付き言葉を投げかけた。


「あ、あ~、と……どちら様でしょうか? あ、あはははは」


 しどろもどろになりながら、俺の容姿をじろじろと見て、急に笑い出した。

 聞きたくないけど聞かざるを得ない、とでも言うような困った声音で笑っている。


 そんな質問を受け、俺も口を開く。


「あ~、何て言えば良いか分からないが……突如として先日から世話?になってる男だな」


 俺の言葉で「あぁあ……そうですよねぇ……」と顔を項垂(うなだ)れて右手で顔を(おお)う。

 覆われた顔色は分からないが、耳がどんどん赤くなってきたなと思えば、ばっと顔を上げ――


「…………ジーニャッ!!! 今すぐ出てきなさいッ!!!」


 大きく響く声が発せられた。そしてそのまま続きの言葉を(つむ)いでいく。


「『百花繚乱』の要請でディアナ王国のクラン、協会から直々の苦情が来てますッ! それと『百花繚乱』所属パーティーの方々もお見えですッ!! 早く出てきなさいッ!!!」


 どうやら事態が露見(ろけん)し、『百花繚乱(うち)』のメンバーが正式に殴り込みに来たらしい。


 ジーニャが誘拐まがいの事やってるからなぁ……本人(おれ)は無事とはいえ、そりゃぁなぁ……

 でも、正直……関わりたくない。ただ、自分のクランの事だから投げっぱなしもできない。


 殴りこみに来てるらしいと言われても対応に困る……こっちだってやっと、どうしようかな?とか思ってた段階だぞ……


 朝も思ったが……酷い1日になりそうだ。


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