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転生先は三代目魔王さまです  作者: 神坂将人
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船上の心

 『じゃあ、行ってくる!』


 船が出航し、それぞれの人が甲板に出て、手を振り、船が少し、また少しと動きながら、笑顔で手を振り、しばしの別れを惜しむ顔もあれば、幸運を祈る顔もある。


 その顔も見えなくなったら甲板に出ていた。人たちは少しずつ、船内へと戻っていく。


 甲板にいる人は船首側に行って潮風に当たっていたり、船尾でライトに照らされながらジュースを飲んでいたり様々だが、しばらくすると飽きたのか、一人、また一人と船内に戻る。


 その様子を見ながら、サンデッキで水平線の向こうを見る。


 そういえば、こうやって海を見るのは初めてだな。

 

 周りには何もなくてこの船以外に海面には何もなくシンとしたまるで隔離されたような、自分だけの世界みたいで、少しだけ楽しくなる。


 しかし、だ、自分の世界だけで遊ぶのは、虚しい、何でもできるからこそ、つまらないんだ。


 何でもできる力を許してしまうと、その人の欲望が優先されてしまう。全部がありきたりな結果になってしまう。王道になる、と言えば聞こえはいいが、悪く言えば、全部ただのエロアニメになってしまう。


 だから、全部思い通りになれるように事が進むことなんてないし、自分でそのようになってもいつか、暇で暇で、仕方なくなる。


 ふと、視線を落とすともう、甲板には人が殆どいなかった、自分と一人を除いて…


 「…」


 船の先頭に立ち、進む方向に目を向けているのはルーツだった。


 「船で大人しくしているんじゃなかったの?」


 「…魔王様ですか」


 声をかけたが、ルーツは振り向かず、前を向いていた。


 「大人しくはしていますよ。こうやって静かにしているのが、大人しくしているのが、証拠ではないですか」


 「ははっ、屁理屈だね」


 少し、距離を詰めて、話しを続ける。


 「隣、お邪魔していい?」


 ルーツは無言で少し、横にずれる。


 「考え事?」


 「いえ、船での移動は久しくて、年甲斐もなくカッコつけてしまいたくなっただけです。この様な童心に帰るのもいいと思っただけで―」


 「はい、嘘」


 「…敵いませんな、魔王様には、先代様にも三代目にも」


 「あからさまになりすぎ、そんな思いつめた雰囲気でそんなこと思う柄じゃないでしょ」


 「…少し、昔の事を思い出していたのです」


 観念したのか、ふっと息を吐き、話し始める。


 「私が生まれたのは小さな村でした。そこに住んでいる人々はみんな農民で作物を育て、互いの野菜や果物を交換して、生きていました。」


 「私は、その村で一番の働き者の子供として人気者でした。友達と遊んだりもしましたが、疲れを知らず、時間がある時、いろんな人と協力して農業に励みました」


 「おかげで、物々交換などしなくとも、色々とくれましたよ。まぁ、それで妬む者もいれば真似して農業に励む友達も増えましたが、しかし、それでも、天気はどうしようもなくて雨対策をしてもあまり役に立てなくて…いやぁ、あの時は悔しかった、とても」


 「そうして、しばらくたった後、父が病にかかりました。肺の病気だったらしく、普段の生活でよく咳き込む事が増えました」





 「いいか、ルーツ、鍬はおおきく振りかぶっても意味はねぇ、心込めて、つちぃ耕して愛情持って育てるってのが大切だ」


 「ふっ…よっ…と、父さんこんな感じ?」


 「あぁ、いい出来だ」


 「いたいた、ルーツ、親父さん、ちょっと、うちの畑見てくれねぇか?最近どうも育ちが悪いんだ」


 「あぁ、今行く」


 「…ルーツ、お前が作ったのは、ほんとにいいもんだな……うぅっ!」


 「っ!父さん!」





 「空元気で、体調だましていて、農業に文字通り命かけているって人で、倒れた翌日から、存分に歩けもしないようになって、それからは車椅子生活で農業も出来なくなって、それからは我が更に頑張りましたよ。だけど、親父はもう、自分が永くはない事に気づいていたのでしょうね、さらっと言いましたよもう俺はいつ死んでもおかしくねぇって」


 「重い話をつらつらと、よくペラペラと話すね」


 「敵わないからと判断したからこそ、ですよ。でも、死の間際に、我が魔人だって事も教えてもらいました」


 「えっ」


 「我の父親は育ての親だったのです。昔住んでいた生まれ故郷は元々魔人が住んでいた村で、人に危害を加える奴が多くいて、その討伐隊として我の父親が参加していたのですが、討伐した魔人の家から赤子の我を見て、周りの反対を押し切って我を養子にしたって」


 「随分と豪快な人だったんだね」


 「結婚していない両親っておかしいことも言ってましたが」


 「あっはは!違いないけど、面白いこと言うね」


 「そうですな、ははっ…」


 「あっ、ごめん、そういうわけじゃ…」


 「いえ、話したらなんだかすっきりしました。医務室で今度こそ大人しくしていますよ…むっ」


 振り返って船内への扉へ意識を向けた後、ルーツは顔をしかめて振り返ると静かな夜空を見上げる。


 「どうかした?」


 「この風…近いうちに嵐がきますな」


 「分かるの?」


 「昔、傭兵時代の頃、風や雲の動きで自然と」


 「それじゃあ、早く戻らないとね」

次回9月7日月曜日予定

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