自分自身で破壊して進め
定期報告会の後、マーリンに連れられて魔王城の最上階に着いた。
「何か話があるなら、部屋に行った方がいいと思うけどわざわざ、こんなところに来るって他じゃ話せない内容?」
「話ではなく、会わせたい人物、かな」
最近マーリンの話し方がフレンドリーになってきた気がする。
「ここは、特にその人物と会うのに適していて、座標がずれる心配が無いので」
そういうと、人差し指で円を描くように回しながら何かつぶやく。
「さあ、この中に入って、最強の魔人に会いに行こうじゃないか」
「えっ、待って、まだ、心の準備がって、暗くない?深淵通り越して漆黒なんだけど」
静止を訴える声や視線を無視して、背中をぐいぐいと暗い穴に押し込もうとしている。
「待って、本当に待って、本当に怖い、誰もこんな怪しい事に無理矢理って私魔王だよ?それをこんな無理矢理ってひゃあああああああああっ!!」
言い訳もむなしく、漆黒の円の中に入ってしまう。
「うぅん…」
気を失っていたのか、硬くて冷たい床の感触で目を覚ます。
「ここが?」
そういうと、隣からマーリンが何もない空間から現れた。
「っと、転移成功っと、まぁ、成功してないとおかしいか」
「マーリン、ここにいるの?合わせたい人って」
「いるよいるよ、今…」
「君の背後にいるよ」
後ろから急に肩を掴まれて持ち上げられた。
急にマーリンの頭が離れて行って、それよりも50センチだろうか、地面から二メートルは離れている。
「うわっうわっ、あわわわ…」
「っとと、慌てないでそんなに暴れると…あっ」
小さな素っ頓狂な声と同時に服が脱げる感覚と共に落下する。
「あっ、ひ、ひゃあっ!!」
落ちる衝撃に耐えるために目をぎゅっと閉じるがその衝撃は来なかった、恐る恐る目を開くと寸での所で宙に浮いている、自分で浮遊するために魔法をかけているわけではなく、直感で今も後ろにいる人物の魔法だと分かる。
「こっちを向いて、自己紹介をするなら、相手に注目をして、眼を合わせてするものだよ」
その言葉に反応するように、振り向くとそこには大柄な男性、肌が白く大きな体とは釣り合わないような手のひらよりかは小さい腕の太さ、下半身は大きめの衣服なのか少しヨレヨレのズボンを履いている。
「カイン・ノイシュヴァンルーデ・アルト、君の祖父だ」
その言葉を聞き鳥肌が立つ、この世界で原初の魔人、他の魔人を遥かにしのぐ魔力と力を持つ、最強の魔人、この身体の肉親とは知りながらも、ゾクゾクッと身震いをしてしまう。
「マーリン、ご苦労様、後はこっちでやるから、お迎えは必要ないよ」
「了解です、一足先に戻っているので、後はごゆっくりどうぞ」
そういうと、マーリンの姿は後ろの闇に溶け込むように消えていく、気配が完全に消えたのちに、景色が変わり、レストランにあるようなテーブルが目の前にあり、いつの間にか椅子に座っている部屋も4畳あるかないかくらいの部屋に代わり対面に魔王、祖父が座っている。
「さて、初めて、レン、いや、中村 泉君、とでも言おうかな?」
自分の名前を言われて身構える。
「ふふっ、あの双子には怯えないようにって言ってたのに、それじゃあ、人の事を言えないじゃないか」
「は、ははは、全く、ぐうの音も出ない発言をどうも…」
今までの行動を全てみられていたのか、分からず顔色一つ変えずに不敵な笑みを浮かべている。
「まぁ、そう警戒はしないでいい、僕は君が人間、いや、元人間だから、と言って精神を無くす訳ではない、精神ではなく魂をと言うべきだろうが、まぁ、同じようなものだな」
「では、こちらの質問で話してもいいのかな?【おじいちゃん】」
「質問の答えは出揃っているが、何を聞きたいのかも知っている。その答えが終わってから質問があれば受け付けよう、それが、君たちの世界で言う、言葉のキャッチボールと言うものだっけか?それだろう」
自分の事だけではなく前世の世界である言葉を知っている、この人は明らかに何かを知っている、今まで知らなかったことを知れる。
「さて、何から話すべきか…まずは君の身体でも話そうかな」
自分の身体…それは、一番聞きたいことではある。何故死んだ俺の魂がこの子に入ってしまったのか。
「君は既に、その体に元々宿っていたもう一つの人格に会っているな?」
もう一つの人格という言葉を聞くと、瞬時に理解する、報告会で自分の記憶を取り戻した時に聞いたあの声の事だろう。
「あの声はその体[レン]本来の人格だ、普通なら人格の覚醒が起こっても言葉を理解できないし話しも出来やしない、なら、何故君の記憶を取り戻したか、話は簡単だ、君とレンが魂ごと、精神が混ざり合っている、もちろん、記憶も含めてだ」
記憶、人格を含めるとなると辻褄も会うだが、何故、中村 泉である俺がこの身体に?
「記憶も混ざり合った時に一番最初に思い出した出来事があるだろう…過去の僕と君のクォーターの母親の思い出が」
しばらくして、思い出した、魔王として君臨して日も浅い時、夢を見た。謝罪の声と後悔の声それに覚悟を決めて何かを決意した声、その一人の声がこの魔王の声と酷似している。
「僕は細工のようなもので、その体になった君が最初に思い出す記憶があの日になるように仕組んだのだ、これからの魔神軍の未来、この世界の未来のために動いてほしかったからだ、その為にその身体に耐えうる精神が必要だった、それが、君だ」
自分だと言われてもパッとしない。
「君はずっと孤独だった、ずっと、ずっと、その苦しみを吐き出せず、ただただ溜め込むのみ、精神が壊れていてもおかしくはないのに、才能を失うのを恐れて抑え込む、それは普通の者では、そうそうない、それに、君はその疑問を持つのが早すぎた。自分の才能が開花するのが早いからこそ精神が強かった、君の他にも同じような境遇にいるものはいる、だが、君は違う。僕はそこに目を付けた、つまり、君の精神が、未発達であるレンになれたら、想定以上の出来事が起きるとな」
つまり、俺が死んだら精神が黄泉に送られる前にレンに入れられて復活するようにプログラミングされていたという事か。
「君が見た記憶の謝罪は君への謝罪でもあった、その体は因果の鎖で繋がっている、一番の誤算は君の魂も因果の鎖で繋がっているということだ」
「魔人や人、あらゆる生物は因果の鎖によって、それに沿って生きている、中には鎖が幾つかある物もいる、だが、君は、君たちは最悪だ、因果の鎖が無限にある、しかも、幾つも絡まってガチガチにな、一つのレールに従っても絡まっているから、そのレールがいつ壊れてもおかしくない」
「因果の鎖を断ち切ることは出来るが、それをした所で逆効果だ、その鎖はそれで、重要な役割を担っている、他の鎖で痛んじまったにせよ、精神や行動で断ち切ったにせよそれで、自由になった因果は更に複雑に絡まりお前を縛る、そして、いつか、指一本どころか、鎖でミイラ状態になって」
「死んでも因果によって永遠に肉体を持つどころか、自分で死ぬこともできない、歩く死人になるぞ、君」
「…きない」
「納得できない…か、そうだよね、何も悪いことをしていない、因果の鎖はお互いの身体と精神を引っ張り合って全部の因果を開放するどころか、絡み合った、それが自分のせいじゃないんだもんな、俺だったら本当に納得しないよ」
【あーあ、ボロクソ言われちゃってるじゃん、そんなしけた顔をしやがって、まぁ?記憶を見たおかげで俺も言葉も理解できるし感謝しているんだよ、今のお前の気持ちも理解している、混ざり合っている私なら】
「君は戦いたくないという願いの因果を進んでいる」
【でも、他のみんなは譲れないからこそ戦いの道を選んでその因果に沿って進んでいく】
「願いは因果を狂わせて、新しいレールを敷いていく何故なら願いはその人自身だから、自身がレールになるしかない」
【それを否定するという事は】
無理矢理、力でねじ伏せる、でも、俺に力は…
【そういう考えでもあなたは今、[私]なの、そういう考えはまた狂わせるだけ、いつ精神が堕ちてもおかしくないんだから】
「考えてもわかるかな?僕の神生だって間違いだらけさ、魔王軍と言わず魔神軍と名乗りを上げたのも自分が神になろうとしたんだから、正解に進んでいると思い込んで正解なんて無いと分かるのが結果に繋がったんだよ」
「悩み、願いそれらを操っているのは誰でもない君たちに絡みついた幾重にも重なっている因果、ただそれだけだ」
【それからは逃れられない、だから、死んだほうがマシかと思って今までとこれからも、身体の主導権をずっとあなたに委ねていたんだけど…死んでも因果が外れないなんて…】
「願いをかなえてやる、なんて、言っておきながら、自分が死ぬより辛い未来を想定しないなんてな、まるで、先を見越してない、最後に行きつくのは自分が助からずにみんなだけが助かるバッドエンドでもなくハッピーエンドでもない、トゥルーエンド、それが、行きつく、あの時の願いが因果になり、新たに絡みついた」
【馬鹿らしい、それでいいなんて】
「ならば、せめてレールに委ねろ」
【苦しまないならその方が…】
「みんなそうしている」
…嫌だ
「そんなの嫌だ、納得できない!そんなの許すか!!」
「【っ!】」
「因果が何だ、より絡みついても、無駄だと知っても、そんな事知った事かよ!!そもそも、前の世界だろうと、この世界だろうと興味はない、だからせめて、綺麗で穢れに気付かない世界なら、汚れが目立つ前に無くなった方がいい、昔から思っていた、良い世界なんて存在していようといまいと、決まった道なんて決めるのは自分が幸せだと決めた所が終着点であり、エンディングだ、そこからは主人公から降りて、後はどっかの誰かが適当にアナザーエピソードでも作りやがれってんだ!!」
「…く、クククッ……アハハハハハハハハハ!!そうだ!それでいい!積んだだけとか負けイベントなんて馬鹿通り越してクソだよな!!君はそうしている方がいいんだ!因果を無くせ!絡みつく暇もなく一気に粉々にしろ!!」
【破壊の力は私が担ってやる、だから、君は、生きて、生きて、本当の意味で覚悟を知って私やそいつが知らない何かを見つけてきな……】
「さて、そろそろ、お別れだ、どうしようもない、なんて、孤独を知っている精神なんて、身体にある、みんなに放り投げろ、これで、お前は本当の主人公だ、誰かが変わるまで主人公ごっこでも道化のように演じてろ、また、気軽に来るがいい、今度は、そうだな…ヴォルヘンを掌握した後に会おうじゃないか」
気が付くとそこは自分の寝室だった。
動こうとするとポケットから、カサッと音がした、そこには、一枚の紙が入っていた。
紙を開く。
「…ハハッ、喰えないと言うかなんて言うか、あぁ、分かったよ、これからもよろしく、俺、それと、おじいちゃん」
次回12月16日月曜日予定
基本的に月曜日予定に投稿します。もう一作品の週一投稿はもう少しお待ちください。




