初代魔王、登場
魔王城の中を足早でマーリンが最上階に向かっている。
(魔王様のあの眼…忘れるはずもない…他の奴らは見たことは初めてだろうが…どちらにせよ、少し強めに問い詰めてみた方がいいな)
最上階についてブツブツとなにかを呟くとマーリンの目の前に空間を切り取ったような歪な形をした穴が開いた。
その中に入るとすぐにその穴は小さくなり無くなる。
暗い道を通りマーリン自身の足音や呼吸音までも、奈落のような暗闇に飲み込まれていくのを気づかないふりをして、歩みを進める、そして、目的地に着いたのか止まり、声をかける。
「お眠りでしょうか先代様。少々お話とお願いがあって参りました」
その言葉に反応する言葉はなく、静寂が辺りを包む、マーリンはしばらく、待っていたが、声が帰ってこないのを確認すると来た道を引き返そうと振り返る。
そこには、何時からいたのか、マーリンより、一回り大きい男が立っていた。
部屋が暗いため顔までは見えない。
「どうした?マーリン、僕に用があるのだろう」
思考が一瞬固まりすぐに我に返るとその男から距離を取る。
「起きているのなら、返事をしてくださいよ、先代様」
「その言い方はやめろ、バカ息子を思い出してついボディメッセージをしてしまう」
顔は見えないがその声で少し不機嫌だと分かる。手を後ろに回し首を触っている
「先代と言うのがもう定着してしまってるんですよ。初代はあなたで二代目はあのバカ、そいつが死んだ後またあなたが現役になって魔王の座に着いたので先代というのはあながち間違いないと思いますが」
「その先代の呼び名を広めたのはあの女だろう、いつもいつも、余計なことをしやがって…」
「そうですかね、確かに、先代って呼んだ方がいいと言ったのは先生ですが、あなたは先生の手、いや、何て言えばいいんですかね、一部?半身?が無ければ今、死んでいるかもしれないんでしょう?」
何回も言い直すが中々いい例えが出ないのか、ついには顎に手を当ててしまう。
「話を長くするんじゃない。話と頼みがあるのだろう?」
はっ、と我に返ったマーリンは手をポンッと叩きそうそうと言い、本題に入る。
「実は、あなたの孫娘であるレン様の話であるんですが、実は、今日の定期報告会では、途中で十秒くらい黙ったと思ったら…顔つきが変わったというか、あの眼あなたが殺気を放った顔と似ていると言うか、オーラにあなたが見えたんです」
その言葉に反応して、マーリンの横を通り、少し手を招いて場所を変えようとしている。
「ふむ、それで、僕が可愛い可愛い孫娘に何かしたのではないかと思ったのか?」
「さあ、分かりませんが、あなたは息子の二の舞にはするまいと、二代目の王妃様の遺言通りにリネアに任せたんでしょう?まぁ、これ以上二代目の話題には触れませんが、それに、そろそろ、その握りしめた手から血が出てしまいますよ」
初代魔王の手のひらに爪が刺さりそうだった。
「しかし、僕はそんなことはしない、初孫で嬉しいは嬉しいだが、長く生きていると流石に限界を感じる。そんな老骨に頼る程にさせるのは、知識か、もしくは…」
「その事を今から定期報告会の話題も含めて、聞きたいこととお願いなんですよ」
マーリンは定期報告会の話題に出てきた聖剣と魔剣、二人の人間の子供げ、タリ村の襲撃それぞれを上げていった。
「ふむ、なるほどなるほど…ちょっと聞きたいのだが、その魔剣は元々は全て…」
「えぇ、そちらから言い出すならば敢えて触れますが、二代目がすべて使っていたものですね」
双式銃、邪牙弓、勇殺槍、三連槌、そして、絶盾刀どれも、二代目の魔王が使い、死と同時に戦利品と言う形で人間達に回ったものだ。
「それが再びこちらの手に戻ってくる日がこようとは思ってもみなかったな…」
「しかし、そのレプリカどころか、聖剣のレプリカまで…しかし、それよりも重要なのは…」
「人間達の国の動向だな、同じ人族の村を襲い、二人の子供の眼に宿った莫大な魔力…だが、偶然にもお前らは意表をついているぞ」
「ふむ、それは如何なるものでしょうか」
「仮説だがまずは、人間どもは東の魔人、いや、元東の魔人とお前らをぶつけて、そこに追い打ちをかけるべく勇者を送り込んだ、しかし、お互い様子見のために人間はヨアケガラスを探し、そいつは魔術を教え、東の魔人にプレゼントした。その情報をわざと魔神軍に漏らすようにしてな、そうすれば、焦り、今にでも衝突するだろう」
確かに、筋が通っている、もし、三代目魔王が自我をとるのが遅かったら、その情報に恐怖を抱き、東の魔人と戦っていただろう。
それだけではない、その情報は城塞都市ヴォルヘンで得た情報だ、そんな重要な情報が平民区で拾えた、ヨアケガラスと言うものが重大な事と言うものもあり、平民区で拾えた不自然をかき消した。
「そこで、奴らはイレギュラーと言える人物に気がつかなかった、それが、僕の愛する孫娘さ、知識が豊富なあの娘は倒すどころか味方にしてしまった。それに、あの眼を持った二人を保護したのも、予想外だったのではないのか?今、その事に気付いているのは人間どもにはいないだろう」
「ふむ、なるほど…では次はお願いですね、長くて二週間…いや、十日間ぐらい、人間どもの動き、出来れば国の足止めをやってはくれないでしょうか」
「…お前、それ、老体に鞭打って何が目的なんだ?」
「っはは、なぁに、仮説を聞いていたらやられっぱなしで三代目魔王様なしでは今の状況すらありがたいと思うと同時にやられっぱなしでムカついて来たんで、少し…ね」
「……いいだろう、老後の生活でゴーレム作りと温泉作りなどで暇だったんだ、その様な足止め、やってやろうではないか、久々に心が躍る」
「では、お願いを聞いていただけるという事でよろしいのでしょうか」
「一つだけ、条件があるがいいか…?」
魔王が条件を付けるところは少し身構える。手合わせなどでは、絶対といってもいいくらい五体満足ではすまない、現役では、今の魔神軍を一人で相手しても多大な被害も出るだろう。
「ふむ…善処します」
「そんな、身構えるな…明日、また、定期報告会の続きがあるのだろう?そのあとに、我が孫娘を連れて来てくれないか?」
「は、はぁ…いいのですか、それで」
「僕の孫娘さ、可愛いに決まっている、生まれたころ見た時のグミのような弾力ある肌に私の妻にそっくりな目元、未発達だが、綺麗な声を発する口、あぁ、あの可愛い声でおじいちゃんと呼んでほしい…まぁ、威厳を保たねばいけないのが私の一番嫌な事だな」
…自分の実の孫娘に会いたい…か、捨て子だった私にとっては、分からない感情だな。もし、私にも子供が出来たら、そんな感情が沸くのかな。
「ともかく、孫娘を連れてきたならその提案飲んでやろう。それと、もう幾つかオマケで話してやろう。英雄の武器は実在している、場所までは分からんが、その書物はヴォルヘンと他に二国にあるとされている。竜を封印した武器があれば、聖剣の謎にも迫ることが出来るかもな…お前らは聖剣を手に取ることが出来ないが、我が孫娘なら、出来るだろうな」
「先代様、あなたは何を知って…」
顔を上げると既にその姿はなく、連れてこられた場所は自分が作ったゲートを開いた場所だと気づいた。
「…いない」
次回11月25日月曜日予定




