イージスフォレストの歪
「え、外に一人で出たい?」
リネアが首をかしげて言う。
「うん、今日の書類仕事はもう済んだんだけど、体を動かしていないから、少し運動した方がいいと思ってね。マーリンにも言ったんだけど、そしたら、構いませんがリネアにも一言言った方がいいのでは、って」
リネアは少し考えながら口を少し動かしたのちに
「具体的には何処まで行くおつもりですか?」
と言った。特には考えてはいないのだが、また何か考えがある行動なのかと思っているのか、思い詰めた顔をしている。
「流石にそんなに遠くはいかないつもりだよ。空中で軽くお散歩するのもいいし、イージスフォレストで普通にお散歩を楽しんでもいいかなーって」
「…分かりました。でも、イージスフォレストからは、出ないでくださいね。後、その服では少々肌寒いでしょう。今、防寒着を持ってきますので、玄関でお待ちしていてください」
それから、リネアが用意してくれた。コートを着て外に出たわけだが。
…うん、ここらへんでいいだろう。足に魔力を蓄えて一気に跳躍する。
すぐに、近くの木の枝に乗り更に空中に飛ぶ、すぐにイージスフォレストを全て見渡せる距離に到達した。
遠くを見渡してみるが、果てしなく広がる森林がずっと広がり、その他には何も見えない。
辛うじて見えるのは東方面の竹林だ。
まだ、帰ってこないのか、少し寂しく思うな。
魔王として転生した俺としては、自分が死んだことをひと時も思い出せないくらいに面白くて楽しそうで、何より、白くて清らかな心を持っている、と魔人に言うのはおかしく思われるかもしれないが、俺はそんなこの、魔神軍がたまらなく、愛おしい。
さて、そろそろ、着地して、と
その時、辺りの木々がざわめく、その音と共に風と獣の匂いがする。
これは、狼型の魔獣が、何グループか北側から来ている。
即座に魔力を練り迎撃の準備をする。
程なくして狼の魔獣は姿を現した。こちらに向かって突進してくる。
先手を打とうと中級魔法を撃とうと思った時に違和感に気付く。
…違う、この狼たちは襲うような敵意を感じない。逆に、何かに怯えている、いや、逃げているのか?
その読みは当たっていたらしく、狼の群れは自分の脇を素通りしたり、飛び超えたりして一切襲ってこなかった。
…でも、その群れが逃げるほどの『何か』は見えなかった。
あの、方向…さっき上から見てもなにも見えなかったが、確認してみるか。
木々を蹴ってその方向に向かう、そして、なぜ、群れが逃げ出すほどの事が起きたのか、すぐに理解した。
「っ!?」
空気が重くなる。息が苦しくなり過呼吸になってしまいそうになる。
これは、魔力による威圧か、だが、粗削りだな、これくらいなら。
自分の周り魔力を纏わせる、その纏わせた魔力は威圧を打ち消し自分の周りに威圧の効果を無くす。
よし、これで、大丈夫だけど、この魔力量、嘘でしょう?明らかにドでかい魔神の加護があってもその魔力量は大きいと分かる。
直感で分かる。この魔力量は自分と互角、もしくはそれ以上の魔力量だ。
確認するだけなら、まだしも、もし、危なそうだったらクリスタルでリネアとマーリン、ダインも呼ぶか、それでも、少しきつそうだが。
莫大な魔力の出所を探す為警戒しながら奥へと進んでいくと、鳴き声が聞こえてきた。
この声…子供の声?いや、一人の声じゃない、もう一人いる。二人の子供?
声の正体を探るため、索敵魔法で正確な位置を探る。
「あそこか」
位置を割り当てその方向へ向かうと二人の人間の男女の子供がいる、女の子の方は泣きながら、男の子に泣きつき、男の子の方は必死に泣き止むように寄り添っている。しかし、魔力の出所は明らかにこの二人だ。
おかしい、大体二人の歳は10歳もいかないくらいだぞ?俺よりも小さい、それでも、この魔力量いったいなぜ?
「ぐっぐすっもうやだよぉ…おにいちゃぁん、おうちにかえりたいよぉ…」
「大丈夫だ。お兄ちゃんが守ってやる。絶対だ」
…芝居などをやっている感じは微塵もしないだが、このまま、と言うわけにもいかないな。
警戒されないように音をわざと立てて自分の存在を認識させる。
二人はびくりと身体を震わせるが、男の子は女の子を背に庇うように立った
「あぁ、もう、そんなに警戒しないで、別に取って食う訳じゃないし、ただ、その魔力抑えなさい」
「まりょ、く…?」
「う、嘘だ、俺たちに魔力なんてあるわけない…一切の魔法も使えないのに」
「ごめんなさい、自己紹介が遅れたわね。私は、魔王城三代目城主である魔王カイン・ノイシュヴァンルーデ・レンよろしくね」
名前と魔王という言葉を聞いて二人は一層震えあがり、庇ってた男の子の方も身体に震えが見えている。
あぁ、新鮮な雰囲気だな、今までは疑われていたりしたから、こういう、反応はされていないから、嬉しい反面、話を聞いてくれなさそうなのが、ちょっと面倒かな。
「さっきも言ったけど、取って食う訳じゃないから、でも…ふむ、なるほど、魔力の抑え方を知らないのか」
そうは言っても、抑え方は自分で知るようなものだからなぁ、言って表現できるかはその人の捉え方のセンスあるいはコツを掴めるか、どちらにせよ、このまま放置するのは、罪悪感があるんだよなぁ、さて、どうするか。
そこである違和感に気付いた。
この子達、自分の持つ魔力に気付いていない?魔法は知識さえあれば出来るから魔法が使えないという事は魔力がないというわけじゃない、それに、生まれついてこの魔力を持っていて故郷を追い出されていても、普通なら衰弱死している…まさか
「お二人ともちょっと失礼♪」
二人の間に瞬間移動し、気になっているところを見た。
「あっ」
「っ!」
「あぁ、やっぱり…魔力の根源はこれかぁ」
二人は最初から髪で片方の目を隠していた。その隠れていた眼は血のように赤い瞳孔黄色い虹彩黒い強膜明らかに人間が持つものじゃない。
「あっ、あっ」
「おっと、怖かったかい?でも、その眼絶対生まれつきじゃないでしょう?」
生まれつきなら城に籠っている人ならともかく、マーリンや他の魔人が気づかないはずがない。
さて、魔力の根源は分かったが、どうしようか、素直に魔王城についてくるはずもないし、そもそも魔力を抑えてくれなければ即敵対行動として殺されるだろうな…この子達が。
「ねぇ、君たち、魔王城に来ない」
「ふ、ふざけるな!拷問をして殺す気だろう!俺ならどうなってもいいから、ケイを…妹には手を出すな!」
「や、やだよぉお兄ちゃん一緒に…」
「…いるんだよね、魔族だからって酷いことすると思い込んでいる人たち、それに、多分君たち行く当てなんてないでしょう?」
「うっ」
「そんな眼を持っていたら隠していてもいつかはバレるし」
「がふっ」
「そもそも、親も同伴しないようなどこの馬の骨かも分からない子供しかも二人を受け入れられる所があると思う?」
「うぐぐ…」
明らかにノープランだったんだろうな。ぐうの音もでないらしい。
「そもそも殺す気なんてないんだよ。それと、君たちの魔力の塊であるその瞳、それで、獣に襲われずにここまで来れたんだろうね」
さて、この溢れる魔力をどうしようか、眼帯などで抑えられるわけないよなぁ。
そうだ、俺の魔力で身体ごと包んで無理矢理抑える事ってできないかな。
「考えるよりかは試してはみるかな」
少し不安だけどそもそも、でかい魔力が暴走する可能性を抑えたいからね、それに、このまま連れて行ったらみんな呼吸困難になって死屍累々になる未来が見える。
二人の頭に手を置いて魔力を多く放出させて一気に二人の身体を包み込んで体の一部、二人の場合は片目に魔力を集中させて制限をかける。
さて、将軍格には何て言おうかな、簡単に納得させるのは多分無理だろうなぁ。
あぁ、何も言われてないのに胃が痛い。
次回11月4日予定




