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第26話 時計のような早鐘を

朝なのか昼なのか微妙なご飯を終えて、私たちは現在昼寝をしている。

 ……というのは厳密に言えば間違い。寝てるのはチェシャ猫だけだから。


 お皿洗い、お皿拭きを終わらせて、暇になった私達は家の外の森で寝ることにしたのだ。

わあ、森でお昼寝って、なんてメルヘン!!

 ……なんか今のセリフ凄く馬鹿っぽかった。やっぱり私の脳みそは半分位腐敗し始めているらしい。

 木に寄り掛かって二人でぼうっとしていて、チェシャ猫はすぐに寝てしまったけど、私は中々眠れなかった。

 木を見上げて、葉の間から零れ落ちる木漏れ日を見ていた。


チェシャ猫がコロン、と寝返りをうつ。流石猫。とても気持ち良さそうに眠っていた。ふさふさの尻尾が地面にテロリと垂れていて、さっき触ったばかりなのについ触りたくなる。

 ねこの名前の由来は、“よく寝る子”というものらしい。それを略してねこ。だから寝子、と書いても良い気がする。

 

 ぼんやりと考えていると、むぎゅっといきなりチェシャ猫が抱き着いてきた。


「うわっ? どうしたんですか?」


 思わず驚いて聞いてみるけど、返事は無い。どうやらわざとでは無く、無意識の行動らしい。

 相手が寝てるから大声上げたり邪険に払ったりしないけど、結構落ち着かないぞ。今の状況。

 ちなみに三月兎が抱き着いてきたら、いくら寝てても蹴り飛ばします☆ 常識だな。


 あ、でも動物だからかな。凄くあったかい。ほかほか。安心出来る体温だ。

 木に背中を預けて、猫に抱き締められて。レアな体験かもしれない。うむぅ。


 なんだか私まで眠くなってきた。ぽかぽかと暖かい太陽と、チェシャ猫の安心出来る体温のせいだろか。私、本来なら、あんまり親しくないヒトとの接触、ましてや抱き締められるなんて耐えられないんだけどな。

 何だろう、懐かしい感じ。遠い昔の、過去の記憶。


 そう、友達と手を繋いだことすらない私が、遠い昔に一人だけ、抱き付いたり手を繋いだりした友達がいた。いた筈。今の感覚はそれに近い気がした。


 私を抱き締めて、幸せそうに眠るチェシャ猫から香る、林檎の香り。懐かしくてたまらない香り。甘くて粉っぽいその香りで頭がいっぱいになって、いつの間にか体から力が抜けて眠くなっている。ああ、なんでだろう、この林檎の香りに酔いそうになる。


 私の意識は落ちていく。心地よい記憶の海に。




夕子ゆうこちゃんは、今日から暫くお休みします。」


え〜、何で先生? 教室の喧騒。小さな私。


「夕子ちゃんは体がとっても弱いので、少し入院するそうです。」


 そんな、この前やっと学校に来られたばっかりなのに。


「みんなでお見舞いのお手紙を書きましょうね。」


 配られた可愛い便箋に、みんなは思い思いの言葉を書き綴る。漢字を全然知らない、不確かに覚えた平仮名が、便箋の中に踊る。

 漢字を知らない、ということは、どうやらこの私はかなり小さい頃のようだ。


 その時場面はいきなり切り替わる。


 気がつけば真っ白な部屋の中。大きな柔らかそうなベッドで、白に埋もれるようにして小さい彼女は横たわっていた。


「夕子ちゃん…病気は大丈夫?」


 幼い私が小さな彼女に尋ねて。彼女――夕子ちゃんは淡く笑って頷いた。


「大丈夫。お薬貰ってるから痛くないよ。利出ちゃん。ねぇ、今日も本を読んで。」


 良いよ、私は呟いて、彼女の一番好きな本を取り出す。表紙を見た途端、夕子ちゃんは目を輝かせた。


「わぁ!不思議の国のアリスだぁ!!今日も読んでくれるの?」


「うん。だって夕子ちゃん、この本大好きなんでしょ? 私、夕子ちゃんのこと大好きだもん。夕子ちゃんが喜んでくれるならいくらだって読んじゃうよ!」


 ぱらり、本をめくって、物語を読み出す。


「アリスは、ぽかぽかと暖かな太陽が降り注ぐ午後、お姉さんと一緒に・・・。」


 何度も読んだ物語だから、自然と私も上手く読めるようになったし、何回読んでも夕子ちゃんは飽きずに聞いてくれた。

 物語を読み終え、絵本の表紙をぱたりと閉じた幼い私は、夕子ちゃんに尋ねる。


「夕子ちゃんは、このお話の何処が好き〜?」


 尋ねると、夕子ちゃんは真っ白いベッドの中で、首を傾げて答えた。


「うんとね……、全部だよ。だってアリスは可愛いし、不思議の国も、住人も素敵だもの!私も、アリスと一緒に、こんな国にいってみたいなぁ…。」


憧れる様に、うっとりとして彼女は言った。


「不思議の国に行けたら、きっと毎日楽しいよ。ティーパーティーに行ったり、女王様にあったり、あとは……えっと、何しよう?」


 想像の話なのに、彼女は熱心に考える。夢中になったその瞳は、きらきらと輝いていた。


「あのね、もしも行けるなら、林檎の香りのコロンをつけて、私は不思議の国に行きたい」


 話がひと段落したとき、彼女はそう言って私を見上げた。

 林檎のコロン。いつも彼女のつける、おもちゃみたいに粉っぽい、甘い香りのコロン。


「林檎のコロン……かぁ。いつもつけてるよね、甘くて良い香り〜。」


 そう言いながら幼い私は、彼女に抱きつき林檎の甘い香りを嗅いだ。

 抱き着いた時に、私達の微かな胸の鼓動が、一瞬重なる。

 友達に抱き付くなんて、まるで私じゃ無いみたいだ。でも、彼女に抱きつく様は、妙に見覚えがあって。


「利出ちゃんも欲しい?いくつかあるから上げるよ!」


 夕子ちゃんが、ピンク色の液体の入った、小さな子壜を渡す。良い香りが、かすかに空気中に漏れた。


「これでお揃いだね!」


 嬉しそうに夕子ちゃんが言う。私も満面の笑みで答えた。


「うん!」









――――――。


「――――――――ス、ァリス、」


 誰かの、呼び声。


「アリス、アリス。」


私を呼ぶのは、誰?

 重い瞼をうっすらと開けると、チェシャ猫が見えた。


「あれ…チェシャ猫さん…、」


 そう言うと、チェシャ猫は、安心したように笑った。


「アリス、中々起きないから心配しちゃったよ。もう、夕暮れなのに、反応も返さないんだもん。」


「あわっ…ご、ごめんなさい。」


 慌てて起き上がると、チェシャ猫の言う通り、回りは夕焼けの赤に染まっていた。かなりの時間を寝過ごしてしまったようだ。

 昼間は緑に輝いていた森も、夕焼けに染まり赤に光っている。美しい、赤。


「さ、帰ろう。お城のひとが心配するから。」


チェシャ猫が手を差し出した。私はその手を取って、立ち上がる。

 あれ、帽子屋の時は、手を取るのを躊躇ってしまったのに、チェシャ猫が相手なら何で平気なんだろう。それとも今は寝起きで頭がまだ正常に働いてないんだろうか?


「じゃあ急ごうか。白兎は心配性だから、俺がアリスを連れ回したって聞いたら怒るだろうしね。」


ニヤニヤ笑ってチェシャ猫が言った。


 ……うう、今白兎とはかなり気マズイ状態なんだけどな……。


 チェシャ猫に手を引かれ、歩き出す。

 チェシャ猫のほうが足が長いので、絶対彼のほうが早いのだけど、歩幅を調節して私に合わせてくれた。態度はおちゃらけているような感じがするけど、結構細かいトコロに気を使うタイプらしいな。


 そう思いながら歩いていると、ツン、と足が草に絡まり引っ掛かる。


「ふぁっ!?」


 間抜けな叫び声を上げて、私は見事にすっ転んだ。


「あ、アリス、大丈夫!?」


 チェシャ猫が慌てて駆け寄ってきた。すっ転んだ際に手が離れてしまったのだ。

 ……っていうか昨日の夕方にも転びそうになったぞ、私。どんだけドジなんだ。私のうりは、ドジッコキャラじゃ無いんだぞ。


「えっと、痛いけど大丈夫かと思われます……」

 

 顔面からずっこけたけど、特に外傷は無い。顔面スライディングはしなかったからだな。


「よかった〜」


 そう言って、チェシャ猫が私を助け起こしてくれた。うう、有難い。

 チェシャ猫の手が離れ、立とうとした時、ふと左足に痛みを覚えた。


「あれ?」


 思わずそう呟くと、チェシャ猫が


「どうしたの?アリス。」


 と聞いてきた。


「あ、の…足、挫いちゃったみたいで」


 俯いて言った。捻ったような、悲鳴を上げるような痛みが、左足を支配する。


「あ、そうなの?じゃあ来た時と同じように担いで帰ろうか」

 チェシャ猫は、こともなげにそう言った。…疲れないのか? コイツ。

 ひょいっと肩に軽く私を担ぐと、来た時と同じように、地を蹴り軽快に走り出す。

うっわ、ホントにすっげえなぁ。











「はーい、到着」


 たたっ。お城の私の部屋の前で、彼は止まった。

 ゆっくりと、捻った足が痛まないように地面に降ろされる。やっぱり細かい所に気を使うタイプだ。


「あの…今日は有難う御座いました!ご飯美味しかったし、送ってまで頂いて…。」


 背の高いチェシャ猫を見上げながら言う。あ、今耳がぴくぴくって動いた。


「いいのいいの。アリスのことが大好きなんだから。大好きな子を家まで送るのは当然でしょ?」


 ニヤニヤしながら彼は言う。いや、今ここで普通に「大好き」とか言うか。こっちが照れる!


「あ、あとそうだ。これ。」


 チェシャ猫がポケットをゴソゴソと探り、何かを私に差し出した。


「? なんですか?」


「捻挫に効く薬草だよ。お風呂入った後、足首にまくと良いよー。」


 …なんでソンナモノがポケットに入ってるのだ。四次元か?四次元に繋がっているのか。そのポケット。

 まぁ常にSMアイテムを装備してそうな奴らに比べればずっと良いけどね!


「じゃあね、アリス。気が向いたら俺の家に遊びに来てよ。」


「あ、はい。是非」


 そう言い掛けた時。


 ふわっ。


 チェシャ猫に抱き締められる。林檎のにおいに包まれる。

 少し、ドギマギした。それと、なんとなく、違和感。


 本当に些細で、見逃してしまいそうな違和感だったのだけれど。

 

 次の瞬間には、ぱっと手を放しいつものニヤニヤ顔で言う。


「ばいばい!」


 たたっと森に向かって、チェシャ猫は軽快な足取りで走り去る。


 一瞬そのニヤニヤした笑みが、夕焼けに照らされ悲しそうに見えたのは私の見間違いだったのだろうか?








 朝、開けておいた窓から、自分の部屋に入る。自分の部屋に窓から潜入!! なんて初体験だ。

 とんっ、と部屋の床に足を付けると、左足が軋むように痛んだ。


「ふー、今日はお風呂、早めに入っちゃおうかなぁ。」


 折角チェシャ猫に薬草を貰ったのだ。お風呂に入った後に巻くと良いらしいし、さっさと入ってしまおう。

 浴室に行って、浴槽にお湯を貯める。…そう言えば、ライオンの頭がついてるほうのお風呂は入ってないなぁ。今度入るかな。

 



 かぽーん。


 お湯があったかい。長風呂大好きな私は、いつも軽く一時間は風呂に入っている。

 うちの風呂よりでかい。ライオンの頭がついた風呂はもっとでかくて、25メートルプールぐらいの大きさはあると思うけど。

 お風呂はリラックスできて気持ちが良いけど、血の巡りが良くなって心臓の活動がちょっと活発になる。ここで心筋梗塞とかが起きやすいんだ! というマメ知識が頭をよぎる。

 どきどきどきどき。自分の胸の鼓動の音が、聞こえた。

 …長風呂は好きだけど、今日はちょっと長過ぎたみたい。なんだか頭がクラクラした。


お風呂から出て、大きな柔らかいバスタオルで、体を拭く。

 どきどきどきどき。随分お風呂が長すぎたみたい。心臓の音がずっと聞こえるままだ。


   あ。


瞬間私は目を見開いて硬直した。


 チェシャ猫に抱き締められた時に感じた、本当に些細な違和感。



 彼からは、胸の鼓動が感じられなかったのだ。


やぁやぁこんにちわ!宿題が全く持って終らない居無屋です☆

コメント返信、今日も元気にいってみよー!!


 ではでは、アイリス・ローズ様から!!

夫婦みたい、ということですが、チェシャ猫さん、利出さん、どう思いますか!?

利「断じて違います。」

猫「光の速さでキッパリ否定したね…。」

利「料理美味いし意外に常識的で好きだけど、友達としての感情ですからぁッ!!」

・・・容赦無いね。利出さん。


 ではではお次は、きぃな様から!!

お菓子の家みたいで美味しそう…はい、頑張って描写しました!!甘い甘いお菓子の家!!

猫「あのさ、かなり盛り上がってる所悪いけどあの家レンガ造りだよ。」

 知ってるよ!!色合いを美味しそうにしたかったの!



お二人とも、有難う御座いましたvv

 それと、現在人気なのは、チェシャとSM兄弟とヤマネさんのようです。…利出さん、主人公だから頑張れ!!

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