番外編 王都ラグナの面々
クレア&モニカ編
「いやぁ、久々の超大型新人ね!ちょっと怖い感じだったけど鎧の下の素顔は凄いカッコ良かったし、これは将来が楽しみだわ~」
呑気にヴォルフの将来性を含めた評価を語っているのはクレアだ。
茶のポニーテールが彼女の若々しさを一層引き立て、ギルドの看板娘の片割れとして笑顔を振りまきながら愛想よく受け答えをする。
「確かに凄いカッコ良かったですけど……先輩ひどいですよ~、私すっごく怖かったんですよ!?」
臆病なモニカがクレアへの文句を言い放っている。
小柄な体躯と幼い顔立ちにさらさらとした金髪、そしてその体には不釣り合いな見事な双丘が如何なる男の目も引き付けてしまうなんとも嗜虐心を煽るギルドの看板娘の片割れである。
「まぁまぁ、でもその割にはしっかりと受け答えしてたじゃない?」
「まぁ……確かに最初は怖かったですよ?威圧感とか凄かったですし……でも話している内に凄く気さくで優しい人だって気づいて、後はなんだか勢いのまま仲良くなっちゃったって感じでしょうか……」
「ああ~いいな~。私もあんなカッコいい人に”お疲れ様”……なんて言われて見たい~」
先の話題を出されて瞬間湯沸かし器のような速さで顔を赤くするモニカ。
「(せ、先輩!?その話題はもういいじゃないですか!?あの時の私は!その、舞い上がっちゃってただけなんですから!!)」
モニカとしてはあまり話題に出されたくないことらしく、その身の小ささに似合わぬ力強さでカウンターの下にクレアを引き込む。
「(ふふふ、赤くなっちゃって……。でもあのヴォルフさんの方もモニカちゃんの恥ずかしがってる態度を見てちょっとだけ反応してたし、チャンスはあると思うよ!)」
「(だ、だから!そんなんじゃないんですってば~///)」
いい加減これ以上焦らされてはたまらないと思ったのか、涙目でクレアに抗議するモニカ。
「(いいモニカちゃん!ヴォルフさんは今日冒険者登録をしたのよ。これがどれほど重要なことか分かってる?)」
クレアが急に真面目な声で話して来た為、モニカは追いつけずにきょとんとしている。
「(へ?)」
「(はぁ……いい?冒険者登録をしたということは!討伐にせよ依頼にせよ報酬金を得るために必ずここギルド会館に立ち寄るという事なのよ!?)」
「(はっ!?)」
モニカに電流が走る。それはつまり遠からず数日以内の内には必ずまた会うチャンスが、それも何度もあるということだ!
「(つまりはそういうことよ!確かヴォルフさんにはエレノアがお付で付いていたようだけど、最近出会ったばかりのようだしそこまで関係が深い訳じゃなさそうだわ!つまりはまだまだチャンスはあるという事よ!)」
クレアがグッとガッツポーズを構える。それを尊敬の眼差しで見つめるモニカ。
「(あなたとヴォルフさんがくっ付けるように私が応援してあげるわ!)」
「(せ、先輩……私……クレア先輩が先輩で、今凄く感謝しています!!)」
何やらまるで崇める様にクレアに向かって手を擦り合わせるモニカ。
「(けど私がもしもヴォルフさんに見初められちゃったらその時はごめんね!)」
「(…………はい?)」
先ほどまでの空気はどこへやら、瞬間的に空気が冷えた。
モニカがいったい何を言っているんだ?という風にクレアを見ている。
「(だってそうでしょう?モニカちゃんは冒険者採用担当だけど、私は報酬の支払いなんかの事務担当だし……最初はモニカちゃんと話す機会も多かったけどそれも最初だけ。これからは私のターンよ!)」
モニカの目が完全に座っており信じられないほど冷たい空気を身に纏っている。
普段モニカを見ている冒険者達からすれば、信じられないといった驚きか、もしくは特殊な性癖を伴った歓喜を覚えるだろう。
「(先輩…………私絶対に負けませんからね!今だけは上下関係なんてありません!全力で行きます!!)」
「(それくらいの気迫じゃなきゃこっちもやる気出ないわよ!私も全力で行くわよ!!)」
今、一匹のオスを巡って二匹にメスによる壮絶な争いのゴングが鳴り響くのだった……。
「仕事してくれよ…………」
そしてちょうど帰ってきた一人の冒険者の呟きは誰にも届くことは無いのだった。
ミラルダ&ルーシィ編
「それにしてもなんだか凄い人よね……何が凄いのかって言われると返答に困るけど」
現在は朝食を食べ終え、エレノアがギルドに行き、ヴォルフは自室に戻っていった直後である。
まだ人の少ない朝の時間帯ということもあり、二人はフロントで作業をしながらも雑談に花を咲かせている。
「確かに凄い人ですね……一泊30万ルクもするスイートにそんな簡単に泊まれちゃうなんて……元はどこかの貴族様なんでしょうか?」
「う~ん、どうでしょ?この宿ってスイートは無いにしてもシングルやダブルに泊まる人は結構冒険者の中にもいるからね。元から冒険者なのか地方からやって来た貴族なのか……でもEランクだったしね?」
「ええ!?Eランク!?冗談ですよね?」
普段穏やかな調子のルーシィもこの時ばかりはさすがに驚かざるを得ない。
「それがホントみたいなのよね……落し物のカードを使ったのかな~?って思ったりもしたけど、あの人がそんなことするタイプにも見えないし……ホントに謎だわ」
いくら考えても納得のいきそうな答えは出てこず眉間にしわを寄せるミラルダ。
「……そういえば」
「ん?」
「私がヴォルフ様にスイートのお部屋を案内した時、その部屋や設備に何の驚きも示さなかったんです。こんなことって普通ありますか?」
今度はミラルダが驚きの声を上げる。
「ええ!?ありえないでしょう!?この宿は王都でも有数の最新設備を導入してるのが自慢なのよ!それ以外にも部屋の豪華さやサービスなんかもその他の店にまったく引けを取らない……王都一の宿と言ってもいいくらいなのに!」
「ですよねぇ……あの部屋を見ても驚いてい居るのはエレノアちゃんばっかりでヴォルフ様は何の反応も示していませんでした。まるで見慣れていると言わんばかりに……」
「と……いうことは……ひょっとして……」
「ひょっとして……?」
両者の間に妙な緊張感が生まれる。
ごくり……、と唾を飲み込む音が聞こえる。
「どこかの国の王族とか!」
「……いやいや、さすがにありませんよ。ならなぜ一人なのか?とか、なぜ冒険者なんてやっているのか?とか、ならばそもそもどこの国の王族なのか?とか、色々無茶がありますよ」
さすがにそれはないだろう、とルーシィが小さく笑いながら答える。
「そっかー、実は大穴かな?とか思ってたんだけどね。まぁ、そんなことを抜いてもあの財力にあの顔なら女の子ならくらっと来ちゃうかもしれないけどね!」
ニコリ、と明るい笑顔で答えるミラルダ。
ひょっとしたらミラルダは本気……なのかも知れない。と女の本能ような勘がルーシィに告げる。
「まぁ……そうですね。それにヴォルフ様って、ちょっとぶっきらぼうだけど凄く優しいですし、なんだかカワイイところもありますしね」
ルーシィが頬に手を当てながら答える。だがその本心は垣間見えない。
お?ひょっとしてルーシィもその気なのか?と内心ライバルの存在を考慮し始めているミラルダ。
どうやら互いにいい男、というものの存在を本能で感じ取っているらしい。
「…………あはは」
「…………うふふ」
何やら近寄りがたい空気を醸し出しつつも、それでも二人は笑顔で仕事を続ける。これだけでも一流ホテルとしてのレベルの高さが窺えるだろう。
「ま、子供っぽい喧嘩を見せてもヴォルフさんは呆れるだけで終わると思うわ。なら自分の本気や全力を見せてアピールしていく方が効果的だと思わない?」
子供っぽいことはやめておけ、と半ば挑発のようなものいいだがそれをさらりと流してルーシィが答える。
「そうですね。それに私はベッドメイキングやルームサービスなどで出会うことも多いと思いますしね」
そして、軽くそれをさらりと返すルーシィ。
「…………はぁ。ま、好いた人には自分をよく見て欲しいって思うのは当然だし、せめて足の引っ張り合いや業務に支障の出ない範囲で、攻めていくことにしましょうか!」
ライバル宣言の様なものだがその言葉には少しも嫌味が含まれていないという事が感じ取れる。
「まぁ、そうですね。それにヴォルフさんってそういうのに疎そうですから、積極的にアピールしていかないと何の進展も無いまま終わりそうですしね」
「あはは!それは言えてる。それじゃ今日も一日頑張るとしましょうか!」
「はい!」
と、そこに……。
「お~い、お二人さん。ちょいと聞きたいことがあるんだが……」
「あ、ヴォルフさん!?」
「あ、ど、どうも……です……」
ミラルダはびっくり!とした表情を、ルーシィは分かり易くどもっている。
ん?二人から微妙なぎこちなさを感じるんだが……。何かあったのか?
ヴォルフにはとても言えないが、先ほどまでの会話で自分のヴォルフへの想いをさんざん意識させられての登場なので恥ずかしいというのが彼女らの本音だ。
ヴォルフの知らないところで自覚もないまま、彼女らの恋心は進展していくのであった。
ちなみにヴォルフの用事というのは鎧や剣の点検でもしようかな?などという適当な考えによりそういう道具や取り扱っている店を知らないか聞こうとしただけの話だったりする。
ジュレミー編
ジュレミーは現在奥の執務室のようなところで次の予約のスケジュール管理や食材の調達を初めとした諸々の雑事を行っていた。
「ふぅむ…………」
仕事がひと段落したところで一旦ペンを置き、椅子に背中を預ける。
ジュレミーは今日初めて来店してきた銀髪の男性と黒髪の少女のことを思い返す。
黒髪の少女のことはよく分からないが、おそらく冒険者の類だろう。来ている服や荒れ気味な髪の毛や手先などを見れば細かな職種は分からなくとも、そういう類の仕事なのだとは理解できる。
対して銀髪の男性は肌理細やかな白い肌に、まったくと言っていいほど荒れていない綺麗な手だった。それに着ていた衣服もデザイン自体はシンプルなモノだが、厚手の頑丈そうなズボンに伸縮性の高いサラサラとした布地のシャツだった。
普段貴族が来店しているこの店で、ジュレミーは相手がどんな装飾品や衣服を身に着けているかでおおよその財力や出身などが理解できる。だがそのジュレミーの目を持ってしてもヴォルフについての情報は何も分からなかった。
「まず間違いなく有力なのは貴族だが……冒険者としての登録は済ませていた……なぜだ?」
ジュレミーとしてはどこかの貴族かそれに類する旅行者かと思ったが、それならば冒険者などに登録する必要などない。
ならばここ以外のどこかの街を拠点とする冒険者なのかと思ったがそんな噂も聞いたことが無い。BやAランクの冒険者ともなれば一種の英雄の様なものだ。彼らは単騎で千や万のモンスターを屠る。
だがそんな噂も聞いたことは無く、彼はおそらく無名の冒険者なのだとわかる。
「……分からんことが多すぎるな。だが繋がりは持っておいても悪くない。彼からは私の様な凡人でも理解できるほどの強力な”力”を感じる…………」
そう、ジュレミーが彼を執拗に特別扱いしてサービスをを提供したのは一種の”強者の気配”とでもいうものを感じたからだ。
ジュレミー自体は特別武に秀でているという訳ではない。だがその観察眼はかなりのものだ。
彼は対象の身に纏っている物やほんの僅かな仕草を見るだけで、様々な情報を得ることが出来る。
だがそれらの振る舞いなどを抜きにしても、あれほどの気迫とでも言うべきものを感じたのは初めてだ。
故にジュレミーは即座に理解した。この者は”特別”だと。
「今まで様々な苦難を経てコネを作り、これだけの店を構えることが出来た。だがここで終わるつもりは無い。彼と付き合っていけば、未だ見たことのない果てを見せてくれそうだ……」
ジュレミーが望むもの、それは己の限界。
なんでもいい、世界の頂点に立ちそこからの景色を眺めたいという夢だ。
そして彼と上手く付き合っていけば、自分をその果てへと導いてくれると確信している。
「ふっふっふ、いかんいかん。年甲斐も無く熱くなってしまった。さて、仕事を続けるか」
ジュレミーは確かに戦う力こそ持っていないが、彼には野心も野望もある。
彼もまた、一人の挑戦者なのだ。
エレノア編
朝方、ヴォルフやミラルダ達と別れた後、彼女はいつもと同じようにギルド会館に寄り薬草採取の依頼を受けていた。
「今日も薬草採取ね。はいどうぞ。今日はブラックボアなんかに襲われない様に十分気をつけなさいよ?」
クレアが注意の言葉を掛ける。エレノアとしては耳が痛いようだ。
「あはは……はい、気を付けます!」
昨日は正直言って、慣れ故に警戒を薄くしてしまっていたのだ。
エレノアは確かに冒険者に成りたてだが、それでも昨日今日冒険者になったという訳でもない。
何度か怖い思いや痛い体験をして、警戒はしてもしすぎるという事はないと骨身に理解しているつもりだった。それでもこの辺りのエリアは大丈夫だろう。といった慣れにより警戒を薄くしたところを見事にブラックボアに襲われたというわけだ。
「まぁブラックボアが近辺の森に出てくることなんて滅多にないんだし、大丈夫だとは思うけどね。それでも気をつけなさいよ?」
クレアの真摯な心配の声が耳に痛い。
「……はい」
「……まぁ十分反省しているようだしもう言わないわ。後ヴォルフさんにあったらよろしく言っておいてね!いつでも待ってますよ~って!」
先ほどの落ち込み様から一転して焦りの顔になるエレノア。
「え!?ど、どういうことですか!?」
「どうもこうも、ヴォルフさんがここに来るときは必然的に私と喋ることになるでしょう?それも何度もね。だから今のうちに仲良くしておこっかな~ってね!」
モニカがが何やらクレアをジト目で見ているがそれは一旦置いといて。
「ま、まぁ確かにそうですけど、それでもただのギルドの職員と一介の冒険者なんですし、そんなに仲良くする必要なんてないかな~って思うんですけど!」
エレノアの必死の反論である。
だがクレアには通らない。
「あら、確かにギルドの職員として贔屓するのは問題があるけど私的に付き合う分には問題ないでしょう?さっきのお願いだって、いつでもどうぞ!って言ってるだけだしね~」
クレアの得意げな顔が何とも腹立たしい。
だがエレノアとしてもこのお願いは断りにくい。何も知らない頃はクレアに色々と気を使ってもらったという恩があるし、今回のお願いも会って一言言うだけの非常に簡単なものだ。決して無茶を言っているわけでないので断れない。
「わ、わかりました。言っておきます……」
「ありがと~!やっぱりエレノアはいい子ね~!」
ぐ、なんとも腹が立つ。いまだかつてこの朗らかな笑みをこれほど憎いと思ったことは無い!
「わ、私もう行きます!それじゃ!」
「気を付けてね~」
相変わらずクレアがいい笑顔で挨拶を掛けて来る。
そしてそれを憎々しげにモニカが見ているのであった。
「ロイスさん!おはようございます!」
門のところで出会ったのは門の管理と入国者の確認を行っているロイスだ。
朝早くだがもう既に完全装備で仕事を行っている。
「ああ、おはようエレノアちゃん!昨日はどうだった?」
「え!?き、昨日ですか!?」
「ああ、あの厳つい鎧を来たヴォルフだったか?何も無かったのかい?」
「な、何もありませんよ……あはは…………」
本当はイベント盛り沢山だったが何も言わないことにしておいた。
「あ、私もう行きますね!それじゃ!」
普段からしたら考えられないような速さでエレノアは駆けて行った。
「行っちまった……まぁあの鎧の奴も人を襲うような奴には見えないし大丈夫だろ」
ロイスに予想は逆に当たり、むしろヴォルフは女子達に襲われそうになっていることを知る由も無かった。
エレノアは森の中で薬草採取の仕事を続けている。
昨日とは違い、わずかな音も聞き漏らさない様に警戒しながらだ。
「ふぅ、とりあえずは10本か……もう少し取っていこうかな?」
薬草は一本およそ500ルクで買い取られている。10本取れば5000ルクとなる。
だがこれがそのまま報酬になるというわけではない。依頼の分は買い取りの報酬は発生しないので、依頼分以上に薬草を取らねばならない。
普通、冒険者というのは討伐報酬が主な収入源となり、更にギルドに素材を売り払い金銭を得るかだ。そこから手に入れた素材の分は自分で保管するか、工房に預けるかして武器や防具を作るのが冒険者の基本的なやり方となる。
だが他の冒険者を怖がり一人で続けている臆病でまだ小さな女の子といってもいいエレノアには討伐などとてもできない。
これがシーフのような職業で暗殺やもしくはメイジのように魔法が使えるならば別だが、元貧民のエレノアがそんな高等な技術を持っているはずも無く、出来ることと言えば討伐をせずともよいこのような採取依頼だけだ。それも奥地に行かなくてもよいごくごく簡単な依頼。
「そう考えるとヴォルフさんってお人好だよね。それもかなりの……」
エレノアは少しだけ昨日の出来事を振り返る。嵐の様な出来事の連続だったが。ヴォルフさんはとても優しかった。
どうしてあんなに優しくしてくれるのか……いや、出来るのか。
もし煩わしく思ったならすぐに撥ね退けられたはずなのに……。
「ってこんな考え方はヴォルフさんに失礼だ!うんうん!」
と、頭を振りかぶり考えを改める。
「さ!続き続き!」
その後もエレノアは採取を続けていった。
時刻は日が落ちる前だ。夕日が赤く街を照らしている。
現在は既に依頼を果たしギルドで報酬をもらった後だ。
あの後も薬草を取り続け、結局報酬として4000ルクほど手に入った。一日の報酬としては普通……といったところか。だがこんな調子では食事代や宿代を引いたらほとんど残らない。
冒険者なんていつ死んでもおかしくないのだ。貯金はいくらでも欲しいし、上に行くための武器や防具の更新を考えるならば、これの何倍も稼がなくてはお話にならない。
「お先は暗いな…………はぁ…………」
「な~に長い溜息をついてんだ、お前は」
「あ!ヴォ、ヴォルフさん!?」
どうしてだろう。
ヴォルフさんの声を聞く度に胸が弾んでしまう。体が喜んでしまう。もっとお喋りをしたい、同じ時間を共有したいと思ってしまう。
だがそれと同時に彼と同じ道を歩むのは不可能だと理解させられてしまう。
昨日のあれは本当に彼の気まぐれだ。
私だっていつまでも私の様な使えない荷物を何時まででも抱えていたいなんて思わない。
だからこそ朝早くから早々に別れ、昨日の出来事を忘れる様に採取に没頭していたのに……ヴォルフさんに出会う度にどうしても期待してしまう。
「え~っと、その、薬草採取の依頼の帰りです。ヴォルフさんは?」
「俺か?いや適当に鍛冶場でも見回ってたんだけど暑くて息苦しいだけだったわ。おまけになんかどこを見回ってもしょぼい剣や鎧しか作ってねぇんだよな~」
「あはは!それはそうですよ。ヴォルフさんが来てた鎧なんて私も今まで見たことすらないような凄い逸品なんですもん」
何気無い会話でもついつい笑顔にさせられてしまう。
やっぱりこの人は、とっても凄い人なんだとエレノアは感じ入る。
「あ、そういえばヴォルフさん!ギルド会館のクレアさんが何時でもいらして下さいって言ってましたよ」
「あ~、クレアさんね。まぁ、気が向いたら適当に依頼か討伐でも受けるわ」
「はい!」
これで約束は果たしましたよクレアさん!
「ところでエレノアよ。この後暇か?」
ドキリ、と心臓が跳ねる。
「は、はい!何でしょうか!?」
妙に気分が高揚し、声が高くなってしまった。
「いや、今度は生活雑貨のある店とか教えてくれないかと思ってな。忙しいなら明日でもいいぞ」
こ、これって……デート!!??
う、うわ~、どうしよう、今私顔赤くなってないかな!?
ヴォルフさんの言葉一つどうしよもなく気分が高揚するのがはっきりとわかる。
「わ、分かりました!あ、明日でお願いします!絶対ですよ!やっぱなしとかは無しですからね!!」
「お、おう……頼んだぞ」
「(や、やったー!またヴォルフさんと一緒に行動できる理由が出来たよー!)
その後エレノアはさっきまでの陰鬱な雰囲気はどこへやら。軽くスキップをしながら安宿へと帰って行った。
「たかが替えのパンツを買いに行くだけでテンションの高い奴だな…………」
その後エレノアは期待しすぎて盛大な肩透かしを食らうことになるのだがそれはまた別の話だった。
この世界では魔法やそれに類する技術などは一般的に存在します。
ですが魔法使い自体がそもそも少なく、故に魔導具などもかなりの高級品になっています。(シャワーなどがその例)
更に魔法が付加された装備などは基本的に売っておらず、オーダーメイドが基本。




