-Side Episode-06 休息
「う~む、美味いな……」
俺とエレノアは真っ白なテーブルクロスの上に置かれた、ともすれば芸術品の様にも見える手の込んだ料理に舌鼓をうっている。
はっきり言って、この時代のレベルじゃ大した料理は期待できないだろうと思っていたが、肉も魚も野菜もかなりのレベルだ。
調味料の類も塩や胡椒での大雑把な味付けが精々だろ、と高を括っていたんだが香草や鶏がらと野菜の出汁、バターなどもしっかりと使ってあり濃厚で複雑な香りと味わいを表現している。
「お、美味しい……としか言えない……今まで味わったことが無い味しかしません…………」
エレノアが料理を一口、口に運ぶ度に小さく震えている。
何やら料理屋にそぐわぬ不穏なセリフが聞こえるが、エレノアからすればまさしく夢のような料理なのだろう。
というかこんな超が付くほどの一流レストランでなければ食べられない料理、めったに食える料理でもない。それが冒険者のような半分フリーターともいえる様な不安定な職業ならなおさらだ。
見ればこのレストランで使われている食器の一つや今俺が座っている椅子に至るまでかなり凝った代物だ。おまけに優雅な生演奏まで付いているともなれば、いったい一回の食事にいくら掛かるんだろう……。
つまりこのレストランでの食事は、この世界で味わえる最高レベルのものである可能性が高いということだな。
「如何でしょう?満足していただいておりますか?ヴォルフ様」
話しかけてきたのはこの店の支配人のジュレミーという者だ。
見事に左右にカールした鼻下のちょび髭が目立つ細身の爺さんであり燕尾服を着ている。……FrameWorksで作成したキャラクターの……たしかゲオルクだっけか?なんだかあいつを思い出すな。
「ええ、とても満足していますよ。はっきり言ってかなり疑っていたのですが、いい意味で裏切られました」
「それは良かった。実はあなた様がこの店にいらした時から、……こんな言い方は失礼なのですが他のお客様方とは違う……何か特別な雰囲気を感じまして、これは当店の全力でもって対応せねばと思った次第なのです。そうですか、いやご満足して頂けたようで何よりです」
なんだそりゃ、オーラでも出てんのか?
……やっぱりこの体って相当特別な代物なんだろうか?もうちょい気を付けて行動した方がいいのかな。
「もしよろしければ、今後も御贔屓にして下さいませ。全力で歓待させていただきますので!」
この爺さんも昼ごろ出会ったブリスと同じように、俺と付き合うことで何かしらのメリットが得られると思って付き合いを良くしようと考えているんだろうか?
っていかんいかん。なんだか色々と疑い始めているな。もう少し素直に礼を受け取ろう。
「それはありがとうございます。であれば、次はもう少しまともな衣装で来店したいと思いますよ」
今俺達が来ている服はスーツでもドレスでも無く、そのままの軽装だ。恰好だけ見れば平凡な一市民にしか見えない。
実はこの店に入ろうとしたときに入り口に構えていた衛兵のような格好の従業員に「そんな身なりでうちに入るつもりか!」と止められたのだが、このジュレミーという爺さんの取り成しで入店し食事にありつけたのだ。
俺達からすれば恩人ともいえるのだが、いかんせんサービスが良すぎて疑い始めてしまっている。
「はっはっは!いえいえ、ヴォルフ様のご来店であれば専用の個室をその都度用意させますので、服装などお気になさらずとも結構ですよ!」
いやぁ、VIP待遇だなー……いやマジでこの待遇の良さはなんなんだ?わからん。
「そ、それはどうも……」
本格的に圧され始めてるな……まぁ面倒くさくなったら適当に逃げればいいか。それで事態が解決するわけではないが、正直面倒事はごめんだしな。
「ところでそちらのお嬢様は満足しておられますか?」
「ひゃ、ひゃい!!??」
急に話を振られたせいか、物凄いわかりやすい狼狽え方をしているぞ。エレノア。
「お味の方はどうでしょう?もう少し薄味の方がいいと思いましたらお取替えしますが……?」
「い、いえ!けけけ、結構です!!とっても美味しいです!!」
そんなにわかりやすい狼狽え方してるんじゃねーよ。相席してるこっちまで恥ずかしくなるわ!
まぁ、仕方ないと言えば仕方ないのかな。こんな高級な店、エレノアからすれば遠目に眺めるだけでも精一杯だ。ましてやこんな専用の個室で優雅な演奏を聞きながら高級料理を食べるなんて、エレノアからすれば何もかもが未知の体験だ。ある程度慣れないと、とても料理を味わう余裕なんて無いだろう。
「それは良かった。満足して頂いているようで何よりです。それでは私はこの辺りで下がらせて頂きます。どうぞごゆっくり続きをお楽しみ下さい」
そう言ってジュレミーは引っ込んでいった。
とはいってもまだ辺りには演奏するための人達や給仕の為の人間が数人いるが、それでも自分から話しかけてこないだけ気楽というものだろう。
「ううう~、ああは言ったけど料理の味が全然わかりません~!もう何が何やら……」
「お前があれほど期待していた高級料理だぞ。今のうちに味わっとけよ」
緊張しているのだろうか?まぁ分からなくもないが。
「そうはいっても……はぁ、やっぱり私って芯から小市民で貧乏なんですね……こういう店に連れてこられてようやく理解しましたよ……」
なんだか物凄いネガティブが入ってしまっている……。
はぁ、仕方ない……。
「ならもう出るか?」
「えっ!?」
「え、じゃねーよ。こんな高級料理店に入ったのは一応お前への礼も兼ねてるんだ。お前が楽しめないって言うんなら、場所を変えて食べ直そうぜ?」
今度はエレノアが本気で泣きそうになっている。ほんとに表情豊かな奴だな……。
「……ひくっ、ぐすっ、……あ、ありがとうございます……ヴォルフさん……そこまで考えてくれて……で、でも大丈夫ですよ!」
分かりやすいほどの空元気だ。というか涙を拭きなさい。
あんまりやりたくなかったが、こういう奴は多少無理やりにでも動かすしかないな……。
「おい、ちょっといいか!」
やや強めの声で従業員を呼び寄せる。
「はい、何でしょうか?」
「急で悪いが食事は終わりだ。会計を頼むよ」
「ちょ、ヴォルフさん!?」
「いいから黙ってろ。手早く頼むぜ、なぁ」
こういう時はさっさとしないとまた文句が出てくるからな。
「は、はい。いや、しかしまだデザートなどもあるのですが……」
「いや、今日はもう帰らせてもらうよ。悪いな」
今回は半ば脅すような形で威圧を行い、無理やり従業員を納得させる。
「わ、わかりました……それではこちらに……」
そういって従業員の一人が出口まで案内し、俺達は帰路に着いた。
帰り際、ジュレミーが何か問題でもあったのか!?と、やたら真剣な顔をして迫って来たがそちら側に問題は無いと説明したら、しぶしぶと納得してくれた。
まぁ、次もサービスをするので是非来て欲しいと言ってくれたし、今度はもう少しゆっくりと飯を食わせてもらうとするか。
帰り道を歩いている俺とその後ろをとぼとぼと付いてくるエレノア。
「あ、あのヴォルフさん……ホントにすいません!……お金を全部払ってくれた挙句に、中途半端なところで食事を終わらせちゃって……」
必死になって謝るエレノア。
後ろに行くにつれて段々と声が小さくなっていく。
「気にしすぎだ。ていうかどこまで自分本位な考え方なんだ、お前は。あれは、料理が俺の口に合わなかったから出て行っただけの話だ……」
我ながら下手糞な嘘だ。
「…………あ、あはは、そうですよね。ヴォルフさんはそういう人ですよね……」
涙目になりながらも精一杯笑顔を見せるエレノア。
まったく、俺に似てこいつも下手糞だな。
「なぁ……それじゃ、今度はお前の行きつけの店を教えてくれよ。俺の用事ばっかり優先させちまったからな。今度はお前の番だ!」
「ええ!!??いやでも、私がよく行く店なんて、はっきり言ってヴォルフさんのような人には何もかも吊り合いませんよ!!汚いし、正直あんまり美味しくないし!!」
「いやいや、ひょっとしたら穴場的な店かもしれないじゃねーか!冒険者として、ここは一つ挑戦しとかねーとな!」
夜の通りをギャースカと言い合って、近所迷惑だな、俺もエレノアも。
「…………仕方ないですね……ならその店の料理の不味さに恐れ戦け!ですよ!後悔しても知りませんからね!」
「お~言いよるわ!かかってこいよ!」
……ようやく本当の笑顔になったか。
まったく、ホントに面倒な事だよ。
だけど少しだけ、心地良く感じるのはなんでなんだろうな……。
この孤独な世界で少しは本音で接することの出来る奴だからかな……。
ちなみにその後エレノアが案内した料理屋の飯は食えたもんじゃありませんでした。やっぱやめときゃ良かった……。
朝だ。爽やかな風と温かい日差しが眩しくも心地いい。
ベッドは柔らかく清潔でさらさらと手触りのいいモノだ。
これで心地よく眠れないはずがない。
だのに何故、ここまで寝苦しかったのかと思えば…………。
「おい、エレノア。何してやがる……」
「えへへ~……そこはぁ……だめれすよぉ~…………でもぉ……そこまでいうなら…………ぐぅ…………」
なんだか妙に腹が立ったので勢いよく蹴飛ばすことにした。俺は悪くない。
もちろん跡が残らない様に、厚手の掛け布団ごとだ。
見事な蹴りをかまされたエレノアは見事に吹っ飛び芋虫の様に地面に転がった。
「ぎゃあ!?……っつ~。何するんですかヴォルフさん!ひどいじゃないですか!!」
布団に包まれている為、文字通り手が出せないまでも体を揺らしながら必死に抗議を行うエレノア。
「お前……どうして俺のベッドに入り込んでんだ?ああ?自分のベッドがあるだろうが!そっちで寝ろ!」
「い、いや~、それは……ヴォルフさんのベッドの方が暖かくて柔らかそうに見えたから……かな?」
額に汗を浮かべ、必死の言い訳を行う。
見苦しい奴め。ここで止めを刺してやろうか?
「言いたいことはそれだけか……ならば天に帰るがいい!」
「ちょ、ヴォルフさん!!なんですか!その不吉なセリフと構えは!?や、やだ~、まだ死にたくない~!!」
這いずりながらもなんとか必死に逃げようと動き続けるエレノア。
だが俺の拳から逃げることなど出来ん!!
「どうしたのエレノアちゃん。なんだか朝からげっそりとしてるけど?」
今は宿の一階にある食堂で朝食を食べているところだ。
俺達の他にも何人か身なりの良い人物やいかにも冒険者といった適当な服装の者達がいる。後者は上位の冒険者だろうか?何やら女性だけで構成されている様に見えるが……?
「い、いえミラルダさん。なんでもありません。なんでも……」
エレノアの顔が朝っぱらから青ざめているのを不審に思ったのだろう。
ちなみに朝は別の人物がフロントに構えておりミラルダは今自由時間らしい。なので一緒に朝食を取っていた。
「ふ~ん?ひょってして、昨晩は大変だったりして?」
何やらニヤニヤして妙な邪推をしているミラルダに人睨みをしておくと勝手に大人しくなった。こういう時は便利だな、俺の体。
「それで、今日はどうするんだエレノア?」
「あ、はい。大人しくギルドに行って、適当な依頼をこなしますよ。ヴォルフさんとはここでお別れですね。あ、でもでも!何か用事があれば遠慮なく声を掛けて下さいね!約束ですよ!?」
妙に強く念押しをしてくるな……。まぁ俺みたいな奴とは今後とも付き合っていきたいという事なんだろう。自分で言うのもなんだが金払いいいしな。
「あら、いつの間にかすごく仲が良くなってるのね?昨日初めて見かけたときはただのお付って感じだったのに」
「えへへ、そうですか~仲良く見えちゃいますか~、なんだか照れちゃうな~」
今度はエレノアの奴がニヤニヤし始めたので、やはり人睨みしておくと大人しくなった。
「まったく、お前ら少し調子に乗りすぎじゃないのか……」
俺が溜息を吐くとルーシィちゃんが追加の紅茶を淹れてくれた。ほんとに気が利くいい子だな。
「いや~どちらかというと、ヴォルフさんが実は親しみやすい人だからだと思うんですけど」
「あ、それなんだかわかります!」
「私もそう思うところはありますね~」
ルーシィちゃんも含めた三人が賛同する。
「親しみやすい?」
「はい、ヴォルフさんってパッと見は凄くカッコ良くて、威圧的な雰囲気を放ってるんですけど、少し話してみると実は凄く気さくで優しい人だって気が付くんですよね」
「確かにそうです!すっごく優しいです!」
エレノアが強く頷く。
「だから、その優しさに甘えちゃって、ついついこちらも素が出ちゃうんでしょうかね?」
でしょうかね?と言われても困るんだが……。
「まったく、少しぐらいなら助けてやらんでもないが、最初から当てにするんじゃねーぞ?ったく……」
「やっぱり、なんだかかんだ言って助けてくれるところがステキなんですよね~」
「うんうん!」
……これ以上女共の会話に入ってると疲れるだけで終わりそうだ。
やっぱり普段行動を共にするんなら一々気を遣わなくていい同性が一番だな。タクミの奴に会いたてーよ……。
というかあいつもこっちに来てんのかな?セフィロトの樹の現象には二人一緒に巻き込まれたはずだし恐らく来ているとは思うが……。
まぁいくら考えてもわかるはずもないか……、ゆっくりと情報を集めるところから考えるとしよう。
…………ん?何やら視線を感じる……。
俺が顔を上げるとエレノア、ミラルダ、ルーシィちゃんの三人が俺の顔をじっと見ていた。
「え~っと……なんだ?」
「あ、いや、やっぱりそうやって静かに考え事をしている表情がとっても素敵だな~って……///」
「は、はい!失礼ながら、私も思わず見とれちゃってました……///」
「さすがヴォルフさんです……。黙ってるだけでもカッコいいなんて……///」
はぁ、本当に賑やかな奴らだよ。まったく。
ヴォルフ(ヒロシ)もだいぶ言葉が砕けてきましたね。
エレノアがそういうキャラだからでしょうか。
設定・ヴォルフは100人の女の子が居れば100人が振り向くほどのイケメンです。それに加えて他者を圧倒するようなオーラを常に放出しています。(ヒロシとタクミがそういう設定としてヴォルフガングを製作した為)
月曜日はヴォルフ(ヒロシ)側の番外編を投稿したいと思います。




