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光の奔走  作者: 如月あい
一章 光の失速
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謝罪としての提案

黒髪の女性と赤銅色の髪の青年は、一瞬だけ、お互いを見つめていた。

 しかし、赤銅色の髪の青年が、目をそらし、そして問う。

「それで、直接交渉ってなにについて?」

 デュエルは冷静さを保つために最大限の努力をしながら聞いた。

「シリヤから聞いたんだけど―――」

 その努力むなしく、デュエルはわずかに動揺して、黒髪の少女を思いっきり見てしまった。

「―――デュエルと研修生のデートが騒動を引き起こしたって」

「違うっ!!!」

 デュエルは驚くほど大きな声で叫んでいた。

 ルフレの目が見開かれる。

「あれはセレスに借りができたから、頼まれてっ!」

「……落ち着きなさいよ。何もデュエルが仕事をさぼってデートしてたなんて話、信じてないわ」

 冷静なルフレの声が、デュエルを少しだけ落ち着かせる。

 とりあえず誤解はないようだ。

「セレスから聞いたわ。……ごめんなさい。面倒なことになって」

 ルフレが申し訳なさそうに頭を下げる。

 デュエルは、ルフレに謝られる意味が分からなくて、思わず顔をしかめた。

「帽子よ」

 その一言で、すべてがつながり、ついでに自分の失言に気づく。

「いや、別にルフレのせいじゃ……」

 慌ててそういうと、ルフレは首を振る。

「いいえ。帽子が流行だなんて知らなかった私が悪いわ。目立たないためには、服の流行まで気を配らないといけないなんて」

 なんだか微妙にずれた解釈をされているが、今一番の問題はそこではない。

 ルフレはセレスから、聞いたと言った。

 セレスはルフレに帽子を貸したことを話し、しかも、その代償に、スミアをデュエルに押し付けた話をしたのだろう。

 だから、彼女は謝っている。

 それなのに、デュエルは、自分でセレスに押し付けられたとダメ押ししてしまった。

「……とにかく、誤解されてないなら、どっちでもいいんだけど」

「誤解されてるわよ、みんなには」

 ルフレに誤解されてなければ後は関係ない、という言葉はかろうじて飲み込んだ。

 いつも忘れそうになるが、線を引いたのは自分だ。

「それで、そこから交渉することって?」

「ああ。そうそう。それで、ちょっと普通に依頼があって、とりあえず、資料を整理して持ってきたから、それにデュエルが目を通してほしいの。今日はデュエルの隊はみんな忙しくて出払ってる上に、今日、研修生担当するはずだったリトは体調不良。それであの騒動。どうせレティスは叱られて、ダグラスはその収拾に行って、ヒラリーは残ったあなたが引き取る予定なんでしょう?」

 相変わらず頭が回り、デュエルの考えをしっかりと読んでいる上に、他の隊の隊員までしっかり覚えているあたり、流石としかいいようがない。

「まあ、そうだけど。それだと交渉っていうか、普通に依頼なんじゃ?」

 特別隊のA、B系統の隊の構成上、ルフレの隊がデュエルの隊に仕事を持ってくることは、多々ある。

 今の話だけを聞くと、その仕事の依頼をされているだけのような気がする。

 ただ、それにしては、いつもはこの隊には、仕事を回すとき、あまり自分で赴かない彼女が、ここにいるのはおかしい。デュエルが引いた線を守ってくれているのか、本当にデュエルに興味がないのか、彼女はだいたい、隊員に頼んで仕事を回す。

「本題はこれからよ。デュエルに依頼遂行してもらう代わりに、ヒラリーを、私が今日だけ預かろうと思って」

「……なるほど」

 確かに、研修生は、一応、一通りのことを学ぶので、一日ぐらい他の隊に預けても、他の隊の研修生と同じ内容を教えてしまうことは可能だ。

「この資料、とりあえず、今日、目を通してくれるだけでいいわ。急いでないし」

 資料を受け取り、ぱらぱらとめくる。

 彼女の言葉通り、猶予のある仕事のようだ。

 ―――優しいよな。やっぱり。

 気を使わせないための理由づけが、うまい。

「でも、研修生をほかの隊に預けて、騒動になったのに、また研修生を預けるのはどうなんだ?」

 自分の失言をまだ引きずるデュエルは、ささやかな抵抗を試みる。

「ああ。大丈夫よ。クロッカス副科長の許可はとったわ。デュエルとヒラリーを二人で研修させたら、今度はあの子が何を言うかわからないからって、シリヤをまたとられるのは面倒だから、とそれらしい理由もくっつけたら、案外あっさりOKもらったの。まあ、私なら、女だから、ヒラリーを預かっても問題ないしね」

 完敗だな、とデュエルは思った。

 クロッカスを納得させる理由も、デュエルの懸念を吹き飛ばし、かつ、危機感を与えるような根回しも、すべて完璧だった。

 ―――やっぱレンティは遠い。

 ここまで言われれば、デュエルは首を縦に振るしかなかった。


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