謝罪としての提案
黒髪の女性と赤銅色の髪の青年は、一瞬だけ、お互いを見つめていた。
しかし、赤銅色の髪の青年が、目をそらし、そして問う。
「それで、直接交渉ってなにについて?」
デュエルは冷静さを保つために最大限の努力をしながら聞いた。
「シリヤから聞いたんだけど―――」
その努力むなしく、デュエルはわずかに動揺して、黒髪の少女を思いっきり見てしまった。
「―――デュエルと研修生のデートが騒動を引き起こしたって」
「違うっ!!!」
デュエルは驚くほど大きな声で叫んでいた。
ルフレの目が見開かれる。
「あれはセレスに借りができたから、頼まれてっ!」
「……落ち着きなさいよ。何もデュエルが仕事をさぼってデートしてたなんて話、信じてないわ」
冷静なルフレの声が、デュエルを少しだけ落ち着かせる。
とりあえず誤解はないようだ。
「セレスから聞いたわ。……ごめんなさい。面倒なことになって」
ルフレが申し訳なさそうに頭を下げる。
デュエルは、ルフレに謝られる意味が分からなくて、思わず顔をしかめた。
「帽子よ」
その一言で、すべてがつながり、ついでに自分の失言に気づく。
「いや、別にルフレのせいじゃ……」
慌ててそういうと、ルフレは首を振る。
「いいえ。帽子が流行だなんて知らなかった私が悪いわ。目立たないためには、服の流行まで気を配らないといけないなんて」
なんだか微妙にずれた解釈をされているが、今一番の問題はそこではない。
ルフレはセレスから、聞いたと言った。
セレスはルフレに帽子を貸したことを話し、しかも、その代償に、スミアをデュエルに押し付けた話をしたのだろう。
だから、彼女は謝っている。
それなのに、デュエルは、自分でセレスに押し付けられたとダメ押ししてしまった。
「……とにかく、誤解されてないなら、どっちでもいいんだけど」
「誤解されてるわよ、みんなには」
ルフレに誤解されてなければ後は関係ない、という言葉はかろうじて飲み込んだ。
いつも忘れそうになるが、線を引いたのは自分だ。
「それで、そこから交渉することって?」
「ああ。そうそう。それで、ちょっと普通に依頼があって、とりあえず、資料を整理して持ってきたから、それにデュエルが目を通してほしいの。今日はデュエルの隊はみんな忙しくて出払ってる上に、今日、研修生担当するはずだったリトは体調不良。それであの騒動。どうせレティスは叱られて、ダグラスはその収拾に行って、ヒラリーは残ったあなたが引き取る予定なんでしょう?」
相変わらず頭が回り、デュエルの考えをしっかりと読んでいる上に、他の隊の隊員までしっかり覚えているあたり、流石としかいいようがない。
「まあ、そうだけど。それだと交渉っていうか、普通に依頼なんじゃ?」
特別隊のA、B系統の隊の構成上、ルフレの隊がデュエルの隊に仕事を持ってくることは、多々ある。
今の話だけを聞くと、その仕事の依頼をされているだけのような気がする。
ただ、それにしては、いつもはこの隊には、仕事を回すとき、あまり自分で赴かない彼女が、ここにいるのはおかしい。デュエルが引いた線を守ってくれているのか、本当にデュエルに興味がないのか、彼女はだいたい、隊員に頼んで仕事を回す。
「本題はこれからよ。デュエルに依頼遂行してもらう代わりに、ヒラリーを、私が今日だけ預かろうと思って」
「……なるほど」
確かに、研修生は、一応、一通りのことを学ぶので、一日ぐらい他の隊に預けても、他の隊の研修生と同じ内容を教えてしまうことは可能だ。
「この資料、とりあえず、今日、目を通してくれるだけでいいわ。急いでないし」
資料を受け取り、ぱらぱらとめくる。
彼女の言葉通り、猶予のある仕事のようだ。
―――優しいよな。やっぱり。
気を使わせないための理由づけが、うまい。
「でも、研修生をほかの隊に預けて、騒動になったのに、また研修生を預けるのはどうなんだ?」
自分の失言をまだ引きずるデュエルは、ささやかな抵抗を試みる。
「ああ。大丈夫よ。クロッカス副科長の許可はとったわ。デュエルとヒラリーを二人で研修させたら、今度はあの子が何を言うかわからないからって、シリヤをまたとられるのは面倒だから、とそれらしい理由もくっつけたら、案外あっさりOKもらったの。まあ、私なら、女だから、ヒラリーを預かっても問題ないしね」
完敗だな、とデュエルは思った。
クロッカスを納得させる理由も、デュエルの懸念を吹き飛ばし、かつ、危機感を与えるような根回しも、すべて完璧だった。
―――やっぱレンティは遠い。
ここまで言われれば、デュエルは首を縦に振るしかなかった。




