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手のひらサイズの最下級妖精の前世はビジネスマン 〜落ちこぼれですが、世界一の商業都市を作ります〜  作者: @tsutsu-Chan


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最初の金貨と、小さなブランド

「いいかエリィ、まずは強いお酒づくりだ。

 傷んで捨てられた果実をつぶして、この革袋に詰め込むんだ」


「マーサさん、傷んだ果実をつぶして革袋に集めてほしいの!」


マーサおばあちゃんの作業場で、さっそく試作が始まった。


革袋に果実を詰めたあと、僕は科学の知識を伝授する。


「口を縛って、細い竹筒を差し込む。

 その先を、水を張った小さな器につけるんだ。」


こうすれば雑菌は入らず、発酵のガスだけが『ぷくぷく』と逃げていく。


「火から少し離した日陰に置こう」


もちろん、僕の姿も声もマーサおばあちゃんには見えず、聞こえない。


僕がエリィ姫の耳元で指示を出し、エリィ姫が自分の言葉として伝える。


「おやまあ……!

 エリアーナ姫様、そんなおアルコールづくりの秘訣を一体どこで……!?」


マーサおばあちゃんは目を丸くしながらも、素早く作業を進めていく。



数日後。

パンパンだった革袋からガスが抜けきり、澄んだ強いアルコールが完成した。


続いて、薬草の抽出とオイル作りに入る。


「エリィ、薬草は風通しの良い日陰で乾かしておいたやつを使う。

 ナイフで細かく刻むんだ」


ふたりがサクサクとナイフを動かす。

刻んだ瞬間に、ツンと鼻を突く独特な香りが広がった。


「よし、刻んだ薬草を陶器に詰めて、さっきのお酒をなみなみと注ぐ」


無色のお酒の中に、緑の薬草が沈む。

ゆらりと透明な液体の中に、鮮やかな深緑が溶け出し始めた。


「マーサさん見て!

 お酒の中に薬草の色がどんどん染み出していくわ!」


「まあ……!

 本当ですねぇ、こんなに綺麗に……!」


感嘆の声をあげる二人に、僕は誇らしく胸を張った。


「普通、水で煮出した薬はすぐ腐る。

 でも、強いお酒で溶かしたこれは、何年も腐らない。」


「長旅をする商人や冒険者にとって、腐らない薬は需要があるはずた。」


しっかりなじませたあと、布でキュッと固く絞る。

ポタリ、ポタリと落ちる一滴には、薬の成分がぎゅっと凝縮されていた。


さらに、ハーブオイルの抽出を行う。


「自生しているナズナやエゴマの種を炒って、石ですり潰す。

 布袋につめたら、二枚の板と木の枝で『テコの原理』を使ってプレスだ」


ギィィッ……と体重をかける。

布袋からジュワッと琥珀色の澄んだオイルが滲み出てきた。


凝縮した薬草の汁に、搾りたてのオイルを黄金比率でブレンドする。


出来上がったのは、柑橘とハーブの香りが漂う、肌なじみのいい軟膏クリームだ。


(よし、商品は完成だ。

 だが——ここからがビジネスの本番だぞ)


僕はエリィ姫の肩の上で、不敵にニヤリと笑う。


「どれほど良い品でも、『薬です』と売ったらタダ同然で買いたたかれる。

 大切なのはブランディングとターゲット設定だ」


「ぶらんでぃんぐ……?」


「『これは高級で、すごそうだ』とひと目で思わせる見た目にするんだよ」


「なるほど~」


「ターゲットは、この森を通る『長距離の行商人』や『冒険者』だ。

 彼らの悩みは、長旅のケガ、虫刺され、そしてお風呂に入れない体の臭いだろ?」


「あっ……!

 確かに、行商の人たちはいつも汗と傷で大変そう!」


「だからこそ、持ち運びに便利な小指サイズの『木筒』に小分けして、王国の刻印を押す。

名前は——『ルミエール天然ハーブオイル』だ」


高級感あふれる見た目と、洗練されたネーミング。


僕とエリィ姫は、出来上がった試作品を手に「森の境界線」へ向かった。



大樹の森の境界付近。

疲弊した様子で進む、大きな行商隊の姿があった。


「みんな疲れ切ってるわね……。

 よし、行ってみるわ!」


エリィ姫は泥で汚れた服のまま駆け出し、親方商人へ明るく声をかけた。


「そこの商人さん!

 長旅でお疲れではありませんか?」


「よろしければ、我が国の特産品を『お試し』で使ってみてください!」


「ん……?

 なんだい、こんなところで可愛らしいお嬢ちゃんが……」


不審そうにする親方商人。

名をマルコというようだ。


だが、すり傷だらけの彼の腕に、エリィ姫がオイルをちょんと塗ると

——顔色が一変した。


「な、なんだこれは……!?

 塗った瞬間、ズキズキしていた痛みがスッと引いていく……!」


「それに、なんていい香りなんだ!」


長旅の汗臭さが消え、爽快なハーブの香りが漂う。


周りの商人たちも「なになに!?」と一斉に群がってきた。


「おい親方!

 俺の虫刺されにも塗ってくれ!」


「すごい、一瞬でかゆみが消えたぞ!

 こんな凄い薬、見たことがない!」


驚きと歓喜の声が広がる中、商人のマルコはエリィ姫の手をガシッと握りしめた。


「お嬢ちゃん!

 この薬を……この木筒をあるだけ全部譲ってくれ!

 森を越える旅人や冒険者にとって、これは革命だぞ!」


「えっ……!

 ぜ、全部ですか!?」


「ああ、いい値で買い取る!

 定期的な取引もお願いしたい!」


チャリンと重厚な音が響く。

マルコから手渡されたのは、ずっしりと重い『金貨の小袋』だった。


貧乏小国ルミエールが、自らの知恵で掴み取った【初めての現金収入】であった。


「あ……あははっ!

 アルティ、みて!

 金貨よ!

 私たちの商品が、認められたのね……!」


涙ぐみながら金貨の袋を抱きしめるエリィ姫。


僕は彼女の肩の上で腕を組み、満足げに目を細めた。


(ふっ……捨てられていた果実と雑草から生み出した、原価ゼロの超高利益ビジネス。

 最初にしては大成功だな)


「泣いている暇はないぞ、エリィ。

 これで最初の資金はできた。

 次は、腕の良い職人を発掘して、本格的な生産体制を作ろう」


「うんっ!

 私、どこまでもついていくわ、小さな参謀さん!」


夕日の中、手を取り合う一人のお姫様と姿なき参謀。


貧乏小国の快進撃は、ここからスタートしていくのだった。

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