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手のひらサイズの最下級妖精の前世はビジネスマン 〜落ちこぼれですが、世界一の商業都市を作ります〜  作者: @tsutsu-Chan


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泥だらけの太陽と小さな参謀

『な、なんだってえぇぇぇぇっ!?』


静寂を破ったのは、上空から響く上位妖精たちの情けない悲鳴だった。


「嘘だろ!?

 なんであの『無属性の出来損ない』が見えて、僕たちが見えないんだ!?」


「邪魔よ、雑魚妖精!

 その人間は私が功績ポイントをもらうための——」


狂乱した火の上級妖精が、しびれを切らしてエリィ姫の目の前へ割り込もうとする。


——だが。


ザッ、と音を立てて前進したエリィ姫の体が、火の妖精を『完全透過』して通り過ぎた。


彼女にとって、彼らの声はただの風の音。

その姿は、木漏れ日の揺らめきと同じだ。


「ぎゃああああっ!?

 む、無視されたぁぁぁっ!?」


地面に転がり、顔を真っ赤にして地だんだを踏む上級妖精。

他の妖精たちも呆然と口を開き、羽の勢いを失ってポタポタと落ちていく。


(ハッ……ざまあみろ)


(ターゲットのニーズも捉えず、一方的な押し売りしかできない連中に、顧客が振り向くはずがない。)


上位妖精たちの無様な大パニックを横目に、僕は心の中で小さく鼻で笑った。


見下してきた連中の鼻を明かしたのは、実にスカッとする。


だが——僕の目の前にある問題は、もっと切実だった。


「お願い……!

 私、どんなことでもするわ!」


「だから……

 私の大切な国を、民を助ける知恵を貸してくれないかしら!?」


エリィ姫は膝をつき、泥で汚れた小さな両手を僕の足元へ差し出していた。


僕が落ちないように、まるで宝物を扱うかのように優しく、丁寧に。


琥珀色の瞳には、偽りのない必死さと熱量が溢れている。


(……やれやれ。

 損得勘定だけで言えば、完全な『赤字案件』だな)


僕は腕を組み、冷徹な頭で高速計算を開始する。


ルミエール王国。

森や山脈には資源はあるが、知識も、加工技術も、流通網も皆無の貧乏小国だ。


そんな「詰んでいる状態」の国をゼロから再建するなど、リスクが高すぎる。

リターンが見合わない。


前世の僕なら「弊社ではお力になれません」と即答して撤退する案件だ。


——だが。


(……ちくしょう。

 前世の嫌な癖が出そうだな)


目の前の泥だらけのお姫様を見つめる。


王族のプライドなどかけらもなく、泥をかぶることを恐れない。

自分の無知を素直に認めて頭を下げる少女。


前世で僕が仕えてきたのは、現場の苦労も知らずに口先だけで威張り散らす無能な役員ばかりだった。


それに比べて、この少女はどうだ。

民のために自ら泥まみれになって森を駆け回る「現場主義のリーダー」だ。


(……一生懸命汗を流す人間を、見捨てられるわけがないだろ)


僕の胸の奥で、社畜生活でも消えなかった「熱いもの」が燃え上がる。


自分には魔法も、巨大な肉体もない。


だが、過酷な現代社会で得た「経営の知識」と「マーケティングの知識」がある。


そして何より——僕にはない圧倒的な『現場の熱量』を、この少女は持っているのだ。


「ハッ……効率最悪、リスク最大。

 まったく、とんでもないクライアントだ」


僕は呆れたように肩をすくめると、彼女の手のひらの上へふわりと着地した。


そしてシンプルな無地のローブを整え、アイスブルーの瞳で彼女を見つめ返す。


「いいでしょう」


「あなたの『国の再建計画』、僕が引き受けます」


「えっ……!

 ほんとう……!?」


「ただし、僕の指導は厳しいですよ?

 ついて来られますか?」


「ええ、もちろんよ!

 私、どんな苦労だって乗り越えてみせるわ!」


即答だった。

迷いなど微塵もない。


僕は口元に、不敵な笑みを浮かべた。


「よし、それではさっそく

 『ルミエール王国・発展プロジェクト』

 の第一段階を開始しましょう」


「第一段階……?」


「はい。

 まずは、君の国の『資産・人材・特産品』の実態調査からだ」


「君の国の現状を、僕に全て見せてもらうぞ」


僕が手のひらの上で指を鳴らすと、エリィ姫の顔に、太陽のような笑顔が広がる。


「ありがとう、妖精さん……!

 私、あなたとならどんな困難だって乗り越えられる気がするわ!」


「自己紹介がまだだったね、僕の名前はアルティといいます」


「よろしくね、アルティ。

 私はエリアーナよ、エリィと呼んでちょうだいね!」


「あぁ、エリィ。

 さあ、君と僕の二人三脚で、エリィの国を立て直しに行きましょう!」


大樹の根元で手を取り合う、小さな妖精と、泥だらけの太陽のようなお姫様。


見下してきた上位妖精たちの呆然とした視線を背に受けながら——

異世界を激震させる「最強の改革劇」が、いま静かに幕を開ける。

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