完成した森の道と、誇り高き妖精たち
茜色の夕陽が、大樹の森を優しく照らしていた。
「できた……できたわーっ!
ルミエールの道が完成よーーーーっ!」
森の開拓現場の真ん中で、バンザイをして叫んだのはエリィ姫だった。
かつてはうっそうとした、危険な魔物が這い回っていた恐怖の森。
そこには今、大型馬車がすれ違えるほど平坦にならされた『森の道』が、まっすぐにルミエール王国の町へと伸びていた。
「がはは!
やり切ったぞ!
これで他国の馬車も安全に町まで入ってこられる!」
「すげえや……
俺たちの手で、本当に森の中にこんな素晴らしい道を作っちゃったんだ!」
汗と泥で顔を汚したガルド親方や若い作業員たちが、完成した街道を見上げて歓声をあげている。
互いに肩を叩き合い、健闘を称え合う労働者たち。
(ふっ……人間の意気とチームワークも大したものだが、本当の『功労者』は別にいる)
僕はエリィ姫の右肩の上で腕を組み、人間たちの視線が届かない木の影へと視線を向けた。
そこには、全身泥だらけになりながら、ヘトヘトになって身を寄せ合う十名の妖精たちの姿があった。
土魔法で硬い地面を粘土のように解し、平坦に固め続けた土の精霊たち。
森の奥で魔物を幻覚と音で遠ざけ、人間に傷一つ負わせなかった警備隊の妖精たち。
彼らは「僕たち、ちゃんと役に立てたのかな……」と、不安そうに身を縮こまらせていた。
——と、その瞬間だった。
『ツーーーーーーーーン……ッ!!』
空間が微かに震え、妖精たちの胸元に浮かぶ【成果の刻印】が、眩いばかりの金色に光り輝いた!
妖精界の集計システムが、『大規模インフラの完成』と『流通路の安全確保』という巨大な社会的成果を検知したのだ。
その貢献度(功績ポイント)が、一気に彼らに還元されていく。
「ひ、光った……!?
な、なんだこのポイントの量はーーーっ!?」
土の精霊が、自分の刻印に刻まれた数値を見て悲鳴をあげた。
これまで妖精界でどれだけ苦労しても、一桁すら増えなかった彼らのポイント。
それが今、一気に十数ポイントという、見たこともない数値となって跳ね上がっていたのだ!
『バ、バカな!?
僕たちのポイントが、一気に増えている……!?』
『嘘だろ!?
落ちこぼれの僕たちが……
こんなに大量の功績ポイントをもらっていいのか!?』
ガタガタと震えだし、自分の目を疑う妖精たち。
その時、遥か上空の妖精界では、リアルタイムの累積棒グラフが再び垂直跳びを開始していた。
「な、なぜだ!?
あの最下層の落ちこぼれどもが、なんで一気に順位を上げてくるんだぁぁぁっ!?」
上位妖精たちが大パニックに陥っていたのだ。
だが彼らがそれを知る由もなかった。
「言っただろう。
属性の強弱など関係ない。
『使い所』だと」
僕がエリィ姫の肩の上から静かに声をかけると、十名の妖精たちは弾かれたように僕を見上げた。
「君たちが陰で人間を支え、安全を守り抜いた。
この大街道は、君たちの仕事(成果)そのものだ。
胸を張れ」
「あ……アルティ様……!」
冷徹に、けれど確かな実績として自分たちの努力を100%肯定してくれたアルティの言葉。
その瞬間、妖精たちの目からボロボロと大粒の涙が溢れ出した。
属性がないと馬鹿にされ、妖精界の底でゴミのように扱われてきた自分たち。
そんな自分たちに、生きる意味と誇り、そして誰もが羨む圧倒的な成果を与えてくれたのは、目の前に立つ無属性の参謀だった。
『アルティ様ぁぁぁぁっ……!
ありがとうございます、ありがとうございます……!』
『僕たち……、アルティ様についていって本当に良かった……!』
『一生ついていきます!』
十名の妖精たちが、ボロボロと嬉し涙を流しながら、それぞれがアルティに感謝を示した。
疑いから始まった関係が、論理的なプレゼンと確かな成果によって、揺るぎない絶対の忠誠へと変わった瞬間だった。
(ふっ……これで『現場の施工・防衛部隊』の信頼も完全に掴んだな)
僕は不敵に口元を歪めた。
だが、僕たちの仕事はこれで終わりではない。
町の中へと戻った僕とエリィ姫の視線の先には、新しく組み上がったばかりの『木造の宿屋』が佇んでいた。
森の道の整備と共に、切り出した大樹を使用して、『木造の宿屋』の建設が国内の大工職人たち総出で行われていたのだ。
「アルティ、道が完成して宿屋の建物も終わったね」
「ああ。
だが建物ができただけでは意味がない」
「これからやってくる大勢の商人や旅人を迎えるためには何が必要だと思う、エリィ」
「そうね、これからこの国を訪問してくれる人たちへのおもてなしかしら?」
「そうだ。
次は『宿屋を運営するスタッフの教育』と『提供する食事・飲み物の開発』を進めるぞ」
「うんっ!
美味しいご飯と冷たい飲み物で、旅の人たちを驚かせちゃいましょう!」
安全な森の道を抜けてやってくるであろう客人たちを迎えるために、僕たちは次なる『おもてなし改革』へと着手するのだった。




