忍び寄る来訪者と、物流の壁
「すごいわ、マーサさん!ガルドさん!
こんなにたくさんの石鹸とおハーブオイルができあがったわ!」
ルミエール王国の作業場は、熱気に包まれていた。
国からの支援が決まり、国中の人々が協力し合う。
マーサおばあちゃんとガルド親方をリーダーに『高級ハーブ美容石鹸』と『天然ハーブオイル』の量産体制が整ったのだ。
作業台の上に整然と並ぶのは、王国の刻印が入った石鹸とハーブオイルの瓶。
完成品を前にしたエリィ姫は、茜色のパンツスタイルを躍動させ、琥珀色の瞳をキラキラと輝かせていた。
「これなら、マルコさんが戻ってきたときにたくさん渡せるわね!」
「フッ……モノづくりとしては満点だな。
だがエリィ、浮かれている場合じゃないぞ」
彼女の右肩の上。
いつもの指定席で腕を組んでいた僕は、耳元で静かに釘を刺した。
エリィ姫が「えっ?」と首を傾げる。
「どういうこと、アルティ?
こんなにたくさん作ったのに……」
「どんなに素晴らしい品を作っても、届ける手段がなければただの在庫だ。
今のこの国には、ビジネス上の最大の弱点がある。
……『物流』だ」
「さぷらい……?」
「この国を囲む広い森には、馬車が通れるまともな道がない。
おまけに危険な魔物も出る。」
「これではマルコ商会がどれほどお金を用意しても、大きな馬車隊で買い付けに来られないんだ」
僕の指摘に、エリィ姫はハッと息をのんだ。
「あっ、確かに……!
マルコさんには森の境目まで、馬で荷物を少しずつ運んでいたわ……!」
「だから次のステップは、ふたつ。」
「森の最短ルートを拓く『道の整備』、
それと、商人たちが泊まれる『木造の宿屋建設』だ」
「うんっ!
私、すぐにお父様やみんなに声をかけて、準備を進めるわ!」
エリィ姫が力強くうなずき、作業場を飛び出そうとした
——その時だった。
(……ん?
なんだ、この妙な気配は……)
僕の鋭い感覚が、空間の微かな『歪み』をとらえた。
人間の目には見えない。
だが作業場のすみや天井の影で、小さな光の粒が十数個、コソコソと動き回っている。
僕と同じ、『妖精たち』だった。
(なるほど。
妖精界のシステムで僕の功績ポイントが急上昇したのを見て、探りに来たのか)
『なんだあいつは、無属性に何ができるんだ!』
『本当にあいつがポイントを稼いでいるのか?』
疑いの混ざった視線で、僕を盗み見ている。
僕はエリィ姫の耳元でそっとささやいた。
「エリィ、少し人目のないところまで移動してくれ。
面白い『助っ人』を捕まえる」
「助っ人……?
う、うん、分かったわ!」
エリィ姫は首を傾げつつも、街はずれの森の入り口へ移動してくれた。
周りに人がいないことを確認し、僕はおもむろに声を張り上げた。
「コソコソ隠れていないで、出てきたらどうだ?
妖精界から来た、哀れな諸君」
『ば、バレてるーっ!?』
空間がゆらぎ、姿を現したのは十人ほどの小さな妖精たちだった。
土を思わせる茶色の服を着た者や、木の葉の髪飾りをつけた者。
どれも妖精界では「属性が弱い」と弾かれてきたやつらだ。
「無属性のアルティ……!
お前、人間界で何をやっているんだ!
なんでお前のポイントが、あんな勢いで増えているんだよ!?」
土の精霊らしき妖精が、声をはりあげてかみついてくる。
僕は腕を組み、冷徹な顔で見下ろした。
「探りに来たのか?
それとも……僕の下に稼ぎに来たのか?」
『か、稼ぎに来た……!?』
「僕はこの国で、人間たちと協力して新たな事業を興している。
だが、人間だけでは森の道を作り、魔物を遠ざける手段が足りない。」
「……そこで、君たちに『仕事』をやろうと思うんだが」
妖精たちは目を白黒させた。
「仕事だって……!?
僕たちみたいに力のない妖精に、何ができるっていうんだよ!」
「属性の強弱など関係ない。
要は『使いどころ』だ。」
「君たちが影で人間の道作りを助け、魔物を遠ざけてくれれば、国の発展に貢献したとシステムに認められる。」
「……つまり、君たちにも『功績ポイント』が入る」
『こ、貢献ポイントが……僕たちにも手に入るのか!?』
実績を出せずにいた彼らの瞳に、希望が宿る。
「断るなら好きにしろ。
だが、僕の手をとるなら……妖精界の連中を見返すチャンスをやるぞ」
「い、行く!
僕たちにその仕事をさせてくれ、アルティ……いや、アルティさん!」
交渉成立だ。
僕の狙い通り、最強の『影のサポート部隊』が手に入った。
「エリィ、準備完了だ。街のみんなを集めて、森の道作りを開始してくれ」
「うんっ!
よく分からないけど、アルティがすごそうな仲間を増やしたのね!」
「みんな〜っ!
森の道作りを始めるわよ〜〜っ!」
エリィ姫の元気な掛け声のもと、領民や職人たちが集まった。
最短ルートで森を切り拓く『森の道プロジェクト』のスタートだ。
「えいっ、えいっ!
木を切って、地面を平らにするわよ!」
エリィ姫が先頭に立って汗を流す横で、影に潜んだ土の精霊たちが魔法を唱える。
『土よ、柔らかくなれ〜っ!
人間たちが掘りやすいように、石をよけるんだ〜っ!』
泥や硬い根で掘りにくかった森の地面が、まるで粘土のようにスルリと解けていく。
「お、おい!
今日の土はなぜかめちゃくちゃ掘りやすいぞ!?」
「本当だ!
サクサク作業が進む!
なんだか力が湧いてくるみたいだぞ!」
作業員たちが歓声をあげ、ツルハシを振るう。
人間の情熱と、姿なき妖精たちの魔法——。
ふたつの力が完璧にかみ合い、森の道作りは驚異的なスピードで進んでいくのだった。




