↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マフィアのボスが私を男だと思っている。  作者: puni0023
第二章 ディ・ネーロ・ファミリー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/77

第64話 ニコ・ロッシ

翌日。


青く澄んだ空。


静かな墓地を、二人はゆっくり歩いていた。


郁が立ち止まる。


「ここです」


ルチアは墓石へ視線を向けた。


そこに刻まれていた名前。


ニコ・ロッシ


その瞬間。


膝から力が抜けた。


ゆっくりと墓前へ座り込み、震える手で墓石へ触れる。


「兄さん……」


涙が溢れる。


「ごめんなさい」


「兄さん……」


「私……」


「ずっと……」


「兄さんの願いとは反対のことばかりしてた……」


肩を震わせながら泣き続ける。


郁は何も言わなかった。


少し離れた場所で、静かに見守る。


これは。


兄妹だけの時間だった。


風が優しく吹き抜ける。


その時。


「郁」


聞き慣れた声がした。


振り向くと、レオンが歩いてくる。


郁は小さく頭を下げた。


「ボス」


ルチアもゆっくり振り返る。


レオンを見ると、身体が震えた。


兄の仇だと信じ続けてきた人。


何度も銃を向けた相手。


唇を噛み締める。


「……ごめんなさい」


やっと絞り出した一言だった。


レオンは優しく微笑んだ。


責めることもなく、怒ることもなく。


ただ静かに墓石を見つめる。


「……一つ」


ルチアが顔を上げる。


レオンは墓石へ刻まれた名前を見た。


「本当の名前に変えることもできる」


「アレッシオ」


「君が望むなら」


ルチアは再び墓石を見つめた。


そこには。


ニコ・ロッシ


その名前が刻まれている。


長い沈黙。


やがて、小さく首を横へ振った。


「このままで」


レオンは穏やかに微笑む。


「理由を聞いても?」


ルチアは涙を拭った。


少しだけ笑う。


「兄さんは」


「家族にはアレッシオだった」


一度、墓石へ手を添える。


「でも」


「レオンさんたちには」


「ニコだった」


静かに目を閉じる。


「兄さんは」


「どっちも本当の兄さんです」


「だから」


「この名前のままでいてほしい」


郁はその言葉を聞き、小さく微笑んだ。


レオンも優しく頷く。


「……そうだね」


「俺も」


「ニコって呼ぶ方がしっくりくる」


ルチアも頷く。


「私も」


「これからは」


「胸を張って」


「ニコって呼びます」


風が優しく吹き抜けた。


木々が静かに揺れる。


まるで。


誰かが笑ったようだった。


レオンは墓石へ目を向け、小さく笑う。


「聞いたか」


「ニコ」


「妹は」


「ちゃんと前を向けそうだよ」


そして。


ルチアへ視線を向ける。


優しく。


いつもの笑顔で。


「ニコの妹なんだろ?」


ルチアの肩が小さく震える。


レオンは一歩だけ近付いた。


「帰っておいで」


その一言だった。


“許す”とも。


“仲間になれ”とも言わない。


ただ。


帰る場所を示してくれた。


ルチアの瞳から、大粒の涙があふれる。


「……っ」


その場へ泣き崩れた。


「私……」


「帰って……いいの……?」


レオンは迷わず頷く。


「もちろん」


「ニコが命を懸けて守った妹だ」


「俺たちも」


「大事にする」


ルチアは涙を流しながら、何度も何度も頷いた。


郁は空を見上げる。


青い空の向こう。


どこかで。


ニコ――いや、アレッシオも笑っている気がした。


家族を守るために命を懸けた兄。


その願いは、ようやく叶った。


妹はもう、一人じゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。