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マフィアのボスが私を男だと思っている。  作者: puni0023
第二章 ディ・ネーロ・ファミリー

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第63話 アレッシオ?

パトカーのサイレンが夜の山へ響いていた。


ディ・ネーロ・ファミリー。


壊滅。


サルヴァトーレは警察へ連行されていく。


手錠を掛けられたまま、一度だけ振り返る。


その視線の先には。


レオン。


サルヴァトーレは小さく笑った。


「負けたよ」


レオンは静かに頷く。


「終わりです」


サルヴァトーレは何も言わず、そのまま警察車両へ乗り込んだ。


扉が閉まる。


長かった戦いが、終わった。


――――――


一方。


地下施設。


煙がまだ薄く漂う通路。


一人の少女が立ち尽くしていた。


ニコの妹。


兄を失い。


父も母も失い。


そして今。


唯一信じていたサルヴァトーレまで連れて行かれた。


「……ボス」


返事はない。


「ボス……」


静かな地下へ声だけが響く。


少女はゆっくり膝をついた。


「……嘘」


「嘘だよね」


「起きてよ」


涙が止まらない。


「私」


「もう」


「一人なの……?」


その姿を少し離れた場所から郁は見つめていた。


胸が苦しい。


ずっと持ち歩いてきたものがある。


右手が自然と胸ポケットへ伸びた。


封筒。


少しだけ折れ目の付いた一通の手紙。


郁は静かに歩き出した。


足音に少女が振り向く。


涙で濡れた目が郁を睨む。


「来ないで」


郁は立ち止まった。


「……」


「帰って」


「あなたたちなんか」


「嫌い」


その言葉を、郁は静かに受け止める。


ゆっくりと封筒を取り出した。


「これだけ」


少女の目が封筒へ向く。


「あなたに」


「預かっていたものです」


少女は眉をひそめた。


「……何」


郁は両手で封筒を差し出した。


「お兄さんからです」


その一言で。


少女の時間が止まった。


「……」


「嘘」


首を横へ振る。


「兄さんは」


「死んだ」


「だから」


「書けるはずない」


郁は静かに答えた。


「亡くなる前に」


「私へ託されました」


「家族へ届けてほしいと」


少女の肩が震える。


「……」


震える手で封筒を受け取る。


何度も見つめる。


裏返す。


表へ返す。


そこに書かれた文字。


『家族へ』


見慣れた字だった。


兄の字。


少女の瞳から涙が溢れる。


「……兄さん」


封筒を胸へ抱き締める。


郁は何も言わない。


ただ静かに待つ。


ルチアはゆっくり封を開けた。


便箋を取り出す。


震える指。


涙で滲む視界。


それでも。


兄の文字を見つめる。


「……」


郁はそっと後ろを向いた。


「ゆっくり」


「読んでください」


それだけ言って。


数歩離れる。


ルチアは便箋を両手で握り締める。


ゆっくりと。


最初の一行へ目を落とした。


そして――。


家族へ。


この手紙を読んでいる頃には、俺はもうこの世にはいないと思う。


まずはごめん。


きっと心配をかける。


悲しませる。


兄ちゃん失格だな。


父さん。


母さん。


ルチア。


本当にごめん。


――


もしこの手紙が家族に届いているなら。


届けてくれたのは郁っていう子だと思う。


とても優しい奴なんだ。


俺にできた。


初めての友達なんだ。


もし会えたら、ありがとうって言ってやってほしい。


あいつは約束を守るやつだから。


きっとここまで、この手紙を大事に持ってきてくれたと思う。


――


俺は。


ヴィンチェンティファミリーへ潜り込んだ。


最初は仕事だった。


裏切るためだった。


でも。


あそこはおかしかった。


マフィアなのに。


誰も仲間を道具みたいに扱わない。


ボスは笑ってるし。


マルコさんはうるさいし。


ノアさんは無口だし。


ヴィクトルさんは優しいし。


ルカさんは言葉少ないけどちゃんと見てる。


みんな、本当の家族みたいだった。


俺は。


そんなみんなを裏切るのが。


だんだん苦しくなっていった。


――


本当は。


生きる道もあった。


全部話して。


助けを求めることもできた。


でも。


そうしたら。


父さんや母さん。


ルチア。


みんなが狙われる。


それだけは嫌だった。


だから。


俺は自分で選んだ。


俺一人が死ねば。


家族は助かるって。


そう信じた。


――


もし。


俺の選択が間違っていたとしても。


後悔はしてない。


最後に。


友達ができた。


守りたいと思える人たちに出会えた。


俺は幸せだった。


――


父さん。


母さん。


そしてルチア。


お願いだから。


俺のために復讐なんて考えないでくれ。


誰かを憎み続けても。


幸せにはなれない。


だから。


ちゃんと笑って生きてほしい。


自分で考えて。


自分で選んで。


自分の人生を生きてほしい。


それが。


兄ちゃんの最後のお願いだ。


――


ルチア。


お前は昔から泣き虫だったな。


兄ちゃんがいないと何もできないって言ってた。


でも。


もう大丈夫だ。


お前は強い。


だから。


誰かの言葉だけを信じるんじゃない。


自分の目で見て。


自分の心で決めろ。


それだけは忘れるな。


――


最後に。


父さん。自分のせいだってせめないで。


母さん。


ルチア。


家族になってくれてありがとう。


俺は。


みんなの家族で幸せだった。


どうか。


みんなも幸せになってくれ。


それだけが。


俺の願いです。


         アレッシオ


――――――


これを見たルチアが固まる。


「……」


「……っ」


震える指で最後の名前をなぞる。


「アレッシオ……」


涙が一気に溢れる。


「お兄ちゃん……」


封筒を胸へ抱き締め、声を上げて泣く。


そして少し離れた場所。


郁はその様子を静かに見守っている。


しばらくしてレオンが隣へ来る。


郁は小さな声で尋ねる。


「……アレッシオ?」


レオンも手紙の最後を見る。


少しだけ微笑んで。


「ニコ・ロッシは偽名」


「潜入するための名前だった」


「本当の名前は」


「アレッシオ」


郁は手紙を見つめる。


「最後だけ」


「本当の名前を書いたんですね」


レオンは静かに頷く。


「ああ」


「家族には」


「本当の自分でいたかったんだろう」


――――――


声にならない嗚咽が地下へ響く。


郁は何も言えなかった。


自分も涙をこらえるので精一杯だった。


しばらく静かな時間が流れる。


やがて郁は、ゆっくりと手を差し出した。


「……行こう」


ルチアが涙で濡れた瞳を向ける。


「ニコのお墓へ」

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