第58話 共同作戦会議
政府庁舎。
何度も足を運んだ会議室だった。
警察。
政府。
そしてヴィンチェンティ・ファミリー。
ここ数か月、三者は幾度となく同じテーブルを囲み、情報を共有し続けてきた。
誘拐事件。
薬物の流通。
企業への脅迫。
人身売買。
大統領暗殺未遂。
一つずつ防ぎ、一人ずつ救ってきた。
それでも。
元凶だけは、まだ捕まっていない。
会議室には今までで一番重い空気が流れていた。
正面へ立った大統領が静かに口を開く。
「皆さん」
「ここまで本当にありがとうございました」
その言葉に、警察幹部も小さく頷く。
大統領はゆっくりとレオンを見る。
「レオン」
「ここまで本当にありがとう」
レオンは少しだけ微笑んだ。
「お礼は」
「全部終わってから聞きます」
一拍置く。
「まだ」
「やることがありますから」
大統領も穏やかに笑う。
「ああ」
「その通りだ」
警察長官が立ち上がり、スクリーンへ地図を映し出した。
「昨夜」
「ディ・ネーロ・ファミリー本部を特定しました」
会議室が静まり返る。
山間部にある巨大な倉庫群。
表向きは物流会社。
しかし地下には武器庫、薬物保管庫、監禁施設が存在している。
ルカがパソコンを操作する。
「監視カメラ」
「地下構造」
「逃走経路」
「全部」
「解析済み」
ヴィクトルが資料を広げる。
「警察は東側から制圧」
「政府部隊は北側」
「我々は西側より侵入します」
ノアが地図へ目を落とす。
「逃げ道」
レオンが静かに口を開いた。
「ある」
全員がレオンを見る。
「サルヴァトーレは」
「必ず逃げ道を用意する」
「追い詰められて終わる男じゃない」
マルコが頷く。
「確かにな」
レオンは赤い印を一つ指差した。
「ここ」
「地下水路」
「俺なら使う」
警察長官は驚いたように地図を見る。
「……我々の予測と一致しています」
レオンは静かに頷いた。
「だったら」
「ここにノア」
ノアも短く返す。
「ああ」
「逃がさない」
郁は資料を見つめていた。
監禁部屋。
檻。
地下牢。
その文字を見ただけで胸が締め付けられる。
レオンが郁へ視線を向けた。
「郁」
「はい」
「君は救助班」
「人命最優先」
郁は力強く頷いた。
「はい」
その返事を聞いた大統領は小さく笑う。
「君になら安心して任せられる」
郁は少し照れながら頭を下げた。
「ありがとうございます」
会議も終盤。
大統領は全員を見渡した。
「この作戦で」
「終わらせましょう」
静かな声だった。
しかし、その一言だけで十分だった。
誰一人、異論はない。
レオンはゆっくり立ち上がる。
「必ず」
「全員で帰ってきます」
その言葉に。
警察官も。
政府職員も。
幹部たちも。
全員が力強く頷いた。
――――――
会議室を出る。
長い廊下を並んで歩く。
マルコが大きく息を吐いた。
「いよいよだな」
ノアも静かに頷く。
「ああ」
ヴィクトルは資料を抱え直す。
「長い戦いになりました」
ルカは短く呟いた。
「終わる」
郁だけは少し緊張した表情をしていた。
その隣へレオンが並ぶ。
「緊張してる?」
郁は素直に頷く。
「……少しだけ」
レオンはいつものように笑った。
「大丈夫」
「君ならできる」
郁も少しだけ笑う。
「はい」
二人は歩き出す。
最後の戦いへ向かうために。
レオンは前を向いたまま、いつもの調子でぽつりと言う。
「あと」
郁が首を傾げる。
「はい?」
「今日も好き」
郁は思わず吹き出した。
「……こんな時まで言うんですか」
レオンは笑う。
「こんな時だから」
「毎日言うって決めてるからね」
郁は少しだけ照れながら笑った。
「……ありがとうございます」
その返事だけで十分だった。
二人は肩を並べ、静かに前へ歩き続けた。




