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マフィアのボスが私を男だと思っている。  作者: puni0023
第二章 ディ・ネーロ・ファミリー

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第51話 妹

早朝。


ディ・ネーロ・ファミリーの訓練場。


乾いた銃声が響く。


パンッ。


パンッ。


パンッ。


十四歳とは思えないほど正確な射撃。


最後の一発が的の中心を撃ち抜いた。


「よし」


教官が頷く。


「今日はここまでだ」


ルチアは静かに銃を下ろした。


汗を拭いながら、少し離れた場所を見る。


同じ年頃の訓練生が数人、笑い合いながら片付けをしていた。


先週まで、あの輪の中には自分もいた。


一人だけ歳の近い女の子と、少しずつ言葉を交わすようになっていた。


けれど。


先日、その子は急に別の拠点へ移された。


「才能があるから、特別な訓練を受けさせる」


そう聞かされた。


理由は、それだけだった。


ルチアは小さく息を吐き、道具を片付け始める。


――――――


幼い頃。


兄はいつも笑っていた。


『ルチア』


『また転んだのか』


泣いていた自分の頭を撫でてくれる。


優しい兄だった。


時々、顔や腕に傷を作って帰ってきた。


『仕事だからな』


そう笑っていた。


父の右目には大きな傷跡があった。


怖く感じるときもあった。


でも。


それが父だった。


母はいつも忙しそうだった。


料理をしながら。


洗濯をしながら。


笑っていた。


『ルチア』


『あなたは元気でいてね』


『それだけでいいから』


その言葉の意味を。


あの頃は理解できなかった。


兄も父も母も。


マフィアと関わる仕事をしていることは知っていた。


危険な仕事だということも。


でも。


それが普通だった。


それが家族だった。


ある日。


兄が仕事へ出た。


『行ってくる』


いつもの笑顔。


その背中を見送った。


――でも。


あの日だけ、少しだけ様子が違った気がする。


玄関で靴を履きながら、一瞬だけ振り返った兄の顔。


いつもの軽い笑顔とは、何かが違っていた。


寂しそうな。


それでいて、安堵したような。


うまく言葉にできない表情だった。


あれは、何だったのだろう。


何度考えても、答えは出なかった。


――帰ってこなかった。


しばらくして。


父と母も、仕事中の事故で亡くなったと聞かされた。


世界が止まった。


何も分からなかった。


泣き続けるしかなかった。


――――――


そんな時。


迎えに来てくれた人がいた。


サルヴァトーレだった。


大きな手が頭へ乗る。


『もう大丈夫だ』


『今日からは私がいる』


その手は温かかった。


泣き続けていたルチアは。


その時初めて安心して涙を流した。


今。


ルチアに帰る家はない。


家族もいない。


信じられる人も。


一人しかいない。


――――――


訓練場の入口。


サルヴァトーレが静かに立っていた。


「ボス」


ルチアは姿勢を正す。


サルヴァトーレは撃ち抜かれた的を見る。


「腕を上げたな」


その一言だけで、胸の奥が温かくなる。


友達がいなくなったことも、少しだけ気にならなくなる。


「ありがとうございます」


サルヴァトーレはゆっくり頷いた。


「もっと強くなれ」


その声は穏やかだった。


ルチアは真っ直ぐ頷く。


「はい」


サルヴァトーレは静かに続ける。


「お兄さんも」


「きっと喜ぶ」


ルチアは拳を握る。


強く。


強く。


「兄さんの仇を討ちます」


迷いはなかった。


サルヴァトーレは満足そうに微笑む。


「ああ」


「期待している」


ルチアも小さく笑う。


「はい」


今の自分があるのは。


ボスのおかげ。


家族を失った自分を。


救ってくれた人。


だから。


信じる。


兄を殺したのは。


レオン・ヴィンチェンティ。


ボスがそう聞かせてくれたのだから。


それが真実のはずだった。


ルチアは自分の左手首を、右手でそっと握った。


不安になった時、いつもそうする癖があった。


その手を強く握りしめ。


心の中の小さなざわめきを、静かに押し込めた。

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