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マフィアのボスが私を男だと思っている。  作者: puni0023
第二章 ディ・ネーロ・ファミリー

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第50話 始動

ディ・ネーロ・ファミリー本部。


サルヴァトーレは窓の外を眺めていた。


「始めろ」


その一言だけだった。


幹部たちは静かに頭を下げる。


「はい」


命令はそれだけ。


しかし、その日から街は少しずつ姿を変え始めた。


――――――


一週間後。


ヴィンチェンティ・ファミリー本部。


幹部会。


ヴィクトルが資料を机へ並べる。


「報告します」


「ここ一週間で」


「企業買収が四件」


「すべてディ・ネーロ側の息が掛かった会社です」


マルコが舌打ちする。


「早ぇな」


ヴィクトルは続ける。


「孤児院へ寄付していた企業も一社撤退しました」


レオンは静かに資料を見る。


「そう」


ノアも報告する。


「薬物」


「先月の二倍」


「若者への流通が増えてる」


ルカが画面を見せる。


「誘拐」


「十三件」


「未解決」


部屋が静まり返る。


――――――


数日後。


「ボス!」


部下が駆け込んでくる。


「子どもの誘拐です!」


「場所は!」


「東地区!」


「ノア!」


「行こう」


「はい」


――――――


しかし。


現場へ到着した時には。


もう誰もいなかった。


車だけが残されている。


地面には、片方だけの小さな靴が転がっていた。


ノアが辺りを確認する。


「遅い」


レオンは静かに息を吐いた。


「先回りされたね」


小さな靴を見つめたまま、しばらく誰も動けなかった。


――――――


また別の日。


企業との契約当日。


ヴィクトルが向かった先。


建物の前で、見覚えのない黒塗りの車とすれ違った。


嫌な予感がした。


社長室へ通されると、相手はどこか気まずそうに目を逸らした。


「……契約は」


「?」


「取られました」


「三十分前」


ちょうど、あの車に乗って出ていったところだったのだろう。


マルコが机を叩く。


「またか!」


――――――


翌日。


警察から情報が入る。


「薬物の摘発です!」


レオンが顔を上げる。


「ディ・ネーロ?」


「……いえ」


「空でした」


倉庫の床には、荷物が積まれていた跡だけが四角く残っていた。


埃の輪郭。


まだ新しい。


つい数時間前まで、確かにそこに何かがあった証拠だった。


「囮か」


ルカが呟く。


――――――


一週間。


二週間。


三週間。


何をしても。


一歩遅い。


何を守ろうとしても。


その前に動かれている。


――――――


夜。


幹部室。


資料の山。


誰も口を開かない。


マルコが資料の束を見つめたまま、ぽつりと呟いた。


「……なあ」


「これ。」


「またどこかから漏れてたりしねぇよな」


一瞬、空気が張り詰めた。


誰もが同じことを、一度は頭の隅で考えていた。


ノアが静かに首を振る。


「今のところ、内部に不審な動きはない」


「憶測で仲間を疑うのは、やめておけ」


その声には、かつての痛みが滲んでいた。


マルコも小さく頷く。


「……そうだよな」


「悪い」


レオンだけが静かにコーヒーを飲んでいた。


郁が心配そうに尋ねる。


「ボス」


「大丈夫ですか」


レオンは苦笑した。


「うん」


「でも」


「これはきついね」


郁が少し驚く。


レオンが弱音を吐くのは珍しかった。


「全部」


「先回りされる」


資料を見つめる。


「さすがだね」


「頭が切れる」


その言葉には敵への敬意すらあった。


マルコが悔しそうに拳を握る。


「このままじゃ……」


レオンは静かに首を横へ振る。


「焦らない」


全員が顔を上げる。


「相手は」


「俺たちより長く」


「この世界で生きてきた」


「経験では敵わない」


「だから」


優しく笑う。


「俺たちは」


「俺たちのやり方で勝とう」


ノアが頷く。


「ああ」


ヴィクトルも微笑む。


「まだ終わっていません」


ルカは短く。


「探す」


マルコが笑う。


「そのための幹部だ」


郁も静かに頷いた。


「はい」


レオンは立ち上がる。


「負けないよ」


「必ず」


その笑顔だけは。


どんな状況でも変わらなかった。


――――――


同じ頃。


ディ・ネーロ・ファミリー本部。


幹部が報告する。


「ヴィンチェンティは」


「耐えています」


サルヴァトーレは笑った。


「そうだろう」


「レオンは」


「優秀だからな」


幹部が驚く。


「潰さないのですか」


サルヴァトーレは窓の外を眺める。


「慌てるな」


一拍置く。


「猫は」


「獲物をすぐには食わん」


「弱らせてからだ」


その笑みだけが。


暗い部屋の中で静かに浮かんでいた。

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