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マフィアのボスが私を男だと思っている。  作者: puni0023
第一章 ヴィンチェンティ・ファミリー

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第40話 自覚

マルコがグラスを揺らしながら笑う。


「そういやさ」


「レオンは酒弱いから飲まねぇんだよ」


郁はレオンを見る。


「あ、だからこの前もコーヒーだったんですね」


レオンは苦笑した。


「うん」


「判断が鈍るのが苦手でね」


「好きじゃないんだ」


「なるほど」


郁は素直に頷く。


するとマルコが思い出したように口を開いた。


「そういや郁」


「未成年って言ってたけどさ」


「この国じゃ十八歳から飲めるぞ?」


「郁の国は二十歳からだったんだな」


「そうですね」


郁は少し考える。


「……じゃあ」


「今日はちょっとだけ」


ヴィクトルが微笑んだ。


「では最初ですし」


「飲みやすいものを」


グラスへ赤ワインが少しだけ注がれる。


ルカは何も言わず、隣へ水のグラスを置いた。


「……これも」


郁は嬉しそうに笑う。


「ありがとうございます」


恐る恐るグラスを口へ運ぶ。


一口。


二口。


目を丸くした。


「あ……」


「おいしい」


「思ってたより飲みやすいですね」


ノアが静かに言う。


「少しずつ飲め」


「はい」


郁は嬉しそうに頷いた。


――――――


十分後。


マルコが郁を見る。


「……赤い」


郁の頬はほんのり桜色になっていた。


「そうですか?」


本人は気付いていない。


さらに少し飲む。


一杯飲み終える頃には。


目元がとろんとしていた。


「郁」


レオンが少し心配そうに声を掛ける。


「大丈夫?」


「はい……」


返事はする。


でも少し眠そうだ。


そして。


郁はぽつりと呟いた。


「……私」


全員が郁を見る。


「ここにいて」


「いいんですね」


少しだけ涙ぐんでいる。


「皆さんが」


「家族みたいで」


「嬉しくて……」


ぽろり。


一粒、涙がこぼれた。


部屋が静かになる。


ヴィクトルが優しくグラスを取った。


「今日はここまでです」


「これ以上は飲ませられません」


「えぇ……」


「まだ……」


「だめです」


郁は少しだけ唇を尖らせる。


「はぁい……」


返事をした次の瞬間。


そのまま机へこてん、と伏せた。


「……寝た」


マルコが笑う。


「早っ!」


ノアも小さく頷く。


「弱いな」


ルカも静かに頷いた。


「……うん」


――――――


レオンは立ち上がる。


「俺」


「送って帰るよ」


「みんなは続けて」


マルコが笑う。


「頼んだ!」


――――――


レオンは郁をそっと抱き上げる。


「軽いな」


起こさないようにゆっくり歩き。


助手席へ寝かせる。


シートベルトを締める。


郁は小さく寝息を立てていた。


――――――


夜道を走る。


車内は静かだった。


信号待ちでふと横を見る。


郁は安心しきった表情で眠っている。


その顔を見て。


レオンは自然と笑っていた。


「……」


その笑みに、自分で気付く。


(あれ)


(俺)


胸の奥が少しだけくすぐったい。


理由は分からない。


でも。


(……可愛い)


その一言が頭に浮かぶ。


レオンは思わず前を向いた。


「……危ないな」


小さく笑う。


何が危ないのか。


自分でも分からなかった。


――――――


屋敷へ着く。


郁を起こさないように抱き上げる。


部屋へ運び。


ベッドへゆっくり寝かせた。


毛布を掛ける。


「おやすみ」


帰ろうとした、その時。


「……」


服の裾が引っ張られた。


郁だった。


眠ったまま。


レオンのシャツをぎゅっと握っている。


「……」


離そうとしても。


小さな手は離れない。


「……困ったな」


そう言いながらも。


レオンの口元は少し緩んでいた。


眠る郁を見つめる。


胸がまた少しだけ温かくなる。


(……可愛い)


さっきと同じ言葉が浮かぶ。


その瞬間。


ようやく気付いた。


この気持ちは。


部下としてだけではない。


「……」


レオンは小さく息をつく。


「危ない、危ない」


誰に言うでもなく呟く。


そして。


起こさないように、そっと前髪を撫でる。


ほんの一瞬だけためらい――


優しく額へ口づけを落とした。


「おやすみ、郁」


眠る郁は気付かない。


レオンは静かに手をほどき。


音を立てないよう扉を閉めた。


廊下へ出ると、小さく苦笑する。


「……参ったな」


今まで一度も感じたことのない想いが。


静かに胸の中で芽生え始めていた。

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