第38話 秘密の準備
夕方。
幹部会議室。
郁が仕事を終えて部屋を出ていく。
「失礼します」
パタン。
扉が閉まる。
数秒。
静寂。
マルコがにやっと笑った。
「よし」
「始めるか」
レオンも笑う。
「うん」
「誕生日会の準備」
ヴィクトルが手帳を開く。
「会場は前回と同じお店でよろしいでしょうか」
「うん」
「貸し切りでお願い」
ルカ。
「飾り」
「俺やる」
「ありがとう」
ノア。
「ケーキ」
「頼んでおく」
「お願い」
マルコが腕を組む。
「プレゼントどうする?」
その瞬間。
レオンが机の引き出しを開けた。
「もう用意してあるよ」
「……」
全員の視線が集まる。
小さな黒い箱。
レオンは静かに開けた。
中には。
銀色に輝く小さなピアス。
シンプルなデザイン。
中央には、このファミリーを象徴する紋章が刻まれている。
マルコが目を丸くした。
「おぉ」
「それ……」
ヴィクトルも少し驚く。
「幹部の」
「ええ」
レオンは頷いた。
「みんなと同じ」
「色違い」
ルカが自分の耳に触れる。
右耳には、同じ形のピアス。
ノアも。
ヴィクトルも。
マルコも。
全員が色違いで身につけている。
「幹部の証」
レオンは優しく笑った。
「郁にも」
「持っていてほしい」
マルコは嬉しそうに笑う。
「絶対喜ぶじゃん!」
その瞬間。
何かを思い出した。
「あ」
「でも」
「郁」
「ピアス開いてなくね?」
一瞬。
部屋が静かになる。
全員がレオンを見る。
レオンは数秒考えたあと。
にこりと笑った。
「開ける」
「…………」
マルコ。
「え?」
レオンは楽しそうに続ける。
「病院でも確認したけど」
「耳はきれいだった」
「だから」
「開けよう」
満面の笑み。
ヴィクトルが思わず吹き出した。
「ふふっ……」
ルカも口元を押さえている。
「……」
「ボス」
「楽しそう」
ノアは額へ手を当てた。
「……」
マルコは笑いを堪えきれない。
「ボス」
「るんるんじゃねぇか」
「そう?」
レオンは本気で分かっていない。
「うん」
「郁が喜ぶかなって」
「それしか考えてない」
嬉しそうにピアスを見つめる。
その姿を見て。
四人はまた顔を見合わせた。
ヴィクトルが小さく咳払いをする。
「……」
「これは」
マルコも頷く。
「だな」
ルカ。
「うん」
ノアは静かにコーヒーを飲み、一言だけ。
「無自覚」
「?」
レオンは首を傾げる。
「何が?」
誰も答えない。
マルコが笑いながら話を戻す。
「まあいい!」
「当日はサプライズ成功させようぜ!」
「うん」
レオンは嬉しそうにピアスの箱を閉じた。
「絶対」
「喜んでくれる」
その笑顔は。
誰よりも楽しみにしている人の笑顔だった。
四人はもう一度だけ顔を見合わせる。
(……)
(ボス)
(気付いてないの、あなただけですよ)
その言葉は、誰も口にはしなかった。




