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マフィアのボスが私を男だと思っている。  作者: puni0023
第一章 ヴィンチェンティ・ファミリー

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第35話 就任祝い

翌日。


郁はいつも通り朝六時に起きた。


食堂で軽く朝食を済ませると、そのまま訓練場へ向かう。


「構え」


ノアの低い声が響く。


「はい」


銃を構える。


呼吸。


重心。


引き金。


パンッ。


標的の中心へ穴が開く。


ノアは静かに頷いた。


「悪くない」


「ありがとうございます」


午前中は体術。


午後は事務仕事。


ヴィクトルの書類を手伝い、ルカと情報整理を終えた頃には、夕日が窓を赤く染めていた。


ちょうど仕事を終えたその時。


「郁!」


勢いよく扉が開く。


マルコだった。


「行くぞ!」


「え?」


「就任パーティー!」


「あっ」


一日中、仕事に集中していて、時間になっていたことに気づいていなかった。


「そうでした」


マルコは額へ手を当てる。


「忘れてたのかよ!」


「忘れていたわけではなく」


「気づいていなかっただけです」


「お前らしいな」


マルコは思わず笑った。


――――――


車で十五分。


着いたのは街外れの落ち着いたレストランだった。


個室。


しかも貸し切り。


ヴィクトルが部屋を見回す。


「素敵なお店ですね」


マルコは胸を張る。


「だろ?」


「ここ料理めちゃくちゃ美味いんだ」


ルカはメニューを見た瞬間。


「……肉」


マルコは笑う。


「安心しろ」


「ある!」


全員が席へ着く。


マルコはグラスを持ち上げた。


「それじゃ!」


「郁!」


「幹部就任おめでとう!」


「乾杯!!」


「乾杯」


グラスが軽く鳴る。


その時。


マルコがレオンを見る。


「あれ」


「レオンは今日もノンアル?」


「うん」


「車だから」


自然な会話。


郁だけが少しきょとんとしていた。


「……?」


レオンが気付く。


「どうした?」


「皆さん……」


「ボスのこと」


「名前で呼ぶんですね」


一瞬静かになる。


マルコが笑った。


「あー」


「仕事以外は名前なんだ」


レオンも頷く。


「プライベートくらい上下関係なしにしたくてね」


郁は感心したように頷く。


「なるほど……」


レオンは笑う。


「郁も」


「レオンでいいよ」


「……」


郁は固まる。


「呼べません」


即答だった。


全員吹き出す。


レオンも苦笑する。


「まあ」


「そのうちね」


――――――


店員が注文を取りに来る。


マルコが勝手にまとめ始めた。


「俺ビール!」


「ヴィクトル?」


「赤ワインを」


「ルカ?」


「ビール」


「ノア」


「同じ」


「レオン?」


「コーヒー」


「はい」


店員が郁を見る。


「お客様は?」


「私も」


「コーヒーで」


マルコが首を傾げる。


「酒飲めないの?」


郁はさらっと答えた。


「未成年なんで」


「…………」


一瞬。


空気が止まる。


「え?」


レオンが聞き返す。


「何歳?」


「十九です」


「…………」


再び沈黙。


ルカがぽつり。


「……だいぶ下」


「同い年くらいだと思ってた」


郁は逆に驚く。


「皆さんはおいくつなんですか?」


ルカ。


「二十四」


ヴィクトル。


「三十一です」


ノア。


「二十九」


マルコ。


「二十七」


最後にレオン。


「二十六」


郁は目を丸くする。


「皆さん」


「大人ですね」


マルコが笑う。


「いや」


「郁が若すぎる」


レオンが腕を組み、じっと郁を見る。


そして。


にっこり笑った。


「ねぇ」


「郁」


「まだまだ隠してることありそうだね?」


その笑顔が妙に怖い。


郁は思わず姿勢を正す。


「え?」


マルコがニヤリと笑う。


「尋問開始!」


ヴィクトルも楽しそうに笑う。


「いいですね」


ルカまで頷く。


「聞こう」


郁。


「えぇ……」


マルコが真っ先に手を挙げた。


「誕生日!」


「四月十二日です」


ノアが少し考える。


「……二週間後じゃねぇか」


「……あ」


郁はぽかんとする。


「そうでした」


全員。


「「「忘れてたの!?」」」


マルコが頭を抱えた。


「こいつ天然だ!!」


レオンは笑いを堪えながら言う。


「はい」


「じゃあ次」


「好きな食べ物は?」


「本屋さん」


「食べ物!」


「あ」


「間違えました」


「…………」


一拍置いて。


全員が吹き出した。


「はははははっ!!」


レオンは笑いながら目尻を拭う。


「郁」


「面白いね」


郁は顔を真っ赤にして俯く。


「緊張してるんです……」


マルコは笑いすぎて机を叩いていた。


「最高だ!」


「郁!」


「幹部になってもそのままでいてくれ!」


個室には久しぶりに、大きな笑い声が響いていた。


――――――


食事を終え、店の前。


夜風が心地よく吹いていた。


レオンが郁を見る。


「郁」


「今日はありがとう」


「先に車に乗って待っててもらっていい?」


「はい」


郁は素直に頷き、少し離れた車へ向かって歩いていく。


その背中を全員が見送る。


郁の姿が見えなくなった瞬間。


マルコが勢いよく振り返った。


「やるぞ」


ヴィクトルが眼鏡を押し上げる。


「ええ」


ルカは短く頷いた。


「サプライズ」


ノアも腕を組んだまま一言。


「賛成」


レオンはみんなの顔を見渡し、思わず笑った。


「満場一致だね」


マルコは拳を握る。


「よっしゃ!」


「盛大な誕生日にしてやる!」


ヴィクトルが苦笑する。


レオンはそのやり取りを見ながら、どこか嬉しそうに微笑んだ。


「郁」


「驚くだろうね」


その笑顔を見て、マルコがにやにやする。


「ボス」


「楽しみにしすぎじゃね?」


レオンはきょとんとする。


「そう?」


ノアが小さく息を吐く。


「……また始まった」


「?」


レオンだけが、不思議そうに首を傾げていた。

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