↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マフィアのボスが私を男だと思っている。  作者: puni0023
第一章 ヴィンチェンティ・ファミリー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/77

第31話 新しい役目

病室には午後の柔らかな日差しが差し込んでいた。


レオンは空になったコーヒーカップを机へ置く。


郁も少しずつ顔色が戻り始めていた。


静かな時間が流れる。


やがてレオンが口を開いた。


「郁」


「一つ、お願いがある」


郁は首を傾げる。


「お願い、ですか?」


「うん」


レオンは少しだけ笑った。


「君に」


「幹部になってほしい」


病室が静まり返る。


郁は目を丸くした。


「……私がですか?」


「うん」


「前から考えてた」


「今回の件があったから決めたわけじゃない」


レオンは穏やかな声で続ける。


「もちろん」


「今回、俺を守ってくれたことも理由の一つではある」


「でも」


「それだけじゃない」


郁は黙って聞いている。


「仕事は正確」


「覚えるのも早い」


「誰かが困っていたら自然に手を貸せる」


「そして」


「君は、人を支えるのがとても上手だ」


郁は少し照れたように笑う。


「そんなこと……」


「あるよ」


レオンは即座に返した。


「ヴィクトルの仕事も」


「ルカの仕事も」


「マルコの仕事も」


「ノアの訓練も」


「気付いたら、いつも君が支えてた」


「誰かの足りないところを」


「自然に埋められる」


一拍置く。


「それは才能だよ」


郁は目を伏せた。


そんな風に考えたことは、一度もなかった。


レオンは優しく笑う。


「特別な役職を任せるつもりはない」


「今までと同じでいい」


「みんなを支えてほしい」


「それだけ」


静かな声だった。


「もう」


「君は」


「このファミリーに、なくてはならない存在だから」


その言葉に。


郁の胸が熱くなる。


「……」


返事ができない。


嬉しい。


でも。


怖い。


自分に務まるのか。


本当にいいのか。


長い沈黙が流れた。


レオンは急かさなかった。


ただ待つ。


郁はゆっくり息を吸う。


覚悟を決めるように。


レオンを真っ直ぐ見つめた。


「……はい」


その声は小さかった。


でも。


迷いはなかった。


「よろしくお願いします」


不意に、あの日の記憶がよぎった。


重厚な扉が閉ざされた執務室。


初めて名乗ったレオンの声。


「このファミリーには俺以外に四人の幹部がいる」


あの時はただ、生きるために必死だった。


今、その五人目に、自分がなる。


レオンは安心したように微笑む。


「ありがとう」


「みんな喜ぶよ」


郁は驚く。


「みんな?」


「うん」


レオンは悪戯っぽく笑った。


「実は」


「幹部会ではもう話してある」


「全員一致だった」


「えぇっ!?」


郁は思わず声を上げる。


レオンは肩をすくめた。


「反対は一人もいなかった」


「ヴィクトルも」


「ルカも」


「マルコも」


「ノアも」


「みんな」


「郁なら大丈夫だって」


郁は思わず俯く。


目頭が熱くなった。


「……ありがとうございます」


「だから」


レオンは立ち上がる。


「退院したら」


「みんなにも直接伝えよう」


「それから」


「就任祝いもしよう」


「え?」


郁はきょとんとする。


「就任祝い、ですか?」


「うん」


「せっかくだからね」


「美味しいご飯でも食べよう」


「マルコさんが張り切りそうですね」


郁が笑う。


レオンも笑った。


「間違いない」


二人は顔を見合わせ、小さく笑い合う。


それは久しぶりの穏やかな時間だった。


レオンは荷物を持って立ち上がる。


「それじゃ」


「今日は帰るね」


「退院までは」


「ゆっくり休むのが仕事」


「はい」


「みんな来たがってるけど」


「たくさん来ると郁も休めないだろうから」


「ノアだけ顔を出すように言っておく」


「ノアさんだけですか?」


「うん」


「たぶん」


「何も喋らないと思うけど」


二人で少し笑う。


レオンは病室のドアへ向かう。


ふと思い出したように振り返る。


「そうだ」


「何か欲しいものある?」


郁は少し考える。


そして照れくさそうに笑った。


「……本が」


レオンは吹き出した。


「郁らしいね」


「どんな本?」


「歴史でも」


「医学でも」


「小説でも」


「なんでも嬉しいです」


レオンは頷いた。


「分かった」


「ノアに持たせるよ」


「ありがとうございます」


レオンはドアノブへ手を掛ける。


振り返り。


いつもの穏やかな笑顔で言った。


「帰ってくるの」


「みんな待ってる」


その一言だけだった。


けれど。


郁の胸は温かく満たされていく。


「……はい」


レオンは静かに病室を後にした。


閉まる扉を見つめながら、郁は小さく呟く。


「帰る場所……か」


その言葉には、もう迷いはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。