第26話 幹部会議
ニコの一件から、二週間が過ぎた。
屋敷には少しずつ、以前の日常が戻り始めていた。
それでも、誰もニコのことを忘れたわけではない。
夕方。
幹部だけが集められた会議室。
レオンが静かに口を開く。
「今日は一つ、相談がある」
ヴィクトルが手元の資料を閉じる。
マルコは椅子へ深く座り直した。
ルカもパソコンから顔を上げる。
ノアは腕を組んだまま静かに聞いていた。
「郁のことなんだけど」
その一言で、全員の視線がレオンへ集まる。
「俺は」
「郁を幹部へ昇格させようと思ってる」
一瞬だけ静寂が流れる。
最初に口を開いたのはヴィクトルだった。
「私は賛成です」
即答だった。
「財務書類は正確ですし、確認も怠りません」
「仕事を任せていて、一度も不安を感じたことはありません」
レオンは小さく頷く。
次にマルコが笑う。
「俺も賛成」
「チェスも俺より強ぇし」
ヴィクトルがため息をつく。
「そこですか」
「いやいや」
マルコは笑いながら手を振る。
「仕事もできるって」
「初任務でタイヤ一発だったし」
「度胸もある」
「あと俺の部屋掃除してくれる」
「最高」
「最後のは評価対象ではありません」
部屋に小さな笑いが広がる。
重かった空気が少しだけ和らいだ。
ルカが静かに口を開く。
「……仕事が早い」
「覚えるのも」
「説明も一回で足りる」
「PCも問題ない」
「……困ったことがない」
短い言葉だった。
それでも十分だった。
レオンは最後にノアを見る。
「ノアは?」
ノアは少しだけ考えたあと答えた。
「訓練は問題ない」
「努力を怠らない」
「教えたことは必ず身につける」
一拍置く。
「それと」
「今回の件」
部屋が静かになる。
「情報漏洩に最初に気付いた」
「誰かを疑いたかったわけじゃない」
「仲間を守るために調べた」
「そこは評価するべきだ」
マルコも真剣な顔になる。
「たしかにな」
ヴィクトルも頷く。
「あそこまで冷静に状況を整理できる人は多くありません」
ルカがぽつりと言う。
「……感情で動かない」
「でも」
「仲間のためには泣ける」
「幹部向き」
レオンは静かに笑った。
「みんな同じ意見みたいだね」
誰も反対しない。
その空気を確認してから、レオンは椅子へ深く座り直した。
「じゃあ」
「もう少し様子を見て」
「本人にも話そうと思う」
ノアが頷く。
「焦る必要はない」
「本人も、まだニコの件を完全には乗り越えられていない」
「今伝えるより」
「少し落ち着いてからの方がいい」
「そうだね」
レオンも穏やかに頷いた。
「それまでに」
「郁がどこまで成長するか」
「もう少し見守ろう」
会議は静かに終わった。
その頃。
郁は何も知らず、一人で訓練場に立っていた。
夕焼けの中。
ノアに教わった構えを思い出しながら、黙々と型を繰り返している。
その姿を、会議室の窓からレオンは静かに見つめていた。
「……楽しみだね」
小さく呟く。
その言葉は誰にも聞こえなかった。




