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マフィアのボスが私を男だと思っている。  作者: puni0023
第一章 ヴィンチェンティ・ファミリー

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第23話 告白

会議室の扉が静かに閉まる。


部屋には重い沈黙が流れていた。


長机を囲むように、幹部たちが座っている。


レオン。


ノア。


ヴィクトル。


マルコ。


ルカ。


そして郁。


最後に、ニコが部屋へ入ってきた。


「……」


部屋の空気を感じ取ったのか、ニコは少しだけ目を伏せた。


いつもの笑顔はない。


ゆっくりと椅子へ腰を下ろす。


レオンはしばらく何も言わなかった。


ニコを静かに見つめる。


その表情は悲しそうだった。


「……ニコ」


静かな声が響く。


「どうして呼ばれたか分かる?」


ニコは小さく笑う。


「……うん」


「分かる」


短い返事だった。


レオンは一度目を閉じ、小さく息を吐く。


「俺は」


「お前を信じたい」


部屋が静まり返る。


「だから」


「嘘だけはつかないで」


その言葉に。


ニコは力なく笑った。


「……」


「ずりぃなぁ」


その笑顔は、どこか泣きそうだった。


レオンはまっすぐニコを見つめる。


「情報を漏らしていたのは」


「ニコで間違いない?」


ニコは数秒黙っていた。


そして、静かに頷く。


「……間違いない」


その一言だけで。


郁は思わず目を閉じた。


(やっぱり……)


信じたくなかった。


でも。


自分の予感は当たってしまった。


マルコも俯く。


ヴィクトルは眼鏡を外し、小さく目を閉じた。


ルカだけが静かにニコを見つめている。


レオンは問い掛ける。


「理由はある?」


ニコは笑う。


どこか諦めたような笑顔だった。


「ないよ」


「俺は敵だ」


部屋の空気が止まる。


「最初から」


「ヴィンチェンティに潜り込むために来た」


「ただ、それだけ」


「……」


マルコが思わず立ち上がる。


「おい……」


「何言ってんだよ」


「冗談だろ……?」


ニコは首を横へ振る。


「冗談じゃない」


「俺は」


一度息を吸う。


「ディ・ネーロ・ファミリーの人間だ」


「!!」


部屋中に衝撃が走った。


ヴィクトルが息を呑む。


「ディ・ネーロ……」


ルカの表情もわずかに変わる。


マルコは信じられないというように首を振った。


「嘘だろ……」


ディ・ネーロ。


ヴィンチェンティと長年敵対してきた、この街最大のマフィア。


恐怖で支配し、裏切りには容赦しない。


まさに“マフィア”と呼ばれる組織だった。


そして。


先代のボスと、その幹部たちの命を奪った組織でもある。


レオンが十九歳でボスの座に就くことになった、あの日の。


マルコの手が、机の上で固く握られた。


古参の彼にとって、その名は忘れようのない名前だった。


ノアも、腕を組んだまま微動だにしない。


けれど、その視線の奥だけが、静かに揺れていた。


郁だけが、その名の意味を知らないまま、この場の空気の変化を肌で感じ取っていた。


(何か……ただの敵対組織、というだけじゃない)


レオンだけは、表向き動じなかった。


静かにニコを見つめる。


その双眸の奥を、ほんの一瞬だけ昏い色がよぎった。


父と、共に育ての親のような幹部たちを奪った組織の名前。


この部屋の誰よりも、その名の重さを知っている。


それでも。


レオンは静かに息を吐き、その色を胸の奥へしまい込んだ。


「……本当に?」


「本当」


ニコは即座に答える。


「俺は敵だ」


「最初から」


「潜入するためだけにここへ来た」


その言葉を聞いても。


レオンは首を横へ振った。


「違う」


ニコが少しだけ眉を動かす。


「そんな顔で」


「そんなことを言う人じゃない」


「……」


「俺は」


「半年間」


「お前を見てきた」


「後輩の面倒を見て」


「仲間を笑わせて」


「誰かが困っていれば、一番最初に手を貸す」


「そんなお前が」


「理由もなく裏切るなんて」


「俺は信じられない」


ニコは黙ったまま俯く。


拳が小さく震えていた。


「だから」


レオンの声は優しかった。


「話して」


「理由があるなら」


「俺たちは、お前を助けたい」


その瞬間。


ニコの瞼がぴくりと震えた。


ほんの一瞬だけ。


泣きそうな顔になる。


けれど。


すぐに笑った。


「……買いかぶりすぎ」


「理由なんてない」


「俺は敵」


「それだけ」


そう言って顔を上げる。


笑っている。


なのに。


その笑顔は、今にも壊れてしまいそうだった。


――――――


――その頃。


ニコの頭の中では、別の景色が広がっていた。


怒号の飛び交う屋敷。


幼い自分。


父。


母。


妹。


血の匂い。


銃声。


泣き声。


『マフィアの子は、マフィアだ』


そう言われて育った日々。


父が片目を失い、家族が死の恐怖に震えたあの日。


『ヴィンチェンティへ潜れ』


『情報を流せ』


『さもなくば、家族は全員殺す』


震える母。


何も言えない父。


その場にはいない何も知らない妹。


そして。


ヴィンチェンティで過ごした日々。


マルコの笑顔。


ヴィクトルの小言。


ルカの不器用な優しさ。


ノアの厳しさ。


レオンの笑顔。


郁のまっすぐな瞳。


――ここで生まれたかったな。


あの日、思わず零れた本音。


もう。


裏切り続けることに疲れていた。


だから少しずつ。


少しずつ。


わざと小さな綻びを作った。


きっと。


郁なら気付いてくれる。


そんな期待を、心のどこかで抱いていた。


現実へ戻る。


ニコは笑う。


「だから」


「もういい」


「俺は敵だ」


それ以上、何も語ろうとはしなかった。


レオンは静かに目を閉じる。


部屋には、誰一人として言葉を発する者はいなかった。

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