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マフィアのボスが私を男だと思っている。  作者: puni0023
第一章 ヴィンチェンティ・ファミリー

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第19話 パーティー

ヴィンチェンティ・ファミリー創設二百周年。


その日は朝から屋敷中が慌ただしかった。


普段は静かな廊下も、使用人や部下たちが忙しく行き交っている。


「郁」


ヴィクトルが声を掛ける。


「今日はお客様が大勢いらっしゃいます」


「受付やご案内をお願いできますか?」


「はい」


「お任せください」


郁は深く頭を下げた。


――――――


夕方。


広間には豪華な料理が並び、シャンデリアの灯りが会場を照らしていた。


各地の企業経営者。


政治家。


取引先。


そして、いくつものファミリーの幹部たち。


郁は飲み物を運びながら、その光景に目を丸くする。


(こんなに……)


(たくさんの人が)


(マフィアのパーティーなのに)


想像していたものとはまるで違う。


笑い声が響き、穏やかな空気が流れていた。


「あら」


聞き覚えのある声がした。


「郁じゃない」


振り向くと、赤いドレスを身にまとったソフィアが立っていた。


「ソフィアさん」


郁は笑顔で頭を下げる。


「お久しぶりです」


「元気そうね」


「はい」


ソフィアは郁を見ると微笑んだ。


「少し見ない間に顔つきが変わったわ」


「いい顔してる」


郁は少し照れくさそうに笑う。


「ありがとうございます」


そこへマルコが現れる。


「ソフィア」


「今日も綺麗」


「ありがと」


ソフィアは肩をすくめる。


「でも口説いても無駄よ?」


「知ってる」


「毎回言われる」


二人のやり取りに郁は思わず笑ってしまう。


しばらくして。


ヴィクトルが静かにグラスを掲げた。


「皆様」


「ボスより、ご挨拶がございます」


広間が静まり返る。


レオンが壇上へ上がった。


穏やかな笑顔。


グラスを片手に会場を見渡す。


「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」


自然と拍手が起こる。


「ヴィンチェンティ・ファミリーは、おかげさまで創設二百周年を迎えることができました」


「これも皆さんのお力添えがあってこそです」


再び拍手。


レオンは柔らかく微笑む。


「……でも」


その一言で、空気が少し変わった。


「時代は変わりました」


会場が静かになる。


「昔のように、力だけで支配する時代ではありません」


「恐怖だけで人を従わせる時代でもありません」


郁は思わずレオンを見つめる。


「マフィアも」


「変わらなければ、生き残れない」


誰も口を開かない。


レオンはゆっくりと言葉を続けた。


「俺は、この街を壊したいわけじゃありません」


「守りたいんです」


その声は穏やかだった。


けれど、誰よりも強かった。


「企業と手を取り合い」


「地域を支え」


「孤児院を守り」


「仕事を生み」


「人を育てる」


「そんな組織でありたいと思っています」


郁の脳裏に、孤児院で笑っていたルカの姿が浮かぶ。


市場でパンを渡していたマルコの姿も。


(だから……)


(みんな、あんなに優しかったんだ)


レオンは最後に微笑んだ。


「恐怖で従わせる組織は、長く続きません」


「信頼で繋がる組織を作りたい」


「それが、俺の理想です」


一瞬の静寂。


そして会場は大きな拍手に包まれた。


「ボス」


マルコが拍手しながら笑う。


「今日は真面目モードだったな」


レオンは照れくさそうに笑う。


「たまにはね」


その一言に、会場から笑いが起こる。


張り詰めていた空気がふっと和らいだ。


その拍手の輪から、少し離れた壁際。


華やかな装いの招待客たちの中で、そこだけ地味な仕立ての男が二人、拍手もせずに立っていた。


一人が小さく鼻で笑う。


「甘いな」


「レオン」


「そんな理想論で、この世界を生き残れると思うか」


隣にいた男も静かに頷く。


「いずれ綻びが出る」


二人はグラスを置くと、その場を後にした。


郁はその会話までは聞こえなかった。


パーティーが終わり、人々が帰り始める。


郁は片付けを終え、庭へ出た。


そこには一人で夜風に当たるレオンの姿があった。


「ボス」


「ん?」


レオンが振り返る。


「今日のお話……」


「とても素敵でした」


レオンは少しだけ照れたように笑う。


「ありがとう」


そして夜空を見上げる。


「でもね」


「一人じゃ、何も変えられない」


郁は静かに耳を傾ける。


「だから」


「みんなの力を借りるんだ」


「ノアも」


「ヴィクトルも」


「マルコも」


「ルカも」


「ニコも」


「そして郁も」


レオンは優しく微笑んだ。


「一人ひとりが、このファミリーには必要なんだよ」


郁は胸が熱くなるのを感じた。


「……はい」


強く頷く。


夜空には満天の星が輝いていた。


その光は、まるでヴィンチェンティ・ファミリーの未来を照らしているようだった。

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