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マフィアのボスが私を男だと思っている。  作者: puni0023
第一章 ヴィンチェンティ・ファミリー

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第17話 いつもの笑顔

休日が明け、いつもの日常が戻ってきた。


朝の訓練。


朝食。


幹部の仕事。


変わらない毎日。


けれど、その日だけは少し違った。


「ニコ!」


ノアの部下の一人が食堂へ入ってきた。


「今日寝坊してただろ!」


「珍しいじゃん!」


ニコは頭をかきながら笑う。


「あー、昨日ちょっと夜更かし!」


「あそびすぎた!」


「またかよ!」


食堂に笑いが起きる。


郁もつられて笑った。


でも。


(……)


何となく。


いつもの笑顔と少し違う気がした。


――――――


午前中の仕事中。


「ニコ」


ノアが静かに声を掛ける。


「資料」


「あ」


「すみません!」


「今やります!」


ニコは慌てて資料を受け取る。


そんな姿も珍しかった。


(疲れてるのかな)


郁はそう思った。


――――――


昼食。


ニコは珍しく静かだった。


「どうした?」


マルコが笑う。


「腹減ってねぇの?」


「そんなことないって!」


ニコは慌てて笑顔を作る。


「ほら!」


「食う食う!」


そう言って笑う。


でも。


どこか無理をしているようにも見えた。


――――――


夕方。


仕事を終えた帰り道。


郁は思い切って聞いてみる。


「ニコ」


「ん?」


「疲れてる?」


ニコは少し驚いたような顔をした。


「え?」


「そんな風に見えた?」


「少しだけ」


ニコは照れくさそうに笑う。


「寝不足かな」


「ちょっと最近眠れなくてさ」


「でも大丈夫!」


「心配すんな!」


そう言って、いつものように笑う。


郁も笑って頷いた。


「無理しないでね」


「ありがとな!」


ニコは親指を立てた。


その笑顔は、いつも通りだった。


だから郁は、それ以上聞かなかった。


――――――


その夜。


部屋には郁の寝息だけが静かに響いていた。


訓練の疲れもあってか、郁はベッドへ入るとすぐに眠ってしまった。


「……」


ニコは隣のベッドへ腰を下ろす。


眠る郁を見て、小さく笑った。


「寝るの早いな」


聞こえないほど小さな声だった。


ゆっくりと机へ向かう。


引き出しを開けると、一枚の古びた家族写真を取り出した。


幼い頃の自分。


父。


母。


妹。


四人が肩を寄せ合って笑っている。


ニコは何も言わず、その写真をしばらく見つめていた。


やがて写真を机へ置き、今度は白い便箋を取り出す。


ペンを握る。


少しだけ手が止まる。


それでも静かに書き始めた。


部屋には、ペン先が紙を滑る音だけが響く。


カリ……。


カリ……。


何枚か書いては折り、


また新しい便箋を取り出す。


郁が小さく寝返りを打った。


ニコは反射的に便箋を伏せる。


「……」


郁は目を覚ますことなく、再び静かな寝息を立て始めた。


ニコはほっと小さく息を吐く。


もう一度ペンを握る。


今度は最後まで書き終えた。


便箋を丁寧に折り、封筒へ入れる。


宛名は書かない。


そのまま引き出しの奥へ、そっとしまった。


机の上に置いたままの家族写真へ視線を向ける。


「……」


何も言わない。


ただ、長い間見つめる。


やがて静かに写真を引き出しへ戻し、灯りを消した。


暗くなった部屋。


窓から差し込む月明かりだけが、静かに床を照らしている。


ニコは天井を見つめたまま、ゆっくりと目を閉じた。

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