三十五歳、正論のストレートパンチを食らう
飯。食べ物。ごはん。
とにかく食えるものならなんでもいい、腹が減って死にそうだ。
先ほどまではクソ婆さんの怪しげな祈りに気を取られていて、じっくり確認する余裕もなかったが、ウサイ・カダイの合図とともに、俺は自分の膳に置かれた品々へ視線を落とした。
落として、フリーズした。
「……なにこれ?」
そこに並んでいたのは、お世辞にも「ご馳走」とは呼べない代物だった。
大きな丼のような土器の器に、並々と注がれた雑炊のようなもの。中には、見覚えのないクタクタになった葉野菜や、ゴロゴロとした根野菜が申し訳程度に入っている。副菜らしきものは、これまた色の悪い葉物の漬け物と、出汁の匂いもしない煮物。そして、申し訳程度に具が浮いている、味噌汁なのか何なのかよく分からない薄暗い汁物。
茶色と緑。それで全部だった。
華やかさのカケラもない。
慌てて周囲を見回してみる。しかし、子供たちは文句を言うどころか、むしろ目を輝かせ、嬉しそうに器を抱えてガツガツと雑炊を掻き込んでいた。上座の婆さんに至っては、無言のまま熟練の手つきで淡々と箸を進めている。
ネットスーパーでポチれば、ピザでもハンバーガーでも美味いジャンクフードがいつでも届く現代社会からやってきた俺だ。べつに異世界に来てまでそんな贅沢を求むつもりはないけれど、これはさすがに質素というか……ぶっちゃけ、びんぼ──いや、そうとは限らないかもしれないが、育ち盛りの子供たちがいる施設でこのメニューはあんまりじゃないだろうか。
箸を持ったまま、完全に手が止まっていた俺の様子を、婆さんは見逃さなかった。
食べ物に文句でもあるのかと察したのだろう、器を持ったまま、低く冷たい声をこちらに投げてくる。
「食えるだけマシなんだ。食いたくないんなら食うな。その分をこの子らに回せるからね」
「いや、食わねぇとは言ってないよ」
いくらなんでも心外なので、俺は眉をひそめて言い返した。
「ただ、子供にはもうちょっとまともなもん食わせてやるべきだろうと言いたいんだ。肉とかさ、魚とかさぁ」
その瞬間、広間の空気がピキリと凍りついた気がした。
婆さんが、器を膳に置く。カツン、という小さな音が、やけに重く響いた。
「そんな余裕が、この救護院のどこにあると思ってんのかい?」
婆さんの目が、完全に据わっていた。
「ここにはね、今にもおっちにそうな病弱な年寄りと、子供しかいないんだよ」
最初、その「病弱な年寄り」が誰のことか分からず首を傾げそうになったが、すぐに気がついた。目の前で俺を冷たく睨みつけている、このクソ婆さん自身のことだ。
命を削るようにしてこの施設を回しているんだよ、という、重い現実が突きつけられる。
だが、婆さんの容赦ない毒舌は、そこで終わりではなかった。
「──ああ、忘れてたねぇ。今はそこに、働けもしない穀潰しがいたね」
自分を棚に上げて文句を言った結果、ぐうの音も出ない正論のストレートパンチを食らった。三十五歳、完全なるアウェーである。




