努力ゼロでチートを叫ぶおっさん、裏庭で伝説の構えをとった瞬間を世紀末覇王に目撃される
「ばばんばばんばんばん、はーばーさん! 痛い痛い痛いッ! ちょっと待て、なんで俺が門をくぐった瞬間に無言で、しかもジャストミートで煙管を使って頭を叩いてくるんだよ!?」
「あんたが口を開くなりバカ丸出しの声をあげて入ってきたからに決まってるだろうが。それより今日の仕事はどうしたんだい? またどこぞでサボって昼寝でもキメてたんじゃないだろうね」
「仕事ならきっちり終わらせてきましたぁーだ! 終わって門兵のおっさんのところで有意義な情報交換(雑談)をしてたらさ、この世界の『魔法』についての話になってね。『サーセン』とかいう凄い雲水が広めたとか、しかもとんでもねぇ超威力で嵐や炎を呼ぶとか聞いたぞ。どういうことだ婆さん? 意念ってそんな特撮映画みたいな高威力の技が出せるのか? 俺は毎日あんなに一生懸命頑張って魔獣を殴り倒してるのに、そんな派手な現象は一回も起きたことねぇぞ! いったいどうなってるんだ! 説明だ! 国民への説明責任を要求する!」
ゴンッ!!!
「痛いッ!! 痛いってば婆さん! だからなんで無言で追撃を叩き込んでくるんだよ!」
「人にものを尋ねる態度じゃないと言ってるんだよ、あんたのそのクソ生意気な物言いは。……フゥ~~~」
婆さんはやれやれと深く煙草の煙を吐き出すと、呆れたように俺を見据えた。
「あんたの品の無い話をまとめると、天元流にいた『シンザン』の話だね。……まあ、町の連中の間で噂になっている話には、多少の誇張が含まれているのは事実さね」
「あ、やっぱり! 炎を巻き上げただの嵐を呼んだだのってのは、尾ひれがつきまくったただのホラ話だったんだな!」
「全てが全てホラってわけじゃないよ。意念を極めれば、実際に火を起こしたり、激しい風を巻き起こしたりすることは可能さ」
「え、マジで? ……あ、そういや確かに。前にこの救護院にいる子供が、ボロいうちわを持って痛々しい中二病構文の呪文みたいなのを唱えながら、ちっちゃい突風を起こして遊んでたな……」
「あれはね、形のある道具と言葉による自己暗示を『補助』として使い、体内の意念を外へと引き起こす技さ。まだ意念の練り込みが未熟な者が、『現象』の技を習得するための、ひとつの基礎的な修行方法さね」
なるほど……! あの子供の痛々しいポーズは、ちゃんとした技術的なアプローチの一環だったのか。
「ってことは、俺もそのへんの団扇を引っ提げて『我が深淵なる闇の炎よ、敵を焼き尽くせー!』とか叫べば、火を吹いたりできるようになるわけ?」
「覚えられるかどうかはあんたの才能と努力次第さね。最も、意念には個人の相性ってものがあるから、向いてなけりゃ一生掛かっても『現象』を覚えられないなんて事だって普通にあるよ」
「えええっ、そんな残酷な格差社会あるの!?」
「……あんた、そもそもリエンから一体何を学んでいたんだい? あの子からは、意念の基礎的な知識は一通り教えたと聞いてるんだけどねぇ」
婆さんのジト目が、じっと俺の顔を射抜く。
「……ピュ~~~~~♪(※明後日の方角を向きながら全力の素っ頓狂な口笛)」
「……はぁ、本当に手の焼けるバカな子だね。いいかい、今回だけ軽くおさらいをしてやるよ。そもそも意念には、大きく分けて三つの系統がある。『強化』『現象』『心蝕』の三系統がね」
「おう。それはギリ知ってる。リエンもなんか言ってた気がする」
「『強化』は肉体や物質そのものに作用させる。『現象』は自らの外側にある自然界の要素に作用させる。『心蝕』は知性を持つ対象の精神へ直接作用させる。それぞれが持つ特性さね」
「ふむふむ。肉体派と、魔法使い派と、精神攻撃派だな」
「で、この三系統には相性がある。すなわち、『強化』は『現象』に弱く。『現象』は『心蝕』に弱く。『心蝕』は『強化』に弱い。一種の三すくみの構造になっているんだが……あんた、これがなぜだか分かるかい?」
婆さんの問いかけに、俺は自信満々に鼻で笑い、ビシッと親指を立てて言い放った。
「決まってるじゃん! グーはチョキに勝ち! チョキはパーに勝ち! パーはグーに勝つシステムだからです!!」
「……何の説明にもなってないよ。つまり、理屈はひとつも分かってないってことかい?」
「えへへ(※最高にマヌケな照れ笑い)」
「呆れた子だねぇ。いいかい、『強化』は肉体や得物に掛けるゆえ、近接戦闘においては無類の強さを誇る。だが、『現象』は自然界の力を借りて外側へ働きかけるため、間合いの外……つまり遠距離から一方的に攻撃ができる。ゆえに『強化』の側からは、対応が遅れて後手に回りやすいのさ」
「ふむふむ、肉体派は魔法の遠距離爆撃に近づけないと」
「そうさね。だが、その遠距離から派手な大技を仕掛けようとする奴に対し、今度は『心蝕』が牙を剥く。技を起こそうとするその瞬間に、相手の精神へ直接作用して意識を揺さぶれば、技の発動そのものを根元から止められるだろう? これが『現象』は『心蝕』に弱い理由さね」
「なるほど! 詠唱中に精神攻撃を喰らったら魔法が不発に終わるわけだ。じゃあ、最後のピースは?」
「精神を研ぎ澄まさねばならない『心蝕』の使い手にとって、強靭な意念で自らの肉体と精神の境界をガチガチに高めている『強化』の奴は、そもそも術が効きにくいのさ。それどころか、強引に距離を詰められて一撃で叩き潰されるのがオチさね。これが三すくみと言われている所以だよ。……最も、相手の力量がはるか格上であるならば、そんな相性などいくらでも力づくで覆せるから、過信は禁物だけどね」
なるほどなぁ。実によく出来たパワーバランスだ。
……よし、理屈は完璧に理解した。
「それで婆さん。俺はどうすれば、その『現象』とやらで火を吹いたり嵐を呼んだりする派手なチート技が使えますか? 手っ取り早い習得方法を教えてくだぁさい!」
「……あんた、本当に人の話を聞いているようで一言も聞いてないねぇ。個人の相性があると言ったろうが。何より、あんたが頭の中で考えているような、お気楽で都合の良い大技なんてものはきっと出来やしないよ」
「なんでさ!? 俺、一応これでも『異世界転移者』よ!? なら、物語の主人公同様に最初から規格外のチート性能とか隠し持ってるはずじゃん? なきゃおかしいでしょう? 設定のバグでしょう、そうでしょう!?」
俺が必死に異世界クソニート理論を展開すると、婆さんはさらに深い、底冷えするような呆れ顔を向けた。
「知らないよそんな理屈は、そんなくだらない妄想もね。大体ね、他の人間がどれほど凄い才能を持っているからと言って、必ずしもあんたがそれと同じものを持っているとは限らないんだよ。……まぁ、あんたに意念の『才能』そのものが人一倍あることだけは、あたしも確かに認めてやるけれどさ」
「でしょうでしょう! さすが婆さん、見る目がある! なら話は早いじゃん!」
「だからと言ってねぇ、あんたが考えているような歴史に名を残す程の凄い使い手になれるかと言えば、あたしはそこまでの責任は持てないね」
「なんでだよ! 責任持ってよ! 育ててよ!甘やかしてよ!」
「甘えんなッ!!!」
ゴツォオオオンッッッ!!!!!
「あぎゃあああッッ!? 痛ってぇええええ!!」
本日三度目の煙管による超重量の脳天直撃。今度ばかりは目の前に火花が散り、本当に頭から煙が吹き出るかと思った。
「良いかい、よくお聞き。いくら溢れるほどの才能を持って生まれてきた人間がいたとしてもね、それを血の滲むような修行で磨き、切磋琢磨して、努力を重ねたその果てに、ようやくシンザンのような高みに辿り着くもんだ。ただ寝っ転がって怠けているだけで手に出来るもんなんてのは、所詮その程度のお粗末なもんなんだよ。……分かったら、つべこべ言わずにまずは努力をしな!」
「嫌だ! 俺は楽して極上の人生を送りたいんだよ! 楽イズベスト! 努力なんて糞食らえだ……って痛い痛い痛い! マジで痛い強い! 力の込め方が今までにないほどガチだよ婆さん!! 陥没する! 頭蓋骨が陥没するぅううッ!!」
「あんたという生き物は、どうしてそう……骨の髄まで性根が腐りきっているんだろうねぇ、本当に……」
グリグリと頭を煙管で容赦なく抉られながら、俺は涙目で理不尽な世界の現実(格差)を呪うのだった。
「ッチ……なんだいなんだい。婆さんのケチンボ。お手軽お気楽極楽で、寝て起きたら最強のチート能力を手に入れてたって別に良いじゃないか。悪いのは俺だけじゃないぞ。あえて言おう、世の中の転生志望者は皆、努力抜きでチート能力が欲しいのだと! 立てよ鈴木一朗! チートが欲しいと叫べ! チート、欲しい! チート、欲しい! チート、欲しいッッ!!」
……。
……いや、我ながら虚しいな、これ。
一人で拳を突き上げてデモ活動をしてみたものの、虚無感が押し寄せてきたのでそっと腕を下ろした。
いやでもさぁ、実際問題として、俺は今この異世界でかなり頑張ってるよ。めちゃくちゃ命を懸けて労働に励んでるよ。引きこもりニート時代だった過去の一朗くんが見たら、ドン引きの形相で『うわぁ、お前気持ち悪いほど必死に生きてんじゃん。本当に俺の未来の姿かよ?』とか言われるレベルの覚醒度合いよ。
だったらさぁ……これだけ頑張ってる俺なら、そろそろ撃てるんじゃねぇの? あれが。
今や全世界の誰もが知る、あの伝説の大技が、この『意念』という謎エネルギーに満ちた世界ならブチ放てるんじゃねぇの!?
「フッ……やってみるか。思い出すぜ、小学生の時に放課後の校庭で、必死こいて手のひらから光線を線出そうとしたあの青き時代を。雨の日には傘を逆手に持って、腰だめに構えて放つあの流派の技も死ぬほど練習したなぁ……。ああ、皆なにもかも懐かしい……」
俺は人気のない救護院の裏庭で、すっと腰を落として半身に構えた。
両手を腰の引け目に重ね、手のひらをすぼめて球体を作るように固定する。イメージしろ。体内の意念を一箇所に凝縮し、青白い破壊の光弾へと変換するんだ……!
「よし、一発ぶちかましますか……。か~……め~……は~……め~……」
「何をおやりになるんですか? イチロウさん」
「くぁwsedrftgyふじこlp!!!???」
突然、鼓膜の真横から極めてクリアなソプラノボイスが響き渡り、俺の口からは元の世界のインターネットの歴史に刻まれた謎の怪音速の呪文が飛び出した。本当に俺の喉から出たのか今の声!?
「えっと……ごめんなさい。何やらもの凄く真剣に集中していらっしゃるところを、お邪魔してしまったみたいで……」
「い、いえ……! 滅相もございません! まったくもってノープロブレム、構いませんっす!!」
俺は音速でステップを踏んで背後の壁に背中を叩きつけ、裏返った声で弁明した。
恐る恐る視線を向ければ、そこにはいつものように可憐な声な(※ただし外見は世紀末覇王は)微笑みを浮かべたエリシアさんが、小首を傾げて佇んでいた。




