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サボりの代償は七徹デスマーチ! 限界突破のおっさんが生存本能で拒絶した恐怖の膝枕




 壊された外壁の事後処理は警備のおっちゃんたちに丸投げし、俺は「町を守った英雄(仮)」として意気揚々と救護院への帰路についた。


 門をくぐると、驚いたことに、なぜか異様にニコニコとした満面の笑みの子供たちが、ずらりと並んで俺を待ち構えているではないか。


 「……」


 期待に満ちた目で、一斉にちいさな手のひらを差し出してくる子供たち。


 お、なんだなんだ? いつもはクソミソに煽ってくるガキどもが、今日ばかりは俺の武勇伝を聞きつけてリスペクトの眼差しを向けているのか? 照れるじゃねぇか!


 「おゥ、みんな出迎えご苦労! へーいッ!」


 俺は爽やかな笑みを浮かべ、差し出された子供の手に向かってパチンと軽快にハイタッチを交わした。


 その瞬間、子供たちの目が、深海魚のようにハイパー冷めた視線へと早変わりした。


 「……な、なんだよ。違うのか?」


 「……違うよ。おっさんが外壁のところで『タウボルク』を倒したって噂を聞いたから、出待ちしてたんだよ」


 「そうだそうだ! モノ(極上の豚肉)はどうしたんだよ!?」


 「なんで手ぶらなんだよ! なんで何も持ってないんだよ!」


 ええええええええーーーッ!? なぜか周囲から非難轟々の大バッシングの嵐が巻き起こる。


 「いや、持って帰れって言われてもさぁ! 向こうの警備のおっちゃんたちが『これは防壁を破壊した魔獣の現物証拠だから』って言って、速攻で没収して検分に持ってっちゃったんだよ! オ、オレハ、ワルクナイヨ……?」


 必死に弁明を試みるが、説明している間に、子供たちの目から「冷たさ」が消え、代わりにリアルな「殺気」がビシバシと飛んできた。恐怖のあまり、俺の口調は完全にカタコトの宇宙人状態である。


 「……使えねぇ」


 「……ホント、ただの甲斐性なしのクズね」


 「……せっかくの肉の日以外に食えるはずだったのに。少しくらい肉の確保に役に立てよおっさん」


 辛辣!!! あまりにも言葉が辛辣すぎる!!!


 これが、街の平和を守るために炎の右ストレート(※ストレートではなくエルボーです)を叩き込んできた偉大な戦士に対する言葉なのかよぉおおッ!


 「……ハァ? なに寝ぼけたこと言ってんだ? おっさんが初日から仕事もせずに、テント張ってマヌケに昼寝してたなんて話、すでに町中で知れ渡ってるぞ」

 はい(語尾上がりに)?


 ど、どどどういうことですかな……?


 「いや、普通にあそこは他にも働いてる職人さんたちが大勢いるんだからさ。そこで初日から一歩も動かずにグースカ寝てれば、嫌でも町の噂になるでしょ」


 「……」


 ダラダラダラダラ……ッ!!!


 俺の全身から、滝のような冷や汗が流れ落ちる。完全にサボりが筒抜けだった。


 「……ば、婆さんは……? このこと、知って……?」


 「院長先生? もちろん知ってるよ。でもね、町の人から報告を受けた時、院長先生はこう言ってたんだ──『あのバカのことだ、どうせ何かくだらない考えでもあるんだろうから。しばらくは放っておきな。……もし本当にただ寝てるだけで、あたしの顔に泥を塗るようなら、その時はその時さ。自分の身に何が起きるか、あれが一番よく分かってるはずだよ』って」


 に、逃げ──ッ!!!


 「どこへ行くんだい。まったく、本当に手の焼けるバカだねぇ、あんたは」


 救護院の建物へ全力ダッシュをキメようとした瞬間、背後から地獄の底から響くような声がした。


 ゆっくりと振り返ると、そこには腕を組んで般若のような笑みを浮かべたカザン婆さんが立っていた。


 「し、婆さん……! 俺は、その、町を襲ったタウリンをだな……!」


 「今回は結果的に事なきを得たようだけどねぇ、イチロウ。あたしは言ったよね? あたしの顔に泥を塗るような真似はするんじゃないよ、と」


 「ひぇ……! し、してない……! 泥じゃなくてむしろタウリンの肉の金星をだな……!」


 「あんたという生き物は、暇を持て余すとろくなことを企まないようだからね。今回の不祥事サボりの罰として、今後は寝る暇もないくらいにたっぷりと働かせてやるから、そのつもりで覚悟しておきな」


 お、俺は悪くねぇ! 魔獣を倒したのは俺だろぉおおおッ!!!


 「問答無用だよ。明日からは、まともに寝床で眠れると思うんじゃないよ」


 婆さんはフンと鼻を鳴らすと、哀れな獲物を見るような冷徹な一瞥を残し、そのまま母屋へと帰っていった。


 オワタ……。

 俺の、俺の愛した気楽で怠惰なセカンドライフが……完全に終わった。


 朝も早よからせっせと、せっせと水汲み薪割り──♪


 終われば売場へBダッシュ、そのまま戻って森に出掛け、魔獣を狩りまくる日々──♪


 救護院に戻ればクソ婆さんとクソガキどもに骨までこき使われ──♪


 唯一の癒やしは極上のお肉弁当、だけど相手は世紀末覇王様エリシア──♪


 俺の安らぎどこ行った~~~♪ 俺の安らぎどこ行った~~~♪(※泣きながらのセルフ輪唱)


 「……おい、イチロウ。あんまりにも疲れてんなら、今日の狩りは休むか?」


 森の拠点の木陰で、虚空を見つめながら謎の自作労働賛歌(デスマーチ編)をブツブツと口ずさんでいた俺を、魔狩人衆の仲間が本気で心配そうな顔で見つめてきた。


 俺は首をカクカクと機械的に動かして振り返り、爛々と輝く濁った目で応じる。


 「ハッハッハッハッハ!!! ノープロブレム! 疲れてませんよ! 疲れてませんとも! 人間、倒れるまでは倒れてない判定ですからねぇ!!」


 「……いや、もう言動がいつも以上におかしいぞ。目が完全にイッちまってる」


 「……なぁ。人間ってさ、ここで死んだら今度こそ本物の、もっとこう、チート能力で美女に囲まれてスローライフを送れる『ちゃんとした異世界』に行けるのかなぁ……?」


 「……おい、死んだら終わりだぞイチロウッ!! 戻ってこい! こっちの世界に戻ってこい!! なんだその、世界のすべてを諦めきったような悟りを開いた顔はッ!?」


 ガタガタと肩を揺さぶられた俺は、ハッと正気に戻ったように満面のビジネススマイルを浮かべた。


 「大丈夫! 大丈夫ですよぉ! イチロウ元気! 24時間戦えますか! 元気があれば何でもできる! イチ、ニ、サン、ダァアアアッッ!!」


 「急に過剰に明るくなるなよ怖いよ、落差が激しいんだよ落差が!!! おい、これ絶対なんかヤバいクスリでもキマってんぞッ! かしらーーーッ!! 頭ーーーッッ!!! イチロウが本格的に狂いましたァアアア!! 精神の崩壊が始まってます、助けてください!!!」


 失礼なやつだな。どこもおおかしくないよ?


 ただちょっと、救護院の雑務とギルドの魔獣狩りを不眠不休で並行して、かれこれ七徹(7日連続徹夜)くらいしてるだけだよ?


 全然問題ないよ? 大丈夫だよ? ほら、俺の後ろに日本の実家の寺院が見えるよ……?(※幻覚)


 ……ああ、なんだろう。この、すべてを包み込んでくれるかのような安らぎに満ちた感覚は。


 俺の後頭部を支えているのは、なんかこう、女性のものにしては骨格がしっかりしていてゴツゴツしているけれど、確かな温かさがある。


 それに、なんだか耳元で、優しげな清楚ボイスが「もう、頑張らなくていいんですよ」と囁いてくれている気がする。


 うん。俺、頑張った。めちゃくちゃ頑張ったんだよ。


 あのクソ婆さんとクソガキどもに寄ってたかって虐め抜かれても、七徹(7日連続徹夜)の限界突破ブラック労働をさせられても、俺、歯を食いしばって頑張ったんだよぉ……。


 「……はい。そうですね。本当によく頑張りました。だから今は、何も気にせずゆっくりと休んでください」


 ありがとう、ありがとう……。名も知らぬ、聖母のような清楚ボイスの女神様。


 それじゃあ、お言葉に甘えて、このまま深い深い泥のような眠りに就かせていただきます……。


 「おやすみなさい。イチロウさん」


 チクチクチクチク……ッッ!!!


 ──どうしてだろう。


 心はこんなにも平穏を求めているのに、俺の「脳(サバイバル本能)」が全力で受け付け拒否エラーを起こしている。


 『おい、お前それでいいのか!? 相手が誰だか分かってるのか!? ここで寝たら、それただのお昼寝(仮眠)じゃなくて永眠デスになっちゃうよ!?』って、細胞の一個一個が涙目で絶叫しながら脳内に超緊急アラートを訴えかけてくるのだ。


 「あ、あの……? 本当にこのままお休みになって大丈夫ですよ?」


 分かってる。頭では分かってるの。


 でもね、この、鉄の扉よりも重いお目目を今すぐ開けなきゃいけないって。今ここで限界を突破して開けないと、明日の朝日を拝めるという「命の保証」がどこにもないんじゃないかと。


 「ええっ!? い、命の危機があるんですか!? どうしてですか!?」


 ……うん。それはね。


 パチッ、と俺は血走った目で両目を力強く見開いた。


 視界に飛び込んできたのは、俺を膝の上に寝かせ、心配そうにこちらを覗き込んでいる、恋する世紀末覇王エリシアの麗しいお顔だった。


 「……おはようございます、エリシアさん」


 「え、あ、はいっ! おはようございます、イチロウさん!」


 ──『寝ている間に、君に一体どんな恐ろしいアプローチ(既成事実)を仕掛けられるか分かったもんじゃないから、身体が勝手に生存防衛反応を起こして強制起動したんだよ』とは、口が裂けても言えない。


 そんな本音を1文字でも口にした瞬間に、俺の細い命の炎が肉体ごと粉砕されて、今度こそ物理的に尽きそうだから。


 俺は、ゴツゴツとした覇王の太もも(※筋肉の塊)の上で、限界の身体を震わせながら、引きつった笑顔を浮かべることしかできなかった。












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