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合法的な惰眠を貪っていたら防壁が爆発した件、およびボディががら空きなタウリンとの決戦録





 「いやさ、最近つくづく思うわけよ。この世界において、俺にはだァれも味方が居ないってことが身に染みて分かったんだよね」


 「……」


 「俺、何か悪いことしたかなぁ? もし思い当たることがあるなら直すよ? たぶん、気が向いたら? わからんけどさぁ」


 「……」


 「なぁ、それにしても世間って冷たいと思わない? ねぇ、そこの兵士のおっさん」


 「……」


 「おい無視すんなや、なんか応えろやボケェ!!」


 「……帰ってくれ、頼むから」


 町の重厚な正門の前。槍を手に直立不動で警備していた兵士のおっさんは、ひどく疲れ切った顔で、今にも胃に穴が空きそうな声を絞り出した。


 そんなおっさんの心労などどこ吹く風で、俺は門の柵にウザい角度で寄りかかりながら、ニヤニヤとニートの世間話を継続する。


 「なになに? 何かあったの? もしかして俺みたいに、救護院のガキんちょどもに『次の肉の日までにデカい魔獣獲ってこねぇとテメェを肉にするぞ』ってイジメられたとか? イジメかっこ悪い! イジメいくないよ!」


 「……あのなぁ、イチロウ。ここはなぁ、おまえの暇潰しの遊び場じゃねぇんだよ。不審者を見張るための神聖な仕事場(関所)なんだよ」


 「知ってるよ? なに言ってんのこのおっさん、頭大丈夫か?」


 「おまえの頭が一番大丈夫じゃねぇわッッ!!! ここは仕事場だって言ってんだろうがッッ!!!」


 ついに限界を迎えた兵士のおっさんが、青筋を立てて槍をガタガタと震わせながら怒号をあげる。


 「用がないなら今すぐ消えてくれよ!! こっちはただでさえ激務なのに、おまえの相手をするだけで精神メンタルがゴリゴリ削れて神経すり減るんだからさぁ……!」


 「そっか……。うんうん、よく分からんけど、がんばれ。また明日も来るからよ」


 「もう二度と来るなクソヤロウがーーーッッ!!!」


 「あっはははは! それじゃあ、アバヨ~兵士のおっさ~ん!」


 俺は三代目大怪盗よろしく、足をくるくると回すような軽快なステップを踏みながら、怒り狂う兵士のおっさんを背に去っていった。


 いやぁ、俺としては町の中で「見るからに暇そうに突っ立ってる人」を見かけては、親切心から優しく声をかけてあげているだけなんだが、まあ、いい暇潰しにはなっている。持つべきものは心の広い話し相手サンドバッグだな!


 「イチロウ。あんた、壊れた物を直す大工仕事なんかはできるかい?」


 町でたっぷり兵士のおっさんの神経をすり減らし、意気揚々と救護院に帰ってきた俺に、婆さんが藪から棒にそんなことを訊ねてきた。俺は迷わず、ビシッと胸を張って答えてやる。


 「食べる! 寝る! 惰眠をむさぼる! 俺の人生、この三つ以外は何一つできません!」


 我ながら完璧に素直な返答だった。それなのに、婆さんからは「この世で最も残念な未確認生物」を見るかのような、とにかく深くて重い、地球の裏側まで届きそうなため息を吐かれた。


 「……あんたはもう少し、人として生産性のあることが出来るようになりな。とりあえず、先方には『うちの若いのが行く』って伝えてあるからね。行って、やれるだけの事はしてきな。良いかい、くれぐれも『やりたくない』とかいう理由でサボって帰ってきたら、ただじゃおかないからね。わかったかい!」


 「サー! イエス・サー!」


 「……はぁ。本当に大丈夫かねぇ、この子は……」


 背後から、婆さんの「もうこいつはダメだ、手遅れだ」という絶望のオーラを感じつつ、俺は指定された場所へと向かった。


 で、婆さんから行けと言われた場所なんだが──それが、とある町の外壁の修繕現場だった。


 「おお、救護院のところの兄さんか! 婆さんから聞いてたよ、早く来てくれて助かった。さっそくなんだけど、これ、直せるかい?」


 現場にいた担当の男が指差した外壁を一瞥し、俺は一切の躊躇なくきびすを返した。


 「無理です帰ります」


 「いやいやいや! 待て待て待て! 見もせずに帰るなよ! ちゃんと確認しろよ! こっちは藁にもすがる思いで頼んでんだからさぁ!」


 ガシッと肩を掴まれて引き留められたので、しょうがないので薄目で見てやる。


 町を守るための外壁。その一部の木材が、見るからに中まで腐りかけてブヨブヨになっていた。うん、これはもう構造的にダメだな。修理とかそういうレベルじゃない、全部ひっぺがして交換した方がいい。


 「完全にダメになってるんで、総取っ替えしてください。では、俺の任務は終わったので帰ります」


 「だから待てって言ってるだろ! だったらその交換作業をあんたに手伝ってほしいんだよ! こっちはこっちで他の防壁の整備で死ぬほど忙しいんだ。聞いたら、あんたは最近これといってやることがなくて『四六時中暇してる』って、カザンの婆さんから直々に推薦されてんだぞ!」


 ……チッ。あのクソ婆め、余計なギグ・ワークを斡旋しやがって。


 「悪いけどさ、俺にはそんな建築系のスキル(直せる技術)はないぞ。おとなしく諦めて別の人間に頼んでくれ。じゃあな」


 三度目の正直。今度こそおうち(救護院の布団)に帰らせてもらう──と、男の背中に向けて歩き出した、その時だった。


 「そうなのかぁ? 弱ったなぁ……。他の防衛任務もおろそかに出来ないし、人手もないし……。これを一から直すとなると、一体何日(幾日)の時間が掛かっちまうんだ……?」


 ピクッ……!?


 その瞬間、俺の灰色の脳細胞(※サボることに関してのみエルキュール・ポアロを超える)に、素晴らしき悪魔的妙案が電撃のごとく閃いた。


 俺はガタッと静止すると、滑らかな動きで男の方へと振り返る。


 「──気が変わった。その仕事、この鈴木一朗が引き受けよう」


 「えっ、本当か!? 助かるが……さっき、直せないって言ってなかったか?」


 「何事にも『初めての体験』というものはあるさ。素人仕事ゆえ、時間は少々……いや、かなり頂くことになる。その辺のグダグダっぷりを大目に見てもらえるのであれば、やらんでもないぞ?」


 「いやぁ、贅沢は言わん! とにかく形にしてくれればそれでいい! すまないが頼んだぞ!」


 「ああ、任せておけ。幾日も、それこそ気が遠くなるほどの日にちを掛けて、じーーっくりと直してやるからよぉ」


 「おう、よろしく頼む!」


 ホッとした表情で去っていく男の背中を見送りながら、俺は口元を歪めた。


 (くっくっくっ…… 計画通り……!!)


 脳内で黒いノートを掲げる某新世界の神のごとき笑みが溢れ出す。


 「何日かかるか分からない」だって? 最高じゃねぇか! つまり、この外壁の前に座り込んでカンカンと適当に木を叩いて「いやぁ〜大仕事ですわ〜難しいですわ〜」と深刻な顔をしていれば、婆さんの監視の目から離れ、街の片隅で、誰にも文句を言われずに思う存分『合法的な惰眠』をむさぼれるということだ!!!


 よし、まずは作業用の日除けテントの設営(※昼寝用)から始めるとするか!


 「時に、イチロウ。例の外壁の修理の件はどうなってるんだい? もうかれこれ何日も掛かってるだろう」


 数日後、救護院の食堂で、カザン婆さんからジロリと鋭い眼光を向けられた。俺は直立不動のまま、爽やかな笑顔(※嘘つきの顔)で応じる。


 「報告いたします! 今現在、鋭意建設中であります! 地盤の強度が想定よりも脆く、安全第一を期すため、今しばらくの工期が掛かる見込みであります!」


 「……そうかい。まあ、そこまで言うならあんたの言い分を信じてやるがね。もし、あたしの顔に泥を塗るような不甲斐ない結果に終わったら──ただじゃおかないよ?」


 「……」


 婆さんが部屋を出ていった瞬間、俺の背中から冷や汗がダラダラと滝のようにこぼれ落ちた。


 バ、バレてないよな……? そろそろ何かしらの対応策(※適当に木を打って直したフリをする等)を講じないとマジで不味いか?


 いや、でも計算上、あと数日は確実に引き延ばせるはずだ。……よし。ここは俺の人生を支えてきた最強の奥義を発動しよう。


 『秘技:明日の事は、明日の俺に任せよう』!!!


 任せたぞ、未来の俺。過去の俺からの熱いバトンを受け取ってくれ。


 そうして俺は圧倒的楽観主義のもと、合法的な惰眠を貪るため、今日も今日とてマイお昼寝スポット(外壁の裏に張った日除けテント)へと向かうのであった。


 「グースカー……グースカー……むにゃ、日本の夏、エアコンがガンガンに効いた夏……」


 高いイビキを掻きながら気持ちよく寝ていると、突如──。


 ズドドドドドドドドッッ!!!


 と、何やら少年漫画に出てきそうな、地響きを伴う凄まじい大音響が鼓膜を揺らした。


 「……んあ? なんに、大工のハンマーの音にしては激しすぎねぇか……?」


 俺が寝ぼけ眼をこすりながら起き上がった、その瞬間。


 ドッパーーーーンッッ!!!


 限界を迎えて腐りきっていた外壁が、内側から派手に爆裂した。


 そして飛び散る木片の向こうから、盾のようなバカデカい鼻面と、鋭く尖った凶悪な牙を生やした巨大な猪豚が猛然と突進してきたのだ。


 「お、お前は……! たしかタウリン!?(※正解はタウボルク)」


 「ピィギィイイイイイーーーッッ!!!」


 タウボルクは怒髪天を突く勢いで嘶きを上げ、俺のテントごと踏み潰さんと突っ込んでくる。


 せっかくの極上の睡眠を邪魔された怒りで、俺の脳内スイッチが一瞬で切り替わった。俺は即座に『意念』を練り上げ、臨戦態勢に入る。


 「はっ! 甘いぜタウリン! 最近の俺は森の魔獣どもをボコり慣れてんだよ、お前ごとき遅るるに足らず! 食らえ、鈴木一朗直伝・大回転からのコンボ技をぉおおッ!」


 迫り来る巨体の突進に合わせ、俺は物理法則を無視した様に自らをコマのように高速回転させ、紙一重で突進を回避。そこから──。


 「──ボディが、がら空きだぜ!!!」


 回転の勢い(遠心力)をすべて乗せた強烈なエルボーを、無防備な豚の脇腹に叩き込む!


 「さらに──ボディが、お留守だぜ! 甘いぜ! くっくっく、ハッハッハ、アッハッハッハッハ! ……あ、これ格ゲーのキャラが変わっちゃったわ」


 炎を操る某主人公から、高笑いする某ライバルキャラへと脳内パロディを浮気しつつ、追撃の連続エルボーを豚の顔面にブチ噛ましてやった。


 ズゥウウウウン……!!


 勢いよく通り過ぎていったタウボルクは、口からだらしなくヨダレを滴らせ、完全に焦点の合わない目を泳がせながら、ふらふらとした足取りで2、3歩進み──そのまま地面にど派手にぶっ倒れて白目を剥いた。


 「WINNER! イチロウ!!!」


 俺は虚空に向けて、無駄にキレのある格ゲーの勝利ポーズ(両手を天に掲げるやつ)を決めて勝ち名乗りを上げる。


 「おい、何があったんだ!? 凄い音がしたぞ……って、タウボルクゥウウ!? なんで防壁の内側にタウボルクが入り込んでるんだ!?」


 音を聞きつけた例の工事担当のおっちゃんが、血相を変えて走ってきた。


 「おお、おっちゃん。すまん、壁壊されちゃったわ。でもこれ、突っ込んできた魔獣のせいだから。俺のせいじゃないよね?」


 「……いや、まぁ、壊されたっていうか、魔獣が突進してきたんだし……。ていうか、あんたが一人でこれを仕留めたのか!? 町の中に被害が出なかったんだから、むしろ大手柄っていうか、よかったのか……?」


 だよね! だよね!! 悪いのは全部、壁をブチ抜いて突進してきたこのタウリンであって、俺は一歩も動かずに町を守った英雄だよね!!


 よっしゃぁあああ! これで壁の修理が遅れてた言い訳も「魔獣の襲撃を警戒してあえて罠を……」とか適当に誤魔化せるぞ! 万事解決、結果オーライだーーーッッ!!!







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