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贅肉はあるが、だが筋肉はない




 ───などと甘い考えを持った自分が過去にいました。はい。


 「ーーさん。起きてください」


 声変わりをまだ終えていない、少し甲高い声をした人物に揺さぶり起こされる。


 重い目蓋を開ければ、まだ日も明けていないような時間。


 今まで好きな時間に起き、好きな時間に寝ていた俺としては、他人に起こされるというのは久しぶりの体験であると同時に、脳が「まだお休みの時間だよ? 寝てようよ」と言ってくるので、メチャクチャ起きるのがしんどい感覚であった。


 寝ていたい。寝ていたいが起きなければならない。そうしなければ俺はここを追い出されてしまうからだ。


 流石に僅か数日で、しかも無一文のまま放り出されるのは勘弁なので、このクッション性もない固いベッドに、薄い掛け布団を掛けただけの、どんなに寝心地が悪かったとしても安眠という聖なる領域であるこの場所から、頑張って這い出るようにして起き上がる。


 ガラスなんぞはなく、木の戸板で窓枠を覆っているだけ。


 その為部屋全体が薄暗い。いや日も昇っていないから真っ暗で殆ど何も見えない。


 俺を起こした人物が、俺が起きたことを確認すると静かな足取りで部屋を出ていく。


 「ふぁ……まだ夜明け前だよ。今までだったら今ごろ寝てたんだけどな……ハァ、さてと」


 俺もあとを追うようにして部屋を出ていく。行き先は、最初のうちは迷ったが、もう薄暗くてもわかる。


 それでも暗い廊下をスタスタと歩けるほどの技量はない。なので壁に手を付き、普通に歩くよりはゆっくりな速度で歩いていく。


 目的の場所に行くと扉がある。その扉を開け放つと外へと繋がる。


 戸板の隙間からも日の光が差し込んでいないことからわかっていたが、やはり外はまだ日も昇っていない時間であった。


 外に出てすぐ近くから『カラカラ……』と、何かの音が聞こえてくる。


 その音の方へと向かっていく頃には『ざばぁー……』と、水を流すような音がしてくる。


 音のする方へ行くと、十代前半、まだ小学生と言ってもいい年齢の子供が、井戸から水を組み上げ、瓶に入れている作業をしていた。


 「……つるべ式井戸。ホントいつの時代だよ」


 「……どうぞ。終わりましたので」


 子供は木桶を二つ、両手で持ってスタスタと歩いていく。


 「……やらなぁならんよな」


 住まわせてもらっている以上は、与えられた仕事くらいはしなきゃダメでしょう、と、縄で繋がれた桶を井戸の中に落とし、上手く水が入るように縄を動かしながら、心合いをみて引き上げる。


 「ぐっ……おぉ、意外と重い……」


 4、5キロくらいかと構えていたが、もっと重く感じた。縄が手に食い込み、痛い。それを積まれている瓶のひとつに水を入れ、持ち上げる。腕がプルプルと震え出し、一歩足を踏み出すと、生まれたての小鹿のように体全体が震えている。


 「……なんであの子は二つも持ってけんだ?」


 いくら瓶に紐が括り付けられ、手さげのように持ちやすくなっているとはいえ、4、5キロの水瓶を両手に持って歩ける自信がない。絶対途中でぶちまける自信なら、力一杯の言葉で言える。俺には落とす自信があると。


 「……ただ単に俺が貧弱なだけか。肉ならあるんだがな、肉なら」


 贅肉という名の肉ならね。








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