ステータス画面はありません(あと服もありません)
「で、知らぬ間にあの場所にいたと?」
「……はい。そうです」
俺は今、メッチャ強面の、メッチャ筋肉ムキムキの、たぶん動物の皮から作られた『皮の鎧』を着た、俺と同い年かちょっと上の人に、取調室みたいなところで尋問されていた。
何故こうなったかと言えば。もしかして異世界転移ではなく、ただ単に誰かに拉致られ、何処かの馬小屋に置いていかれたという可能性もなきにしもあらずと思い、住民の人達がいないか、馬小屋から隠れて観察していた。
そこで幾人かの住人を発見。なんというか『布の服』という言葉がぴったりと似合いそうな服を着た人達がいて、顔立ちから日系というより、どことなく中東系寄りの人達っぽかった。
あ、これは異世界転移じゃなく、ガチの拉致に遭ったかと。でも馬小屋に置いていかれた理由がわからない。更にその人達の会話が聞こえないかと聞き耳を立てていると、聞こえてくる言葉が日本語だった。
あれぇぇぇ!? 異世界転移でもなく、海外に拉致でもなく、日本のどっかの田舎の場所に連れてこられた!? そんな事ってあるのか!? と、言葉が通じるならここが何処だか、もしや家に帰れるかもしれないとか、そんな期待を持ちながら住民の人達に声を掛けに行ったら、悲鳴をあげて逃げられた……。
うん。いや、男性が見当たらなかったから近場にいた女性の人に声を掛けたんだが。まさかこっちを見るなり声をあげて逃げ出すとは思わなかった。
そしてその逃げてった女性がこちらに戻ってくると、その後ろには屈強な男性の方達がついてきて、俺を取り囲むようにすると。
「そこの変質者を取り押さえろ!」
変質者ってだれ? と思ったが、取り囲んでいる相手が俺なのだから、俺の事だろうということに至る。
だが待って欲しい。俺は変質者ではなく、ただ自分の家の場所がわからない、ただの迷子だと説明したのだが。
「戯れ言を! その格好で変質者でなければ何だと言うのだ!」
言われ気がついた。
俺はヒキコモってからほとんど外に出ることがなくなり、夏も冬も快適な室内で暮らしていたせいで、部屋着などの服は最低限で良いやと過ごしていて。その日は溜まった洗濯物を洗濯していた為に着るものがなく、パンいちの格好でいたことにようやく気がついた。
しかも、十年のヒキコモリ生活で白ブヨぶよに緩みきった、35歳独身男のわがままボディである。
ああ、うん。こりゃあ確かに変質者だわ。あっははは。サーセン。
外の常識を思い出した俺は、その後兵士さん(お巡りさん)に素直に捕まり、連行され、尋問されたということでした。
いやぁ久しぶりにお外にいるから、その感覚を忘れていただけで。だから俺悪くないんで、その、そろそろ解放してくれませんかね? それとここ何処だか教えてください。
「いいから質問されたことには、きちんと答えろ」
兵士さんの質問に答えて行き、代わりにこちらの質問も答えて貰った。そこでわかったのが、ここはマナキア大陸というところで、その大陸にあるドラゴニアという国の領土にある、ひとつの町だということ。
大陸の名前や国の名前からして、あ、これ完全に地球じゃないわ。異世界だわ。と確信が持てた。
「あん? 魔物? 魔物は町の外に出て森にでも行けばいるだろう。まあ怪我をしたくなけりゃ入らないことだ。魔法だと? まあ在るには在るが、俺は使えん。あれは一部の才能ある者だけが使えるものだ」
なるほど。魔物あり、魔法あり。ここがファンタジーな世界だというのが分かる情報だ。
更にステータス、自身の能力が数値的にわかる世界かと聞いてみるが、これは今までの質問からだと思いたいが、「こいつ頭のおかしな人間か?」という目を向けられ、兵士さんが調書に今の事を書き込んでいるようだったから。
「ちょっと待ってくれ!? べつに俺は頭のおかしな人間じゃない! これは常識的なことを尋ねているだけなんだ!」
「……頭のおかしな人間じゃなければ、いい歳した奴がそんな非常識なことは聞いてこないとは思うがな」
そうなんだけど、そうじゃねぇんだよ! 俺はこの世界の常識なんてひとつも知らないんだよ! そう言ってやったら。
「ならお前のいた世界というやつは、往来をパンツ一枚で出歩くことが常識ある人間だと認められていたのか?」
「……み、認められてないですっ……!」
ぐうの音が出ないほどに悔しかった。
なんで俺はこまめに洗濯をせずにいたんだ。きちんと洗濯をしていたら、きれいなTシャツを着ていたのに。そうすればあの女性も逃げずに、俺の話を聞いていてくれたに違いないのに。
とりあえずまあ、兵士さんから聞いた話を纏めていくと。昔の日本のようなこの場所は、俺が住んでいた地球の日本ではなく、異世界であると。
そして魔物いて、魔法あって、奴隷とかもいる。剣と魔法のファンタジー世界……!? マジか……。あははは、マジでか……ッ!?
「まあ今回は物取りに遭って困っていた、という理由で釈放してやる」
「はい……ご迷惑をお掛けしました」
俺の話しは一切信じてもらえず。結果として追い剥ぎに遭い、裸同然の格好でいたところをお巡りさんに捕まったという形となった。
「で、当てはあるのか?」
異世界に来た俺に身寄りなんて当然無い。
そして長いヒキコモリ生活をしていた者に、真面目に働く気があるかと問われれば、当然――
「無いんで、どこか三食昼寝付き、何もせず毎日ゴロゴロしていても文句を言わないで養ってくれるようなところって、ありませんかね?」
「……ねぇよ。そんなところ」
心底冷めた目で俺を見下す兵士さん。
ですよねーと、笑って誤魔化した。
そして何処かしばらくの間、生活基盤が整うまで置かせてくれる場所はないかと、もしくは兵士さんのお宅に居させてくれと頼み込んだ。
そうしたら兵士さんは「断る」と、強い意思と共に拒否した。
それでもどうにかならないかと泣きながら頼んだら。
「……あそこなら、なんとかなるか?」
心当たりがあるような言葉を出し、俺を案内すると言ってくれた。
あざーすっ。あ、でも外出るなら服を貸してください。このままじゃ異世界おっさんじゃなく、異世界変質者になりますからね。いや~、無一文からのスタートなんてやってらんないからどうしようかと思ったけど、なんとかなりそうで良かった良かった。




