プロフェッショナル、あるいは穀潰しの流儀
今回は短いです。
(BGM~♪地上○星)
鈴木一朗。彼の朝は、早い。
まだ東の空に太陽の欠片すら昇らぬ薄暗い内から、同室の子供に無慈悲に揺り起こされ、嫌々ながらも寝床から這いずるようにして、起き出す。
彼の朝の一番の仕事は、水汲みだ。
これは彼が間借りしている救護院にとって、決して欠かすことのできない必要不可欠な営みである。水がなければ、人は生きてはいけない。彼は毎日、冷たい井戸から水を汲み上げ、巨大な水瓶にそれを注ぎ込み続ける。
この世界に来たはじめの内は、水瓶ひとつ持ち上げるのにも生気のない顔で四苦八苦していた彼だったが、人間の適応力とは恐ろしいものだ。
いまや彼は、太い木の棒を巧みに肩の支点にし、片側に四つ、両手で計八つもの並々と水の入った水瓶をぶら下げ、生まれたての小鹿ステップを踏むこともなく、平然と歩けるようになっていた。完全にサーカスの怪力男の領域である。
そうして水汲みの仕事が終われば、息を整える間もなく、朝餉の時間まで一心不乱に薪割りを行う。
──なんと勤勉な男なのだろうか。
二ヶ月くらい前までは、たった一日のノルマ分の薪を割るだけで一日がかりの大仕事だった頃とは違い。それが今では、どうだろう。独自の意念のコツを掴んだ彼の前では、大木から切り出した薪などただの豆腐も同然となっていた。
一時──つまり、現代の感覚で一時間にも満たない僅かな時間で、全ての薪割りを終わらせられるようになっていた。
そうしてようやく、労働の後のささやかな朝食を胃袋に収める。
だが、彼の仕事はこれだけでは終わらない。
食後は、自ら割った大量の薪を荷車に積み込み、町の薪売場へと運搬する。そこで新たな「割るための原木」を物々交換のようにもらい受け、再び救護院へと帰ってくるのだ。
こうして明日のための準備を完璧に整え、そして彼は、明日の過酷な労働(※本人にとってはただの家事)に備え、泥のように就寝(惰眠)をするのであった。
誰もが彼をただの穀潰しのニートだと笑うだろう。
しかし、彼が救護院の裏庭で静かに積み重ねてきた圧倒的な肉体の貯金は、いまでは無意識の内に極限まで研ぎ澄まされていく意念の密度となっていた──。
彼の、鈴木一朗の進化が止まることを、彼自身もまだ、知らない。(BGM~♪)




