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善き吸血鬼は血を求める  作者: 岬 葉


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54 金欠の吸血鬼は血を節約する

 テネリスは魔物に捕まらないよう旋回しながら思考を巡らせる。


 実を言えば、テネリスの脳内にはすでに、この魔物に勝つ方法がいくつか思い浮かんでいる――例えば、魔物すら反応が追いつかない音速レベルの速度で突っ込むとか、ありったけの血を総動員して巨大な腕を造り出すとか、そういったものだ。


 ただ、それらはあまりにも玉砕覚悟すぎるので考慮に値しない。テネリスの一番の武器とも呼ぶべき血操術に使う血はテネリス自身の血であり、力を使えば使うほどヴァンパイアとしての本能が強くなることを意味する。魔物を倒したところで、魔物の代わりにテネリスが暴れ出しては本末転倒だ。


 もちろん、理性第一主義のヴァンパイア生を送って来たテネリスがそう簡単に本能に屈することはないし、危険な領域に至る前に自制すればいいだけの話なのだが――。


「うーむ、血が勿体ないよなぁ……」


 ――長年の辺境暮らしで培われた倹約精神が悪い方向に働いていた。血操術で使った血は基本的に捨てることにしているので、手元で遊ばせている血を使いまわして全部解決したいとすら思っていた。


 そうして、いかに血をケチるか考え抜いた末にテネリスが目をつけたのは、地上でどうにか魔物の本体部分に攻撃を当てられないか試行錯誤している魔法少女たちであった。


「……うむ。協力的な姿勢を見せるのも大事だろうしな」


 テネリスは空中での機動力を活かして魔物の注意を惹き、動きを阻害する。その間に魔法少女が本体を攻撃する――この路線が一番丸いだろう。そう決めたテネリスは、早速手元の血を糸に変形させていった。




=================================




「――ああもう、何だってのよ!」


 左右にまとめた赤い髪を靡かせながら怒りに身を任せて呟くのは、ICO白城市支部に所属している魔法少女の一人、柊アカネであった。アカネの目の前では、八本の腕を持った気色悪い化物がひたすらに暴れ、破壊の限りを尽くしている。


 最近妙な事件があったとは噂に聞いていたが、まさか自分が当事者になるなどとはまるで考えていなかった。いつものように出現するのが分かっている魔物を片付けたら、適当にスイーツ店巡りでもするつもりだったのだ。


 それが何だ。マニュアルでしか聞いたことがない緊急連絡無線が入って、街中に魔物が現れたから何とかしろときた。普通の魔物ならまだしも、事前情報が一切ない魔物の相手を、せいぜいB区分の魔物までしか倒せないアカネに頼むだって? 正気の沙汰ではない。


「うーん、ちょっとジリ貧なかんじがするねー」


 こんな緊迫した状況にもかかわらず間延びした声で呟くのは、同じ支部の魔法少女、モエギだ。


 彼女もアカネと同じく貧乏くじを引いた不運な少女の一人なのだが、アカネとは違って、ずっとのんびりとした空気を保ち続けている。


「せめてフミちゃんにも戻ってきてもらわないとー、このままじゃプチっとされちゃうかもー?」


「こんな状況なんだからもっと緊張感を持ちなさいよッ! 『サンシャイン・ボール』ッ!!」


 アカネが苛立ちを込めて放った赤い火の玉は、魔物の腕に遮られて、うっすらと焦げ目をつける程度に終わった。


「いろんな意味で配信映えしないねー。みんなもそう思うよねー?」


 モエギが話しかける先は、アカネではなく配信用ドローンであった。


 確かにICOは魔法少女の配信活動を奨励しているが、本来は戦闘記録用のドローンであり、「映え」を気にする必要はない――特に、画面映えの真逆を行くビジュアルのクリーチャーが忙しなく腕を動かして接近してきている、今のような状況では。


「ボーっとしてないで逃げるわよ!」


 アカネはモエギを抱え上げ、ヒビだらけの道路を走る。


「運んでもらっちゃってごめんねー。代わりに反撃してあげるー。『えいっ』」


 モエギが間の抜けた声を上げると、緑色の小さな弾が宙に浮かび、一斉に魔物に向けて放たれていく。


 ファンシーな詠唱が大半を占める魔法少女界隈において、モエギほど詠唱が特殊な者はそういない。「えい」とか「とう」とか、もはや詠唱と呼んで良いのかも怪しいレベルである。


「ん-、やっぱりこのまま時間稼ぎかなぁー。……あ、さっき撃墜されてたヘリコプターの中の人たち、無事らしいよー」


「そうなの? それはよかったけれど……」


 察するに、配信の視聴者がコメント経由で教えてくれたのだろう。


 アカネにとって、あれは魔法少女として活動してきた中でも一番の事故だったと言っていい。まさか報道ヘリが巻き込まれるほどの距離まで接近すると思っていなかったし、フミのように飛ぶことができないので、どうしようもなかった。


 ただ、四人目の魔法少女が間一髪で救助をしてくれたようなのだが……遠目だったのもあり、誰だったのかがわからずじまいであった。


「結局、誰が助けてくれたの?」


「えーっとね……今話題のインビジブルさんだってー」


「は?」


 モエギの言葉にアカネが問い返した直後、遥か上空から高速で飛来した黒い何かが、魔物の手を深く突き刺した。


 そして現れたのは、黒いローブに身を包んだ人物であった。遠くてよく見えないが、背には黒っぽい翼が生えており、赤黒い液体を身に纏っているのはわかった。


「……あれが、インビジブル?」


「そうなんじゃないー?」


 魔物の注意がインビジブルの方に向いたことで少し余裕ができたので、アカネはモエギを地面に降ろし、息を整える。それでも、何かが起きたらすぐ対応できるよう、警戒は緩めない。


 そんな中初めに動き出したのは、インビジブルだった。彼女は縦横無尽に魔物の周囲を素早く飛び回り、魔物をかく乱するように立ち回っている。


「んー? 何か、赤い糸がいっぱいついてる?」


 モエギの言う通り、インビジブルが通過した後には、魔物の腕を二本まとめて拘束するように、少しずつ赤い糸が巻き付けられていた。大して頑丈そうに見えないが、ゴムのようになっているのか、千切れることもなく、魔物の機動力を着実に削っている。


「もしかして、わたしたちのこと手伝ってくれてるのかなー?」


「そうみたいね……」


 アカネが頷いたと同時に、インビジブルのローブの内に隠れた紅い瞳がこちらに向けられていることに気が付いた。これはきっと、「やれ」というメッセージに違いない。


「いいじゃない。なら、渾身の一撃をお見舞いしてやるわ!」


 魔物の本体部分を狙いたいのはアカネたちも同じ考えだったので、インビジブルがそのお膳立てをしてくれるというのなら、それに乗らない手はない。


 アカネたちは杖を掲げて交差させ、次に発動する魔法に全てを注ぐことにした。


「『皆を照らす、太陽の力をここに! プロミネンス・レイ』!」


「なら、わたしも手伝ってあげる。『わたしの力、貸してあげる。もっと強くなーれ』!」


 二人の力が混ざり合い、さらに魔法の力が高まっていく。杖の先端から放たれた光が、辺りをまばゆく照らした。




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 テネリスは事前に思い描いていた通りに、血操術で練り上げた糸で魔物の腕を縛り上げて拘束していた。腕がテネリスを潰そうと暴れる様は、まるで自身が羽虫にでもなったかのような気分であった。


 しかしその甲斐あって、八本あった腕を四本分程度にまとめ上げ、大幅に無力化することに成功した。思いのほか上手くいったことだし、このままテネリスの方で始末をつけてもいいが……今回は魔法少女たちに華を持たせてもいいだろう。


「これだけやれば魔法も当たるだろう。さあ、早くトドメを刺すのだ!」


 上機嫌に呟いたテネリスが魔法少女の方に目を向けると、意図が伝わったのか、何やら二人の杖をかざし合い、大掛かりそうな魔法を準備し始めた。


 そして杖先に少しずつ集まった光が、やがて赤く輝く大きな光――小さな太陽となった。


「……それはやりすぎではないか? まさか、それをこっちに撃つわけではあるまいな!?」


 早口に問いかけたテネリスの言葉が届くことはなく、無情にも、魔法がテネリスと魔物が居る方角へ向けて放たれた。

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― 新着の感想 ―
これはまた面白い子達ですね。そして今まで知らなかった情報もちらっと披露されるのいいですね。
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