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「まず、基本的なことから情報を共有しておこうか。
今後色々あるとは思うが、基本的に俺は君の判断を尊重する」
「それは、失敗して覚えろということでしょうか?」
飲み物をお酒に変えて、ゆったりとウィリアムは話し出す。
「そういうことだ。そうじゃないと身につかないこともあるしなぁ…。
ただ、例外としてギルドの不利益になるようであれば止める。
それを考えるとまず今回の依頼は受けるところから止めた方がよかったんだが…不在時はしゃあないな」
「わかりましたわ。
だから家を借りるにしても特に止めたりはしなかったのですね。てっきり他の冒険者と同じ苦労を味わえ、と言われるかと思ったのですが」
ルイも満腹したので、お酒に切り替える。
二人で簡単に後片付けをしながら、話を続けた。
「苦労は別にしなきゃしないでいいんだよ。ただ、苦労した方が得るものが多い経験があるからそう言いたくなる奴の気持ちも分かるが…非効率だろ」
似たような事を言われた経験があるのか、ウィリアムは顔をしかめる。
「家に関しては、君はよっぽどヘマしなきゃ資金が尽きて貧乏生活することはない。であれば、お金をかけて快適な環境を整えることは大事だ。
金をケチって寝食を疎かにして、最終的に判断ミスで死んでたら何にもならんからな」
「それは同感です。
そもそもお金は使うためのものですから」
財を抱え込んでいても何も生まれない。だが、それとは別に財が無ければ天災などの突然の窮地において出来ることが何も無くなる。その辺りのバランスはリアリズ王との対話で鍛えられた。
その点冒険者は貯蓄がなくてもなんとかなることが多い。特にルイは自前で身体回復が出来る上に、身体回復魔法を付与した食品も持ち歩いている。少なくとも即死でなければどうにか出来るだろう。
「そういえば、今回のようなトラブルはどう対処すべきでしたの?」
「んー…完全にギルド側の失態だからなぁ。
とはいえアレを新米冒険者がやられたら打つ手がない。街を離れるのがベストだな。そういう問題があるギルド職員はほんの一部だ。いない、と言えないのが頭の痛いところだが…。
ただ、ソイツの名前と所業はきちんと覚えて置いた方がいい。で、力がついたあとできちんとギルドに報告してもらいたいな。
正直新米冒険者が逆恨みでギルド職員の評価を下げるようなことを言うってのもありきたりなんだ。そしてギルド側からは判断がつけづらい」
「…なかなかめんどくさいですわね。
自分のランクをあげるのに夢中で忘れてしまいそうです」
正直そこまで自分を害した人間を気に懸けてなどいたくはない。それに自分が実力をつけるまでにどのくらいかかるのか見当もつかないではないか。
もうこれはこういう輩にあたらないことを祈るしかない。
「だよなぁ。
ただ、今回は運良く君に対処する力があったので早期発見ができた。ギルドの人間としても冒険者としても感謝したい」
「感謝は受け取っておきますわ。
それに今回のコトで万が一があってもギルドに協力して頂けそうですし」
「ピーター個人だけでなく、ギルド全体に手柄として認められただろうしな。
正直あの薬草の量だけで昇格してもいいくらいだと踏んでる」
「あら、そうなんですの?」
会話をしながら料理後の後始末を二人でなんなく終える。特に打ち合わせもせずに出来たことに少し驚いた。ウィリアムはさまざまな人間に合わせてきたということが窺える。あとはお互いの酒と少量のつまみなので明日に回しても問題ないだろう。水魔法が使えれば…と少しだけ考えてしまったが、そこは仕方が無いと諦める。
ウィリアムは師匠としてもそうだが、同居人としても大分楽に過ごせそうな人だと再確認出来た。これは大きな収穫だ。
ルイに足りない「魔法が当たり前ではない世界の常識」もきちんと説いてくれる。ただし、それをルイが理解出来るかは別問題だが。
「いや、普通に考えてくれ。
魔法を使わず道をあそこまで整備するのに、どのくらいの時間がかかると思う?」
「…やったことがないので想像がつかないのですが、一週間くらいでしょうか?」
普通の駆け出し冒険者はアイテムボックスも持っていないだろうから、薬草を運ぶのも一苦労だろう。スキルの方は持っていそうだからそちらは彼らに有利だろうか。それでも土魔法が無ければ地面を平らにするのは難しい。
それを言うのは野暮だろうか?
「ま、早くてそんくらいだな。
気付いてると思うが、道としての出来は魔法と比べることはできない。任務達成までの期間もクオリティもお前さんの圧勝ってことだ。
で、前も言ったと思うが、最初のランクはお試し期間だ。真面目にギルドの依頼を受けるタイプだなとわかればギルドはサクッと昇格してくれるってわけ」
「魔法が使えるから優遇…というわけでもありませんわよね。
私と同等に魔法を使える方がいたら是非とも勝負して頂きたくなりますもの」
「んな人外魔法大戦みたいなのは余所でやってくれよ。
ともかく、だ。明日行けばわかるだろうが多分昇格…あ、いや実戦記録がまだだから即は無理かもしれん」
いよいよ、実戦をしなければならない段階まできてしまったらしい。流石にもう避けられないので相応の準備をするしかないだろう。
「あぁ、そうですわね。まだ冒険者になってからは一度も戦っていません。
…明日の朝食は少し気合いを入れましょうか」
「お? 何? 何作るの?」
気合いを入れてごちそうを作る、と勘違いしたのかウィリアムが身を乗り出してくる。このパターンにもそろそろ慣れてきた。
「作るもの自体はあまり変わり映えしませんよ。
自重せずに魔法付与をしようというだけで」
「…そういや疑問なんだが、俺に魔法付与したら俺も魔法使えるんだろうか?」
以前少し聞いたが、ウィリアムは身体魔法の一部を使える程度で、他の魔法はさっぱりだそうだ。素質もほぼないらしい。
「何があるかはわかりませんが、同じものを食べてみますか?
思い切り各属性を強化しようと思ってはいるのですが…。
…しかしそれで副作用が出ても面倒ですね。かなり抑えてみたものを一種類だけ食べてみます? 他はいつも通りスキルの練習台になって貰うとして」
魔法の潜在能力がなかった者にいきなり高レベルの魔法を付与する、という前例はないことはない。だが、上手く扱えなかったり酷いときは暴発することもあったと聞く。
装備であれば外せば良いだけだが、魔法を付与された料理となると取り外しは不可能だ。トラブルが起きても時間経過でしか対処ができない。
「おう、じゃあそんな感じで頼む。
もし俺も付与飯食って魔法が使えるようになるなら便利だもんな。俺の練習にもなるし」
「冒険初心者と魔法初心者でダンジョンに挑戦…それはそれで面白いかもしれませんね」
「おう、あと質問はあるか?
なければこのまま解散するぞー」
「そうですね…。基本的に私の判断を汲んで下さるそうですが、私が質問をした場合はどのような対処になりますか?」
「そりゃもちろん、ちゃんと答えるさ」
「私が失敗に気付かなかった場合はあとから指摘して貰えます?」
「覚えてる範囲でな。ベストはその場で訂正なんだが、それが出来ない場合も結構あるだろうし、時間経過で俺も人間だから忘れるし」
「了解しました」
やはり、ウィリアムは師匠としてはアタリの部類なのだろうと判断できる。少なくともルイにとっては有り難い存在だ。
今までの師匠は見て覚えろ、体感しろ、そもそも言語化できない、といったタイプが多かったのだ。彼らが悪かったわけではないし、むしろその環境でも十分学ばせて貰った。しかしあれはルイに魔法の適性と研究気質があったからに他ならない。
ルイは自分が冒険者向きではないと自覚しているため、見て覚えろというのは相当厳しい。その点ウィリアムは聞けば教えてくれるのだ。
「…厳しいとかは言わないんだな?」
「? どこが厳しいのでしょう?」
「いやぁ…」
言葉を濁すウィリアムを更に追求することはせず、その日は解散した。
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