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メグルを拠点に活動する冒険者は大きく二つに分かれる。
自炊をする者と、食べ歩きを楽しむ者だ。
前者はダンジョンでドロップしたものの一部で自炊を行って節約する。そういう冒険者が少なくないため、メグルの宿では食事付はあまり多くない。逆に、自炊用の施設を貸し出したり、部屋で煮炊きOKといった宿もあるというのがメグルの街の特徴だろう。
そういった宿に泊まっても良かったが、ルイとウィリアムは小さな一軒家を借りて拠点にすることにした。
メグルの宿はセキュリティが万全というところが少なかったせいだ。そういう宿は大商人や貴族などが主に使う場所で、一介の冒険者が足を踏み入れるとかえって目立つというのが理由の一つだ。それに、そういう宿は自炊はNGである。
幸い借りた一軒家は「元通りにして返してくれるのであれば多少の改造はOK」とのことだったので、あちこちにセキュリティ用の魔道具を置いてある。
「安く借りられて良かったですね」
「うん、コレが安い辺りで君の金銭感覚は世間とはズレてるから注意な?」
「Aランク冒険者の師匠はズレてないんです?」
「あ~…じゃあ世間の駆け出し冒険者とはズレてる、で」
「それならば、まぁ…」
一般的な駆け出し冒険者が節約のために自炊をするというのはあるだろう。しかしながら、ルイの場合は趣味のためだ。そして身の安全のために金をケチったりはしない。
立地条件や部屋数を吟味したため、結構なお値段になった。それでも相場を考えれば結構安かったというのがルイの感想である。
「ですがやはり料理や魔法を研究するのであれば、他者を気にしない環境が欲しいじゃないですか。
師匠は私を気にせず外でご飯を食べてきてもいいんですよ」
宿の自炊用施設は基本共用だ。思い立ったときに更にもう一品追加などはやりづらい。何より周りの目があるところで付与魔法は使えないのだ。
だが、それはルイの事情でありウィリアムは付き合わなくてもよかったのだが。
「まぁたまにはそれもアリなんだが、君に作って貰った方が節約してたくさん食べられるんだよ」
「…確かに食べる量が多いですもんね。
長くこの生活が続くならこちらの方がお得なんでしょうね」
そんな会話をしながら調理しているのは、今日の街道整備で手に入れた薬草だ。生でかじってみたがちょっと癖のある匂いがした。単体であればあまり歓迎したい味ではないが、匂いの強いものとぶつけてみてはどうだろう、とニンニクと一緒に油で炒めている。
あとは手早く茹で上がったパスタと絡めれば完成だ。
「これあのポーションの元になる薬草だろ?
結構独特の匂いなのになんか良い匂いに感じる…」
「お腹が減ってるのもあるんでしょうけど、ニンニクと合わせて炒めたからかもしれませんね。
ただ、味の保証はしないので前菜としてちょっぴりだけです」
器に盛って、待ちきれないといった顔をしているウィリアムに先に渡す。
「先に食べていても構いませんよ。
主菜もそろそろ出来上がりますし」
「…いや、待つ。
てゆか、なんか出来ることあるか?」
「あぁ、ではサラダやスープも盛り付けて貰えますか」
本日のサラダも、今日の依頼で入手した食べられる雑草だ。栄養価はわからないが、生でもなんとか食べられるといわれるだけあって、食んだ時の食感が面白く苦みも少ない。簡単に甘みの少ない柑橘の汁と塩胡椒だけで味をつけた。これなら出先でもどうにか出来るだろう。
流石にスープまで野草まみれにするのは勇気が必要だったので、これだけは以前作り置いたトマトスープを出している。
それらをウィリアムが配膳している間に、メインが焼けた。
「薬草を香草代わりに使ったローストチキンです」
実は買い物中メインを魚にしようかと口にしたところ、とてもショックを受けた顔をされたため急遽変えた経緯があったりする。そんなに肉が好きか、とちょっと面白くなってしまった。
「おー、豪華だ…」
「それはよかった。
でもそろそろストックが危ういので一日かけて料理に没頭したいところですね」
「その辺の計画はおいおいだな。
冷める前に食おう」
二人で食前の祈りを捧げる。
まずは一番心配なオイルパスタから。
「…チャレンジャーだな」
既にメインの肉を頬張っていたウィリアムが呟く。何度か背に腹は代えられず食べた経験のあるウィリアムはやはりちょっと警戒していたようだ。確かにそのまま食べても美味しくはなかった。
だからこそ、他の食材と合わせることでどう変化するかがルイとしては気になった。
「ダメなら捨ててもいいですし」
「いや、そのままでも薬効あるから…だめだろ。勿体ない」
「苦みが強くなっていたら流石に食べきるのは難しいかと思いまして。
でもそうですね。ポーションの材料に戻すことは出来ないんですから、食べて供養してあげるべきでしょうか」
クルクルとフォークで巻いて、一口。
葉の表面にある細かな産毛を処理したことと、オイルのお陰で舌触りが悪い部分は解消できている。そして、問題の匂いだが、ニンニクと合わせることで口に含んでも悪臭とは思わなかった。むしろ、食欲をそそるかも知れない。苦みが苦手な人はダメかもしれないが、少なくともルイは美味しく食べられそうだ。
「意外といけます」
ルイの言葉を聞いて、ウィリアムも恐る恐る手を出す。
それから一言。
「マジだ。ってか、美味い。ちゃんと食材になってる…マジか…」
「油との相性がいいのかもしれませんね。
ところで、今日はスキル付与できていますか?」
「あ、やべ。ちゃんと見る前に食っちまった。
どれどれ」
それぞれちょっとずつ減っている料理をウィリアムがじっと見つめる。
「うん、8割がた成功って感じだな。
スキル付与魔法もレベルあがってるし順調じゃないか?」
「早く百発百中にしたいところですわね。師匠がいないところでは確信を持って使えませんもの」
「俺はどっちかっていうと君のスキル習得ペースの速さが恐ろしいんだけどな」
苦笑するウィリアム。そう言われても、ルイは自分にできることに全力で取り組んでいるだけだ。得られる知識を習得しようとしているだけなのにちょっと理不尽である。
「今までスキルに意図的に触れてこなかった反動でしょうか?
あ、薬草を香草代わりに使うのも悪くはありませんね」
「そうそう、そっちもいけた。ただ、やっぱ香草の方がうまいわな。
ポーションに何度も世話になってる身からすると美味しい肉食ってんだか、傷治したいんだかちょっと混乱する」
「ふむ。結論としては薬草は無理して食材にしなくても、というところでしょうか。
鶏の臭みも消えているのではなく薬草の匂いが勝っているだけ、という感じですし」
「確かに言われてみればそんな感じだな。
でも、腹減ってどうしようも無いときには朗報かもしれん。ニンニクと油で炒めれば美味しく腹が塞がるわけだろ」
「そういう極限状態に都合良くニンニクと油があるか、という問題がある気がしますが」
それでも今回の実験で得たものは多い。
それなりの成果に満足しつつ、料理を堪能していると、ある程度空腹が解除されたらしいウィリアムが少し真面目な顔をして話しかけていた。
「さて、腹もそこそこ膨れたし、ちょっと師匠らしい話でもしようかね」
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