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「この度は誠に申し訳ありませんでした」
目の前には無惨な姿になった受付係の女性。
綺麗に結われていた髪は見る影もなくザンバラ、顔面はあちこち変色している。喋りづらそうではあるが、発声がおかしいということはないので喉を傷つけられたり歯を抜かれたわけではないだろうけれど。それでも、見ていて気分の良いものではない。ただ治してしまうとケジメの意味がないからそのままの状態なのだろうと察することはできた。
痛め付けては魔法やポーションで治してやる拷問もあるにはある。流石にそこまではされていないといいな、と思わずにはいられない。
改めて、冒険者ギルドという組織の恐ろしさを感じる。敵に回さなければいいだけの話だが、それでもだ。
「ギルド長として俺からも謝罪する。誠に申し訳ない」
ピーターも神妙な顔で頭を下げる。ちなみに、彼女の方は土下座だ。無惨な本人の状態とは真逆の綺麗なギルドの制服が目立つ。
ギルドの一番目立つ場所で行われている謝罪劇は、一種のパフォーマンスだ。
こんな不祥事があったけれど、きちんと罰を下したので皆安心して冒険者ギルドをこれからも利用してくれ、ということだろう。
仕方がないので付き合うけれど、正直に言うとめんどくさいことこの上ない。
ただ、師匠であるウィリアムとギルド長であるピーターの顔をたてるために付き合っている。
「細かいやりとりは奥で。
彼女の処罰もそのとき決めよう」
「わかりましたわ」
やっと周囲の視線から解放されるということで食いぎみに頷く。その様子にピーターは微かに苦笑を漏らしてから奥へと案内してくれた。
ドアが閉められて、ひとつ大きなため息をつく。
「悪いな、付き合わせちまって」
「ギルドの円滑な業務のためには必要な措置だと理解はしています。
が、今日は初ダンジョン予定だったので初っぱなから気力が削がれたような心持ちにはなりましたね」
「そいつぁ悪かった。どこ行く予定だったんだ?
低層部分の地図オマケしてやるから頑張ってきてくれや」
いいのだろうか、と師匠であるウィリアムを見ると頷かれた。受け取っても問題ないようなのでありがたく頂戴しておく。
「で、だ。
こいつの処分だが、まずは見ての通り仕置きはしておいた。嬢ちゃんに聞きたいのは、こいつを担当にするかしないかの部分なんだ」
ピーターの説明を聞きながらチラリと彼女を見る。すがるような表情から察するに、ここでルイが彼女を受け入れなければ更に酷いことが起こるのだろう。何が起こるかまで察することはできないし、そこまでしてやる義理もない。
が、少しだけ聞きたいことはあった。
「その前にちょっと質問してもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「こんなバカなこと、何故しでかしたんですの?
ご自分の口で答えてください」
これは純粋な疑問だ。ルイは当然ながら彼女と面識は一切ない。ギルドにきて初めて出会った相手だ。なのにこんな嫌がらせをされる意味がわからない。
「わ、私は、今までに何度もあなたのようなお嬢様風の冒険者の相手をしてきました。
物見遊山気分で冒険者という職業を舐めきってるのがうんざりして、それで…」
「私もそういう類いだと思ってやった、と」
何度も嫌な思いをさせられた人種と同類と思われ、たまたま嫌がらせの対象にルイが選ばれた、ということらしい。大変プロ意識に欠ける発言だが、それ以上に気になることがあった。
「彼女、初犯ですか?」
「はい、はい! もちろんです!」
「と、言ってる上にこういうのは証拠が残らなくてな。
流石にギルドに虚偽の申告をしたらどうなるかくらいはもうわかってもらえたとは思うんだが…」
どうにも疑わしいが、証拠がない、というわけらしい。まぁそこから先はギルドの問題であり、ルイには関係ないことだ。興味本意として聞いた質問の答えとしては十分だろう。
関係ある部分は、今後彼女に担当してもらうかどうかという点だ。
「ちなみに私がここで断ると私に不利益はありますの?」
「いや? 特にないな。
彼女の方は大分あるだろうが」
「お願いします! 心を入れ換えてきちんと対応させていただきますので、どうか担当させてください!」
「…ここで断ったら私悪者じゃないですか」
「いや別に? ギルドとしてはどっちでもかまわん。
実際信用ならん奴が担当だとやる気もでないだろ」
「ちなみにギルドのシステムとして、担当した冒険者が活躍すると受付係の成績に反映されるな。…そこから考えても依頼の無茶ぶりなんて普通はしないんだがなぁ」
ウィリアムが補足説明をしてくれる。彼は弟子の自分に選択権を寄越すらしい。つまりこれは本当にギルドの利益に関わらないという証拠だ。
であれば、ルイも好きにする。正直彼女が信用ならないというのはあるわけだし。
「提案がありますわ。
私自身、あなたのことは信用ならないと思っています。ですが、今のところ不利益を被ってはいないので別にあなたの処遇に興味がないんです」
「…」
ルイの言葉をどう判断していいかわからず、彼女は黙って続きを待つ。
「ところで、被害者である私が、身体魔法で彼女の怪我を治してあげるのはギルドとして差し障りがありますか?」
「は? あーーーそうくるか。特例として認めてもいいな。
ただ、厳罰期間であることを内外に示すために丸刈りにでもする必要はあるが…そこはギルドで考えるさ」
ルイの意図を読み取ったピーターがギルド長として答えをくれた。
「ありがとうございます。
ちなみにですけれど、私が治したいと思ったのは顔面のみですわ。見てて気になるんですもの。服で隠れる部分までカバーしてあげようとは思いませんのであしからず」
「……?」
いまいち状況が読み込めない彼女に、ルイが丁寧に説明をする。
それにしてもギルドの受付係なのにこういった知識がなくてもいいのだろうか。他人事ながら少し心配になってしまった。
「選択肢は二つです。私の回復魔法を受けるか受けないか。
回復魔法を受けた場合、丸刈りになるか服で隠れる部分を痛め付けられるか、それはギルドの判断にお任せします。ですが、回復を受けるのであれば、私を信用していただけたということで今後もあなたに担当をお願いしたいと思います。
受けなかった場合はそのまま顔面が自然に治癒されるまで、担当をお断りさせてもらいます。
さて、どうしますか?」
「えっ…それで、いいのですか?」
「えぇ、ただし。
他者から身体魔法で回復してもらうとき、耐えがたい怖気や激痛が走る場合があります。他人の魔力が自分のなかに入ってくるのですから、ありえることですわよね?
私はまだまだ未熟故、どんな苦痛がもたらされるやら」
ことさらに優しく微笑みかける。
ヒュッと彼女が息を飲む音が聞こえた。
更にウィリアムが追い討ちをかける。
「彼女の場合意図して痛みを与えることも、痛みを与えずに治療することも可能だな。
ちなみに、意図してやった場合俺は耐えきれず手を振り払ったし、大の男が泣きながら漏らしてたな」
「あぁ、治療を受ける場合はみだりに動けないように拘束いたしますのでご安心なさってください」
師弟の息のあったコンビネーションにピーターも苦笑している。だが、こちらの意図がきっちり伝わった彼女は顔面蒼白になっていた。
「さぁ。どちらになさいます?」
正直に言えば、ルイはそこまで彼女に恨みを持っていない。だから、彼女がルイを信用してさえくれれば、無条件で怪我を治し担当続行をお願いするつもりでいた。ルイは拷問して楽しむような趣味は持ち合わせていない。
ただ、怯えきった彼女はルイを信用することができなかったようだ。
「そう、残念ですね」
今後会うことはないだろう彼女の未来を案じ、ルイは心の底からそう呟いた。
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