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姪とオンライン!  作者: 漆之黒褐
第三節 『LEGEND OF DARKNESS』
96/115

メイド no Tower Offense

「全軍、前進! 速やかに用水路を突破し、バルトロス砦内に潜入せよ!」

「わっ!」

「うぉっ!? なんだいきなり」

 やっぱりプレイヤーはNPCみたいに命令出しても即時行動してくれませんね。だーれも動いてくれませんでした。NPCがいたらそのNPCにつられてプレイヤー達も動き始めてくれるのですが、少し待ってもやはり誰も動いてくれません。

「どれだけ無口で無愛想なんだよ、てめぇ。意識あるならあるって最初から言えよ、ボケ」

「センちゃんユリちゃん、この黒いのっていつもこうなの?」

「はい……本当に中身がプレイヤーなのか、私も未だ確信がもてないでいます」

「あまり気にしちゃダメですね」

 既に作戦は始まってるのに、暢気なものですね。仕方ありません。少し荒療治ですが、ちょっと強引にいっちゃいましょう。ケリッ。

「うぎゃっ! そ、そこだけは、ダメっすよ~」

「あ、酷い……」

「コイツ、躊躇いもなく急所を蹴りやがった。あれ、こっちでもすんげぇ痛いんだよな」

「でもその甲斐あって起きましたね、レイ君」

「うわ~、いったそ~。あれ、確実にクリティカル入ってるよね?」

 レイ君の方はこれで良いとして、ここからが本当の作戦!

「こいっ! ヴェルシュナイツァーっ!」

 パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ。

 漆黒の覇者ダークナイト・シュツルムカイザーX様の呼び掛けに応え、黒馬ヴェルシュナイツァー君が駆け寄ってきました。その手綱を掴み、ヒラリと騎乗する俺。そのまま手綱を引いてウィリーだぜ、いぇい。

「おおっ!? 何だか分かんねぇが、超絶にかっくいいじゃねぇかこの野郎!」

「ヒュー、やるぅ」

「すご……」

 フッ、決まったぜ。などという感傷にひたる間もなく、ヴェル君のお腹を軽く蹴って走らせます。っと、目の前に障害物が2つありますね。重装鎧を着たおっさん達です。邪魔だなぁ。飛び越えちゃいましょうか。

「跳んだ!?」

 ガンッ。いてっ。

「そして頭ぶつけたっ!?」

「ぶはっ」

「格好良さ、だいなし……」

 そういえばここは地下用水路でした。いくらこの広場の天井は少し高めだからといって、ヴェル君が跳んだら俺が頭をぶつけてしまうのは道理です。

 それはそれとして、何事もなかったかのようにヴェル君を走らせ、そのまま正面通路へと向かいました。全員置き去りにして。

『……っと。ただ見てる場合じゃなかったな。作戦はもう始まってるんだったか』

『私達も行きましょう』

『え~っと……俺も中央に行けば良いんすか?』

『レイさんはこっちです。私達は右の道に進みます』

『じゃ、みんな待ったね~。みんな~、いっくよ~』

『『『『おー!』』』』

『んじゃ、俺達もいくぞ。遅れるな!』

 フッフッフッ、作戦成功でっす。俺が先陣をきることで、見事にみなさん行動を開始してくれました。

 ちなみに、このミッションでは同じエリアにいる人達限定でPTチャットはいきているようです。マスコンとは違いますからね。なのでみんなバラバラになってもちゃんと俺の命令は伝わるようになっています。先程の会話も、全てPTチャットで聞こえてきた言葉です。じゃないとおかしいよね? だって俺、一人であっと言う間に先に進んじゃったんですから。

 あと、追加システムとして、この部隊のリーダーである俺の視界端には、みんなが進む道が自動的にマッピングされた地図が表示されています。俺はこれを見てみんなに指示するみたいです。地図上では味方は青点で、索敵範囲に敵がいると赤点で表示されるようです。

 用水路は迷路のように入り組んでいるのが分かります。90度カクッと曲がるか直線のどちらかです。綺麗な大迷路です。右手の法則もしくは左手の法則が使えると楽なんだけどなぁ。

 っと。早速、左の道に進んだ信号三姉妹率いる中隊が敵の姿を補足したようです。

「……!? 伝令! ミネバ様に地下用水路に敵が現れた事を急ぎ伝えよ!」

「はっ!」

 げ、モンスターさん達だけじゃなくて、帝國軍兵士さん達もいる。俺の前に敵国軍兵士さん達が現れました。

 チャラララララ~、エンカウントでっす。ってか、まさか作戦がばれていた!?

『敵発見、敵発見っす! 右の道にはモンスターじゃなくて帝國の兵士がいるっす!』

『右に同じ! 左にも帝國兵! なにこれ、まさか待ち伏せ!?』

「槍隊、構え! 何としてもここを死守せよ!」

 くっ。このまま一番乗りを目指そうかな~っと思ってたのに、どうやらそうは問屋が卸さないようです。狭い通路に3人の帝國兵士さんに肩を並べて槍を構えられたら、ヴェル君の身を犠牲にしないと突破出来ません。ここは大人しく指揮官の座に甘んじましょう。

『中央、鋒矢(ほうし)陣形、突撃せよ! 左軍、強撃陣形、強撃前進! 視界右前にある通路に強行偵察として2名走らせよ! 右軍、鶴翼(かくよく)陣形、敵を殲滅せよ!』

『おっ……? 突撃って、俺達の事か?』

『いやいや、いきなりそんなこと言われてもさ~。心の準備ってものがさ~』

『右軍、分かりました! レイさん、ユリリン』『おうっす』『はいっ』

『ああ、嬢ちゃん達にはいつものことなのか。なら……』

『鋒矢陣形に変えました。いつでもいけます』

『突撃、いくぜ!』

『あ~っと……ねぇね、ねぇや、私達はどうする?』

『あの黒いの、常勝無敗って話だから、指示に従ってれば良いんじゃない?』

『今日のリーダー、だれ?』

『ねぇね』『あねき』

『あ、そうなんだ。ええと……強撃陣形ってこれかな』

『みんなー、押し込むよ~。頑張ってね~』

『『『『おー!』』』』

 タワーオフェンスゲームが始まりました。レイ君達の視点は普通に帝國兵とのダンジョン攻略戦闘になりますが、指揮官である俺は戦闘しないで部隊指揮に注意を払わないといけないので、まったく違うゲームになります。なまじ迷宮マップが見えるだけに、ほとんどシミュレーションですよね。

 迷宮マップに光る青い点に意識を向けると、そのプレイヤーの詳細情報を見る事ができます。もちろんステータス全部が見える訳じゃなくて、PT戦闘でもお馴染み、名前の色の赤味具合で大凡のHPが分かるのと、職業の系統が表示されます。

 職業の系統とは、戦士職系、盾職系、弓職系、法術職系、回復職系といった感じです。このゲームではプレイヤーのステータスは基本秘匿されているので、本人の許可がないと閲覧する事が出来ません。だから、だいたいの系統が表示されてます。

 ちなみに、俺の目の前で闘っている6人PTは、盾職2人と万能職4人と表示されてました。

『中央、突破いたしました!』

『中央、そのまま2名はそのまま突き進み、伝令を見つけ次第排除せよ。他4名は敵を足止めし、可能ならば排除』

『左、通路確保したよ。誰か2人、行って!』

『左軍、雁行(がんこう)陣に変更! 味方が戻るまで通路を死守!』

『敵、援軍来てるよ……って、命令はやっ』

 うーん、点の色だけじゃちょっと分かりにくいですね~。職が系統別になってるなら、その職のキャラ立ち絵で表示されないかな~。敵兵士さんの情報も赤点に意識を向ければ分かるんですけど、いちいち意識を向けないといけないのは時間の無駄です。ぱっと見て分かる様にしてくれればいいのに。

 ……あ、変わった。思ってみるもんですね。ならマップもちょっと大きめに表示を変えてっと。うん、通路に敵味方が別れて闘っている様子がよく分かります。ついでに、動作も交えちゃいましょうか。1キャラ3コマぐらいでコミカルに動いてくださいな。そうそう、忘れちゃいけないことがありました。ちゃんと性別を分けて下さい。よしよし、これで死んでも良いプレイヤーが分かりやすくなりました。

『なぁ……気のせいか、なんか急に俺達の扱いが酷くなってないか?』

『ああ。さっきからやたらと危険な命令ばかり指名されてくるよな。通路の罠にかかりながら前進って、酷くね?』

『俺なんて、敵軍に特攻したあと敵を引き連れて戻ったら、そのまま別の通路先の敵へ突撃しろだぜ? 的確な回復が飛んでこなきゃ間違いなくお陀仏だったよ』

 時が進むに連れて用水路の全体像が見えてきます。中央軍と左軍の右通路が途中で重なり、一度合流したと思ったら一気に4つの通路に分離。カクカク曲がったかと思うと合流したりまた別れたり。右軍の進む通路も枝分かれするものの、こっちは行き止まりが多く、ジグザグしてるので面倒の一言に尽きました。ただ一様にして、砦へと続いていると思われる道には帝國兵士が待ち伏せしていたり、帝國兵がワラワラと沸いてくる場合が多かったです。

 それよりも面倒なのは、接敵時に砦方面へと逃げていく兵士さんがいる場合でしょうか。間違いなく伝令なのですが、放っておくと待ち伏せされて強襲される確率が跳ね上がるというのが厄介でした。マップ上に敵の姿がないから進ませてみると、急に敵兵士さんの姿がマップ上に現れて大騒ぎ。危険な仕事を男性陣に押し付けていなければ、危うくフレイヤちゃんを失う所でした。犠牲になった人、御免ね。

 ……っと。このタイミングで後ろからモンスター達の襲撃ですか。一人ぬくぬく安全地帯で命令を出していたら、そんな意地の悪い攻撃を受けました。

『右軍、疾風陣形! レイ、セントアンヌ、ユリアをその場に残し、他全員は速攻後退。十字路は右に進め! 以後、その部隊を第4独立部隊とする』

『え、この数を俺達3人でっすか? しかも疾風陣形だと俺の防御が劇落ちするっす』

『中央、盾1万能2の2組に分かれ、T字路にそれぞれ進め! 左軍、索敵警戒しつつ前進。左の通路に前衛戦士2名を、右の通路に戦士1名と法術士1名を送り込み、本隊は左の通路を進め。接敵時は挑発後、左軍本隊へ牽引。殲滅せよ!』

『命令されるのと同時にでっかい矢印が目の前に出てくるってのがなんかやだなぁ』

『聞き漏らしが発生しまくってるからじゃない?』

『さっきそれで壊滅しかけたしね……囮の斥候出さなかったから、思いっきり奇襲受けたし』

『普通のダンジョンみたいに自分のペースでじっくり進みてぇよな』

『それじゃミッションの意味ないじゃない』

『敵は大したことないんだけどなぁ。モンスターの方が十分歯ごたえあるし』

『これって時間制限つき?』

『マリリン、大丈夫ですかね。地下からの潜入作戦がばれていたという事は、マリリンの陽動作戦に対しても何かしらの策をうたれている可能性を否定出来ません』

『マリちゃんは高度を下げる必要がありませんから、必然的に取れる対策は絞られます。ですから……無事に逃げていてくれると良いのですが』

『でも今はこっちに集中するっす。正直、マリリンを気にしてる余裕ないっす。陣形変更、まだっすか~っ!』

『うん? どこかに消えたと思っていたダークナイトが何故ここに? ……いや、なるほど。後ろからも敵が来ていたのでちゅね。しかも、モンスター……』

『えげつねぇミッションだな。俺達も戻るか?』

『必要ない。この程度の数、私達だけで十分だ』

 この狭い場所で挟み撃ちにされるのは危険ですからね。レイ君達には悪いですけど、戦力をゴッソリ削らせてもらいました。一応、持ちこたえられると踏んでのことです。あともう一つ、とっておきを使う為にも必要な事でした。

『アドホック陣形S(スペリオル)、ロザリオストライク発動!』

『なにっ!?』

『え? こんなところでアドホック陣形? しかもSですか?』

 アドホック陣形というのは、通常PTで行う陣形とは違い、制約の多い陣形となっています。早く言えば、ちゃんとその陣形の通りに人が配置されていないと陣形効果を発揮してくれません。だから、命令している相手がNPCなら兎も角、プレイヤーだけで行うとなると結構難しい陣形だったりします。

 例えば、よく使う疾風陣形。この陣形は突破力重視の陣形のため、逆V字型に味方を配置したうえで、中央にいる味方は速度が一定値以上ないといけません。通常PTだと正しい位置関係になっていなくても疾風陣形の恩恵を受ける事が出来ますが、複合(アドホック)PTだと正しい位置関係じゃないと恩恵はもらえません。むしろ陣形効果によるマイナス効果と、陣形失敗扱いにされる事によって受けるペナルティのせいで通常よりも弱くなってしまいます。だからアドホック陣形は気軽にホイホイ使えるものじゃないんですよね。

 でも成功すると、とても大きなプラスとなってくれます。疾風陣形で言えば、一定時間は確実に速力が大幅に上昇し、加えて攻撃力も飛躍的に増加します。マイナスされる防御面も、陣形失敗時に比べるとかなり緩和されます。マスコンでもこの陣形効果は無視することは出来ません。陣形を制する者はマスコンを制する。そんな感じです。

『すごい……ヒーリング効果がついてるんだ、この陣形。しかも攻防共にめっちゃあがってるよ』

『うぉっ、ただのシールドバッシュで敵が吹っ飛びやがった』

『しかもこりゃ回復いらずだな、ヤス。おい、4人とも攻撃に回れ。一気にたたみかけるぞ』

『はーい』『殺人祭り、いっきまーす』『血……吸いほうだい……』

『お言葉に甘えて、たまには羽目を外させてもらいますね……アハハハハハハハッ! 私の前に立っている者は皆殺し! 生きている事を後悔させてあげるわっ!』

『親子っすね……』

『あれで互いの連携が完璧なのですから不思議です』

『不思議通り越して恐怖です』

 ついに本領を発揮しはじめた親子4代PTさんは放っておきましょう。フレイヤちゃん達にモンスター退治を任せて、俺はヴェル君を走らせて通路を進みます。直線路を一気に駆け抜け十字路へ。

「とった!」

 絶妙のタイミングで左右から現れた帝國兵士さん達が槍を突き出してきました。ピーンチ。

 でも大丈夫。俺にはと~っても卑怯な切り札があるのです。

 ジャーーーーーーッッッッン!!

「なっ!?」

「ぎゃっ! み、耳がぁぁぁぁっ!?」

 超特大音量でBGMスキルを使いました。

『な、なんだ今の音は!?』

『まさかマリリンの隕石っすか?』

『いえ、今のはドラの音ですから違うかと……』

『うるさーーーーーいっ!! こんな反響しまくりの場所でそんな音慣らすなーーっ!!』

『あねきも声大きい。PTチャットで叫ばないで』

 音は凶器です。超大音量で音の攻撃を受けた帝國兵士さん達は、槍をヴェル君の前に突きだした瞬間に吹っ飛ばされ、地面に倒れました。って、あれ? 予定だと槍を取り落として蹲るだけだったんだけど、何気に音の衝撃波まで発生させてしまってますよ。そんな筈ないのになぁ。まさか条件反射で自分から後ろに飛んでしまったのかな?

 兎も角、ピンチは無事に切り抜けました。

『ロザリオストライク陣形、完成! 全軍、蹂躙進撃せよ!』

『えっ? あれで完成じゃなかったんですか?』

『うぉぉぉぉっ!? 俺の防御力が初めて四桁の大台に乗ったっすーーっ! しかもHPは3000越えてるっす! もう何が来ても怖いものないっす!』

『……幽霊でも?』

『幽霊、いやーーーーーーっ!!』

『あ、レイさんに恐慌のバッドステータスが……』

『この陣形には大抵のバッドステータスならすぐに回復する効果もあるみたいなんですが、流石にリアルバッドステータスまでは回復しませんよね。ああ、折角のボーナスタイムが……』

『すご……まだ誰もS陣形の完成形って成し遂げた人いないんだよね? それをこんな所でやっちゃうなんて……あの黒いの、本当にいったい何者なの?』

『アハハハハハハッ! 見て下さい、敵がゴミのようですよ、あなた!』

『血! 血! 血!』

『はぁあんっ! この斬り心地、さいっこーっ! エクスタシーっ!』

『誰か3人を止めて……これについてくの、正直かなりしんどいんだけど……』

『ねぇね、ねぇや、私達も暴走しよ♪』

『疲れるから却下』『骨は拾ってあげるから一人で頑張って』『えー』

『血が騒ぎます……マリリンさえこの場にいれば。くっ……』

 流石に最後の一投はやりすぎだったかな~。普通にやってもこのタワーオフェンスは攻略は見えていましたが、どうせなら被害を抑えて勝ちたいので頭をフル回転させて条件を整えてみたんですけど~。ついでに虎の子の切り札である大音量BGMスキル攻撃の印象をみなさんの頭から吹き飛ばすために余分な駄目押しを敢行してみたんですけど~。

『おらおらおらおら~っ! 死にたいヤツはかかってこいや~っ!』

『がははははははっ! この歳になってもまだこのような心躍る殺戮ショーを楽しめるとは。長生きしてみるもんじゃのう!』

 人の危ない本性が色々と見え隠れしていまっす。男性陣の本性はまぁ置いておいて、女性陣の知られざる一面がちょっと怖いです。普段からだだ漏れしていた人は兎も角、普通の主婦だと思っていた人の豹変がめっちゃヤバイです。それを普通にスルーしている家族さん達の反応も怖いでっす。うん、人に歴史ありですね。レディースとかスケバンとか、そんな過去が垣間見えてきそうです。

「ども~。呼ばれて飛び出てじゃっじゃじゃ~ん。ポックルくんだよ~」

 いや、誰も呼んでないから。ポの字の欠片も口にしてないから。というか、完全に頭の中から消えてたからね、チミの存在。あと、効果音が微妙に違います。そこは、じゃじゃじゃじゃーんですよ。

「お姉さん、お姉さん。忘れ物があったから届けにきたよー。はい、これ」

 うん? さて、何でしょう。紙切れ?

「良く考えたら、僕ちゃんヴァージニアさんからここの地図を預かってたんだよね~」

 うぉい。今頃こんな物を渡されても意味がないじゃないですか。地図を見た瞬間、視界に映っていたマップでまだ埋まっていなかったところがものの見事に全部埋まってしまいました。俺達の苦労はいったい……。

「ポックル、あなたという人は……」

 いつの間にかプクーラ君も空に浮かんでいました。プカプカ、俺もそんな風に重力に逆らって飛んでみたいな~。背中の羽、動いていませんよ?

「ですが、これでようやく小生も最後の仕事が出来ます。小生もヴァージニア殿からその地図に隠されている秘密を聞いていまして。こうして、火を下からあてれば……」

 地図に色んな書き込みが浮かびあがってきました。蜜柑の汁で書いたのかな? 罠の場所やその種類、鉄格子があって行き止まりになっている場所、隠し通路とその解除方法、更には敵が待ち伏せしていた場合の予想配置と伝令が使うだろう経路まで書き込んでありました。それが一瞬にしてマッピング上に★や×などの印で表示されます。

 うん、俺の記憶にあるのとほとんど一緒です。流石はヴァニーちゃんですね。これだけの情報を事前に用意しているうえに、こうも見事に敵の配置まで当ててるなんて優秀すぎまっす。別に俺がマスコン指揮しなくてもヴァニーちゃんなら余裕で同様以上の結果を残してしまいそうです。空から敵が丸見えですし……。

 まぁ、それはさておき。ゆ~ら~り……。

「あ、なんか嫌な予感……」

「奇遇ですね。小生もです」

 スパっと解決、スパっと両断。斬っちゃいました。てへっ。

「うーぎゃ~~。斬~ら~れ~た~」

「これが二つに分かれるということですか。なるほど、これは貴重な体験です」

 ポックル君、大根役者すぎ。プクーラ君、冷静過ぎ。真っ二つにされたっていうのに、君達随分と余裕あるね。もう一回斬っておきましょうか。ロザリオストライクにちなんで十字(ロザリオ)にしちゃいましょう。一回斬るだけで二人同時に斬れます。なんてお得。

「ところで、この第三クォーターの達成率はどうやら100%にはならなさそうですね。敵は全て倒さなければならないのですが、何名かもうすぐ砦内に逃げこんでしまいます。伝令は極力潰すように心掛けていたみたいですが、撃ち漏らしが発生しています」

「ここは隠密行動必須だよ~。プッ君から説明されなかった~?」

 聞いていませんでした。アウチッ!

「待ち伏せされていたとはいえ、伝令が砦の中に辿り着かなければ潜入は成功致します」

「もう遅いけどね~。大変だよ~、潜入がばれたら砦の入口を固められて救出どころじゃなくなるからね~。最終的な目的が捕らえられたプレイヤーの救出だから、いくらここまでが順調だったとしても最後の最後でミッションは失敗! 豪華な報酬は当然貰えないし、次に繋がるイベントも発生しなくなりまーす」

「救出対象もどうなるか分かりません。こればかりは小生でも分かりかねます」

「ププッ。お姉さん初の大失態だね~。やったやった」

「人の話をちゃんと聞かないからこうなるのです。小生には責任ありませんよ」

「僕ちゃんにもね~……って。わ、やめてやめて! あばばばばばばっ」

 今度は千切りにしてみました。ほとんど意味がないと分かっていても、ついやりたくなっちゃいます。つーか、殺りたくなっちゃいます。

「小生を斬ってもなんの解決にもなりませんよ」

「解決にはならないけど嫌がらせにはなってるんだよね……うん、実はとっても痛いから。もう止めて!」

 仕方ありませんね。あと一回だけにしてあげます。

「み、微塵斬り……もう痛いのかどうかも分かんなかったよ……」

「き、貴重すぎる体験をありがとうございます……流石に次があると小生でも心が折れるかもしれません……」

 さて、スッキリしたところで。仕上げに致しましょうか。マップが全開になった御陰で敵さんの姿もとあることをしてみたら全て映し出されるようになりましたし。もう索敵とか関係ありませんね。壁の中に潜んで様子を窺っている敵兵士さんの姿もバッチリですよ。埋~も~れ~て~る~。

「……あれ? 何でだろ。敵さん、砦の中に消えないよ? 何で立ち止まってるんだろ」

「おや、本当ですね。急に走って動悸でも起こしてしまったのでしょうか。息を整えているのかもしれません」

「あ、反転した!?」

「これはいったい……いえ、分かりました。犯人はあなただ!」

 刑事ドラマよろしく、ビシッと指差されました。ん、その指なんですか? もしかして斬って欲しいんですか? では乱切りにしてしまいましょう。煮付けにして明日の朝御飯に一品付け足しちゃえ。

「小生の指は煮ても焼いても食べられませんよ」

 あら、それは残念。しかし俺が犯人ですか。いったい何を証拠にそうと決めつけたのでしょうか。まさかここから名探偵プクーラ君の華麗なる推理ドラマが始まるのかな? ちなみに俺は謎の怪人Xというライバルキャラとしてキャスティングしておきましょうか。誰を殺して何を盗もうかな~。とりあえずお姫様でも盗みましょうか。

 そしてプクーラ君は助け出したお姫様にこう言うのです。盗まれたあなたの心までは取り返せませんでした、と。エンディング曲に続く♪

「うん、こんな事出来るの、お姉さんぐらいしかいないからね。僕ちゃんもお姉さんが真犯人だと思う」

 出来心だったんです。そんなつもりじゃなかったんです。いえ、そのつもりだったんですけど、まさか本当に出来るとは思わなかったんです。だから許して下さい。

 ……と心の中で叫んでみました。

「ばぁつっ!」

 情状酌量の余地はないそうです。まぁ確信犯なのでそれも仕方のないことでしょう。

『なんかソロで特攻してきた人がいるんだけど、どうしよ。一応、倒しとく?』

『あ、御免。もう射抜いちゃった。いい的だったから、つい』

『こっちもなんかまるで夢遊病みたいな兵士がきたっすよー。でも攻撃してきたから倒してしまった後なんすけど、捕らえた方が良かったっすか?』

『別にいいだろ、皆殺しで。敵に情けをかけても後で寝首をかられるだけだぜ』

『と、経験者は語る』

『誰が経験者だ、ボケ! 命乞いしようが気絶しようが、いつもちゃんと情けなんかかけず平等にしばき倒しとるわ!』

『それもどうかと思う……』

 尚、事件の真相はこうです。マップが全開になったので、敵の配置もとある手段を使用する事で分かるようになりました。ポーンっと音を飛ばせば、カーンっと音が跳ね返ってくる。BGMスキルの応用でソナーっぽい事をしてみました。

 音の衝撃波で敵を吹き飛ばす事が出来るということは、音でダメージを発生させられるという事です。なので、瞬間的に高周波の音を発生させてみました。すると、その音は用水路内を伝い、誰かに当たるとその瞬間に1のダメージを発生させてくれました。敵味方区別無くです。でも超微小ダメージなので、誰も気付きません。もしくは蚊に刺されたとでも思ってくれたのでしょう。

 そして、ダメージが発生した瞬間。システムは攻撃したと判定し、マップ上にその場所を映し出してくれました。ソナー効果万歳。それ以後は一定間隔で誰にも聞こえない音を発生させることで、密かに全員の位置を俺は特定し続けていたという訳です。

 ポックル君とプクーラ君が俺と同じマップを見て、敵がもうすぐ砦に辿り着きそうだと分かったのもこのソナー効果の御陰です。覗き見しているマップに何故か接触していない敵さんの位置まで表示されていることに、2人は気付いていませんでした。

 そしてもう一つの種明かしです。肝心の、何故彼等は引き返してしまったのか。プラス、無謀にも特攻を仕掛けてきたのか。役目を終えたから心着なく神風しにきた? いえいえ、違います。俺が彼等を招き寄せたのです。どうやって? それもBGMスキルによってです。

 以前、BGMスキルを流し続けたことで、模擬戦マスコンで味方兵士さん達がバーサーク状態に陥ってしまった事がありましたよね? 今回はそれを応用してみました。別に確信があった訳でじゃないですけど、もしかしたら出来るかな~っと。さっき思い付いたばかりなのでほとんど賭けでした。

 簡単に言えば、ローレライの歌声です。但し聞こえないレベルの高周波でそれを行ってみました。ローレライの歌声とは、その美しい歌声で船乗りを惑わして渦潮の中に引き込んでしまうという、レイ君が聞いたらまた失神してしまいそうな類の伝説です。幽霊という訳じゃないんですけどね。でもホラーっぽいです。渦潮の中から腕が生えていそうな怖いお話です。悪霊退散。いえ、ローレライは妖精さんなんですけど。

「誰か私のこと呼んだかしら?」

 って、あなたじゃありませんよ、ピクリちゃん。誰もあなたを呼んでいません。確かにピクリちゃんも妖精ですけど、ローレライはセイレーンの一種らしいので下半身は鳥さんです。美人だという話なので、その辺で反応しちゃったのかな?

「用がないなら私はもう行くわね。今とても大変なところだから」

 すぐに消えてしまいました。大変って、やっぱマリリン達のことなんだろうな~。少しぐらい上が今どういう状況か教えてくれても良いのに~。ピクリンのいけず~。食べられちゃえ。

「BGMスキルは本来そのような使い方をするものではないのですが……」

「うん。ただ単に自分で好きなBGMを流せるようになるってだけのお遊びスキルだった筈なんだけどね~。ほら、やっぱ自分の好きな音楽を聴きながら戦闘とかしたいって人とかいるじゃん。そういうためのスキルだった筈なんだけど……」

「どうやらこの世界には小生達でも分からない謎が多々あるようですね。その筆頭があなたという存在ですが」

 また酷い事を言われちゃいました。ムカッときたときはスパッと斬ってしまいましょう。あ、避けられた。

「そう何度も同じ攻撃は食らいませんよ。あなたの攻撃は見切らせて頂きました」

「いーたーいーよ~。うう、酷い……僕ちゃんとばっちり~」

 相方さんには荷が重かったようです。俺のストレス発散に大いに役立ってくれました。ちなみに輪切りです。

「はぁ……あなたの手にかかっては、タワーオフェンスゲームもまるで意味をなしませんね。今回は最初からそれをされなかっただけでも良しと致しましょうか」

「でも、次はないからね~。著しくバランスを崩しちゃう事ばかりしてたら、またまたお仕置きコースが待ってるからね? 今度は本気で潰しに来るかも知れないから気をつけてね~」

「あ、こら。あなたはまた、話してはいけない事を勝手に話して……どうやら後でお仕置きが待っているのはポックルの方ですね」

「げっ……禁則事項だったんだ、これ。やっばー。お姉さん、聞かなかった事にして♪」

 その言葉を最後に、ポックル君の姿は消えてしまいました。うん、まるで強制的に飛ばされたような感じでした。さらば、ポックル君。君の事は忘れないよ……ログアウトするまでは。

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