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姪とオンライン!  作者: 漆之黒褐
第三節 『LEGEND OF DARKNESS』
95/115

メイド no Back Situation

 ……ピチョン……。

 …………ピチョン…………。

 薄暗い地下用水路に仄かな光源が幾つも浮かび上がり、無粋な得物を携えた謎の集団の影が幾つも石壁に映しだされます。その影は、時には小人となり、時には巨人となり、彼等の不気味さをより一層に引き立たせます。

 先頭を進むのは、巨大な盾を背中に担いでいる鎧重戦士の男性。ハッキリ言って、邪魔です。身体が大きいから尚更前方の視界が悪いです。でもこんな狭い通路で敵と遭遇した場合、先頭はまず真っ先に敵の攻撃を受け止める事になるので、これは仕方のない事なのです。それに彼は罠発見のスキルも持ち合わせているらしく、実はそれなりに役に立っていたり。

 ちなみに、彼の相方であるもう一人の鎧重戦士の男性は、罠解除のスキルを持っているそうです。分業ですね。

 先頭集団は場慣れもしてる親子関係だという6人にお任せして、俺はみんなの真ん中にいます。後ろはレイ君達に任せてあります。後ろから敵がやってくるとは思いませんが、念の為です。前に壁職2枚、後に壁職1枚。真ん中には壁職のように見えるけど、その実、とっても柔い俺。一目しただけじゃどこ攻めても堅そうに見えますね。

「ねぇや、こんな所でオニギリ食べて美味しい?」

「食べるの忘れてたんだから仕方ないじゃない。背に腹は変えられないわよ」

「ねぇね、こんな所でサンドイッチ食べて美味しい?」

「ミクちゃんも食べる? 景色忘れて良い男ウォッチしながら食べると美味しく感じられるよ~」

「遠慮しとく。私は新発売のすき焼き風味プチポを飲んで飢えを癒すから」

「そんなの出たんだ。美味しい?」

「うん、美味しい。でも……毒効果付きだったみたい……効能聞くの忘れてた。あとで回復お願い」

 仲良し信号三姉妹ちゃん達は俺の目の前で食べ歩きしてました。この三姉妹ちゃん、赤黄青という色違い装備を身に着けているんですけど、いつも身に着けている色は違ったりします。なのに顔も体形も同じという、いったい誰を騙すつもりなんだというそっくりさん。流石に職業は3人とも違うので盾職/弓職/回復職の装備品で簡単に区別する事は出来ますが、3人とも同じ装備を3色揃えているのは何故なんでしょうね~。うん、彼女達の考えている事はよく分かりません。たぶん長女は女子高生ぐらいかな? コギャルコギャル。

 食事をちょっと食べ忘れていたからといって、ちょっとした空腹に悩まされるだけでペナルティが発生するのは結構時間が経ってからなんですけどね。15時間ぐらい飲まず食わずでも普通に動けちゃいます。だから、こんな汚いところで食事して欲しくないな。手も拭いていませんでしたよ。教育上宜しくないので、センねぇちゃんには見せられません。マリリンはお空の上なので、そもそも見る事は出来ないので安心でっす。

「コンコン。ちゃんと入ってるか?」

 真後ろで俺の鎧を小突いて遊んでいるのは、身体は大人、心はお子ちゃまのフレイヤちゃんです。言動は大人っぽくみせてますけど、行動はやっぱり子供のそれです。好奇心旺盛で、こんな禍々しい鎧を着ている俺とは初対面なのに好奇心の方が勝ったのか色々と話し掛けてきます。正直、無視するのがちょっと辛いです。良心の呵責が……俺、実はお子様が弱点なのかもしれません。

 その他大勢は割愛。女の子が混じっていないので興味ありません。

「おっ、広場にでたな」

「ここが第二目的地か。戦闘らしい戦闘も無かったから楽勝だな」

「各自、装備とアイテムをチェックしてくださいね。ここからが本番らしいので」

 なんでこんな所に数十人が一度に休める広場があるのかという疑問は考えないようにして。皆、各々シートやゴザを取り出して座り始めました。俺も黒馬ヴェルシュナイツァーちゃんから降りて一休みです。ヴェルくんお疲れさま~。こんなとこまでご苦労様です。でも、馬に用水路って似合わないね。

 ヴェルくんがフリーになったことで、フレイヤちゃんやセンねぇちゃんなどの年少組が我先にとヴェルちゃんに乗り始めました。モテモテですね。ヴェルくんは巨大なので、5人ぐらい乗ってもへっちゃらです。

 その巨体の御陰で俺は騎乗中ずっと背中を丸めて頭を下げてないと天井にゴリゴリと兜を引き摺る事になるのでちょっと疲れましたよ。コケやらカビやらでビッシリと覆われている汚い天井を引き摺るのはとっても嫌です。いっそヴェルくんに抱き付いてしまいたかったです。お互い雄同士なので流石にそれは憚られましたけど。

 ……前言撤回。俺はこっちでは牝でしたね。だからヴェル君いつも嬉しそうなんだ~。何特。

「では、そろそろ小生の出番ですね。皆様方はそのままでお聞き下さい」

 いつの間にかどこかに行っていた三賢者の頭脳担当、学者妖精プクーラくんが忽然と宙に現れてみんなの注意を引き付けました。だって、とっても明るいんだもん。後光が輝いています。その演出って、このタイミングで必要です?

「第一クォーター、第二クォーター、お疲れ様でした。どちらもただ目的地に向かってひたすらに進むだけの内容でしたので何も心配していませんでしたが、誰一人欠けることなく達成する事が出来て何よりです」

 第一クォーターは山岳地帯を道なりに用水路の入口まで進むという内容でした。道中に現れた敵さんは飛行系が多く、主に遠距離攻撃を得意とするプレイヤーが活躍してくれました。もちろん、盾職の3人も走り回って必至に攻撃を受け止めてましたが、端から見たらバタバタ忙しなく走っているだけでしたからね。相手が挑発スキルの効かないタイプだったので、足で頑張ってくれました。意外とずるっこいね、敵さんの設定。

 用水路の入口は岩の隙間から流れ出てきている小さな川を渡った先にありました。川はリアルにいるユキちゃんぐらいの体格なら潜って進めないこともなさそうな入口の狭さなので、ここにいるプレイヤーさん達では誰も入る事は出来ません。まぁ普通はそんな事はしないと思いますけど。

 その川よりちょっとだけ進んだ先の壁で、ゴツゴツした岩壁のとある場所を押すと、あら不思議。落とし穴が現れて俺は落とされました。ひゅ~~ん、バシャッ。HPが20%ほど削られましたね。そこまで深くないみたいです。でも下は用水路の中だったというのはちょっと勘弁して欲しいです。

 俺に続いて上からどんどん人が降ってきます。そのほぼ全員を、簡易足場として受け止める事になりました。俺の兜目掛けて女性陣の足や股が迫ってくるというのは何とも嬉しいシチュエーションです。その後に待っている衝撃でHPがガスガスと減っていきますけど。ただ、レベルが低くて良かったです。消費するプチポちゃんの数が少なくて済みましたから。

 何度も足蹴にされたり、肩車キャッチする事になったり、その180度逆の事が起こってしまったりした後、重量級の男性陣が降ってきました。レディーファーストだったようです。そういえば俺もここではレディーキャラだから、最初にエスコートされたってことになるのかな?

 お務めを終えたのでサッサと用水路から退いちゃいます。野郎を受け止める趣味はありません。悲痛な悲鳴が何度もあがりましたが、そのたびに女性陣から矢面に立たされた俺は折角用水路から出たのに水を被ることに……。この鎧が完全防水仕様で良かったな~。

 用水路に全員が揃い、センねぇちゃんお得意の水法術で全身洗浄した後。ヴェル君が用水路に降りてきてもう一度身体を洗う必要がありました。ついでにヴェル君の身体もウォッシングです。ブラッシングはまた今度ね。

 第二クォーターもほぼ一本道の通路を進むだけでした。襲い掛かってくる敵さんは、正面からはサハギンタイプの集団が、後ろからはドブネズミなどの動物系の大集団が、そして水路の上をバッサバッサと飛んで蝙蝠さん達が中央にいる俺達に襲い掛かってきました。こんな汚い用水路に住んでいるらしいサハギンさん達には同情しつつ、容赦なく倒して用水路に落としていきます。どんぶらこっこ、すっこっこ。この用水路の先には何があるのか知りませんけど、モンスターさん達の死骸で詰まって水が溢れかえりませんように。まぁ一定時間で消えちゃうのでそんな心配はありませんけどね。

 3タイプの敵集団の中で一番厄介だったのは、後ろから襲い掛かってきたドブネズミさん達でしょう。蝙蝠さんは信号三姉妹の次女、弓職ガールが簡単に撃ち落としてくれていましたが、数の多いドブネズミさん達はレイ君達の守りを越えて俺達のところまでやってきました。チュッチュチュッチュ五月蝿かったです。ついでにキャーキャー五月蝿かったです。女の子は鼠が苦手ですからね。弓職ガールさんの攻撃が止まってしまい蝙蝠さん達の連携が決まってしまった時には少しだけ焦りました。

 そんな折に大活躍したのがヴェル君です。ドブネズミさん達をプチプチと踏み潰してくれました。騎乗させてくれるだけじゃなくて、一緒に闘ってもくれるんですね。それとも、避けようとしたらジャストミートし続けてしまっただけです? ま、どっちでも良いですね。結果よければ全て良しです。

 ちなみに、ドブネズミさん達は先頭にいる親子6人PTさん達の方までは辿り着けませんでした。彼等は戦闘らしい戦闘はなかったとさっき言ってましたが、それはサハギンさん達と貴方達の間に実力差がありすぎたのと、且つ蝙蝠さんもドブネズミさんも貴方達のところまで辿り着けなかったからです。第二クォーターは質より策、そんな感じで俺達を苦しめてくる内容だったみたいですね。

「さて、これより本命の第三クォーターが始まるのですが、その前に皆様にはこのたびの戦争の経緯について少しばかり説明致したいと思います」

「え~と……なんで? その話とシンちゃん救出作戦と何の関係があるの?」

「残念ながらその質問に小生は答えることが出来ません。その権限を与えられていませんので。ですがいずれ分かることですので、今は気にしなくて良いかと」

「砦を攻めるミッションに参加する事でそのうんちくを聞けるようになってたってことか」

「今までよく分からず戦争に参加してたんすけど、これでようやく謎の一つが解明するっすね」

「あれ? 今回の戦争って、お偉方が馬鹿だから起こった戦争なんじゃないの? ほら、例の襲撃事件関連でさ」

「あれはプレイヤーの誰かの勘繰り話でしかありませんよ。NPCから話を聞くのは恐らくこれが初めてです」

「いえ、バルトロス砦侵攻ミッションは過去に何度か行われてますので、今回が初という訳ではないと思いますが」

「あれ? だったら何でまだ情報が出回ってないんすか? おかしいっすよね」

「全員が全員、聞いた内容を他の人に話すとは限らないじゃない」

「皆様方、静粛に。今は小生のお話に耳を傾けて下さい。作戦開始時刻までもうあまり時間がありません。陽動作戦が失敗に終われば困るのは皆様方なのですよ?」

「あ、そうでした。お話、お願いします」

「コホン。今はもう昔となってしまったことですが……」

「何故に今昔物語風……」

「しっ」

 何でも、この辺り一帯は以前、ヴァニーちゃんの祖父が治めていた土地だったそうな。祖父と言っても、龍の血も王族の血も持たない伯爵様で、既に没落している家だとか。

 ヴァニーちゃんはその伯爵家が没落する以前、幼少時にこの砦へ何度か遊びに来た事があるそうです。恐らくヴァニーちゃんはその時に祖父よりこの用水路の話を聞いていた、もしくは子供ながらの好奇心旺盛さで偶然この用水路を発見したかのどちらかだとプクーラ君は推測します。ちなみに後で本人に聞いたところ、先に隠し扉を発見し、祖父に話を聞いたという答えが返ってきました。

 その伯爵家が没落したのは、祖父の息子でありヴァニーちゃんの母親の兄にあたる叔父が、こともあろうに自ら兵を率いて帝國へ戦争を仕掛けたからだそうです。何故そんな馬鹿な事をしてしまったのか。本当に馬鹿だったんですか?

 いえいえ、どうやらそういう訳じゃないそうです。どうも、彼は重度のシスコンだったそうで。ヴァニーちゃんの母親……つまりその叔父の妹にあたる女性は、ヴァニーちゃんを産んだことで長い間体調を崩していたそうなのですが、ついに来る時がきたそうなのです。つまり危篤状態です。

 シスコン叔父さんはヴァニーちゃんの母親を助けるためにずっと色々と駆け回っていました。そして見つけた手段の一つに、帝國が所持している何でも癒す事が出来る神器の存在があったそうです。当然、ヴァニーちゃんの叔父は何度も帝國にお願いし続けました。妹を助けるために神器を使わせてくれ、と。

 しかし願いは叶わず。ヴァニーちゃんの母親は程なくして息を引き取ったそうです。

 逆上したヴァニーちゃんの叔父は、無謀にも私兵を率いて帝國に報復戦争を仕掛けます。しかし、最初からそれを期待していた帝國は、ヴァニーちゃんの叔父が帝國領に無断で侵入したその日のうちに大部隊を率いて侵攻。手始めに、戦争の引き金を引いた伯爵家の領土を奪いつつ、大儀は帝國にありと謳ったそうです。

 皇国も一応はその伯爵家が何かやらかさないかと目を光らせていたみたいですけど、肥え太り平和ボケした中央が事態の重さを正確に認識出来る訳もなく。気が付けば攻め込まれていたのだとか。いち早く情報をキャッチしたヴァニーちゃんが動かなければ、一戦も交える事なく王都へと敵軍が流れ込んでいた可能性が高かったそうです。

 ちなみに、その時の一戦が例の加速世界で行われたマスコンだそうです。特殊イベントとして処理されているため、実際の時間軸ではプレイヤーは誰も参加が出来なかった一戦となっています。戦争が行われていたエリアにも入る事が出来なかったそうです。近づく前にNPCさん達によってブロックされました。強引に突破しようとしたら謎の隕石が飛来してきて殺されたそうです。マリリンがやった事じゃないのに、何故かマリリンのせいにされているそうです。

 ヴァニーちゃんの叔父は戦死。祖父もバルトロス砦の攻防戦で戦死。ヴァニーちゃん以外の伯爵家の血に連なる人達は、皇国によって処刑されるか帝國に捕らえられて処刑されたそうです。生き残りゼロだそうです。王族の血と龍の血を引いていることでヴァニーちゃんだけは生かされましたが、既にヴァニーちゃんの王位継承権は剥奪されているので、形式的には天涯孤独の身になってしまったそうです。

 王弟であり実の父だった男性も既に政変でこの世にはいません。父方の祖父にあたる先代の王は、現在の王様によって亡き者にされたという噂も流れてします。いや、そこまでドロドロとした情報はいらないから。

 ドロドロとした情報の代わりに嬉しい情報も。ヴァニーちゃんには皇国が決めたフィアンセがいたそうですが――顔も見た事がないそうです。たぶん意図的に会わないようにしてたと思います――このたびの件で婚約が解消されたそうです。

 つまりヴァニーちゃんは晴れてフリーの身に。17歳独身で美人、元王女様、元伯爵家の令嬢、天馬に跨っていることからして確実に乙女、傷心の身で狙い時、伯爵家が没落したことで平民に落とされているので身分の差もまるでなし。男性陣からよっしゃ、という声があがっていましたよ。

 この世界ではNPCとも結婚出来るみたいですからね。既に何人もの強者達が難攻不落の砦を攻略したそうです。NPC男性陣も含めて競争率が高かったクエスト斡旋所の受付嬢リリーさんも既に既婚者組です。

「話、長いっす……とっくにマリリンの陽動作戦が始まっていてもおかしくないぐらい長かったっす……」

「そこは問題ありません。時間を止めてありますので」

「止めてあるのかよ! だったら黙って聞いてる必要なかったじゃねぇか! あー、時間を無駄にしたぜ」

「いや、時間止まってるから無駄になってないし」

「時間止まってるなら色々質問すれば良かったかな~。せんせー、今からでも質問いいですかー?」

「既に時は動いてますので、手短にお願い致します」

「動いてるのかよ!」

「Zzz……」

「あ、フレイヤさんが寝ています。起こさないと……」

 もう少しだけヴァニーちゃんのことを語るとすれば、一応は王女さまだったので騎士をさせるなど言語道断でした。でも、王位を剥奪される事が確実視されていたことと、伯爵家とは徐々に疎遠となっていた事で騎士の道に進む事も可能だったそうです。でも当時はそんなこと露にも思わなかったのだとか。普通にお淑やかなお嬢様をしていたそうです。

「では、そろそろ次の第三クォーターの概要を説明致しますね。今度は時間を止めませんのでよく聞いて下さい」

「止めねぇのかよ……」

 ところがある日のこと、運命の出会いが! いえ、婚約を解消されたというフィアンセさんとの出会いじゃありませんよ。天馬ウィンダリアちゃんを身籠もっていた母親ペガサスと偶然に森で出会ったそうです。

 あ、何故お姫様が森にいたかという謎に関しては触れないであげてください。お淑やかなお嬢様というのは仮の姿、本当は超御転婆姫だったのかもしれませんね。昔の話を美化してしまうというのは誰でも一緒なのです。

「せんせー。さっきからダークナイトさんが全然動いていませーん。小一時間ずっと固まったままでーす」

「揺すってみましたか?」

「重くてまったく動きませーん。まるで銅像のようにカチカチでーす」

「あ、本当ですね。押しても引いてもまったく動きません。回線が固まってるのでしょうか?」

「ちょっとどくっす。日頃の怨みを込めて俺が殴ってみるっす」

「何気に物騒な言葉が混じってますね。毎日参加してるマスコンでいったい何が……」

 身籠もったペガサスを連れ帰ったヴァニーちゃんは、赤ちゃんが産まれるまで母親ペガサスを世話したそうです。何故連れ帰ったとか、どうやって子供の身で連れ帰る事が出来たのかとか、そういう質問はしちゃいけません。これは運命だったのです。

 人に捕まった母親ペガサスは――あ、捕まっちゃったって言っちゃった――暫くしてウィンダリアちゃんを産み落としたそうです。それからは、ヴァニーちゃんの愛はペガサスの赤ちゃんであるウィンダリアちゃんに向きました。と言っても別に母親ペガサスから赤ちゃんを引き離した訳ではなく、まるで競い合うようにウィンダリアちゃんに愛を注いでいったそうです。

「ダメっすね……反撃ダメージまで受けたっす」

「オブジェクトトラップかよ」

「兜、脱がしてみる? そしたら直接中身を攻撃出来るかもよー」

「寝てるか固まってるかも分かりますしね」

 数年後。母親ペガサスは娘の成長を見届け終わったかのように、忽然と姿を消したそうです。ただ単に目を離した隙に飛んで逃げちゃっただけだと思いますけどね。本当はウィンダリアちゃんと一緒に旅立とうと思っていたのだと思いますが、その頃にはもうヴァニーちゃんがウィンダリアちゃんにべったりで四六時中一緒にいたため断念したんだと思います。ああ、哀れ母親ペガサス。私の子供だけが目当てだったのね、と泣きながら傷心旅行に出かけたのでしょう。

「ぐっ……無理か。くそっ」

「セン、この兜、中身だけ一刀両断出来ないっすか?」

「中身を一刀両断したら不味いだろう。兜だけ斬れよ」

「やってみます。……はぁっ! 裏・秘奥義、断罪烈破斬!」

「裏秘奥義とか! めっちゃ攻撃力高い技キターっ!」

「まともに受けたらガチガチに固めた俺でも即死するっす。防御無視技っすね」

「防御無視の時点でガチガチに固めても意味ない気が……」

「あの……みなさん、小生の話をちゃんと聞いてますか?」

 ペガサスとくれば、天馬に乗った乙女騎士。天馬騎士になるには赤ちゃんペガサスを自分で育てるか、野良ペガサスを探して心を通じ合わせる必要があるそうです。もちろん、ペガサスに乗るには純血の乙女じゃないといけません。

 ヴァニーちゃんの場合は前者に該当し、周囲の勧めもあって騎士の道へと進むことにしたそうです。普通の騎士とは違い、そう簡単に天魔騎士を増やす事は出来ませんからね。領土が広大な帝国ならいざ知らず、皇国にはペガサスが頻繁に羽を休める土地はないらしく、天馬騎士の数もなかなか増えなくて困っているそうです。

 いや、その前に男性ばかりいる騎士の世界をなんとかしようよ。思い切り男性優遇の世界になってますよ。皇国には女性騎士や女性兵士さん達がほとんどいません。まぁ何となく分かりますけどね。戦場だと女性は色んな意味で危険ですから。でも今まで長く戦争が無かったので、もう少しぐらい軍部に女性がいても良い気がするんですけど~。

「残念、倒せませんでした」

「いや、倒しちゃダメでしょう」

「センでもダメっすか。流石、堅いっすね」

「いえ、恐らくその逆です。裏・秘奥義、断罪烈破斬は相手の防御力が高ければ高いほど与えるダメージが大きくなるという技なので、ダークナイトさんの防御力は思っていたよりも低いと思います」

「そういえば、マスコン中に彼女がまともに攻撃を受けたところを見た事がありませんね」

「この見掛けの邪悪さはフェイクかよ。中身は回避型ってことか」

「だとしたら、レイさんが殴ってもまるでダメージを与えられなかったのが気になりますね」

「あ、御免っす。俺の攻撃力、素手だと雑魚でも二桁ダメージなかなか出せないぐらい弱いっす。だから、一定値以下のダメージを無効にする効果をこの鎧が持ってたら間違いなくノーダメっす」

「似たような鎧着てるんだから、殴る前に気づけよボケ」

「あなた。あなたの事を理解している私達家族に対して言うなら兎も角、人様の子供にそんな暴言を吐くのはダメですよ。謝って下さい」

「っと、そうだったな。すまねぇ、坊主」

「気にしてないっす。それに毎日師匠から聞いてるから慣れてるっす」

 それはそれとして、成長したことで自分の置かれている状況を理解したヴァニーちゃんも、自身の未来に関して思う所がやっぱりあったのでしょう、お嬢様としての生き方から騎士としての道を徐々に志すようになりました。本人にもその才があったのか、メキメキと実力をつけていき、今の地位にまで登り詰める事が出来たそうです。いくら押し付けやすいからと言っても、能力がなければ仕事は押し付けられませんからね。色んな肩書きを持っているというのも、やはりヴァニーちゃんが優秀だという証なのだと思います。

 ちなみに、お嬢様の世界では17才というのは既にいきおくれなんだそうです。-1歳~5際で婚約者候補が列挙され、6歳~8歳ぐらいで婚約者が決まり、10歳の誕生日パーティーで顔合わせ、12歳で結婚というのが最も早いパターンだそうです。遅くても14歳で結婚、15歳になるとかなり慌て始め、16歳だとレッドゾーン。なので17歳でまだ結婚していないというのは、貴族世界ではあるまじき事だそうです。

 そうなったら最後、いったい誰に嫁がされるか分かったものじゃないのだとか。死期が間近のご老体に嫁がされるか、それとも悪い噂が絶えない中年親父の妾とされるか、もはや未来は絶望的なのだそうです。例え婚約者がいても、16歳までに結婚しないと婚約解消されるという可能性も少なくないとか。17歳でも十分ピチピチなのに……リアルとはまるで世界観が違いまっす。

「家族って、良いですね。私もいつかそのような家族をもちたいでちゅ」

「あ、フレイヤさんが起きてる。おはよう御座います」

「おはよー」

「おっはー」

「はよ~ん」

「お早う御座います。大変お見苦しい所を見せてしまい、申し訳ありません」

「気にしない気にしない。一休み一休み中だったし」

「というか、フレイヤさん家族いないの?」

「あ、こら。またあんたは……相手の気持ちをもっと考えてから発言しなさいよ」

「大丈夫です。慣れていますので……」

「こっちは坊主の慣れとはまるで重みが違うな」

「比べないでほしいっす」

 ヴァニーちゃんも帝國との戦争が始まる前までは婚約者がいましたが、既にその時には17歳。婚約解消されてもおかしくないお年頃でした。でも相手方の男性はとてもヴァニーちゃんを気に入っていたので、20歳までは待ってくれるとのことだったそうです。ただ、その男性には既に側室やら妾やらが何人もいるらしく、どちらかというとヴァニーちゃんに付属している伯爵家令嬢の地位もしくは元王位継承者もしくは龍の血を持つ者としての価値の方に興味があっただけなのかもしれません。会った事すらないのに気に入るって明らかに変ですしね。ヴァニーちゃんが結婚を遅らせていたのも分かるというものです。

 あれ、そうなると帝國との戦争が始まった原因に、実はヴァニーちゃんの裏工作が関わっているという疑いも出てきましたよ。結婚が嫌で、叔父がシスコンである事を利用してあることないこと吹き込んで戦争を起こさせた、そう考える事も出来ちゃうのですが。なまじ優秀なだけに不可能じゃないところが怖いです。ヴァニーちゃんにとってこの皇国での未来はあまりいいものじゃなさそうでしたからね。

「暗い話はそこまでにして。そろそろこれからどうするか考えましょうか」

「そうっすね。でも、肝心のリーダーがこれだと……さて、どうするっすかねー」

「コンコン、入ってまちゅか~?」

「返事がない。ただの屍のようだ」

「実際、中身が骨人間だったらどうします?」

「いくら性別が女性でも中身が骨身だと全然萌える気がしないな」

「わーっ、何も聞こえないっす聞いていないっす! 悪霊退散悪霊退散! ナウマク・サマンダ・ボダナン・ボラカンマネイ・ソワカ!」

「うぉ、なんだ?」

「あ、すみません。レイはそっち系がダメでして」

「つーか、何故に梵天の真言(マントラ)。そいつに悪霊退散の効果あったか?」

「梵天は守護神なので、どちらかというと守ってもらう方かと」

「あくまで守り重視かよ……」

 ……実はヴァニーちゃんが真の黒幕だったり致します? いえ、まさかそんな。いくらヴァニーちゃん関連のクエストやミッションがやたらと多いからといって、そんなことはきっとありませんよね。天馬騎士だから乙女の純血を維持しなければいけないだけですよね。優秀さが裏目に出ているだけだと思います。

「あら、用水路から手が出てまちゅね。この砦で殺された兵士さんの幽霊さんかもしれません」

「あ、固まった。フレイヤさんも悪ノリしないでください」

「つい出来心で。済まない」

「不気味な銅像が二つになったな」

「折角だからバイザーも降ろしちゃおっか」

「暗いのは嫌っす~~っ!!」

「あ、気が付いた」

「あ、こら。暴れるな。敵に気付かれるだろうが」

「ちょっと失礼しますね」

「嬢ちゃん、あぶな……って、随分手慣れてるんだな。あっさり絞め落としやがった」

「長い付き合いですので」

「ユリさん、今度その絞め技、私にも教えてもらえませんか? リアルで絞め落としたい方がいますので」

「はい。では、明日などどうでしょうか? 休日ですし」

「お願いします」

「おい、ヤス。和やかムードで物騒な約束が交わされてるぞ。現行犯逮捕しないのか?」

「誰がヤスだ、ボケ爺。それに俺は警察官じゃねぇ。検察官だ」

「小生は自らの仕事をまっとうするだけです。例え誰も聞いてなくとも、小生は一切の責任は負いませんのであしからず」

 そう言えば、今日のミッションが開始する前、ヴァニーちゃんにこんな事を言われたなぁ。ちょっと思い詰めた顔をして「もし私がウィンダリアに乗る事が出来なくなったら……カズミ度も、私をどうかカズミ殿の家にいさせてくれないか?」なんてことを言われました。あれって、働き口を失うから暫くメイドとして雇ってくれというお願いだと思ってたんですけど、ヴァニーちゃんがこのミッションに勝手に参加してきた事で少し事情が変わってきましたよ。

 ヴァニーちゃん、婚約解消されたことで少し焦ってるのかなぁ。潔白であろうと黒幕であろうと、結果的に婚期を逃していることには違いありませんからね。きっと俺をターゲットにして何とか結婚に漕ぎ着けようと……あれ? 俺は女性キャラだから、ヴァニーちゃんとは結婚出来ないでしたよね。あれあれ、なまじ中身が男だから頭が混乱してきましたよ。

「とりあえず、なるようになるだろ。開始時間までに2人が気が付かなかったら、各自自由行動で行こうぜ」

「それじゃ、私達は左の道に進むね~。私と一緒に進みたい人、この指と~まれっ!」

「ねぇや、どうする?」

「そうね……私達は右の道にしよっか」

「ちょっと待てぃ! 私達がばらけてどうすんのよ!」

「冗談よ。真に受けないでよ、ミニー」

「私達はレイが起きたら右の道に進みますね」

「んじゃ、俺達は残り物を頂くとするかな。中央へ進むぜ」

「私は……」

「フレイヤさん、私達と一緒に右の道に進みませんか? 戦力バランスが左の通路に偏りかけているので、是非お願い致します」

「分かった。私は右の道に進むとしよう」

 下手な考え休むに似たり。ちょっと考えすぎかな? ヴァニーちゃんも皇国が戦争に負けるって事は分かっていると思うから、ただ単に敗戦後は友達である俺の家に厄介になりたいと言っているだけだと思います。今日の救出ミッションに参加してくれたのも、お友達として見捨てられなかっただけですね、きっと。

 王籍、貴族籍を剥奪されたことで交友関係は全てリセットされちゃったと思いますし、軍部には仲良く出来そうな女性はほとんどいませんから、ちょうど都合良く現れた俺のようなプレイヤーという存在に救いを求めているだけだと思います。プレイヤーは皇国のしがらみにはまるで関係がありませんからね。ヴァニーちゃんも平民に落とされてるので、プレイヤー達とは友達にもなりやすかったのだと思います。

「そろそろ開始時刻です。準備は宜しいでしょうか?」

「全然宜しくないけどな。まだ2人、意識が戻ってねぇぞ」

「だとしても、作戦は予定通り開始されます」

「ねぇねぇ、ピクリンってマリちゃんと一緒にいるんだよね? だったらプッ君がテレパシー飛ばして開始時刻を少し遅らせない?」

「出来ますが、既に手遅れかと」

「ん? なんで?」

「たった今、フライングで上の砦に小隕石が落とされました」




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