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姪とオンライン!  作者: 漆之黒褐
第三節 『LEGEND OF DARKNESS』
94/115

真 no Paralysis

 ピンポーン。あら、呼び鈴だ。だーれっか来ーたのーかな~っと。

「わたくしが応対しますのですの。シェラーリちゃん、一緒にお出迎えしますのですわ」

 金曜日の午後。ユキちゃんに肩を揉み揉みしてもらっていると、どなたか知りませんが家にやってきました。今日はこれといって誰かが来る予定はないんですけどね。今時は新聞の勧誘なんてものもなく、通販で何かを買った訳でもないので宅急便でもまずありません。

 まさか、強盗!? だとしたらユキちゃんが危ないです! クロヒメちゃん、ゴー。

「わっ。ちょっと、クロヒメ氏。突然どうしたのですか。僕の頭はそんなに高くありませんよ」

 おや、この声はシン君ですね。いらっしゃーい。

「良く来たな、待っていたぞ」

「突然の訪問、すみません。それと、彼女はお返ししますね」

 クロヒメちゃんがシン君の頭の上からジャンプ。くるりと一回転して見事俺の頭の上に着地です。でもちょっと勢い余って滑り落ちそうになったので俺のサポートが必要でした。残念、7.77という評価をあげちゃいましょう。

「早速だが、肩を揉んでもらおうか。シン君がどれだけ腕前をあげたか確かめてやろう」

「はい。お願いします」

 ああ、そこそこ。気持ち良いです。でもユキちゃんとあんまり力が変わりませんね。もう少し強くしても良いのよん。

「……あの、なんで僕は来て早々カズミ氏の肩を揉んでいるのでしょうか?」

「粗茶ですが」

「あ、いただきます。今日のオヤツは栗ヨウカンなのですね」

「肩揉みの報酬だ。受け取れ」

「えっ、それが理由」

 3人でお茶の間を囲んでまったり。ユキちゃん、また腕をあげましたね。お茶が美味しいです。ところで、この栗ヨウカンはどうしたんですか? あら、お隣のお婆ちゃんからもらったんですか。今度お礼を言いに行かないといけませんね。もちろん、娘さんがいない時を見計らってですけど。娘さん、可愛いんですけどね~、俺に何故か敵愾心を持っててあんまり近づきたくないんですよ。早く誰かもらってあげてください。

「今日は返さないぞ」

「相も変わらず突拍子がありませんね。ですが、今日はそのつもりでお邪魔致しましたので、ご厚意に甘えさせて頂きます」

 少し大きな荷物持ってたからそうじゃないかな~っと思ってたけど、やっぱりそうなのですね。いつも通りの私服姿なので、学校から直じゃなくて一度家に帰ってから来たのが一目瞭然です。

 そういえばシン君の制服姿、見た事ない……もうすぐ運動会シーズンだから、こっそり見に行こっかな~。あ、でもその時は体操服姿か~。うーん、それも捨てがたい。

「ときに越後屋よ。本日の要件はなんだ?」

「山吹色のお菓子はありませんが、悪代官様にご報告があってやってきました」

「おじさま、悪代官なのですの? 着物を着てあーれー致しますのですの?」

「それは夏にやったばかりだから、次はお正月にしような」

「やったんですか……」

「4人ともクルクル回したぞ。今度はマコちゃんも回してあげよう」

「楽しかったのですの。是非、マコトさまも一緒にあれあれ回るのですわ」

「遠慮しておきます。……4人? あと一人は誰です?」

「彩華ちゃん」

「おじさまが隙をついて彩華さまの帯を引っ張っちゃったのですの」

「それはまた……良く斬られませんでしたね」

「勢い余って素っ裸になってしまい、それどころじゃなかったからな。まさか律儀に下着をつけていなかったとは思わなかった」

「人様の娘さんに何てことをしてるんですか……犯罪ですよ」

「ちなみに、決定的瞬間を狙って構えていたカメラマンのリンちゃんが当時の状況を激写している。見るか?」

「犯罪ですよ!?」

「クックックッ……いずれはメグちゃんもカナちゃんも、そしてマコちゃんのあられな姿も我がコレクションの一部に加えてしんぜよう」

「僕のもですか……来年の正月は神社の手伝い断ろうかな……」

「おじさまおじさま、わたくしもお巫女さんしてみたいのですの」

「よし、一緒に巫女になるか」

「わーいですの。お巫女さんですの」

「……ああ、メイドオンラインでという事ですか。一瞬、こちらの世界のカズミ氏の巫女装束姿を思い浮かべてしまいました」

「そんなの見ていったい誰が喜ぶんだ?」

「ご紹介致しましょうか? 一応、僕の知り合いにキワモノ好きの方がいるのですが」

「遠慮しておく」

 今更ですが、本日はメイド世界でシン君が帝國に掴まった日の翌日になります。つまり、ご覧の番組は少しだけ時間を巻き戻してご提供させて頂いてまっす。勘の良い人は今日が金曜日だということと、シン君が本日お泊まりするというお話でピンときたと思いますけどね。

「たっだいまー」

「ただいま、です……あれ……」

「あれ、越後屋さんだ。はろはろー、マコっち」

「マコト、さん……ちゃおちゃお……」

「どうも、お邪魔しています。……なんで越後屋なんだろう、僕……」

「丁度良い。ちょっと俺はマコちゃんと2人きりで大人のチョメチョメするから、3人は今晩の夕食の具材を買い出しに行ってきてくれるか?」

「いいよ~。オヤツにはいくらまで使って良い?」

「500円」

「もう一声! 2000円」

「それは流石に高いだろ。550円」

「あげ幅ひくっ!」

「おじさま、お駄賃に一人300円プラスでどうなのですの?」

「ユキちゃん、ぐっじょぶ……あわせて、1450円に……なる……」

「あの……そんなことより、僕がカズミ氏にチョメチョメされるのは……良いのですか……?」

「?」

「マコっち、チョメチョメってなに?」

「えっと……カズミ氏、意外と真面目にお三方を大切に育てているのですね。純粋すぎます……」

「私は、なんでも……知っている……」

「あ、一人だけ違った」

「しょうがないな。お菓子は600円まで、お駄賃一人あたり300円で手を打とう」

「わーい。おじさん、わっかる~」

「わーいなのですの」

 邪魔者はいなくなりました。これで心置きなくシン君と大人の会話が出来ますね。

「それじゃ、俺の部屋に行こうか」

「え、ほんとに?」

「最初から泊まる気だったということは、そのつもりでもあったんだろ? クックックッ……なに、悪いようにはしないから安心しろ。痛いのは最初だけだ」

「あ、悪代官……」

 シン君を強引にお部屋に連れ込みました。やったね♪



♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪



「それで? 俺に相談したい事って何だ?」

 言っておきますが、皆さんが考えたような展開はありませんからね。だってシン君は男ですから~。いくら可愛くても、リアルではちょっと……。

 というわけで、まだ夜ではありませんけどメイドオンラインの世界にやってきました。最初からシン君はお泊まりする予定だったので、VR機器スリフィディアも持参しています。

 買い物に出かけたリンちゃん達が帰ってくるまで、早くてだいたい30分。ゆっくり話をするならこっちの世界に飛んじゃった方が良いです。リアル時刻は14時過ぎ。ログインとログアウトにそれぞれ1時間使う事になるとしても、18時に晩御飯の仕度を開始するならリアル1時間以上もこっちで時間を使えちゃいます。この世界では時間は3倍。相談事に3時間もあれば十分ですよね。こっちなら俺は女性なので、シン君ともチョメチョメを……。

「カズミ氏ももう聞いていると思いますが、昨晩のマスコンで僕は帝國軍に捕まってしまいました」

 お茶を煎れながらシン君の話に耳を傾けましょう。ちなみに場所はマイホームです。相も変わらず周りにはメイドの幽霊さん達が現れたり消えたりしています。思いっきりチラチラ見に現れています。こんな所じゃ気が散ってナニも出来ませんね……。

「カズミ氏、僕を助けて下さい」

「だが、断る!」

「ありが……え?」

 一度言ってみたかったんですよね。空気を読まないこの台詞♪

「既にマリリンがシン君救出ミッションを発令してるから安心しろ。俺は見ての通りレベルがあまりにも低すぎて足手纏いにしかならないからな。今回は流石に見送らせてもらう。その方がきっと良いだろう」

「カズミ氏の素の実力であれば、僕は全く問題無いと思っているのですが」

「一撃即死のリスクをもっと良く考えてくれ。言うほど簡単な事じゃないんだ。疲れるしな。この歳だと尚更きつい」

「ご謙遜を。リアルでマリリン達3人同時にプロレスの相手をするほどカズミ氏は元気ではありませんか。僕では絶対に無理です」

「体格差があるからな。あれぐらいなら小指を捻る程度の力しか必要としない」

「三角飛び膝蹴りやフライングボディープレスを仕掛けてくるマリリンの身体を受け止めるのは、小指を捻る程度の力では無理ですよ」

「愛の力のなせる技だ」

「……合気の力ですか?」

「そうとも言う」

 噛みました。てへっ。

「ちなみに、今どこに捕らえられているんだ?」

 折角なので、シン君の現状をリサーチしておきましょう。どうやら勘の良いシン君でも、ダークナイトの中身が俺だという事にはまだ気が付いていない模様です。

 ……気が付いてないよね? まさか気が付いていないフリをしているだけですか? だったらやだな~。シン君の掌の上で躍っているみたいで。

「僕が今いるのは、王都フェネシスの西、クリューゲル山岳地帯のやや南寄りにあるバルトロス砦です。その砦の地下牢に僕は捕らえられています」

「何か酷い事はされなかったか? 例えば裸にひんむかれて辱められたとか、鞭と蝋燭攻めにあったとか、代わる代わる砦の兵士達に可愛がられたとか」

「なんでそう極端なんですか……別に何もされていませんよ。今のところは、ですが」

「今のところは、か。それは、いつまでも五体満足でいられる保証はないという事か?」

「僕の知っているミネルヴァ帝國という国の情報ではそうですね。流石にいきなり殺されるような事はないみたいですが、生き永らえても過酷な奴隷生活が待っているという話です」

「よし、シン君が奴隷になったら買い取ろう」

「えーと……ありがとうございます?」

「そして一生、俺の慰み者だ。クックックッ……今から楽しみだぜ」

「あの……カズミ氏、最近なんだか性格変わってきていません? リアルで会ってからでしょうか」

「そんな事より、砦の間取りをもう少し詳しく教えてくれ。シン君のことだ、ただ牢屋に連れて行かれただけじゃないんだろう? 直接俺が出向く事は出来ないが、500人で20万の大軍を打ち破る程度のちょっとした策ならマリリン達に授ける事が出来ると思う」

「全然ちょっとじゃありませんよ。いったいどうやったら500人で20万の大軍を撃破出来るんですか」

「賄賂と懐柔。お金ならいくらでもあるからな。お偉方を寝返らせればそもそも戦にすらならない」

「普通はそれだけの戦力差があると、いくらお金を積まれても寝返らないと思いますが」

「問題無い。裏工作の実働部隊が500人なだけで、本陣には300万の兵士が詰めている」

「前提条件まで変えないで下さいよ……」

「ちなみに、戦場にマリリン投入すれば20万なんて楽勝だな」

「……その手もありましたか」

「それで? そのバルトロメオ砦とかなんとかはマリリンが降らす隕石にも耐えてくれそうなほど強固な造りか?」

「バルトロス砦です。無理ですね。恐らく地上だけに被害を出すのは難しいかと。間違いなく僕のいる地下も潰れてしまうと思います」

「なら、隕石を落としても良い場所は?」

「砦は山をくり抜いて造られているうえに、敷地は狭く階層の多いタイプです。大きな塔に少し近いですね。ですので、隕石を落とすとガラガラと崩れ落ちてしまいます」

「シン君さえいなければ攻略は容易いということか」

「攻略と言うより潰すだけならば、ですが。マリリンの隕石法術は他の法術と違いレアな物理系統に属しているので、法術障壁も意味がありません。精々が隕石の周りで燃えている火が消えてしまうことぐらいでしょう」

「八方塞がりか」

「それが正常、とも言えますけどね。マリリンの隕石法術はやはりバランスブレイカーです。まぁその御陰で帝國との戦争も何とか持ちこたえている訳ですが」

「っと。お茶が温くならないうちにどうぞ」

「ありがとうございます。……何ですか、これ? とても不思議な味がするのですが。えっと……すき焼き?」

「新型のプチポ茶だ。味はオマケ」

「それとなく僕を実験台にするのは止めて下さい……」

「ちなみに、副作用として眠くなる効果もつけている」

「……カズミ氏はいったい何を目的としてこんなものを作ったのですか?」

「それはベッドの上でゆっくりと教えてあげよう」

「あ、麻痺効果もついてる……身体が動かない」

「む、その効果は予定外だな。眠くなる代わりに催眠攻撃が効かなくなるという、特定条件下での用途を目的としたプチポだったのに。隠しバッドステータスに麻痺がついたら使い物にならないじゃないか。シン君、協力感謝」

「そう言いつつお姫様抱っこしないでください。本当にベッドへ連れ込むつもりですか?」

「いや? 次の実験に付きあってもらおうかと。現在、マッサージオイルタイプのプチポも開発中なんだ」

「どこまで手を広げるつもりなんですか……出来れば遠慮させてください」

「問答無用」

「……スキル、気功法・療」

「ぬ。回復技か」

「マッサージならマリリン達にしてあげてください。もしくはササメ氏など、明らかに肩や腰に重度の負担がかかっていそうな職人さん達に」

「既に実行済だ」

「……ササメ氏もですか?」

「シン君みたいにバッドステータス回復技を持ってなかったから楽勝だったな。ちなみに悪代官になった次の日のことだ。謝るついでに誠心誠意、ご奉仕させてもらった」

「あなたという方は……」

「ちなみにレイ君にも実行済。この家付きのメイドさん達全員でお・も・て・な・し♪」

「可愛く言っても内容が内容だけに全然笑えませんね。というか酷すぎます」

「シン君」

「はい」

「悪代官の言葉を、真に受けては、いけない」

「……もしかして僕をからかっています?」

「いつも通りだ」

「と言いつつ、ベッドに俯せに寝かせないで下さい。服も脱がせないで下さい」

「よいではないか、よいではないか」

「もう……マッサージだけですよ。怪しいマッサージオイル版プチポはなしです」

「オーダー入りました。んじゃ、メイドちゃん達よろしく」

「ちょっ!? カズミ氏がマッサージしてくれるんじゃないんですかっ!?」

「いやな、レイ君のマッサージをさせたらなんか味をしめたらしく、こうやって定期的に餌を与えないと暴れ始めるんだよ」

「い、生け贄……あ、意外と上手だ」

「さて、話を戻そう。砦の警備状況はどうだった?」

「いきなり真面目な顔に戻らないで下さい。えっと……前戦に兵士をさいているためか、あまり守りは堅くなさそうでしたね。外から攻めると砦が強固なので攻略は難攻すると思いますが、一度中に入ってしまえば後は遭遇戦の各個撃破でいけると思います」

「敵の練度はそれほどでもないということか」

「はい。僕でも2人同時に相手に出来そうでした。士気もあまり高くないようです。砦を奪ったものの、皇国は防戦に忙しくてほとんど攻めてきませんからね。プレイヤーも南への侵攻戦の方が報酬が良いので、西の砦にはほとんど目を向けていません。報酬が低いのも、砦を取り返しても今の皇国には守りきる力がないので苦労に見合わないのでしょう」

「皇国の事情などどうでもいい。俺はマリリン達が笑って過ごしてるのと、のんびり平和にプチポちゃんが作れればそれでいいんだ」

「今は戦争中だというのに、ある意味ではとても贅沢な望みですね。そういえばこの港街エルファシルで暮らしているNPCからはまるで戦争の話を聞きませんね。やはりこの街の人々もカズミ氏と同じ考えなのでしょうか?」

「情報が遮断されているだけじゃないか? 番犬ケルベロン君のせいで洞窟の通行はNPCにはほとんど行き来できないみたいだしな。配達クエストも俺達は洞窟を通れるが、NPCだと洞窟を通らず過酷な山脈越えをしてるみたいだし。山脈に帝國の刺客がいたなら尚更だろう」

「山脈越えですか。鉱山都市ヴィオレスク付近では良い鉱物が採れるので山に登る人は多いそうですけど、こちら側はただの難所なだけの危険な道ですから、わざわざ越えようという人は少ないんですよね。山賊討伐のクエストも発生してるみたいですけど、誰も受けようとはしていません。ほとんどずっと放置のままです」

「案外、裏で帝國とこの街は繋がっているんじゃないか?」

「その可能性は否定出来ません。そもそも帝國に逆らう理由がありませんから」

「俺達も逆らう理由はないけどな」

「帝國が初期開始位置のプレイヤーはいないそうですから、もしかしたらこのゲームのストーリー的に帝國打倒が本筋なのかもしれません」

「となると、皇国はその物語の味を引き立てる調味料か何かか」

「案外、ヴァージニア氏がメインヒロインという可能性も。彼女には何か秘めた過去がありそうです。今現在も彼女が関わるクエストやミッションが数多くあるそうですし、皇国が滅んだ後も彼女を中心に物語が発生するかもしれません」

「そうなのか? 俺には随分と暇そうに見えるんだが……」

「? カズミ氏、それはまるでヴァージニア氏と個人的にお知り合いだと言っているような口ぶりに聞こえますが……まさか毎日密会でも?」

 む……まさかそこから斬り込んでこようという魂胆ですか? ふっ、そうはいきませんよ。

「いや? ただマリリンから良く聞くだけだ。マリリンは彼女と一緒に毎日天馬ウィンダリアに乗ってマスコンに参加してるんだろう?」

「……天馬の名前はウィンダリアというのですか。それは初耳です。マリリンからはそのような名は聞いた事がないのですが」

 うぉ……やべ、墓穴掘ったか。

「天馬の名前を聞かれなかったから口に出さなかっただけだろう。帰ったら聞いてみればいい。案外、好物が何であるかとか知ってるかもしれないぞ」

「ペガサスの好物はやはり天馬人参でしょう」

「天馬人参? これのことか?」

「やはりお持ちでしたか。それのことです」

 やはりって……シン君、本当に探ってきてます? それとも……。

「それは普通に焼いて食べるだけなら何ともないのですが、すり身にして他の液体と混ぜ合わせると隠し効果として身体が麻痺するという効果が稀に発生するそうです。カズミ氏、もしかして先程僕が飲んだプチポの配合にいれていませんでしたか?」

「……正解」

 名探偵だな~。暴かれた謎は違えど、本当に油断出来ませんよ。おやおや、シン君が少し誇らしそうな顔をしていらっしゃいますね。それともただ気持ちがいいからですか? 幽霊メイドさん達の腕前って意外と高いんですよね。

 俺もよくプチポ作りながら肩揉みしてもらってます。何だかいつも肩が重いので。何ででしょうね~。

「ときに越後屋よ。そちはいったいどのようにして捕まったのじゃ?」

「ですから僕は越後屋では……僕だけが捕らえられた理由ですが、少し思う所があるので整理がついたらまたお話しさせてください」

「良かろう。その時には山吹色のお菓子もきちんと持参するようにの」

「分かりました」

「こうしてシン君は悪の道の第一歩を踏み出すのでした。めでたしめでたし」

「いやなナレーションをつけないでください」



♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪



 リアルに帰りました。

「えっ? 今日はすき焼きですか?」

「すっきやっきすっきやっき♪」

「リンねぇさま、お卵はご自分で割りますですの? それともわたくしがお割りしましょうかですの?」

「秘技……片手、割り……あっ」

 別に意図した訳ではありませんが、リンちゃん達は今日はすき焼き気分だったようです。食べたい物を買ってこーいって言ったらこうなりました。あれ、ネギちゃんがありませんね。分量もちょっと多いですし、とある方々に宅配して頂きましょう。

「ほれ。マコちゃん、あーん」

「止めて下さい。自分で食べられますので」

「ほほぅ……御馳走になっておいて、俺の肉が食えぬと申すか」

「カズミ氏……時間をおうごとに悪代官が板についてきてますね……」

「マコっち、あーん」

「マコさん……あーん……」

「マコトさま、あーんなのですわ」

「退路は……どうやら無いようですね。まさか3人からカズミ氏のあーんを受け入れろと圧力をかけてくるとは思いませんでした」

「良いから、さっさとパクつけ。卵が垂れてきてるだろう」

「仕方有りませんね。では……」

「パク♪」

「あ、盗まれた」

「リンねぇ……ずるい……おじさん、私も……」

「わたくしもあーん欲しいのですの」

「あいよ。順番な」

「あ、あれ……僕のあーんは……?」

「それはそうと。チーちゃん、その椀は俺のと交換な。殻が入ったままだと嫌だろう?」

「あ、ふきん持ってきますのですの。お拭き致しますなのですわ」

「……♪~」

「こ、この味は……カズミ氏のプチポの味と同じ……」

「あ、マコっちもあのプチポちゃん飲んだんだ。あれ、チーちゃんが作ったんだよ~」

「美味しい……毒プチポ、ちゃん……頑張った……」

「カズミ氏?」

「あの味を維持したまま劇毒効果を消すのは大変だった」

「おじさん、改良成功したんだ。今度飲ませて~」

「さっきマコちゃんに飲ませてみたら麻痺の効果が出たから、もう少し飲みやすくしてからな」

 などとほがらかな一家団欒のお喋りをしていたら、突然に家のドアがバンっといって開きました。

「肉!」

 宅配便のご到着でっす。

「……あれ、花櫚ちゃん? はっ……まさか、すき焼きの香りを嗅ぎつけて!?」

「お邪魔致します。カズミ殿、頼まれていたものを買ってきました」

「おう、ご苦労。これ、代金とお駄賃な」

「有り難う御座います」

「彩華さま、こんばんはなのですの」

「ちょっとネギ切ってくるから、2人は適当な場所に……って、もう食ってるし……」

「うがー、肉よこせー」

「むむむっ! 肉を死守しなければ!」

「これがすき焼き……ああ、生きていて良かった……」

「彩華氏のイメージがどんどんと崩れていく……あの凛々しかった剣道少女の面影はいったい何処に……」

「これは真殿、こんばんは。真殿もすき焼きにつられたのですか?」

「いえ。僕は少々カズミ氏に相談をしに来たのですが。見事に断られてしまいました」

「そうですか。これは私からの助言なのですが、あまりカズミ氏には恩を売らない方が良いと思いますよ。既に一生かけても返しきれない恩を売ってしまった私が言うのですから確かです」

「なんでそんな事になってるんですか……夏場にいったい何が……」

「恐らく、この秋は真殿が……いえ、真殿のことですから、きっとそのような事にはならないと信じる事に致しましょう。頑張って下さい」

「ちょっ!?」

「……という言葉はすべてカズミ殿がメールで私に真殿へと伝えるようにお願いしてきた言葉です。真殿、遊ばれてますね」

「カ~ズ~ミ~氏~」

「ネギお待ち。エルフちゃん達には絶対に食べさせないようにな」

「はーい」「はいなのですの」「任務……了解……」

 本日の夜は久しぶりにとても賑やかな夜になりました。

 でもまだこの後、大変なミッションが待ってるんですけどね。シン君救出作戦、無事成功すると良いな~。

 まだ俺の正体は隠したままなので、助けても恩は売れませんけどね。そこだけがちょっと残念でっす。

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