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姪とオンライン!  作者: 漆之黒褐
第三節 『LEGEND OF DARKNESS』
92/115

冥土 no Disquieting

 本筋のお話は戦争の方なので、大迷宮のお話はまたそのうちね。

 再びマスコンです。日付も一週間とんでます。

 いつものように、まるで謀ったように同じ時間帯に帝國が皇国へちょっかいをかけてきたので出陣です。マイホームでマリリン達を見送った後、いつの間にか屋上へやってきて寛いでいるヴァニーちゃんとその相棒、天馬ウィンダリアちゃん。その白くて艶やかな肢体から吊されている縄紐に掴まって、というか捕まえられてお空の旅です。きゃー、高いよ~。

 いつも思うんですけど、ヴァニーちゃんは後ろには乗っけてはくれないのかなぁ? 一応、俺はゲームの中では女性キャラなので、ウィンダリアちゃんも乗せてくれます。乙女と言い切る自信は流石にありませんが。鎧が嫌なのかなぁ。

 お空の旅をしている間にマスコンの準備を行います。事前情報として参加者の名簿と、規定人数に届かない場合は補充要員の皇国兵士さん達の情報がもらえます。それに加えて、分かっている範囲での敵さんの情報です。

 個々の能力を吟味し、適当に配置していきます。レイ君と低レベルプレイヤーさん達はいつも通り俺の周りに。同じギルドに所属している人はなるべく固めて配置。ソロ参加の人でも戦績評価で上位に名前があがった事のある人は出来る限り最前線に配置して、今回も活躍出来るように回復職の人とPTを組ませます。命令無視が多く戦績も芳しくない人は邪魔にならないようになるべく端っこの方へ。

 んで、その時点での戦力配置をざっと見直し、NPC兵士さん達を適材適所で配置していきます。NPC兵士さん達は装備や職業をある程度こちらで指定する事が出来るので、守りが薄そうな場所には盾職を。火力が必要な場所には前衛職を。全体に満遍なく弓職と回復職を配置していきます。

 最後に、武将職としてセンねぇちゃんやシン君達を任命し――任命制なので、もし他の人が例のイベントをクリアして武将になる権利を得ると、ここで分かります――余っているNPC兵士さん達を分け与えて複合PTに。武将の初期配置も俺の方で指定出来ますけど、シン君がいるので基本的にはいつもお任せにしています。

 もし参謀職も任命出来るなら、間違いなくシン君を任命して初期配置は全部丸投げしちゃうんですけどね~。残念ながらまだその権限はないようです。まぁマスコンに参加してるプレイヤーの数はあまり多くないですからね。この時間帯以外でもマスコンは出来るので、そちらに参加している人もいるみたいです。それ以前に、大迷宮をメインで遊んでいる人はあまりマスコンに来ませんし。

 このままだとこの戦争、間違いなく負けそうなんですけどねぇ。戦争に負けたらどうなるんでしょう?

「やっほー、お姉さん。元気してた~? 今日もイケてるポックル君の登場だよ~」

 そうこう考えているうちに戦場へ到着致しました。いつも通り、ポイ捨てでっす。相も変わらず命令無視して先に戦いをおっ始めていたプレイヤーさん達と――配置が終了した時点でマスコンは開始のカウントダウンに入り、俺の到着如何に関わらず開始してしまうようです――その攻撃を堅実に受け止めていた帝國兵さん達の注意を根こそぎ奪う轟音を鳴り響かせての参上でっす。

 ちなみに、毎回同じ登場の仕方をしているのに皆さんが注意を向けてしまうのは、俺様が怖いから……じゃなくて、ほぼ同時に現れる空の赤い悪魔さんを警戒しての事です。何度かダークなナイトちゃんが参上する前にメテオなプリンセスちゃんに巨大隕石を降らせてみたら、ものの見事に敵味方を盛大に吹っ飛ばしてくれて、それ以後みなさん反射で振り向くようになりました。

 隕石は着弾すると爆風爆音が凄いですからね。身構えていないとあっと言う間にお空へと吹っ飛ばされて、飛翔落下ダメージを受けて最悪お陀仏です。

 と、そんな皆さんの期待に応えて、早速メテオプリンセスちゃんに攻撃を指示しちゃいましょう。敵さんは中央に戦力集めてるみたいだから、その後ろ付近を殺っちゃってください。

「あの……ねぇ、お姉さん。せめて僕のアドバイスを聞いてから行動起こしてくれない? というか、なんでタイムストップを解除出来るの!?」

 いつも通り外野にいる音声さんは無視して矢継ぎ早に命令を出していきます。

 敵中央軍は背後を脅かされて浮き足立っていますが、まだまだ層は厚いので手は出せません。その間に敵左翼へセンねぇちゃん達を投入し、堅い守りを突破致しましょう。そして強引にこじ開けた穴にNPC兵士さん達とそれに釣られたプレイヤーさん達を突っ込ませて分断です。

「あれ? お姉さん、今回はいつにもまして積極的だね。でも大丈夫かな? 今日の敵さんはかなりしぶといみたいだよ?」

『具体的には?』

「あ、ようやく反応返してくれた。三日ぶりだねー」

『現実では1日ぶりだがな』

「んっとね……今日の敵将さんは、アームストロングさん58歳独身、彼女募集中、自称イケメンのお兄さんなんだけど」

『色々ツッコむところがあるが……』

「スルーしちゃって良いよ~。でも独身ってところは要注意だから。お姉さん気をつけてね。掴まったら大変な事になるから」

『そんな情報はいらん。早く続きの情報をくれ』

「んもう、今日はとっても積極的なんだからお姉さんったら。僕ちゃんにはピクリンっていう愛人が……うきゃっ! お姉さん、秘孔つかないで! ごわごわブシューンっヒデブーってなっちゃうじゃない」

『いいからサッサと情報よこせ。今こうしている間にも人は死んでいるんだ』

「はーい。えっと、カンペカンペ……あれ、ない……やばっ! ちょっと家に取りに帰ってくるね!」

『……』

 本隊より分断した敵部隊は殲滅力の高いギルドにお任せして、助け船が入らないように中央の部隊を少し前進。同時にセンねぇちゃん達をこっそり敵右翼の方へと向かわせます。隠密行動しながらの移動が大変ですが、そこは頑張ってもらいましょう。鈍足のレイ君がいないから楽勝だよね?

 マリリンの隕石を止めて敵中央軍に少し余裕を持たせます。敵さんは分断された味方部隊を助けるために、突出して長細くなっている味方右翼の付け根を狙って速攻を仕掛けてきました。つまり、分断仕返そうという魂胆です。

「敵襲、敵襲! お姉さん、敵さんが速攻仕掛けてきたよ! 大ピンチ大ピンチ!」

『早かったな』

「うん、時間止めたから」

『究極の裏技……』

 右翼の付け根を食い破られたら味方右翼は孤立します。何より本陣への道が出来てしまいます。右翼の主力であるギルドはまだ分断した敵を嬉々として狩っていて気付いていません。命令を出してみましたが、目の前にある美味しい餌から目を離してくれませんでした。

 突出させたNPCさん達は命令すれば退いてくれますけど、この状況で反転すると追撃をまともに受けて大ピンチになってしまいます。NPCさん達と一緒に奮闘しているプレイヤーさん達は言うまでもないでしょう。

「ああ、言わんこっちゃない。僕ちゃんのアドバイスを聞かなかったからこういう事になるんだよー。お姉さん、ちょ~っとばかり鼻が高くなりすぎたみたいだね~。流石に今回は黒星かな? お姉さんの伝説もこれでお終いだね。くすっ……ギブギブ! 頭握り潰さないで~っ!?」

 味方の急所である場所がガリガリと削られていく中、センねぇちゃん達を敵右翼に突っ込ませちゃいます。命令に忠実なNPCを部下に持ち、加えて周囲にいるNPCさん達も一緒に突撃させればかなりの火力になります。後先考えない一転突破を強行すれば、強引に道をこじ開けるなど容易い事です。ちなみに敵さんを倒すのは二の次です。

 そして仕上げとしてマリリンへ攻撃再開の指示をだし、レイ君を突破されそうな右翼付け根に投入。

「え? ……あれ? これってもしかして、敵を包囲した事になっちゃう?」

 ご名答。敵中央部隊をコの字型に囲い、マリリンの隕石で蓋をしちゃいました。分断した左右の部隊は殲滅力の高いギルドに任せて、長細く突出している左右の部隊はNPC中心の部隊なので全力防御。慌ててる敵中央軍に味方中央軍がじりじりと前進して、ドカドカと隕石が降り注いでいる隕石エリアに敵中央軍を押し込んでいく作戦です。

『それで? 今日の敵将情報はどんなだ?』

「お姉さん、性格悪い……もう必要ないじゃん」

『まだ勝負は決まっていない。諦めたらそこで終わりだ』

「勝ってる人が言う台詞じゃないよ、それ」

 敵の士気も落ちてくれたようですし、後は放っておいても大丈夫そうですね。正直、突出させた右翼に対し、敵中央軍が本気で攻撃を仕掛けてこなくて助かりました。強引に長細く斬り込んだので、分断イコール挟み撃ちという図式にもなっていたのが幸いしたようです。練度も高かったせいか、分断されてもほとんど慌てずじっくりプレスしてきただけです。それが仇になりました。

 さて、次のお仕事は……。

「つーか、てめぇ。なんでまた俺達はてめぇのお守りなんだよ」

 また雑魚プレイヤーさんが絡んできましたよっと。マスコンの参加は自由ですけど、遠距離系の武器を装備している時点で魂胆が見え見えです。ハイエナのように戦場を駆け回ってラストアタックを狙っていく気満々にしか見えません。

 マスコンで戦績ポイントを得るには、4つの方法があります。

『説明どうぞ』

「って、僕ちゃんが!? まぁ良いけど」

 というかそれが仕事でしょう、チミは。

「一つは、このマスターコンバット、略してマスコンに参加して、勝利した時にもらえるポイントだね! 所謂、参加賞ってやつでーす。どんなに雑魚な人でも、どんなにトリッキーで性格の悪いお姉さんでも、誰でもクラスに応じたポイントが貰えちゃいます。でも貰えるポイントは微々たるもの。でもでも1年間毎日マスコンに参加続けてればなんと皆勤賞が! みんな頑張ってね~」

『落とし穴一つ発見。リアルでは1日1回参加出来るが、この世界は3倍速なので、どうやっても3日に1回しか参加出来ないというオチ。つまり皆勤賞は事実上不可能』

「あ、ばれてる。まぁ、リアル365日にしてもいいけど、毎日マスコンする人はまずいないと思うから大丈夫だと思うけどね~。とっくに飽きてるでしょう」

『もう一つ、穴発見。リアルで一年も戦争が続くとこちらの世界では3年も戦争が続くことになる。流石にそこまで皇国は保たない』

「……」

『……』

「次いっくよ~♪ 戦績ポイントを貰えるもう一つの方法、それはズバリ敵さんに与えた総ダメージ量、もしくは味方の回復総量の順位に応じてなのです!」

『つまり弱いヤツは頑張っても上位を狙えないって事だな』

「そんな身も蓋もないこと言わないでよ~。僕ちゃん悲しくなっちゃう」

『泣きたいなら、泣かせてやろう、ホトトギス』

「いたいいたいいたいいたいっ! そんな悲しみ方やだよっ!」

『良いから説明続けろ。次の一つはなんだ』

「お姉さん知ってる癖に。えっと、もう一つは……」

『カンペ禁止』

「あ、酷い! 僕ちゃんのカンペが燃やされた! しかもそのパピルス高かったのに! この世界じゃ高価なんだよっ!?」

『いくらだ?』

「皇国だと1枚50FGだったかな」

『安いな』

「本気でそう思ってる? お姉さんのリアルで、B5の紙1枚っていくらなの? 50円もしちゃう?」

『……しないな』

「ちなみにこのパピルス、僕ちゃん基準のB5サイズでそのお値段だからね。リアルB5サイズだと約50倍大きくなるから、1枚2500FGになっちゃうんだよ~」

『嘘つきは泥棒の始まりだぞ。いったいどこで盗んだ』

「ひどっ!?」

『いいから、次を話せ。……ポイントに変えるぞ』

「敵にトドメを差す事でポイントが貰えるんだよ~って、僕ちゃんお姉さんの敵じゃないから! 味方だから! 僕ちゃん倒してもポイント貰えないよっ!?」

『それを俺は認めた覚えはない!』

「とってもひどいこと言われた気がする! 僕ちゃん泣いちゃうぞ~」

 メソメソ泣き始めた妖精さんは放っておいて。

 低レベルのプレイヤーは、当然2つ目の順位は必然的に低くなるため、ほとんど戦績ポイントを貰えません。しかし3つ目であれば狙う事が出来ます。急所へのクリティカルヒットを狙い続ければ、運が良ければ倒す事が出来ます。しかもその場合、敵とのレベル差に応じて貰える戦績ポイントが上下しちゃいます。

 つまり、低レベルで遠距離武器を持っているプレイヤーの大半は漁夫の利狙いだという事です。もちろん中には真っ当にチクチクダメージを与えて戦争に貢献しようというプレイヤーもいますが、それは少数派です。いえ、レアですね。今日は見かけないなぁ。

「くそっ、このままじゃまた参加賞だけじゃねぇか。今日こそ大将の首を取る予定だったのによ。このレベルで大将のラストアタック決めたらめっちゃポイント高いって噂なのに」

 もっとタチが悪い連中たった模様です。貰える戦績ポイントが最も多い敵大将さんの首を彼等は狙っていたようです。58歳独身彼女募集中な彼の人生に春がやって来る前にその彼の人生を終わらせちゃうつもりだそうです。いえ、みんなそのつもりですけどね。こんな情報いりませんって。殺りにくいじゃないですか。

 ちなみに、そんな事したら当然ながら大手ギルドや最前線プレイヤーさん達から盛大な怒りを買うことになります。自分良ければ全て良し、後の事は全く考えないはた迷惑なプレイヤーさん達ですね。まぁ、それはゲームの中だからこそ言えることであって、現実にそんな甘いことを考えていたら馬鹿をみるだけでしょうけど。リスクはきちっと把握した上で行ってくださいね。ゲームの中だから死なないだけで、現実でそんな事をしてたらすぐに貴方達の人生は終わりますよ。

 俺の可愛い姪ちゃん達がとても嫌がる事をしたらマジで殺す!

「もう良いだろ。俺達も戦いに参加させろよ。今日は身代わり野郎も前線に送り込んだんだから、ここには敵はやってこない予定なんだろ? 俺達だけじゃてめぇを守りきれねぇのは分かりきってんだよ。つーか、てめぇなんか守る気ねぇけどな。たまには負けろ、ボケ」

 ちなみに、本陣に配置しているプレイヤーは命令が無い限り、本陣――指揮官である俺の周りのことね――から抜け出る事は出来ないようになってます。じゃないとすぐにいなくなっちゃいますからね。プレイヤーだけのマスコンになった場合、基本攻撃思考のプレイヤーばかりなのであっと言う間に指揮官素っ裸です。指揮官の周囲に護衛がいない事がばれれば、敵さんも強引に刺客を放ってくる事間違いなしです。1対1なんて嫌ですよ。それ以上はもっと嫌ですよ。

「やれやれ、今日も本陣の空気は悪いんだな。あんた、実はMなんじゃないのか?」

 また嫌なヤツが現れました。暗闇の雲(ダーククラウド)さんがやってきましたよ。勝利がほぼ決まったことで、また前線を抜け出して俺の首でも狙いに来たんでしょうかね。何度やっても俺の首は取れないって言うのに。そう簡単にはこの首はあげません。

「御前ら、前線に出たいんだったら俺のPTに入れ。つーか無理矢理にでもいれる。そうすりゃこの詰まんねぇ空気も少しは面白くなるだろう」

 見た目は悪くない顔をしてるのに、纏っている雰囲気とよくつり上がる口端のせいで下卑た野郎にしか見えない男が、邪悪な笑みを浮かべて俺を見上げてきます。今日の俺は騎乗してるので上から目線でっす。

 ちなみに馬の名前はヴェルシュナイツァーだそうです。誰のネーミングでしょうね。いつも戦場に到着した時にはすぐ近くで待機してくれています。

「あん? どういう事だ? なんでてめーのPTに入ったら前線に出れるんだ?」

「ハッ、やっぱ知らねぇ馬鹿ばっかりだったか。マスコン開始後に組んだPTなら、配置縛りはPTリーダー依存なんだよ」

「マジで? やべ、良い事聞いた」

 げっ……そんな仕様があるんだ。ポックルくーん。

「うん、あるよ? お姉さん知らなかったの?」

『知る訳ないだろ。そんな説明は受けていない』

「だよね~。僕ちゃんもお姉さんにそれを説明した記憶ないからー。お姉さんったら事あるごとに僕ちゃんの説明を中断、脱線させてたからね~」

『プチッと潰して良いか?』

「グギギ……もう、潰そうと……してる、でしょ……お姉さん……」

 小さくなーれ、小さくなーれ。最終的には身長0センチまで小さくなーれ。

「へっ、しょうがねぇな。あんたのPTに入ってやるぜ。というか入れやがれ」

「ハッ、入れてやるよ。てめーらが嫌がっても無理矢理入れてやるよ」

 どっちも上から目線のチンピラ達が意気投合致しました。今日の友は明日の敵、になっちゃいそうな構図ですね。それにしても彼は何のためにこんなことをするんでしょうね~。やっぱり、俺への嫌がらせ?

「よっしゃ! これで俺達も戦えるぜ!」

「俺のマグナムが戦場に火を噴くぜ」

 あなたが持ってるそれはボウガンですけどね。当然、火も噴きません。

「んじゃ、激戦区に送ってやるから逝ってきな」

「おうよ。えこひいきされてる彼奴等よりもポイント稼いでくるぜ」

「ついでに俺のポイントも稼いでくれよ」

「あん? そりゃどういう意味だ? てめぇのも横取りしろってことか?」

「おっと、失言だったか。まぁ、そんなところだ。俺はもう十分稼いだからな」

「へへ……悪ぃな。てめぇとは何だか気が合いそうな気がするぜ」

「現金な野郎だな。良いからさっさと行くぞ。もたもたしてると美味しいタイミングを逃しちまう」

「おっと、そうだったな。いくぜ野郎ども!」

「応!」

 周囲がとても寂しくなりました。彼等が言葉を交わしている間、俺は相も変わらず戦場に細かな命令を出し続けていました。正体がばれるのを恐れて基本誰かに話し掛けられてもガン無視し続けてきたので、今回も完全スルーです。襲われてきたら反撃する程度です。NPCのフリをするというのも大変でっす。

 んで、戦況ですが。

 中央に向けて突撃するかと思ったら、彼等は意外にも左翼に向かいました。そして強引にプレイヤーやNPC兵士さん達を押しのけて、自分達の都合の良い陣地――接敵地点よりやや後ろですね。遠距離武器ばかり装備してるので当然と言えば当然ですが――をぶんどって、まずは分断されている敵右翼を狙い始めました。迷惑極まりないです。

 って、ああ……敵さんがすぐに気付いて、御しやすいと考えたのか突然彼等に向けて特攻を仕掛けてきましたよ。そこだけ層が薄くなってたのでアッサリ食い破られました。一応、押しのけられたNPC達をフォローのために彼等の後方へ待機させていたので、そのまま俺の方まで突撃してくるような事はありませんでしたが、一気に左翼の戦線は崩壊でっす。

 すぐに左翼のギルドに敵を包囲するように指示します。敵右翼は突破を諦め、中央部隊との合流を目指す模様です。って、あれ? 敵右翼の後方部隊が動いていない?

 あ、やば……中央と合流すると見せかけて、細長く突出してる味方左翼部隊を片付けてしまおうという魂胆のようです。そこにはセンねぇちゃん達……つまりこの軍の武将職がいるので、討ち取ってしまおうと考えたのかも知れません。なかなか侮れませんね、58歳独身彼女募集中の敵将さん。

 仕方ありません。被害覚悟で敵中を突破して退きあげさせましょう。このままだと彼等は全滅しかねません。包囲線は諦めましょう。

 お空にいる赤い悪魔さんに自由裁量を与えて、センねぇちゃん達との息を合わせやすいようにしちゃいます。左翼のギルドにも一点集中の命令を与えて、右翼まで潰されてしまわないように突出部隊を引き上げさせます。左翼突出部隊と敵後方への隕石攻撃があってこそ、右翼突出部隊は敵の挟み撃ちにも耐えきれていましたからね。その前提が崩れた以上、退かせるしかありません。

 右翼突出部隊を退かせると、敵さんは追撃を行わず合流を選んだようです。そしたら味方右翼のギルドが攻め上がってノの字になってしまいました。部隊が伸びきってるな~。特攻仕掛けられたらどこからでも突破されそうな気がします。それでなくとも戦闘開始より時間が経っているので生き残っているプレイヤーの数は減っていますからね。疲弊もしているので危険な匂いがプンプンです。

 という訳で、本陣を左側に逃がしました。本陣と言っても、もう俺と黒馬ヴェルシュナイツァーしかいませんけどね。怖いからレイ君を戻しましょう。

 ただ、レイ君は右翼にいるので、左翼後方にいる俺のところまでやってくるのに結構な時間がかかります。だから、退かせると言っても戦いながらジリジリと横にずれていく、そんな感じでお願いしました。恐らく、このマスコンが終わるまでに辿り着く事はないでしょう。

「あ~、暇だな~」

 って、コラコラ。ポックル君、なに人の頭の上で寛いでいるんですか。そこはクロヒメちゃんの縄張りですよ。

 いえ、そうじゃなくて、この状況でそんな事を言えるあなたが信じられません。一応、チミは俺の参謀なんですよね? 何故かマスコン参加者一覧の中にポックル君の名前があって、その役職が参謀になってるのです。これ、君の名前ですよね? マスコンに参加してるプレイヤーさんのマスコン名じゃないですよね?

「いや、だって本当にやる事ないし。お姉さん、いつも全部一人でやっちゃうし。何より、僕ちゃん頼ってきたことなんで一度もないし」

 ちなみにピクリちゃんとプクーラ君の名前もあります。ピクリちゃんは索敵、プクーラ君は武将補佐でーす。NPC兵士さん達にも一人一人名前がついてあって、プレイヤーさん達に混じってズラ~っと並んでいます。

 当然、ヴァニーちゃんの名前もその中にはあります。役職は、例のとっても長い名前が書かれてあります。神聖フェネシス龍皇国、黄天龍騎士団、極東方面大隊、第七天将征伐部隊所属、特務騎士、第三位天馬騎士、漆黒の覇者補佐っていうながーい役職が。ってか、最後のだけで良いんじゃね?って思います。

「あ、終わったみたいだよー。やっぱ敵さん消耗してたんだね~。総力戦にしてセーカイ。おめでとー」

 言うほど楽じゃなかったみたいですけどね。あ、生き残ってるプレイヤー一覧の中にフロアディーテ・ブルードラグナーとジュリア―ナ・レイニーって名前がない。やっぱ無理だったみたいです。センねぇちゃんもユリアちゃんも今回は討ち死にしてしまったみたいです。

 討ち死にすると戦績ポイントが3分の1ほど没収されちゃうんですよね。その没収されたポイントは、総合戦績上位10名および活躍したギルド3つに与えられます。これが最後の4つ目の戦績ポイント入手方法ですね。

 兎に角、今日もこれでようやく終わりです。あー疲れた。帰ったらシン君に肩でも揉んでもらおうかな~。ずっとプチポちゃん作ってたって言い訳して。

「あれあれ。お姉さん、今回は捕虜がいるみたいだよ」

『なにっ!? ……まさか58歳独身彼女募集中という例の奴の仕業かっ!』

「いや、まぁ敵将さんだから、その人の仕業だと言うのは間違いじゃないと思うんだけどね。でもそんな風に言われたらすっごくえっちく聞こえる気がするのは何でだろー」

『それで? 掴まったのは誰だ?』

「えーと、ちょっとまってね。お姉さんがカンペ燃やしちゃったから、プッ君に毎回聞かないといけなくなったから」

『御前のカンペは文字が勝手に浮き上がってくれるのか?』

「そうだよー。凄いでしょ~」

『……それが1枚、50FG? 妖精B5サイズで?』

「うん。でも妖精世界にしか売ってない物だから、お姉さんにはどうやっても手に入れる事は出来ないけどね~。あ、分かったよ、お姉さん。聞く?」

『聞かせろ』

「む、上から目線……どうしよっかな~、ってギブギブっ! 僕ちゃんの身体を雑巾みたいに絞らないで!」

『残念、妖精汁は出てこなかったか。プチポちゃんに混ぜてみたかったのに。きっと高性能の毒プチポちゃんが出来ると思ったのに』

「そんなの出ないよ! というか、僕ちゃんの体液を毒物みたく言わないで!」

『ちなみにピクリちゃんの涙を配合してみたら必ず毒プチポが出来るという検証結果が……』

「あ~、それはありそう」

『出た事は一度もない』

「……やば」

『チーン』

「お姉さん、僕ちゃんになんか怨みでもあるの?」

『そこはかとなく』

「意味分かんないよ……」

『いいから、さっさと捕虜になった無様な奴の名前をあげろ。笑ってやるから』

「お姉さん酷いね。んとね、今回はこの世界の住人さん達じゃなくてプレイヤーさんだね。トラスト・レイニーって言うプレイヤーさん」

 ……あれ?

 どこかで聞いた事があるような?

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