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姪とオンライン!  作者: 漆之黒褐
第三節 『LEGEND OF DARKNESS』
89/115

姪と Makoto

 戦争なんて殺伐した話は止めに致しましょう。

 リアルでシン君が遊びに来てくれました。

「カズミ氏はリアルでもカズミ氏なのですね」

 セットで付いてきたレイ君――リアル名は桐生院(きりゅういん)阿綺羅(あきら)と言うそうです。微妙に凄い名前です。微妙に――にチョークスリーパーホールドをかけながらリア充爆発しろと耳元で囁き続けていたら、シン君にそんな事を言われました。なんか哲学的な響きでっす。思わず目をキランと輝かせてしまいました。

 シン君は何処からどう見ても普通の学生さんという感じで、休日なのに学生服を着ていました。部活の帰りだそうです。ちょっと髪が長めで、ボーイッシュな女の子っぽくも見えてしまう中性的な顔立ちに涼やかな笑顔がのった、メイドオンライン上のシン君と瓜二つの苦学生。いったい何に苦しんでいるのかは知りませんけど、髪と瞳の色が違う以外では服装を一緒にすればまるっきりオンライン上のシン君と同じ顔です。背丈も同じで小さいです。小さいと言ってもリンネちゃんよりは大きいですけどね。まだ伸び盛りの中学生です。

 予想通りの年齢に舌鼓をうって――見た目通り美味しそうな好青年です。うっかり食べちゃいたいです。そっちの気、俺にはない筈なんですけど――ついつい撫でて可愛がっていると、少し距離を取られました。どうやら撫でられる事には慣れていないみたいです。勿体ないなぁ、こんなに可愛いのに。シン君のお父さんとお母さんはいったい何をしているんでしょうね。

「そろそろ要件を聞こうか。交際の申し込みなら即答でOKだ」

「カズミ、リアルでも全然ぶれないっすね……もう少し年齢差を考えて欲しいっす」

 また呼び捨てにしたレイ君を、今度は卍固めにして教育的指導を施します。俺、一応年上だからね? あんまり言いたくないけど、レイ君の親父さんよりも上だからね?

 親しき仲でも俺はレイ君に呼び捨てして良いよと一度も言ってないんだから、少しぐらいは礼儀を弁えようよ。あっちでは兎も角、リアルではダメですよ。

「もうすぐカズミ氏と出会ってから半年になるんですね」

「俺にしてみればまだ半年だがな。もしかして、俺よりも時間の流れを早く感じているのか?」

「僕達は学生の身ですから。いくら睡眠中に第二の人生を送れるようになったからといっても、毎日の勉学であっというまに時間は流れてしまいます。カズミ氏もそうだったのではないのですか?」

「俺の場合、授業は退屈過ぎて早く終わって欲しいと思っていた口だから、むしろ時間の流れは遅く感じていた。今の学生はいつでもネット世界に潜り込めるから、やりたい事だらけで大変だろう」

「そうですね。授業中に堂々とゲームしている生徒もいるぐらいですから。授業に関係している内容であればゲームしても良いというのは、前世紀では考えられない環境だと思います」

「分かっていた事だが、時代は変わるものだな。ちなみにマコちゃんの学校ではどんなゲームがあるんだ?」

 名前が(まこと)だからマコちゃんです。いえ、別に俺だけがそう言っている訳じゃなくて、リンちゃんやユリアちゃんが普通にそう呼んでいたので俺も便乗していまっす。

「大半はクイズゲームですね。ただ、いやらしい事に購買で使えるポイントを貰えたり学内順位やクラス対抗順位をつけて生徒達をあおっていたり、難関モードと称して大学入試レベルの問題を出してきたりその解き方のレクチャーとか平気でしてきます。そのせいなのか、記憶力がものを言う歴史などの教科の平均点は軒並み高いですね。反面、数学などの頭を使う系統の教科の平均点は低空飛行を続けています」

「リンちゃん達の学校とは方針がまるで違うんだな」

「はい。確かお三方が通っている学校では、すべての授業をネット世界で行っているんでしたよね。だとしたらそもそも授業中にゲームは出来ませんね。カズミ氏の時代ではどうだったんですか?」

「基本、堂々と寝るか、こっそり漫画や小説を読むかだな。耳に手を当てて音楽を聞いてるヤツもいた」

「今はどれも不可能……いえ、誰もそういう事はしませんね。授業もしくはゲームが楽しすぎて」

「羨ましい限りだ。先生や授業内容、本人の体質によってはこっちは地獄だったからな。眠りたくなくても瞼が自然と落ちてくる授業はどうすることも出来ない。飲食早弁も禁止だしな」

「飲食や早弁は今でも禁止されてますよ」

「何でも良いからそろそろ離してくれっす。そろそろ腰の骨が折れ曲がってしまいそうっす」

「後で腕の悪い整体師を紹介してやるから頑張れ」

「腕が悪いんっすか!? そんなの紹介されても全然嬉しくないっす!」

「ちなみに2人いる。好き勝手にボキボキしてくる方か、マッサージ用オイルと称して毒を塗り込んでくる方か。どっちが良い?」

「どっちも嫌っす!」

「経験者は語る……たまに地獄にいる気分になれると」

「どんな整体師っすか、それ。というか、その整体師ってリンちゃんとチーちゃんの事っすよね?」

「あと、ユキちゃんは凄腕のマッサージ師だ。上に乗っているだけでとても気持ち良くなれる。しかも肉球マッサージ付き。阿綺羅君には絶対紹介しないけどな。リア充死ね」

「端から見たらカズミ氏も十分リア充ですけどね……色々と危険な意味で」

 都合の悪い事は聞き流しちゃいましょう。それにどちらかというと食い物にされている気がしないでもないんですけどね。姉と妹に娘を押し付けられ、貧乏親子にたかられ。可哀想な俺。変わってあげましょうか~?

「いえ、結構です。間に合ってます」

 ああ、そういえばシン君は大勢いるお姉さん達に色々と迷惑をかけられている口でしたね。ご愁傷様です。お父さん、頑張ったんだな~。

「本日、カズミ氏に会いに来たのは緊急避難の意味もあるのですが、折角ですので現在行われている戦争について少しばかりご相談したいと思います」

「俺的には緊急避難してきた理由の方を根掘り葉掘り聞いてみたいな」

「大した事ではありません。姉のショッピングに付きあわされそうになりましたので」

 ああ、なるほど。地獄の代名詞の一つですね。長時間、荷物持ちとして扱き使われる事が確定してる過酷な労働環境です。逃げて当然です。

「カズミ氏は御存知ですか? 現在、大国であるミネルヴァ帝國と僕達のいる神聖フェネシス龍皇国の間で行われている戦争ですが、実は他の国で開始したプレイヤー達は未だに戦争を経験していないそうです。僕達のいる国だけが戦争という名のマスコンコンテンツを毎日のように行う事が出来るみたいなのです」

「戦争が始まってもう2ヶ月だろ? 向こうだと半年か。ただ単にそういう世界設定だったで良いんじゃないか?」

「プレイヤーが国家間を楽に行き来でき所属を皇国へ簡単に変更出来るのであれば、ですね。出不精のカズミ氏はあまり世界情勢に興味がないようなので知らないのでしょうが、他国へ移動するというのメイドオンラインの世界ではかなり難しいミッションとなっています。カズミ氏は、南にあるコルヌリコルヌの大迷宮の先には何があるか知っていますか?」

「金銀財宝ザックザク」

「それはリンちゃんの妄想っす」

「じゃあ、希少な毒素材がドックドク」

「それはチーちゃんの願望っす」

「まぁ、最下層まで到達出来れば伝説級の装備があるだろうというのはNPCの情報から判明していますが、財宝や毒物があるかどうかは誰も確認していないため分かりません。ただ言えるのは、大迷宮は南にある国と繋がっているということです」

「そうなのか。国の名前は?」

「聖アズヌール共和国です。皇国と同様、帝國とは西で接している小国の一つです。共和国ですので君主が存在しませんが、教会の意向が非常に強く、形式上は国民によって選ばれた聖女をトップとして実質は教会の権力者達が国を牛耳っているという、それなりに歪んだ思想を持った国ですね。チーちゃんが好みそうな毒を持った魔物が多く、その影響なのか聖術系の職業やスキルが取得しやすいそうです」

「なるほど。それでチーちゃんとメグちゃんが大迷宮の攻略に少し躍起になってるのか」

 メグちゃんというのはユリアちゃんの事です。本名は立花(たちばな)(めぐみ)。どこにでもいる普通のどじっ子ちゃんです。オンラインでは突然転けたりする事はまずありませんので、リアルで実際に会うまで分かりませんでした。なんであんなに自分の足をもつれられるんでしょうね。摩訶不思議でっす。

「ただお二方にははまだ話していないのですが、下層へ向かっても大迷宮を南に通り抜ける事は恐らく出来ません。南の共和国から偶然大迷宮を突破し皇国にやってきた初のプレイヤーは、道に迷った挙げ句、落とし穴の罠に何度か掛かり、凶悪なモンスター達に追いかけ回された結果こちら側に来てしまったという話です。カズミ氏も御存知の通り、大迷宮が発見されたのはサービス開始初期ですので、上層階の地図はとっくに埋まっています。あの世界で落とし穴に好き好んで落ちたいと思う方はいませんので、ほとんどの方は凶悪なモンスターに追いかけ回されたというキーワードの方を重視し、下層の地図を埋めればきっと繋がっていると思っています」

「つまりそれは、落とし穴の先にあるマップは独立している可能性が高いということか」

「はい。現在、その検証も行われています。とはいえ、あの大迷宮は時間が経つと一部のエリアで造りが変わるという厄介な性質を持っていますので、なかなか進んでいないようですが。それ以前に、わざわざ大迷宮を経由しなくとも、帝國経由で皇国に来る事は可能ですので、普通はそちらの手段を選びますね」

「だが、マコちゃんがさっき言ってた言葉を聞く限り、その道程も険しいんだろ?」

「そうですね。敵国への亡命という手段を2度も繰り返す事になるため、結構な時間が掛かります。ですがその代わりに、ミッションをクリアしていくとその国ごとに取得出来る特殊職の解放や、レアスキルの取得、多種類のスキル解放条件の達成が見込めるため、挑戦する方は多いですね。皇国のように戦争が発生してマスコンというコンテンツで頻繁に遊べない他国では、基本その手のミッションを進めるか、もしくは国ごとに違う特殊コンテンツで遊ぶというのが一般的です。ペットを育ててレースに出して遊ぶコンテンツや、破産者が続出しているカジノのようなコンテンツ、土地の開拓や農耕というコンテンツもあります。オンラインゲームの特性上、長期間に渡って遊ぶ事を前提としたゲームならではのものが多いのは当たり前なのですが、このメイドオンラインでは明らかに第二の人生と言っても良いぐらいに自由度が高く規模が大きい代わりに超長期的な展望を踏まえたコンテンツも少なくないかと。苦労して土地を手に入れ、その土地を耕して作物を育てるというのは別に良いのですが、収穫がリアルと同じくゲーム時間内で数ヶ月先というのはどうにも笑ってしまう仕様ですよね。普通はもっと短い時間で収穫出来るのですが……」

「他の国ではそんな事が出来るのか。となると、皇国でもマスコン以外に何かそういう特殊なコンテンツがあるのか?」

「いえ、ありません。強いて言うならば、エリアボスがやたら多いぐらいでしょうか」

「もしくは戦争が勃発してマスコンが可能な事自体が国の特徴という訳か」

「そうですね。いずれは他の国でも戦争が起こりマスコンが出来るようになると思います。が、リアルでもそうですが、戦争が起こっても良い事はほとんどありません。僕達の場合、死んでもホームポイントに飛ばされるだけなのでいくらでも無茶致しますが、NPC兵士の場合は例え生き永らえたとしても人体に欠損が発生していたり、捕虜にされた挙げ句拷問にかけられゆくゆくは発狂死するか戦争が終わるまで獄中で過ごすことになる事が多いそうです。NPC兵士が女性だった場合は……」

「その先は言わなくて良い。それと、略奪も当然あるということも。奪われた西の穀倉地帯に住んでいた者達がどうなったかは、あまり考えない方が良さそうだな」

「プレイヤーの中には砦を迂回して西に入る事に成功した人がいるみたいですが、かなり酷い有様だったようです。家は焼かれ、その地に住んでいた人は誰もおらず、代わりに帝國から連れて来られたと思われる奴隷兵達が田畑を耕し、激太りした役人が我が物顔で歩き鞭を振るい、悪臭が漂い、瘴気の濃度が格段にあがり、夜になれば不死者や幽霊が現れて襲い掛かってくる。とても同じ場所だとは思えない惨状だったそうです」

「いや、だから言わなくて良いと言ったんだが」

 ああ……言わんこっちゃないです。幽霊と聞いてレイ君がブルブル震え始めました。まぁその前からブルブル震えてましたけどね。卍固めしてたこと、すっかり忘れてました。てへっ。

「帝國と皇国が戦争するに至った発端なのですが、カズミ氏は何か心当たりがありませんか?」

「そんなもの、俺が知る訳がないだろう。というか、一介のプレイヤーである俺に何でそんな事を聞く」

「何となく、僕はカズミ氏が怪しいのではと考えているからです」

「おいおい。善良な市民を捕まえて」「善良、なのですか?」いやいや、そこを疑問に思わないで下さいよ「戦争を引き起こした犯人に仕立て上げるのはいくらなんでも突飛過ぎるだろう。俺は無実だ」

「犯人は皆そう言います」

「いや、犯人じゃなくても普通はそう言うだろうに」

 ぐったりしちゃったレイ君をポイッと捨てて、今度はシン君に近づきます。あ、危険を察知したのか逃げられた。シン君にも卍固めかけたかったなぁ。スキンシップしたかったなぁ。

「戦争の発端は、恐らく例の襲撃者かと思われます」

「襲撃者?」

「はい。春に港街エルファシルを襲ったあの人型ゴーレムです。皇国では、あれは帝國が送り込んできた化け物だという見解で一致しているそうです」

 うおぅ。こんなところでアレの話が出てくるとは思っても見ませんでしたよ。

「覚えてますか? 僕達が最初にアレと出会ったのは、エルファシルの西にある洞窟『炎獣の住処』だった事を。洞窟の通行を戯れで邪魔している炎獣ケルベロンを倒した後です」

 ケルベロン君ったら、戯れで邪魔してるんだ。寂しいのかなぁ? 思いっきり手加減もしてるみたいだし。

「ですが、洞窟のすぐ目と鼻の先にある鉱山都市ヴィオレスクでは誰も見かけていません。ヴィオレスクは南にある小さな湖付近を除外して、洞窟の出口を西から北にぐるっと囲むような形となっていますので、アレは間違いなく南から迂回してやってきたという事になります」

「湖の先には何があるんだ?」

「広大な山脈です。例えるなら、アルファベットの小文字のX――半円同士が合わさった小文字のx、それを若干半時計方向に回転させた形を思い浮かべてもらえればいいかと。左上が洞窟を抜けた先にある王都均衡、右上がエルファシルのある領域、右下が聖アズヌール共和国、そして左下が帝國となります」

「帝國領から山脈伝いに進んできた事になるのか。だが、普通なら王都の方を襲撃させるんじゃないのか? わざわざエルファシルを攻めても何の得にもならないだろう」

「そうでもありません。アレはエルファシル近郊にいるモンスターを操っていました。しかも大量に、僅か1時間足らずで。恐らく何かしらの匂いを風に乗せて事前に散布していたのでしょう。エルファシル付近の風向きは南西の山脈から吹き降りてくるか、海からの潮風のどちらかですので」

「そんな事まで調べているのか……」

「風向きは重要ですよ、特にリンちゃんという危険人物と一緒に行動している僕達にとっては。空から降ってくる隕石は風向きの影響を受けて落下地点がずれますので、巻き込まれないためには必須スキルです」

 人の姪を危険人物呼ばわりしないでください。いくらシン君でも怒っちゃいますよ。ガオー。

「いや、そんな能力を必須スキルだと言われてもな……そうか、何故かみんな戦闘中に突然奇妙な位置取りをする事があったのはその所為か」

「チーちゃんなどは、風の勢いを借りて踏み込み速度に上乗せしているみたいですけどね。大ジャンプした後の着地地点の計算も勘で行っているそうです」

「無駄にスペック高いな、おい。リアルじゃとても考えられん。いや、リンちゃんと同じ血を引いてるんだから、実は別に不思議な事じゃないのか?」

「リンちゃんはリアルでもオンラインでも元気いっぱいに走り回ってますからね。たまに商店街を「達急動!」と叫んで突っ切ってる姿を見かけます」

 なにそれ恥ずかしい! まぁお子ちゃまだから許される事ですよね。みんなきっと微笑ましい笑顔を浮かべて眺めているのでしょう。商店街名物にならなきゃいいですけど……。

「帝國の見解では、知らぬ存ぜぬだそうです。当たり前ですね。アレは甚大な被害を出しましたから」

「もし本当に帝國がアレを送り込んできたのだとしたら、そのメリットはなんだ?」

「一つは、既に達成されている戦争の引き金でしょう。何の理由もなしに攻め込むよりは、何かしら難癖をつけさせて、頭にきたから攻め滅ぼすといったノリで。帝國はとても強大ですが、その反面、敵は多いですからね。逆らえば容赦はしない、日和見を決め込んでいるうちは攻める事はしない、そんな暗黙のルールを何十年何百年と作り上げてきた国らしく、尚かつ相手の方が国力が高くても勝ち残ってきた強国です。そういう意味では、皇国があからさまに帝國に対し不満の声をあげたというのは、皇国側のミスです。真実がどこにあるのかは別として」

「喧嘩するなら相手を見てからにしろよ……」

「ここ十数年、皇国は戦争らしい戦争を経験してなかったみたいですからね。新しく即位した若き王は、その辺のところがさっぱりだったのかも知れません」

「周囲にいた者達も平和ボケしてたと見るべきだろうな。ちなみに皇帝じゃないのか?」

「皇国とは言ってますが、実質的にはただの王国ですね。神聖という名はどうも箔付けみたいです。歴史の紐を解いてみても何が神聖なのかよく分かりませんでした。龍皇国という意味の由来は分かりましたが。余談ですが、王国の歴史で最も有名なのは、今現在も伝説を作り続けているダークナイト氏でした」

「箔付けって……せめて南の共和国みたく、飾り物の聖女ぐらいは祭り上げろよ」

「あ、共和国の聖女は本物みたいですよ。聖なる御技として、範囲内にいる人全員を死を恐れない狂戦士に変える〈聖戦〉と呼ばれる聖術が使えるそうです。過去それを首都で使用し、数十万人もの一般人を一瞬で狂戦士に変えて隣国を3日で落とした事があるそうです。まぁ、後には両国あわせて百万人規模の死体の山が出来たそうですが。敵味方無差別に皆殺しだったそうです。狂戦士と化した人達も、死ぬまでずっと暴れ続けたそうですし」

「それ、聖なる御技でもなんでもないな……むしろ邪法の類にしか思えん。つーか、狂戦士が作れるって事はむしろ実は共和国の方が怪しいんじゃないか? 帝國領をスルーして山脈をグルッと」

「その可能性も考えましたが、そうなると下手をすれば帝國に喧嘩を売る事になってしまいますが。流石にそこまで馬鹿ではないでしょう」

「そう言えばそうだな。見つかった瞬間、即戦争だよな」

「ちなみに共和国限定のコンテンツは、別名『不死者の国のアリス』というそうです。死者の都と化した旧主都を歩き回り、今でも成仏できない人達の願いを一つ一つ聞いていくという内容らしいです。クエストし放題です。以前に話しましたカズミ氏がレベルアップするために必要な条件の一つ、クエスト1万回達成という情報は、そのコンテンツでひたすら遊び続けていた人からの情報です」

「クエスト1万回って……普通に計算してもかなりヤバイ数だな。半年かけたとしても、1万を180日で割って、更に15時間で割ったら、1時間あたりクエストを4個弱処理する計算になるんだが」

「そこでは早い人で10分で1個は余裕で処理出来るそうです。繰り返し出来るクエストも多いみたいですからね。効率良く回れば1万回なんてあっと言う間です」

「絶対にあっと言う間じゃない気がする……」

 いくら第二の人生だからといって、幽霊が蔓延る場所で毎日クエスト漬けは嫌だなぁ。というか、ホラー好きな人じゃないと絶対に無理ですそんなの。レイ君は間違いなく1抜けたですね。あ、耳押さえてる。復活してたんだ。

「帝國がアレを送り込んできたもう一つのメリットですが、うまくいけばエルファシル一帯にいる大量のモンスターを操り、王都を3方面から攻撃する事が出来ます。エルファシルを滅ぼした後、アレは一時的になりを潜めさせ、戦争が始まったら期を見て再度モンスターを操り東からも攻め上る。モンスターであればいくら死のうとも気にしなくて済みますので、被害も相当抑えられる事でしょう」

「そうなっていたら、いくら伝説の存在でも守りきれなかっただろうな」

「本気で帝國が攻めてくれば、どちらにしろ守りきれないと思いますけどね」

 俺は一人しかいませんからね。平和ボケしてた皇国にはまともな人材がいないみたいですし、それ以前にプレイヤーの戦争参加を制限してる時点で悪手としか言いようがありません。どうせなら王都のマイホーム購入権をプレイヤーに解放し、王都へプレイヤーを集めてもっと気軽にマスコンへ参加出来る様にすればまた違ったと思うんですけど~。

「……なるほど。帝國が裏で関与しようとしてなかろうと、アレが戦争の引き金となったのは何となく理解した」

 アレを発生させちゃった俺に原因がある事も理解しちゃいましたが。そっちは黙っていましょうね。シン君は何やら勘付いているみたいですけど、本人の証言がなければ確証には至りません。この秘密はお墓に入る時までずっと心にしまっておきま~す。

「それで? マコちゃんがずっと気にしているのは何なんだ? 別に戦争が何故起こったかを俺にただ話しにきたんじゃないんだろう?」

「いえ? 僕はただカズミ氏と世間話をしにきただけですよ? 最初に言いましたが、姉さん達の買い物から緊急避難してきたのが主な理由です」

「その後に、相談したいことあるとかなんとか言ってなかったか?」

「あれは言葉のあやです。忘れて下さい」

「……心の傷として残しておくかな。マコちゃんに弄ばれた挙げ句、ポイッと捨てられたとして」

「それは阿綺羅さんの事でしょう」

 ズズズっとお茶を飲むシン君。

「これは……今話題のプチプチポーション・プチネオ・グリーンティー風味ですか」

「いや、普通のお茶だが? マコちゃん、すっかりゲームに染まってるな」

「染まらない方がおかしいでしょう……わざわざゲームの中で再現したのですか?」

「どうせ飲むなら色んな味があった方が嬉しいだろ? 開発に結構苦労したが。ダメになった素材は数知れず。毒プチポちゃんになった数も数知れず、だ」

「例の王都イベントの後、毒プチポが急に市場に大量に出回るようになったのは、予想通りカズミ氏が原因でしたか」

「予想しなくともカナちゃんに聞けば一発で分かる事だろ」

 ユダちゃんのことでっす。本名は立花(たちばな)(かなで)ちゃんでっす。ユリアちゃんと瓜二つの双子の妹さんでーす。違うのは性格だけです。わざとなのか、髪形や服の色まで一緒です。さてさて、二人のどっちが相手を真似てるんでしょうね~。ユリアちゃんが真似てるとしたら、レイ君をめぐっての恋愛バトルが行われてるって事になりますよ? 間違えて、あ……とかなんとかを狙って。

「仕入れ先の情報は秘密だそうです。彼女もすっかり商売人ですね。立花商店の将来は安泰です」

「それ、思い切り俺がまるで頼りにならないって言ってる気がするっす」

「事実ですから」

「ぐさっ!」

「いや、カズミ。そんな効果音つけなくていいっすから」

 あ、また呼び捨て。完全に絞め落として、シン君との2人きりの甘い一時と洒落込みましょうかね? そ~れ、死にさらせ、スクリューパイルドライバー。

「ただいま~。あれ、誰か来てるの~? あ、マコっちだー。はろはろ~」

「マコさん……はろ……ハロ……」

「真さま、ご機嫌麗しゅうなので御座いますのですわ」

「こんにちは。お邪魔しています」

 残念。マイラブリー姪ちゃん達が帰ってきてしまいました。スクリューパイルドライバーの続きはまた今度!

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