メイド no General
今月より、毎月6の倍数の日に投稿致します。(30日が無い月は月末更新)
侵攻してきたミネルヴァ帝國の第一陣が、電光石火で王都フェネシスの西、クリューゲル山岳地帯にあったバルトロス砦を占拠したのはゲーム内時間で約半年前の事でした。半年前……つまりリアルで二ヶ月前のこと。
砦の西側には黄金領域とも呼ばれる穀倉地帯が広がっており、帝國はその穀倉地帯と王都を分断。帝國は占拠した砦に強固な防衛部隊を配置し、南の国境から本体である第二陣が進軍を開始。それにより、完全に後手に回った神聖フェネシス龍皇国は、国力差から必然的に戦力を南に向ける必要があり、分断された国の胃袋を取り戻す事が出来ないまま現在に至っていました。
帝國の侵攻はとても慎重でゆっくりでした。戦争の序盤で穀倉地帯を奪う事に成功したことで長期的な戦略も可能となり、皇国が疲弊するのを待つ算段の模様です。というのも、バルトロス砦侵攻戦と同時に王都フェネシスへと向けて進軍させた帝國の威力偵察兼斥候強襲部隊が、突如戦場に舞い降りた2人の存在に僅かな時間で半壊し多大な被害を出したため、それを懸念したからです。
強引に力技で攻め込み落とせる自信があっても、やはり被害は最小限に抑えたいと思うのが将の常。遅れて判明した、決して死なない大陸外からの訪問者の脅威もあったのでしょう。帝國は小競り合いを繰り返すばかりで、いつまで経っても本腰を入れた侵攻はしてきませんでした。
「今回も押してるね~。またまたまたまたおねぇさんの勝利かな?」
人様の兜の上で羽を休めているポックル君が呟きます。
「あ、右翼がちょっと危ないかも」
「水龍の鉤爪部隊、疾風陣形にて中央突破せよ! のち、右に転進し敵右翼を背後から強襲突破せよ。突破後、右翼後方で次なる命令を待て」
「容赦ないね、おねぇさん……」
帝國軍兵士達の訓練度は高く、防御を固めながら着実に前進してきます。対する皇国軍の義勇兵部隊は――半分以上をプレイヤー達が占めてます――持ち前の火力でごり押ししようとする傾向が強く、命令無視もいつものこと。特にギルド単位で参戦しているチームは、チーム内の結束連携により安定した戦いが出来るためか、自分達の戦績ポイント優先で動く気来があります。戦線が有利な時ほど命令無視します。
今も右翼にいたギルド部隊が勝手にこっそり中央にいる帝國軍将校に向けて移動を開始したため、層の薄くなった右翼は一気に崩壊。彼等的には勝利が間近になったことで敵将を討ち取ると同時にライバルの一部を蹴落としてしまおうという魂胆なのかもしれません。が、崩壊した右翼にも当然NPCはいるので、そのNPCが大量に死ぬと、次の戦以降に響いてしまいます。
これはゲームだからと割り切るのは別に構いませんが、目の前にある利益を優先した結果、皇国が疲弊し戦争に敗北。それは同時に、折角稼いだ戦績ポイントもほとんど意味をなさなくなるということ。その事に気が付いて欲しいものです。
まぁ、部下の暴走をフォローするのも指揮官の務め。中央に戦力が勝手に集まってきたので、この際一気に中央を蹂躙してしまいましょう。
「右翼、全力防御微速後退! 左翼、徐々に左へと陣を移動し味方中央軍への道を開き、敵軍を味方本陣へ誘導せよ。皇国の禍き暗黒騎士、スタンバイ!」
「うい~っす」
すぐ近くで待機していたレイ君が力なく返事をします。毎日マスコンばかりしているため、レイ君は例の鎧を脱ぐタイミングを逃してしまっていました。但しその代わりに、すっかり有名になってしまった事で王都をその姿で歩いても捕まらなくなったそうです。前科更新も一時打ち止めです。
それ以外にも、ただでさえ高防御力だった鎧が使い続けた事でグレードアップしてしまい、現在手に入る鎧の中で最高峰に位置するほどの防御力を手に入れてしまったそうです。ササメさんも愛用してくれているのが嬉しいのか、使い道の少ない高額な修理素材をストックしていつでも鎧を修理出来るように待ち構えていてくれてるそうです。ちょっと妬けてしまいますね。
そんなレイ君と仲良しこよしのシン君とユリアちゃんは、それぞれNPCとPTを組んで最前線を支えています。本日のアドホックPTリーダーであるセンねぇちゃんが率いる『水龍の鉤爪部隊』で敵中央軍に怒涛の攻撃を仕掛けています。
あ、ユリアちゃんが敵副将を討ち取ったっぽいです。本日の2番手柄ですね。きっと今頃センねぇちゃんは少し悔しそうにしている事でしょう。敵大将さんにはプレイヤーが殺到していますし、これ以上戦果をあげるとプレイヤー達からの妬みの量が半端なくなります。涙を飲んでそのまま敵後方部隊をつついて敵右翼部隊を混乱させて下さい。
「敵左翼後方に爆撃開始!」
待ってましたとばかりに、上空で遊覧飛行していた赤い悪魔――今は全身真っ黒ですけど、下にいるプレイヤーさん達からはその姿が見えませんからね。隕石法術というだけで素性がばれてます――マリリンが全力攻撃を開始。後は放っておきましょう。味方にはあまり被害を出さないでね。
マリリンとレイ君も一応センねぇちゃんのアドホックPTには入っていますけど部下NPCはいません。基本、2人は単独行動が多いので部下を付けても活用出来ません。皇国軍の戦力も十分とは言い難いので部下NPCなしでいつもお願いしています。
マリリンは空からの一方的な爆撃で個人戦績は稼げますけど、鉄壁型のレイ君は個人戦績はいつもほぼゼロ。本人はそれでも別に良いらしいです。戦績稼ぐよりも重要な役割を与えてくれる方が嬉しいそうです。それに、他の4人がチーム戦績を稼いでくれるので貧乏くじという訳ではありませんしね。適材適所です。
「なぁ、あんた。そろそろ俺達も前に出たいんだけどさぁ。前で美味しい思いしてる奴等下げて俺達にも餌をくれよ」
ポックル君経由で上空にいるピクリちゃんからの戦況報告を聞いていると、ガラの悪い低レベルプレイヤーさん達から話し掛けられる事が良くあります。一応、彼等もマスコンに参加するために必至のミッションをクリア出来るだけの実力をかつては持ち合わせていたのですが、今現在は低レベル。クラスチェンジ/クラスアップしたてだったりしてまるで戦力にならないのが分かりきっているのに、参加賞欲しさにこの戦争にエントリーしているちょっと迷惑な人達です。
前線に送れば戦場に飛び交う矢や法術に耐えきれずアッサリ死亡。かといって守りに回しても基本的に役に立たず、しかも無駄に愚痴を零したりやる気のない姿を見せて味方の士気を下げるばかりです。
もちろん、そんな彼等にも使い道ぐらいはあります。そんな彼等を本陣においておけば、敵は本陣まで攻め込めればチョロそうだなと勘違いしてくれる事があります。最初の頃はそれで勝利を重ねる事が出来ました。この軍の指揮官である俺の首が無事であり、且つどれだけ被害が出ようとも撤退さえしなければ勝利になります。
元来、軍隊というのは損害が3割を越えたら戦闘続行不可能と言いますが、それは負傷者の搬送に多くの人員を割く必要があり、部隊としての運用が出来なくなるからです。しかし、負傷しようがお構いなしに戦えるプレイヤー達は、例え死亡しても勝手にホームポイントへ移動して生き返るため、いつまでも部隊として運用が可能となっています。その結果、参戦しているプレイヤーの数が多ければ多いほど損耗率を考慮しなければならないNPCの数は少なくなり、撤退も後ろ倒しに。
具体的に言うと、プレイヤーが全滅するか、本陣まで攻め込まれ俺の首が飛びかけたら撤退です。但しこの場合、前者の条件が満たされる前に後者の条件を満たしてしまう事がほとんどなので、うまく俺が立ち回れば良いだけの話です。そのための捨て駒も俺の周りには配置していますし。
「つーか、好い加減、指揮官変われよ。あんたばかりずりぃぞ」
「あの子達もずるいわよね。たまたまお金が足りなくて呪われた家を買ったら大当たりだったなんて。どうせ例の特殊イベントもリアルラックで乗り切ったんでしょ? あの隕石法術もユニークだって話だし。ほんと、世の中不公平よねー」
「あいつら殺したら強運とか黄金律とかのスキルゲットできねぇかな」
「お、殺るか?」
「数集めてボコろうぜ」
「いやいや、それじゃ即死するだろうが。そこにいる変態騎士様は別として」
「麻痺薬と昏睡薬なら大量に持ってるから安心しろ。いつも大量に持っているぜ」
「何のためにだよ……」
「え? もちろん、路地裏で可愛い女の子とごにょごにょするためにだけど?」
「……先にこいつを殺っておいた方が良さそうだな。リアルで実害が出る前に」
「賛成」「賛成」「同意」「御意」
危ない発言をしたプレイヤーがその場のノリで排除されました。どうでもいいけど、敵さんすぐ近くまで迫ってるんですけどね。しかも今の光景を見て士気あがっちゃいましたよ。まるっきり仲間割れでしたからねぇ……戦争中に何をやってるんですか。
「喝っ!」
気合い一声、早速挑発スキルを使って敵さんの注意を引き付けようとしたレイ君のその叫声に、味方であるプレイヤーさん達の注意も同時に引き付けられました。
「中央、全速後退! 両翼、中央に向けて突撃! 本陣、防戦しつつ敵軍を包囲殲滅せよ!」
戦局は終盤に。敵将が討たれた事を知らない敵右翼は、目論見通り味方本陣を強襲してきました。しかしそこには鉄壁の暗黒騎士が万端の体勢で待ち受けています。しかもその暗黒騎士の姿は指揮官である俺とも似ているので、馬にも乗らず岩の影に隠れている俺の代わりに敵の猛攻を引き受けてくれます。
そこを烏合の衆である低レベルの雑魚プレイヤーが待ってましたとばかりにハイエナのように群がり、しかしステータスが低すぎて返り討ち。レイ君には事前にまともなプチポちゃんを大量に渡して、兎に角ガブ飲みして耐えるようにとジェスチャーで伝えてあります。
採算度外視でプチポちゃん漬けとなっている高防御力持ちのレイ君はなかなか倒れません。また、そんなレイ君を見たプレイヤーさん達は別にレイ君を不思議な目で見る事もありません。
何故なら、レイ君の知り合いにはプチポちゃんを大量に生産し続けている異常プレイヤーがいる事をみんな知ってるからです。やっちゃった感120%の残念美人吟遊詩人が引き籠もって毎日プチポちゃん作りに精を出している事はどうやら有名だそうです。レイ君達の知名度があがると同時にその誰かさんの知名度もなし崩し的にあがってしまったそうです。
ついでにユダちゃんのお店はいつも大盛況。単体での回復量は1でも値段は2FG。錬金術系のスキルを持ってる人が大量に購入して混ぜ合わせれば、低コストで高回復する格安のプチポ+ちゃんが手に入ります。加えて、ユダちゃん印のプチポちゃんには色んな効能が必ず付加されているので、混ぜ合わせた後のプチポ+ちゃんも物によっては結構使えるものに。
まぁ、やっぱり安いのが一番売れている理由みたいですけどね。通常は回復量に対し値段が指数関数的にあがるのに、プチポちゃんから作ったプチポ+ちゃんは高くても数倍がいいところだそうです。
それに、噂の吟遊詩人さんは大量にプチポちゃんを市場に流し続けるので供給量も安定しています。最近ではネオプチポちゃんなる謎のアイテムも出てきて市場を更に沸かせているとか。
「はぁ……あいつら馬鹿だよな。捨て駒にされてるって事に早く気付きゃいいものを」
問題発言をしていた雑魚プレイヤーさん達を死地に送り込んで束の間。ガラの悪いプレイヤーがまだ近くに残っていたようです。確か、ダーククラウドという名前のプレイヤーだったかな? レベルも十分に高いので、本陣にいる筈がない人なんですけど。さて、この人はいったい何のために此処にいるんでしょうか。やっぱ、指揮官している俺に対する愚痴かな?
「これは興味本位で聞くんだが、あんたはどうやってその権利を手に入れたんだ?」
ダークブルーの瞳が兜の中にある俺の瞳を覗き込んできます。
「あいつらとは違うんだろ? なぁ、それだけでも良いから教えてくれよ。俺はそっちの方がしたいんだ」
どうやら彼は俺がマリリン達とは異なるイベントをクリアした事でこの指揮官の座を手に入れたのだと考えているようです。世間に出回っている情報はシン君達の体験談なので、当然それを参考にイベントをクリアしても武将止まりです。
一応、武将でも部下のNPCに命令を出してプチマスコンっぽい事は出来ますが、戦場では敵の数が多すぎてあまり現実的ではありません。どちらかというと、多くのNPC兵士さん達をPTに交える事が可能になった事で、センねぇちゃんのようにアドホックPTリーダーの機能をより簡単に楽しめるようになるという方が大きいかもしれません。プレイヤーは好き勝手に動きますけど、NPCは命令に忠実ですからね。また、恐らくゆくゆくはアライアンスPTも組めると思います。
今のところ、俺は約200人を率いているので、そのアライアンスPTリーダーに似た地位にあります。ですが、マスコンの部隊指揮官という事で、本来のアライアンスPTで出来る事よりも多くの事が出来るようになっています。
指示/命令がその一つ。プレイヤー相手にはあまり機能していませんが、従順なNPC兵士さん達は指示した通りに動いてくれます。それに引き摺られてプレイヤー達も動く事が多いです。
「それとも、あいつらよりも先にイベントをクリアしたからその権利を得る事が出来たのか?」
これ見よがしにナイフを見せてるのはなんでしょうね。毒でも塗ってあるのかな。
「つーか、好い加減正体あかせよ、てめぇ。いくら何でも秘匿しすぎだろ。もうちょっと他のプレイヤーの気持ちを考えてくれよ。てめぇらばかり良い思いしてんじゃねぇ!」
この手の輩の言葉をいちいち聞いてたらキリがありません。いつも通り完全無視です。応対すればすぐに頭に乗り、骨の髄までしゃぶり尽くそうとしてきます。そして対価をまるでし払わおうとしない。ただ自分達が得する事だけを考え、それが当然と考える。
彼が要求するばかりで交渉材料をまるで提示していない事からして、それは間違いないでしょう。きっと中身は子供ですね。大きな身体を持った子供の可能性も高いですけど。
無償で情報を開示したシン君達の場合、本人達が置かれている独占状態に危険を感じ、2番手以降を早く誕生させたかったからです。それに、自分達だけが武将だと戦力的にも今一ですし、何よりこの戦争に勝つためにはマスコンに参加するプレイヤーの数も増えてもらわなければなりません。
港街エルファシルの南にあるコルヌリコルヌの大迷宮というコンテンツを遊ぶと、そこからマスコンに参加しようとなると移動だけでかなりの時間が吸い取られてしまいます。武将になれるイベントをクリアすれば王都へワープする事が出来るようになるので、移動時間の大幅短縮が見込めるようになります。
プレイヤー達の傾向として、子供プレイヤーは能動的にあちこち移動して色んな事で遊びたいと思うのですが、大人プレイヤーは受動的な傾向にあり、また1箇所に落ち着いてのんびり過ごすのが好きな方が多いそうです。
いち早くマイホーム購入に躍起になったのも大人プレイヤーの方が多かったとか。そういう人達は安定思考の方が多く、高額の呪い物件にまず手を出しません。そして、拠点が間違いなく港街エルファシルになるので、南の大迷宮には遊びに出かけても、遠い西の地にはどうしても二の足を踏むようになります。その親プレイヤーとセットの子供プレイヤーも、マイホームがあるならそこを拠点に活動し始めます。結果、港街エルファシルは今でも活気有る街として栄えていました。
ちなみに、大人プレイヤーは職人さんになる人も結構多いみたいです。母方は特にそうですね。毎日せっせと素材採集して、服やアクセサリーを作って店に持ち込み、他の奥様方と井戸端会議をして、スポーツをするかの如く子供と一緒に大迷宮で遊び、子供のために御飯を作って家で待っている。そんな生活です。
逆に父方は、子供をほっぽって遊び回る人の方が多いようです。東の海岸や北の湖で釣りに興じてみたり、レアモンスター狩りで何時間も同じ場所でのんびり待ち続けてみたり、鉄道やらプラモデルをこの世界で作って見せ合ってみたり、新たな出会いを求めてこっそり浮気していたり。もちろん全員が全員そういう訳ではありませんが、子供の化け物じみた体力に付きあいきれず待避している人が多く見受けられます。流石に15時間ずっとという訳ではありませんけどね。母方よりは子供と接する時間は短い傾向にあるそうです。
余談ですけど、シン君やレイ君、ユリアちゃんの親はVR機器を買っただけでプレイしていないそうです。ゲームはしない人種らしいです。だけど子供の頼み事は聞くという、とても甘やかしぃなご両親だそうです。
この前、挨拶に行きました。開口一番に「娘さんを僕に下さい!」って言ったら、笑いながら殴りかかってきましたよ。冗談もあまり通じない人種っぽいです。
しかし、何故シン君の父親までも殴りかかってきたのかは謎です。う~ん、とっても謎でした。シン君のお姉さん方の事だと勘違いしたのかな?
「ったく、いくら戦績ポイント貯めても上にあがれないんじゃ、そろそろこのコンテンツも潮時か。いつかてめぇのようになれると思って毎日ぶっ続けで戦場に出て頑張ってたってのによ」
またくだらない筋違いの愚痴を言ってますね。1人1日1回しかマスコンに参加出来ないので、毎日戦場にでてる人は結構います。俺なんて強制的だから皆勤賞でっす。
それ以前に、頑張ってる割には戦績上位者にあなたの名前がないのは何ででしょうね。毎日戦績発表がありますけど、ダーククラウドなんて名前は一度も見た事がありません。
つまり彼はレベルもいまいちで、PTを組む仲間もいないボッチちゃんという事です。そんな人がこんなところで油を売っていれば、そりゃ戦績は芳しくないでしょう。
まぁそれでも彼なりに頑張ったのでしょうね。頑張りの量は人によって異なります。頑張らなくても出来ちゃう人と、頑張っても出来ない人と様々です。彼は後者だったという事にしておきましょう。
「しゃあねぇ。ちょっと憂さ晴らしするか」
そう言って彼は大きな鎌を振り上げ、接近してきた敵目掛けて振り降ろす……と見せかけて、俺の首を狙ってきました。
「ぐっ……てめぇ」
仕方ないので、いつものようにミセリコルデで彼の心臓を背中から一突き致しました。鎌を振り回しながら振り返る直前にブスッとです。
好い加減、学習してほしいですね。何度も俺の命を狙ってるんですから、そんな見え見えの芝居をうたれても油断致しませんって。
「ダークナイトっ! てめぇ、この野郎!」
HPがゼロになる前にダーククラウドが声を張り上げて俺の存在を敵に知らしめます。隠れていたことがばれました。
「喝っ!」
すぐにレイ君が注意を引き付けようとしますが、モンスターさん達とは違い敵兵士さん達には行動の優先順位があるらしく、挑発スキル虚しくほとんどの敵兵士が俺の方に向けて殺到。レイ君ほどの防御力のない俺には、その攻撃のすべてを受けきる事なんてとてもじゃないですが無理ゲーです。逃げようにも鎧の重量で速度が著しく落ちているのですぐに追いつかれます。馬に乗ってれば逃げれたんですけどね。
「全命令解除! 自由に戦え!」
伝令さん達にそう命令を伝え、俺の近くから逃がしました。これ以降はもう命令を出す事が出来ません。なので、みなさんの自由意思に任せます。NPC兵士さん達も自己AIで動き始めます。敵将を討ったことでもはや勝ちは決まっているので放っておいても命令無視が可能なプレイヤー達が勝手に残った敵を殲滅してくれますが、NPCさんは命令に忠実なので余計なところで被害を出してしまう可能性があります。
敵が撤退を開始すると味方のNPC兵士は自動的に戦いを止めて負傷兵の治療に専念するので、むしろ敵味方ともに助かる命が増えます。死にかけていた敵兵士にプレイヤーがトドメを刺そうとしても、味方NPCが保護すれば攻撃出来なくなり助ける事が出来ます。いくらゲームの世界だからといっても、命は大切ですからね。戦意のない敵を無慈悲に殺すのはタブーです。
さて、戦後の事はNPCに任せて。俺の周りには大将が討たれても構わず俺の首を狙いにきた敵兵士さん達が。本陣に詰めていた雑魚プレイヤーさん達はあっさり昇天してしまい、残っているのも後僅か。味方が周囲を取り囲んで包囲殲滅してくれていますが、俺のところにまで辿り着くのはまだ先の事でしょう。戦況に聡いシン君もきっと間に合いません。
この戦、俺の首が落ちれば決まっちゃいます。この小競り合いの一戦の勝敗が決まるのではなく、帝國と皇国の戦に終止符がうたれます。俺の着ている鎧は、実は昔から皇国にあるものらしく、常勝無敗の伝説をずっと築きあげている伝説の鎧なのだそうです。だから、もしその鎧を着ている俺が倒れると、帝國は一気に勢いをつけて皇国に攻め上がってくるだろうとヴァニーちゃんが言ってました。
それでなくとも、元々帝國は皇国を楽に滅ぼせるだけの戦力を有していますからね。今はゾンビなプレイヤーさん達の御陰で戦線を維持出来てますが、それがなければとっくに皇国の兵士さん達は全滅です。半年もずっとほぼ毎日のように戦争している時点で、普通は兵の数が足りません。いくらなんでもそれだけの期間、戦い続けられるだけの兵士さんは神聖フェネシス龍皇国という小国にはいません。
国土差は軽く見積もっても20倍以上。投入出来る兵士の数はそれ以上。まるで話になりません。大陸統一を目指している帝國は、いつでも滅ぼせる神聖フェネシス龍皇国という小さ国を、まるで兵士や将校達の訓練の場にでもしているかの如く、わざわざ皇国の兵指数に合わせてゆっくりと攻めているのです。ハッキリ言って遊ばれています。むしろ予想以上に抵抗してくれている事に帝國の上層部連中は喜んでいるかも知れません。
とはいえ、そう簡単にはこの首はあげませんよ。何故なら、俺の可愛い姪2人はそれでも勝つ気満々ですからね。戦力の差はねじ伏せてこその戦術、とか言いながら隕石を降らせています。それ戦術じゃないですって。ただの暴力です。
兎も角、マリリンとセンねぇちゃんが勝つ気なのですから、俺も負ける訳にはいきません。
襲い掛かってくる凶刃を頑張って避け続けます。少しずつ後退しながら攻撃を避け、囲まれないように立ち位置を調整。
しかし敵の攻撃回数があまりにも多すぎるので、たまにヒットしてしまいます。そしたらすぐにプチポちゃんの出番。但し敵に使用しているところを悟られないよう、鎧から右腕を引き抜き腰に下げている袋の中にあるプチポちゃんの小瓶を一つパリンと。本当は飲むアイテムですが、プチポちゃんは身体にかけてもHPは回復するアイテムなので、こんな方法でも回復出来ちゃいます。プチポちゃん便利。ザ・ベスト・オブ・プチポちゃん。
敵兵士の攻撃は、なにも剣や槍を振り回してくるだけじゃありません。腕を掴んだり足を引っ掛けて転ばそうともしてきます。もしそんな事になれば、そのまま一気に身動きを封じられて一貫の終わり。なので、ギラリと煌めく凶刃だけでなく、彼等の一挙手一投足にも注意を払わなければなりません。
血眼になって俺の命を狩り取ろうとしてくる敵兵士さん達の猛攻を躱すこと、数十秒。まだ1分も経っていません。やけに時間の流れが遅く感じます。
剣が掠る程度ならばまだ耐えられますが、もしまともに攻撃を受ければ即死する事間違いなし。何故なら、俺の中身はレベル2の吟遊詩人ですからね。HP最大値は低く防御力も紙切れ並。剣が鎧に当たる衝撃だけでゴッソリHPを持っていかれます。
それでも俺は倒れません。
俺は死にません。俺は死にません。姪が好きだから、俺は死にません。俺が姪を幸せにしますから。俺は死にません。姪のために、俺は死にません。
「ズバッと参上、ズバッと解決。人呼んで、華麗なるヒロイン! 紅の魔女ダークウィッチ・メテオプリンセスと」
「水の剣士フロアディーテ・ブルードラグナー」
「聖なる癒し手にして聖なる剣士、コーネリアの聖術剣士ジュリアーナ・レイニー」
「えっと……僕も名乗らないといけないのかな? トラスト・レイヤーです」
「ついでに名乗っておくっす。ジークフリード・ラインハルトっす」
「「「ここに参上!」」」「えっと……参上だそうです」「俺だけは最初からずっといるっす」
そうこう言ってるうちに救援が来てくれたようです。若干一名は救援される方ですけど。
ちなみに、マスコンではキャラネームとは違った名前を登録する事になってます。
さて、今日も無事に何とか生き永らえました。こんな戦い、いつまで続くんでしょうね。
穀倉地帯を奪われた御陰で皇国は大きく弱体し、もはや風前の灯火。何度かプレイヤーが戦績ポイント消費で受けれるミッションを発生させて帝國軍に攻め入っているみたいですけど、玉砕続き。あまりにも攻略難易度が高すぎて、攻略の糸口はまるで見えていないそうです。
マリリンの隕石法術も、強弓兵やバリスタ、天馬騎士、竜騎士などなどを用意されてしまっては逃げ帰るしかなく、とてもじゃないですが近づけなかったとか。
ちなみに俺は参加してません。侵攻ミッションはみんなの戦績ポイントを持ち寄って受ける形なので基本的に誰でも参加可能ですが、マリリン達が侵攻ミッションを行った時は知り合い以外の人も大勢いたので、流石に遠慮致しました。レベル2の吟遊詩人が参加しても誰もいい顔をしませんからね。戦績ポイントも持っていないので、いったい御前は何なんだと問われるだけです。
おっと。どうやらマリリン達が敵兵士さんの殲滅し終えたみたいですね。これで本日のマスコンは終了です。
「鬨の声をあげよ! この戦、我等が皇国軍の圧勝だ!」
天馬に跨ったヴァニーちゃんが空から降りてきてそう言い放ちました。その瞬間、他の人達の眼前には本日の戦における戦績発表が行われ、一喜一憂し始めます。
俺は関係ないので、さっさとウィンダリアちゃんの胴から吊されている縄紐を掴んでおさらばです。
「いつもながら流石だな。何か秘訣があるのか?」
もちろん、ありますよ。人には言えない秘訣がね。でもヴァニーちゃんには教えてあげません。
このネオプチポ+ちゃんの範囲強化性能とBGMスキルのコラボレーション戦術は誰にも明かせません。
だって見事にゲームバランス崩してますからね!




