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姪とオンライン!  作者: 漆之黒褐
幕間 『REAL SUMMER COMMUNICATION』
85/115

メイド no Winner

「勝ったのは俺だ」

「いや、誰もそんな事は聞いてないから」

 額とほっぺたに猫ハンがついたままのリンネちゃんが真顔でバケツプリンを横取りしていました。幼女なのに大人気ないです。……あれ? 大人なのに幼女気ない? あれあれ? 日本語がおかしいです。なんでだろう。

「おじさんの言ってること、ほんとだよー」

「……です」

「いや、だからバトルロイヤルの結果はどうでも良いんだって。リンちゃんとチーちゃんの戦いはどうだったの?」

「相打ち」

「……え?」

「ドロー」

「泥棒」

「泥棒猫」

「おじさまは勝利を泥棒猫しちゃったのですの?」

「まさか2人の決闘に手を出した訳では……」

 あ、ササメさんが復活致しました。暫く何処かの世界に旅立ってたんですけど、ようやく心の整理が出来たようです。そんなにタマネギ嫌いなんだ……。

「あれ? そういえばなんでおじさん最後まで生きてたの? 私の法術で何度も吹っ飛ばされてたのに」

「私は、何でも……知って、いる……」

 お、このタイミングで姪探偵が出現か!? 皆様、ご静聴下さい。

「そのプリンは……失敗作、だと……知って、いる……」

 チーちゃんの視線の先を見ると、バケツプリンを豪快にスプーンですくって口に入れたリンネちゃんが微妙な顔をしていました。まずいそうです。でも食べられない訳でもなさそうです。味がないとか、全然甘くないとかそういうオチかな?

「今、種明かししても詰まらんだろう。明日の夜、ログインした際に2人のバトルを見た後でまた聞いてくれ」

「何か後ろめたいことでも?」

「あれはなかなか凄いバトルだったとだけ言っておく」

「……分かりました。楽しみにしておきましょう」

 その言葉に嘘偽りが入っていれば斬る、とササメさんの目は物語ってました。リアルだと流石に斬れませんけど、オンラインの中ならば斬っても問題ありませんからね。たぶん、オンラインの中だとササメさん本当に斬ってきそうです。

「それは良いけど、何で明日の夜? 今夜じゃないの?」

「今日は2人とも家に返さないし寝かさないからだ」

 目をキラーンと輝かせてみました。

「あまりそういう発言は教育上宜しくないかと」

「あれ? お泊まりしないの?」

「帰っちゃう、の……?」

「お布団の準備は出来ているのですの。冷房もガンガンかけ放題なのですの。暑苦しい夜を過ごさなくてもOKなのですわ」

「む……」

 あ、またササメさんが迷い人になっちゃいました。隣にいる母上は冷房ガンガンと聞いて即断即決してるのに。俺の魔手をバリバリに警戒してまっす。当然ですね。

「なんなら一度家にお泊まりセットを取りに帰るか? スリフィディアを持ってきても構わんぞ」

 だからもう一押ししてみました。年頃の若い娘さんを家に泊める……じゅるっ。

「分かりました。暫くの間、カズミ殿のご厚意に甘えさせていただく事に致します」

 よし、堕ちた……って、暫くの間?

「これで今年の夏も何とか乗り越えられそうですね、母上」

「だね。毎年この時期はマジでやばいからね~。熱中症で何度死にかけたことか」

 あれあれ、なんか初めからそういう心積もりだったような言葉が聞こえたような気がするんですけど~? もしかして計画通りです? リンちゃん達と仲良くなって、今年の避難所として最初から俺ちゃんに頼るつもりだったとか?

 誤算だったのは俺が男だった事ぐらいかもしれません。でもそれはリンちゃん達という防波堤が3人もいるのと、ササメさん自身は剣道を習っててそれなりに強いし、何より護身用の短刀をこっそり忍ばせてる時点でかなり危ないです。それに、本当に襲われたら警察ちゃん呼べば良いですし。それぐらい覚悟決まってたりします?

 リンネちゃんは……むしろ俺ちゃんの方が身の危険を感じないといけないのかもしれません。俺に手を出させて、そのまま一気に結婚へと持ち込まれてしまう可能性が実はあるようなないような。冗談が冗談じゃなさそうな気がしてきました。やべぇ……。

「今年の夏はいつも以上に楽しそうだね、おじさん」

「です♪」

「ですの♪」

 姪もグルでした。女の子って、怖い……。



♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪



 荒野に爆風が吹き荒れる。

 青い剣士の身をとらえる筈の小爆発は、しかし直前に掻き消えるほどの速度へと瞬間的に達した剣士を吹き飛ばす事なく、爆音のみを轟かせる。必殺技の発動による緊急回避。本来ならば対象の身体を真っ二つに両断する凶刃が赤い魔女の眼前で空のみを斬った。

「あぶ」

 反射で顔を仰け反らせながらも、魔女は次なる法術を使用。中空に虎顔の杖で素早く星形を描き、最後に星の中央を杖の尾で突く。その瞬間、星の各頂点と接点に小さな炎が生み出され、剣士へと殺到する。

 剣士は剣でその炎を斬るも、炎は一度は霧散するもすぐに元の形へと戻った。通常の方法では消し去る事が出来ないことを剣士は瞬時に悟り、まずは回避行動を取る。その剣士を追って、炎はゆっくりと弧を描いて再び剣士の身に襲い掛かる。だがその頃には剣士の手には分厚い水の盾が作り出されていた。勢いよくその水の盾に突っ込んだ炎は、バシュバシュという音を響かせながら消滅していった。

 そのまま剣士は水の盾を掲げたまま魔女へと向き直り疾走。小手先の法術で牽制を続けていた魔女は再び爆発系の法術を放ち水の盾ごと剣士の身を吹き飛ばそうとするが、水の盾は予想以上に強固で吹き飛ばす事は出来なかった。

 そして、その一手の攻防が勝敗の決め手となった。

 爆風を強引に押し返した剣士が、遂に魔女へと肉薄する。その瞬間、剣士は再び姿を掻き消し――先程は残り少なくなっていたMPのほとんど全てを注ぎ込んだ魔剣技。今度はSPの残り全てを注ぎ込んだ聖剣技――魔女の首を狙う。高速で超接近した刃が、確実に魔女のHPをオーバーキルする威力で斬り向かう。掠っただけでも間違いなく魔女のHPは0に至る必殺技。

 しかし赤い魔女はその攻撃を読んでいた。青い剣士がこのタイミングで決めに来る事を長年共に生きてきた経験から察し、仕込んでいた2つの法術をほぼ同時に発動。ドーピング効果でほとんどずっと最大値にあったMPとSPが、その数値に関わらず一瞬で0へと変わる。剣士が勝負に出たこの時を狙って、魔女もまた勝負に出た。

 虎顔の杖が加える赤い宝玉が砕け散り、それと同時に魔女の身が前方へと超加速する。

 否、魔女の背後に発生した爆発が魔女の身を吹き飛ばした。

 その一瞬後を、剣士が持つ水竜剣スイフィードセイバーが魔女の首があった場所を斬る。紙一重の時間差で剣士の放った必殺技は魔女の身を掠る事も出来なかった。遅れて、爆風が剣士の身にも襲い掛かり少量のダメージを与える。微々たるものだったが、魔女にとってはそれで十分だった。

 魔女自身も爆裂法術でかなりのダメージを負う事となっていた。しかし剣士の放った凶刃をその身に受けるほどのダメージではない。その証拠に魔女はまだ生きている。生きていたからこそ、その口には勝利の笑みが零れ落ちる。

 魔女が時間差で発動させた法術……それが天空にその姿を現す。特大の隕石が業炎をまとい、一直線に剣士へと落ち向かう。剣士は、先程受けた法術による硬直時間によって回避行動を取る事が出来ず、ただ見ている事しか出来なかった。

 それは魔女が最も得意とする隕石法術だった。注ぎ込んだ魔力と聖力の量によって大きさと威力が激増するという凶悪な一面を持つ魔女の切り札。魔女はその法術を、バトルの開幕からずっと並列詠唱と詠唱待機を使用して発動待機状態にしていた。それがなければもっと苛烈な攻めが可能で剣士を苦しめる事が出来たのだが、魔女はそれをせず、使用する法術に緩急つけて巧みにその事を隠蔽しながら剣士を翻弄し続けていた。

 剣士もそれにずっと騙されていた。何故ならドーピングによる正確な回復量が分からなかったため、魔女は魔力と聖力の消費と回復を計算しながら戦っているものだと勘違いしていたからだ。1対1の決闘故に自身を守る者がいない魔女は、法術を使用する事が出来なくなった時点で敗北が決定する。それを見越して剣士もあまり無茶な行動は極力控え、消耗戦とヒット&アウェイを仕掛けていた。この戦いを長く楽しむ意味も込めて、その戦法を取っていた、のだが――。

 青い剣士が考えていた以上に、赤い魔女が使用した特性プチポの効果は絶大だった。いつでも最大威力の隕石法術を使用出来るようにと魔女が節約を心掛けていたのは確かだが、それでも幾つかはかなりの魔力と聖力を消費する法術が含まれている。例えば超広域殲滅用の無差別業火弾幕法術とか。さきほど使用したホーミング機能と自己修復機能がついた火焰法術とか。

 剣士の身が特大隕石の影に隠れ、魔女の視界から完全に消える。

 この時点で魔女にとって誤算だったのは、その法術を使用した事による過大な負荷で杖の要である宝玉が砕け散ってしまった事だろう。魔力と聖力は時間の経過で回復するが、詠唱簡略化と法術制御、威力増大など諸々の効果を発揮していた炎虎杖エンフィードスタッフが使い物にならなくなった事で、魔女の戦闘力は激減を余儀なくされた。魔女の意識も少しばかりその事に向いていた事が、その決闘の勝敗を左右する事となった。

 特大の威力を秘めていた隕石法術の直撃を受けた青い剣士の命は、死以外の未来はない。例え半分以上のHPが残っていたとしても、それを全て刈り取るだけの威力をその隕石は持ち合わせていた。故に、その未来は揺るぎない。

 だがしかし、青い剣士が瞬殺されたかと問われれば、否である。特大のダメージを受けた場合、この世界ではそのダメージが完全に適用されるまでに若干のタイムラグが存在する。それは現実世界でも同じ事。いくら心臓を刺されたからと言っても、100%即死する訳ではない。医療技術云々は兎も角、そのまま放っておけば死の未来は確実だったとしても、脳はまだ生きているためショック死しない限りはまだ動く事が出来る。青い剣士はそのタイムラグを利用して、勝利を確信していた赤い魔女へと最後の攻撃を叩き込んだ。

 その技は、既に尽きていたMPとSPを使用する技ではなく、自身のHPを代償に放つ自滅覚悟の超必殺奥義。HPが足りていなくともその技の発動には影響がなく、ただ後には確実な死が待っているのみ。例えHPがフルの状態でも今の剣士のHP総量では9割以上を持っていかれる死滅技のため、ボス戦でも使いどころが非常に難しい技だった。加えて、その代償に釣り合うだけの威力を叩き出すには、技の威力を底上げする基本ステータスが十分に高くないといけない。つまり、現状の剣士では力量が足りず、ほとんどネタ技にしかならない技だった。

 しかし魔女の命を奪い去るには十分である。隕石法術が剣士の身にヒットした事で、格好付けるためにくるっと反転してポーズを決め何かを呟こうとした魔女。その身体が、一瞬にして滅多切りにされる。そして、何が何だか分からないうちに赤い魔女のHPは0へと至り死亡判定を受けた。

 だが僅かに間に合わず。青い剣士のHPもまた同時に0へと至り、死亡判定を受ける。超必殺奥義を放った代償に、水竜剣スイフィードセイバーが砕け散るという派手なエフェクトと共に。

 そして、その瞬間――。

 2人の激闘を撮影していた白い詩人の勝利を告げるアナウンスが響き渡った。

「あれ? 俺の勝ち?」






 そのバトルを後で見た者達は、一様にしてこう思ったという。

 何故、あなたはあの超々広範囲攻撃である隕石法術を受けても生きていられるのだと……。

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