姪と makeup
1時間後。俺は見事にその限りなく低い可能性を達成してみせた。
「いや、本当に……おねぇさん、随分と規格外なんですねぇ。ポックルの戦術演技も衰弱してるのに勝ってしまいましたし。小生は今日ほど驚いた日はありません」
「ああ、そりゃどうも」
うおー……疲れたー……。いくら意識だけのゲーム世界とはいえ、1時間も戦闘しっぱなしというのは怖ろしく疲れる。しかもパコパコさんったら、徐々に強くなっていくんだもんなー。最後の方になると、さっきまで躱せた攻撃が、次の瞬間には2連撃になったり倍速になったりしてくるんだもん。躱せたのが奇跡だ。うん、俺って実は凄かったんだな。
「では、さっさと帰って下さい。これでチュートリアルクエストは終わりです」
淡泊だな。随分と精巧なAIだと思ってたけど、こんな所はやっぱりAIかと思ってしまう。言葉自体は工夫が感じられたけど、決められた事に対しては従順らしい。ポイッと投げ捨てられるように、そのチュートリアル空間から放り出されました。
「茶がうまいのー」
すぐ隣にいた「どれ、すこしお嬢さんの隠された素質を……」とかなんとか言っていたお爺さんが、縁側で呑気にお茶をすすっている。しかも俺にもお茶を勧めてきた。有難く頂いて、束の間の平和を楽しむ。うん、こんな生活が俺もしたい。
などと言っていたら、ピンポーンという軽快な音が鳴り響く。
『やっほー、カズねぇ。おかえりー。随分と時間が掛かったけど、何かあったのー?』
『ちょっとな……パコパコさんと遊んでいたんだ』
『はい? パコパコさん?』
まぁ、当然の反応か。わざわざチュートリアルで相手にした敵の名前など、気にしている人はいない。例え相手が敵であっても、名前は見えないのだから。そういや、そういうスキルってあるのかな?
『まぁ、あっちに帰ったら教えてやるよ』
『もしもし、カズミちゃん?』
『うん、楽しみにしてるねー』
む、混線した。念話って同時チャットも可能なのか。PT組んでる訳でもないのに、妙な機能がついてるな、このゲーム。
『はいはい。何ですかー、セン……ねぇちゃん』
やっぱり意外と勇気がいる。年下の女の子をおねぇちゃんって呼ぶって、どこの変態だよ。いっそセンネーってネーミングと思い込んでみるか。ああでも、そうするとアクセントの位置が変わっちゃうんだよな。うう、名前って難しい。
『死に戻りするので、街でお茶しながらみんなの特典コスチューム見せ合いっこしませんか? カズミちゃんの選んだ職とスキル構成も聞きたいですし』
死に戻りって……いくら現実世界じゃないと言っても、このゲームはほとんど第二の人生と変わらないんだから、あんまり死ぬ事に慣れて欲しくないなー。おじさん、ちょっと複雑な気分。
ちなみに、俺は今あのコスチュームは封印しています。だって物凄く目立つファッションだったし。
『別に構わんよ。どこにいけばいい?』
『えっと……ちょっと待ってね』
「もしもし、カズねぇ? 私マリリン。今、あなたの後ろにいるの」
「うおっ!」
って怖ぇよ! いったいどこのメリーさんだよ、御前。
「やっほー。案内するねー」
『あ、ずるいですマリリン。先に死んじゃ嫌ですー』
うん、後半部分は感動的な台詞の筈なんだけど、全然そんな感じしないのは何でかなー。
♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪
「ねぇねぇ、見て見て。これ、すっごく可愛いでしょー」
所変わって、喫茶店の中。
周囲の目も全然気にする事なく、マリリンが服を切り替える。一瞬、全裸っぽく見えたけど、気が付いているんですかね!? もう少し恥じらい持とうよ。
「そのまんま、魔法使いスタイルだな。やっぱ、職業も魔法使いなのか?」
「そうだよー。正確には『魔法士』っていう下級上位職だけどね。スキルの方も杖系や魔法系を中心に構成してあるんだよ」
「下級上位職か。って事は、それよりも下があるのか?」
あれ? 学者妖精プクーラくんは、下級中位職までって言ってなかったか?
「はい。マリリンの『魔法士』職ですと、下級中位職では『見習い魔法士』、最下級職では『見習い魔法士もどき』になりますね」
見習いなのにもどきって……。なんか切ない響きだな。そういえば、職業選ぶ際にはそんなのがゴロゴロあった事を思い出す。だから、そういうのがついてないこの職に俺は心を惹かれた訳なんだけどな。
「だが、チュートリアルでは下級中位職までしか選べないんじゃないのか?」
「そうですね。普通の人がまずなれるのは最下級職だけですし、チュートリアルでは職業も選ぶ事は出来ません。ですが、私達は豪華特典版を使用していますので、各職に対応したクエストを完了しなくても下級中位職までなら選ぶ事が出来ます」
ああ、ということは。そういや、二人は俺よりも先にインしてたんだよな。リアル3時間前からだから、こっちだと3倍して9時間分か。俺がチュートリアルをクリアするまでに要した時間をの入れたら約11時間。そんだけあれば十分可能か。たぶん。
時間だけ聞くと廃人級だよな。一日11時間って。しかも後4時間残ってるし。
「つまり、もうクラスアップしたのか」
「スタートダッシュしたからねー。それでも私達は年齢的に制限が掛かってるから、もっと早い人ならたぶん中級下位職にクラスアップしてる人もいるんじゃないかな?」
「それはたぶんないと私は思ってます。中級以上は最低でも一週間以上掛かるという話でしたし」
「ハイプレイヤー舐めちゃいけないよー、センねぇ。そんな開発側の思惑なんて、一部の人達にとっては障害でもなんでもないから」
英語で書くとHigh Player。でも日本語で書くと、廃プレイヤー。二つは同義で使われます。二人とも、そう呼ばれるようにはならないでね? これ、おじさんからの切実なお願い。
「でもそれは普通のゲームに限った話です。このメイドオンラインの場合、プレイ時間数はほとんど差が出来ませんし」
「あー、そういえばそうだね」
そりゃ、寝ている間にゲーム出来るなら、みんな遊ぶよな。それに最大で現実5時間分しかイン出来ないって制約もあるし。その前後1時間は現実と仮想との差異調整でもしてるのか半強制的に奪われるので、平均睡眠時間が7時間以上取ればフルで誰でも遊べる仕様だ。
睡眠時間がほぼ7時間の俺にとってはまさにドンぴしゃ。
ちなみに姪の二人は夜9時に寝るみたいなので、平均睡眠9時間。まぁ子供の頃はそれぐらいが普通だな。朝は6時のラジオ体操行くそうです。そのうち俺も二人に叩き起こされて一緒に連れ出されそうで怖いよー。
「それじゃ、次は私ですね。私のコスプレはこんな感じです♪」
コスプレって言うな、コスプレって。
赤色が主体だった炎の魔法使いっぽいマリリンとは違って、センねぇちゃんの方はやっぱり髪の色に合わせてあるのか、青と白とが混じり合った鎧マント姿だった。水の騎士と言えばいいだろうか?
「うん、可愛い可愛い。でもちょっと男性っぽい服装だよな?」
「ボーイッシュと言ってください。僕っ娘タイプですね」
俺っ娘指定されてしまった俺の前でそれを使ってくれるな。悲しくなるだろ。
「職業は、やっぱり剣士なのか?」
「いえ。毒殺料理人です」
「……」
いったいどこの世界に騎士の姿をした料理人がいるんだよ。というかそれ、完全に暗殺者だって。料理人でもなんでもない。
「というのは勿論嘘です。本当は、青龍の聖剣士……」
「を最終的に目指してる、水精の片手剣士見習いだよ」
「あ、言っちゃだめだよー、マリリン」
「ん? センねぇちゃんはまだ見習いなのか?」
「うん。センねぇは目指してる先が遠くて複雑だからねー。幾つか最下級職と下級中位職を育てて必要な称号を集めないと、下級上位職やその上の職業にはクラスアップ出来ないんだよー」
「そりゃ、随分と面倒な仕様だな」
「でももう4回もクラスチェンジしてるけどね」
姉(妹?)の事ながらマリリンが誇らしげに言う。おじさんには基準が分からないので、それが凄いのか凄くないのか分からんけどね。
ちなみにクラスチェンジは別系統の職に変更する事、クラスアップは同系統の上位職に変更する事を言うらしい。
「それじゃ、最後はカズねぇのだね。あ、職業はまだ言わないでね。当ててみせるから!」
「なぁ……本当にここで着替えないといけないのか? 出来ればもっと人気のない所で……」
「見せてこその花です」
だから俺、男だって。花、いらない。
もしかしなくても、周囲の目線が俺達3人の方に釘付けされています。喫茶店の外からは見えないらしく窓越しの視線はなかったけど、それでも満員御礼の喫茶店の中は既に俺達の話題で持ちきり。目立つのは嫌いなんだけどなぁ。
「んじゃ、変えるよ」
フォームだけしか見えないとはいえ流石に全裸を曝すのは気がひけたので、それとなく秘部を隠しながら俺は装備を初期のものからチュートリアルで貰ったコスチュームへと変更する。
折角、アイテム欄の一番下の方にもってったのになぁ。
♪御意見、御感想をお待ちしています♪
リン「リンちゃんと」
チー「チーちゃんの」
「「あとがき劇場!!」」
リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」
チー「ドンドン、ぱふぱふ」
リン「じゃっじゃじゃーーん♪ 第8話で~っす♪」
チー「ようやく私達の出番がありましたね」
リン「うん、そうだね。3話も出番がなかったよ。酷いよねー」
チー「このあとがき劇場では、おじさんの出番はまだ1回だけですけどね」
リン「まだ1回じゃなくて、最初で最後の1回だけどね。もう永遠に出番ないよ?」
チー「え? そうなんですか?」
リン「実はそうなんです。というか、おじさんはもう此処には来させない!」
チー「リンねぇ、目が本気だ……」
リン「でも、カズねぇとして来るのは許しちゃう♪」
チー「あ、そういえば第6話のあとがきで召喚しようとしてましたね」
リン「うん。でも来たのは妖精三賢者のポックルくんだったけど……」
チー「リンねぇ、召喚スキル持ってるんだ」
リン「一応ね。いずれ動物種の使い魔さんとか呼び出してモフモフしたいから」
チー「その時は是非、私もモフモフさせて下さい♪」
リン「おっけー。でも職業が召喚系じゃないから、まだ当分先だよ?」
チー「当分先なんですか……」
リン「あ、急にチーちゃんの元気がなくなった」
チー「おじさん、早く猫さん飼ってくれないかな……」
リン「ほらほら。お客さん見てるんだから、チーちゃんもっと元気ださないと」
チー「私にはまっしぐら無理です……皆勤賞ももう逃してしまいましたし……」
リン「仕方ないなぁ。暫く私一人で進めてるね、チーちゃん」
チー「にゃう~~……にゃーーん……」
リン「改めまして! リンちゃんの、あとがき劇場、第8話!」
チー「第8話です~~」
リン「ようやくカズねぇのチュークエが終わったねー」
チー「終わったです~~」
リン「というかね。私、ちょっとカズねぇにお説教したい」
チー「……私も」
リン「なんで1時間以上も掛かってるの!? 私達、その間ずっと待ちぼうけだよ!?」
チー「長かったです……」
リン「死に戻り? そんなの嘘に決まってるじゃん」
チー「デスペナ嫌いです」
リン「カズねぇと一緒に遊ぶために、私達ずっと待ってたんだよー」
チー「お爺さんと少しお茶して……その後は、暫く隠れてました……」
リン「そりゃね、レベル上げもしたいけどね。でもそんなのは二の次」
チー「楽しくが第一です」
リン「それに一応、カズねぇをメイドオンラインに誘った建前もあるし」
チー「本当は、一緒に遊びたかっただけですけど」
リン「カズねぇだけをほったらかして遊ぶ気ないよ、私達」
チー「三姉妹はいつでもどこでも一緒です♪ 仲良しです♪」
リン「あ、チーちゃん元気出てきた?」
チー「はい。元気出てきました。心配かけて申し訳ありません」
リン「問題ナッシング! 私達はいつでもどこでも一緒で仲良しだよ!」
チー「はい♪」
リン「うん、それじゃ気分も乗ってきた所で……読者の皆さんに向けて一言!」
チー「また見て下さいね♪」
リン「え? そっち?」
チー「あれ……もしかして、カズミちゃんのバカーって言えば良かったですか?」
リン「んー、その言葉は次の話で使うからまだいいよ、チーちゃん」
チー「えと……。それなら、何と言えば……」
リン「あ、いいよいいよ。別に間違ってないから。泣かないで、チーちゃん」
チー「うう……」
リン「とりあえず! 今日はこれまでね! まったねー♪」
♪(こっちも)御意見、御感想をお待ちしています♪




