メイド no battle
「では、最後になります」
まだあるのかよ。そろそろお茶でもしたい所なんだが。慣れない部隊指揮までしたものだから、おねぇさんくたくたなのよー。って、俺はおじさんだったな。やべぇ、この姿形に感化され始めてる。気を確かに持たないと……。
「今から敵を出しますので、倒して下さい。所謂、戦闘訓練というものですね。どうぞお気軽にザクザクとそのナイフで斬り刻んで下さい」
「いやいや、いくら敵とはいえ、そんなにいきなり気軽にザクザクと斬り刻めるものでもないだろう?」
「ですが、おねぇさんのご姉妹は喜んで斬ったり燃やしたりしていましたよ?」
ああ、彼奴等ならなんかそれやりそうだな。ゲーム脳っぽいし。
「まぁ、そんなに堅くならないで。晩御飯で切ったジャガイモやニンジンだと思って頂ければ問題ないかと」
ポンっと軽快な音がして、目の前に敵が現れた。うん、なんだかとっても堅そうな甲殻の鎧を装備した、俺よりも背丈のある敵さんだな。あれをジャガイモやニンジンのようにだって? せめて御前ぐらいのサイズの敵を用意しろよ!
「というか、何で俺が昨日の晩御飯でそれを切った事を知ってる……」
「小生の知る統計では、心待ちにしていたゲームを始める場合もしくはその次の日は、カレーを食べる事が多いと出ています」
「……本当は、あの二人に聞いたんだろ?」
これも特別仕様なのだろうか? むしろここまで進化しているAIに驚くばかりだ。
と言ってる間に、めっちゃ堅そうな甲殻鎧を身に纏った一つ目巨人さんが襲い掛かってきましたよ。まぁなんとも大きな棍棒さん。振りかぶって第一打、撃ち下ろしました!
「って、あぶねぇ!」
ズドンっというおっそろしい音と共に、それまで俺のいた地面が陥没した。ついでに周りにはヒビが入っている。洒落にならんぐらい強力な攻撃だよねぇ……。って、おい。これ、本当にチュートリアルか!?
「おや、避けてしまわれましたか。いっそ楽になった方が幸せというものですのに」
「これで幸せになれるんだったら、御前が試してみろ。手助けなら喜んでにしてやるぞ?」
「見た目ほど強くはありませんので、普通の方でしたら問題なく倒せる相手なのですが。一応、こんなやばめの姿をしているのは、これからこの世界で出会う様々な敵に出会った際に、少しでも度胸をつけて頂けたらと思った次第です」
「これも特別サービスの一環か」
「いえ、たぶんポックルとピクリさんが巫山戯て用意したのかと」
「ちょっと連れてこーい! この敵の代わりに、ナイフでザクザクと斬り刻んでやるから」
「まぁまぁ、落ち着いて。折角の綺麗な顔が台無しですよ」
だから俺は女じゃねぇって。そんな事を言われても全然嬉しく……まぁ、ちょっとはあるか。
「……ったく。とりあえず、さっさと倒してこのチュートリアルを終わらせてしまうか。その方が心情的に楽そうだ」
「本当に、さっさと楽になった方が幸せですよ?」
あー、もう。うるさい奴だ。無視して,本当に敵をさっさと倒してしまおう。
右手でナイフを握る。ついでに左手には初期装備の一つ、お試しの片手剣という名前の武器を握る。む、なんか手にしっくりこない。やはり二刀流スキルが必要なのか? それとも短剣じゃないと相性が悪いのか?
ナイフを逆手に持ち替えて、お試しの片手剣をお試しの短剣に装備しかえてみる。うん、しっくりきた。
敵である巨人を見据える。なんちゃってアサシンスタイルで。真正面から正直に撃ち合うと絶対に危ないので、横を通り過ぎる時に攻撃を加える戦闘方法を選ぶ。
一応はチュートリアルなのか、巨人の動きは遅い。腕を振り上げてから撃ち下ろすまでの間に何度も攻撃を加えられた。でもキンキンと音がする。やはり堅い。攻撃は全て命中していたが、ダメージを与えている感じはまるでしなかった。
鎧のない部分を狙って全力で斬る。というか、初めからそこしか斬っていない。でもキンっという音がするばかり。良い音で鳴る。おいおい巨人君、君の身体は鋼鉄か何かで出来てるのかね?
「おい。これ、本当に倒せるのか?」
「倒せないと思いますよ。小生の見る限り、おねぇさんのステータスでは万が一にも倒せる見込みはありません」
「……は?」
これ、チュートリアルだよね? もしかして、実は倒される事が前提のプロローグも兼ねてるとかそういう訳じゃないよね?
「……なんでそんな奴を呼び出すんだよ」
「多少の違いはありますが、おねぇさんと同じ特典版を御購入された方々は、皆だいたい同じような敵と戦うようになっています。別におねぇさんだけが特別に強い敵と戦っている訳ではありません」
「なら、なんで倒せないんだ?」
「だって、おねぇさん。衰弱したままこのチュートリアルクエストをお受けになりましたでしょう?」
「ん?」
あれ、そういえば。姪に会う前にストーカーに追われて森に逃げ込んで、そこから街に帰る際に敵に絡まれて死んだんだっけか。
「衰弱って、何分で解除されるんだ?」
「1時間になります」
確か、死に戻りして、それから姪と会って。その後クエストを受けるまでに要した時間は、1時間は掛かっていないか。いや、でも……。
「とっくにその1時間は過ぎてると思うだがな」
一応、戦闘中なので巨人君の攻撃を避けながら会話する。こんだけ集中を裂いていても、巨人君は驚きの遅さ。うん、一応はチュートリアル級な強さにはなってるかも。
ちなみに、ついでに両手も動かしてキンキン音を鳴らしてみてもいます。その音だけ聞けば、少しは吟遊詩人っぽい?
「このチュートリアルクエストのようなイベント型のクエストの場合、特定のバッドステータスは固定されたままにされて、イベント中には消えない仕様になっています」
「なんでそんな仕様に……」
「さぁ? それは小生にも分かりかねます。恐らくは、それを利用した裏技か何かを阻止するためだと小生は思うのですが」
そんな裏技……確かにどこかであった気がする。プレイヤーの強さに比例してイベントの難易度を変えてるタイプのものがあれば、衰弱は有効だ。衰弱が解除される直前にイベントが開始されるように時間を調整すればいいだけなのだから。
「じゃあ、今の俺にはこのチュートリアルクエストは決してクリア出来ないという事なのか?」
「いえ、一応は出来ます。かなり低い可能性ではありますが」
「……一応先にデメリットの方を聞いておく。もしこのチュートリアルクエストを失敗したらどうなる?」
「クエストの再受注には現実時間で一日を要します。と同時に、本来このクエストで貰える筈の特典サービスもすべて削除。称号もとても可哀想なものに暫く固定されますし、何も良い事はありません。職業もスキルも、他の一般プレイヤーと同じように、頑張って他のクエストをクリアして手に入れる必要があります」
ああ……吟遊詩人というレア職も消えてしまうというのか。折角手に入れたのに、手放さなければならないのはちょっと嫌だな。
それ以前に、さっさと楽になった方が幸せになれるというのはいったいどこに……。どう考えても幸せにはなれないじゃん。
「なら、衰弱した俺がこの最後の戦闘イベントをクリアするにはどうすれば良いんだ?」
「1時間ほど死なずに粘って頂ければ、パコパコくんは時間切れで帰ってくれます。そうすれば、一応はクリアという形になります」
パコパコくんって、なんて可愛いネーミングなんだ。見た目とのギャップ萌えが発生しそうだな。かわきも系、こわきも系としてキーホルダーとかにしたら、意外と売れそうだ。
「まぁ、時間の経過とともにパコパコくんは本来の力を取り戻していきますので、間違っても最後まで彼女の攻撃を躱し続けるのは無理だと思いますがね」
しかも女性!? いやいや、それならパコパコさんってちゃんと言えよ。彼女が可哀想だろ。
「ですから、早く楽になって下さい。どうせまた明日来ると思って、ピクリさんも適当に説明したのですから」
「ああ、あれはそれが理由だったのか」
ガックリと項垂れる……っと、危ない危ない。いくらゲームの中とはいえ、あんな巨大な棍棒で力一杯叩き潰されたら、痛いのを通り越してトラウマになりそうだ。
「はぁ……とりあえず、駄目元で頑張ってみるしかないのか」
俺は、頑張った。明日また来る事になるかもしれないけど、この吟遊詩人の職は惜しい。たぶんこれは簡単には手に入らない職だ。
何とものっけから随分と疲れるゲームだなぁ。おじさん、ついていけるのかねぇ。
♪御意見、御感想をお待ちしています♪
リン「リンちゃんと」
チー「チーちゃんの」
「「あとがき劇場!!」」
リン「わー、わー、ぱちぱちぱちぱち」
チー「ドンドン、ぱふぱふ」
リン「ついにやってきました! ラッキーセブン、第7話♪」
チー「いつか三つ並べてみたいですね。そしたらもっとラッキーです♪」
リン「え? それって第777話って事?」
チー「はい♪」
リン「後7年ぐらいは掛かりそうだねー」
チー「また7が並びましたね♪ 7年目の第777話♪」
リン「7がいっぱーい。折角だから、その時のレベルも77にしとこっか」
チー「それ以前に、私達、物語中で殺されていなければいいですけど……」
リン「犯人は御前だ! って、小さな子供におじさんが指さされるんだね」
チー「そしてホームポイントで復活した私達が、事件解決後に現れて」
リン「月にかわってお仕置きよ♪ って言って、おじさんをしばく!」
チー「というそんなお話が、第777話に予定されています」
リン「今からネタばらし♪」
チー「ちゃんと覚えておいてくれればいいですけど……」
リン「まぁそんな未来の事はいいから、そろそろ現実戻ろうか、チーちゃん」
チー「はい。でも、現実ってどちらのです?」
リン「現実を見ようよ、って方の現実。ログアウト後の世界じゃない方」
チー「あ、そういえばまた脱線してますね」
リン「うん。本編の話題そっちのけで、また変な方向に行っちゃった」
チー「本編と言えば、リンねぇ、燃やしたんです?」
リン「え、私は燃やしてないよ? 燃やしたのチーちゃんじゃないの?」
チー「私は剣士ですから、基本的に斬るだけです」
リン「私も基本的に杖で殴ってただけだったから、燃やしてないんだけど」
チー「あれ? リンねぇが選んだ職業は見習い魔法士でしたよね?」
リン「うん。そうだよー」
チー「だったら、なんで魔法を使わなかったんですか?」
リン「だって、詠唱するの面倒だったから」
チー「……」
リン「というのは勿論、うっそー。本当はね、設定する時間がなかったからだよ」
チー「設定、ですか?」
リン「うん。ちょっとネタバレになっちゃうから詳しくは説明しないけど……」
チー「じゃ、説明しなくていいです」
リン「え~。説明させてよー」
チー「それはあと50話ぐらい先でようやく明かされる秘密ですので」
リン「50話も先なの!?」
チー「はい。だっておじさん、本編を読んでの通り、魔法使えませんから」
リン「あー……。そういえば前回、それ系のスキル取ってなかったね」
チー「です。短剣術と、錬金術と、何故かBGMを選んでます」
リン「勿体ないなー。折角の特典版なのに、なにしてるんだろ」
チー「おじさんの行動は時々理解不能です」
リン「例えば?」
チー「お料理中、ニンジンを生で食べてた事とか……」
リン「ヒヒーン」
チー「おうまさんです。おじさんはおうまさんです」
リン「うーん、それは確かに理解不能だねー。おじさんの正気を疑っちゃう」
チー「なんであんな不味い食べ物を平気で食べられるんでしょうね」
リン「しかも生。生だよ生。なまなまだよ、生」
チー「ちょっと気持ち悪くなってきちゃいました」
リン「うん、私も。それじゃ、そろそろ締めるね」
チー「みなさん、また見に来て下さいね♪」
リン「また見てねー。バイバーイ♪」
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