姪 to Sky Flight
拝啓、皆様お元気ですか? 俺ちゃんは元気じゃありません。いえ、マリリンから風邪のウィルス君をうつされたからという訳じゃなくて。風邪が治って元気になったマリリンが以前にもまして俺ちゃんを振り回してくれるからです。
「朝だよー。カズねぇ起きて~。朝御飯食べよ~」
最初はスヤスヤと寝ている所にフライングエルボードロップで叩き起こされ(リアルでもたま~にされるんです、これ)、朝御飯を作ったから食べてと言われて口を付けると毒の状態異常が発生。あ、これ俺が作った毒プチポちゃんが混じってるってすぐに分かりました。毒料理はセンねぇちゃんの十八番だからマリリンが作れても全然おかしくありませんけど、これきっと故意じゃ無いんだろうなぁ。
味は悪くないスープを口に運んでは毒が発生し、すぐに消えていきます。毒プチポちゃんの効能は3秒ですけど、料理になった事で微妙に効果が短くなってしまい、長いようで短いダメージタイムを毎回堪能する事になりました。しかもこれ……面倒な事に、毒プチポちゃん同士を混ぜ合わせた時のように、毒の効果が消えないうちに次の一口を口に運ぶとシュワシュワって弾けるんです。なにこれ、どういう罰ゲーム料理ですか。
しかもしかも。厄介な事に、低確率で発生するクリティカルヒットを引き当てちゃったら、口の中で小爆発を起こすんです。新しい味覚に目覚めそうになっちゃいましたよ。でもこれ、パーティー料理に使えるかも知れませんね。
「観光行こ、カズねぇ。準備して」
朝御飯の後は、王都観光へ。口と胃に複雑な違和感を残したまま、腕を拉致られ強引に引っ張られます。ついでに財布も拉致られ(返して!)、買い食いその他もろもろショッピングに使われていきました。明日には俺の財布君が風邪をひいていそうな勢いで使われていきます。プチポちゃんで一財産を作っていた俺の財布君が、みるみる痩せていきます。
「ん~、美味し♪」
一通り見回って満足したのか、お昼をカフェで小休憩。女の子達に大人気のスイーツカフェの店内は女の子一色。下から上まで幅広い年齢層に支持されているそのカフェで、中身は男の俺ちゃんは非常に居心地が悪かったです。だってみんな、口から毒吐いてるんだもん。周囲からは華やかに見えても、中に入るとそこはとっても怖い所でした。ぶるぶる。
「全力全壊でいっくよー。それじゃ、一番マリリン。いっきまーす」
午後は狩りのお時間です。今いる場所は他のプレイヤーさん達がいないプライベートエリアなので、王都から出るとモンスターさん達が我が物顔で闊歩しまくってます。つまり、狩り放題です。周りを一切気にする必要がないので、マリリンは魔法使いたい放題でっす。
隕石の雨が降りました。『赤き者、紅に染まりし汝が力を……』という詠唱文句から始まる必殺プチプチメテオちゃんの雨霰です。さっき買い漁っていたMPドリンクを何本もグイグイ一気飲みしながら、力の限り他の魔法もいっぱい放ち続けます。詠唱中のマリリンを守る為に俺が矢面に立っていてもお構いなしです。
というか、俺ごと周囲一帯を燃やされました。そう言えば、最初からマリリンは全力全回じゃなくて全力全壊って言ってましたね。全壊の中に俺も混じってたんだ……。
死屍累々のモンスターさん達に混じって1時間ほど炭になる事を余儀なくされた俺にマリリンは何ら遠慮する事なくプチプチメテオを発射。ぐほっ……直撃。ひ、酷い……。このプライベートエリアでは死んでもホームポイントに飛ばされない代わりに、1時間ほど行動不能になる仕様の様です。ポイッとエリアの外に出されちゃう事は無いみたいです。死体と化したプレイヤーにいくらでも攻撃する事も出来るみたいです。痛みはほとんど感じないけど、吹っ飛ばされたり視界が暗転したりと精神衛生上あまり宜しくない仕様です。やりたい放題です。
あ……さっきのプチプチメテオちゃんの直撃で右足が胴体から切り離されてる。服もボロボロです。デスタイムが終わったら右足ちゃんとくっついてくれるのかな……。あと、服はたぶん諦めないといけなさそうです。このエリア限定の仕様とはいえ、結構酷いです。というか、マリリンが酷いです。リアルに帰ったら教育的指導をちょっと考えておかないといけないかも知れません。悪い子にお仕置き致しましょう。お尻ペンペンの刑が良いかな?
「センねぇ達、何処行っちゃったんだろうね」
あらかた王都周辺のモンスターさん達の掃除が終わり、俺ちゃんも五体満足で復活した後は、消息を絶ったシン君達の捜索……名目でまたモンスター狩りです。
MPもMPドリンクも使い果たしてしまったのか、マリリンは杖で殴ってました。どこかの誰かさんを彷彿させる撲殺魔法士っぷりです。《赤の魔法士》であるマリリンの赤は炎の赤ですけど、今のマリリンを見るとが返り血の赤に思えてきちゃいます。返り血は無かったけど、真っ赤な装備でマリリンは身を固めていますからね。
そんなマリリンの横で、俺ちゃんも愛剣を振るってバッサバッサとモンスターさん達を斬り倒していきます。ササメさんが俺の為に打ってくれた白羽懐剣『細桃花・一美』を右手に持ち、左手にはさっきマリリンが勝手に買って俺に差し出してきたミセリコルデを握っています。ミセリコルデって確か、戦場で重傷を負った味方や敵さんにトドメを刺してあげるための短剣だった気がします。別名、慈悲の短剣。
べらぼうに高い短剣術スキルレベルの影響で無慈悲な攻撃を繰り出してくれるミセリコルデさんと、相変わらずに斬空刃だけでも敵を倒してくれる細桃花・一美さん。かな~り元気が無くなっていた俺ちゃんですけど、身体を動かした事で少しだけ気持ちが回復してきました。でも気をつけないとね。モンスターさん達の攻撃を回避し損ねたら即死ですから。また死体に逆戻りです。衰弱ペナルティの重複は無いので死体モード2時間3時間というのはありませんけど、死体になったらまたマリリンの玩具にされそうです。
「カズねぇ、そろそろ帰ろ~」
夕方になり、経験値と素材をガッポリ手に入れた俺とマリリンは宿屋に帰りました。はて、何か忘れているような。あ、そうだ。王都を離れたのはシン君達を探すためでしたね。すっかり忘れてました。
そんなこんなで、大変な一日でした。きっとマリリンは鬱憤が溜まりに溜まりまくっていたんでしょう。折角王都に来たのに、いきなり食中毒。その後は風邪で寝込んでみんなから置いてけぼり。マリリンの気性を考えると、ストレス発散で暴れまくるのはある程度予想出来てました。
ただ、流石にこの被害規模までは……。うぁ、財布君の中身がかなり減ってる。そう簡単には使い切れない金額が入っていただけに、マリリンったら容赦なしに使ってくれたみたいです。ただ、隣でずっと見ていた限り一番値が張ったのが俺にくれた短剣ミセリコルデなのが救いですかね。俺のお金で買われた物ですけど、これはマリリンからのプレゼントだと思って大切に致しましょう。……トドメを刺す為に使われる武器って所がちょっとアレですけど。
「それじゃ、お休みなさ~い」
ようやく今日という一日が終わりました。明日にはシン君達と出会える事を祈ってます。
♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪
しか~し今。俺とマリリンは空の上にいました。今日という一日があそこで終わってくれませんでした。
「見てみて、カズねぇ。街があんない小さいよ。凄い凄い」
「あまり顔を投げ出すな。風に浚われて放り出されたらかなわん」
「はーい」
何でこんな事になったんだろう。いえ、理由はハッキリ分かってるんですけどね。ほんの少しだけ……ほんの少しだけ予想していましたとも。
俺ちゃん、またしてもヴァニーちゃんに拉致られました。何でも、本当に隣国との戦争が勃発してしまったそうで、傭兵契約を結んだ俺ちゃんを早速召還しにきたそうです。
「ねぇねぇ、ヴァージニアさん。このペガサスさんの名前って何て言うの?」
「ん? この子の名前か? ウィンダリアという」
「ウィンダリアちゃんか~。可愛い名前だね。女の子かな」
「私と同じ、純血の乙女だ」
「そうなんだ。純血種の血統なんだね。私もいつかペガサス欲しいな~。ペガサスに跨って空から隕石をじゃんじゃん降らしたいなー」
「ふっ、それは頼もしい限りだな」
いや、怖いですって。物騒すぎますって。
「で、なんで私こんなところにいるの? なんか寒いな~って思って目が覚めたら急にお空の上だったから吃驚しちゃった」
「カズミ殿から聞いていないのか? カズミ殿は先日、皇国と傭兵契約を結んだのだ」
「へー、そうなんだ。カズねぇったら私達に黙って裏でそんな事してたんだ。後で帰ったらお尻ペンペンの刑だね」
俺もリアルに帰ったらマリリンにお尻ペンペンの刑にする予定だから、互いにお尻を叩き合う事になりそうです。なんか卑猥だ……。
「それで、何で私はヴァージニアさんとお空の旅してるの?」
「隣国との戦争が勃発したので、カズミ殿を迎えに来た。マリリン殿も一緒に連れてきたのは、折角なのでマリリン殿にも一肌脱いでもらおうと思ってな。勝手ながら連れてこさせてもらった。勿論、カズミ殿には許可をもらっている」
真相は違います。仕方なく連れてきただけです。だってマリリン、俺から絶対に手を離さなかったんだもん。
夜、マリリンと一緒に仲良く布団にもぐりこ……む訳ありませんね。今日はマリリン全快だったので、ちゃんと別々の布団で眠りました。ただ、2部屋取るの忘れててマリリンと同じ部屋で寝ることになっちゃいましたけど。夕食を終えて宿に帰った時には部屋が満杯でした。戦争が関係してるのかな?
非常に寝付きの良いマリリンは、布団に潜って数分で心地好い寝息をたてはじめましたけど、寝付きの悪い俺はそうはいきません。だってまだ夜9時なんだもん。お子様のマリリンには適時だけど、俺はビンビンに目が覚めて眠れません。別に興奮なんてしてませんよ。リアルで夜10時に寝れているのは催眠音波を出してくれるVR機器の御陰だからです。そんな便利な物が無いゲーム内では、いつも通り眠れない夜を過ごしていました。
暫くしてマリリンがむくっと起き上がり、夢遊病の如く俺の布団の中に入ってきたのは不思議でも何でもありません。お子様には良くある事です。リアル姉や妹も昔、夜な夜な家の中を徘徊していたので、たぶん血でしょうね。俺もたまに姉の布団に潜り込む事があったそうです。でも不思議、朝になったらきちんと自分の布団に帰ってるんです。だから俺には自覚無し。もちろん、姉と妹も夢遊病の自覚無しでしたけど。
兎も角、マリリンが人肌を求めて俺の布団に潜り込んできました。リアルではチーちゃんユキちゃんという抱き枕がいるので、家に来てからはそんな事は一度として無かったのですが、今はその二人がいないので俺ちゃんがマリリンの抱き枕代わり。
そんな折、窓がコンコンっと。はいはい、誰ですか~……って、何で窓からですか。ガラガラッと窓を開けると、バルコニーにはなんとヴァニーちゃんの姿が。純血の乙女さんが夜に人目を忍んで俺ちゃんが泊まっている部屋に訪れました。いや、すぐ隣にペガサスのウィンダリアちゃんがいたので、全然人目を忍んでいないんですけどね。
要件は最初に述べた通りです。戦争に駆り出すために迎えにきたそうです。ヴァニーちゃん、意外と暇なのかな?
んで、その時もずっとマリリンは俺の腕にしがみついていました。コアラのように抱き付いてました。重いです。いえ、リアルほど重くありません。ゲームの中ですから。
もちろん最初はマリリンを引っぺがそうとしました。でも無理でした。システム補正でも発生しているのか、どんなに頑張っても離れてくれないんです。ユッサユッサ揺らして起こそうとしても全然起きません。さてどうしましょうかと悩んでいたら、ヴァニーちゃんは急いでいるからと言ってマリリンも一緒に連行する事に。
「それじゃ、肝心のカズねぇは何処にいるの? 陸送?」
人をお荷物みたいに言わないで下さい、マリリン。
「見ての通り、ウィンダリアは2人までしか乗る事が出来ない。だから……」
「下?」
マリリンが急に体重を移動したことでウィンダリアちゃんのバランスが崩れました。その影響で、俺の身体も大きく揺らされてしまい心臓がバクバク鳴りました。
「あ、なんか黒いのがぶら下がってる。あれがカズねぇ? おーい」
そうです。ウィンダリアちゃんは2人しか乗れないので、俺ちゃんはウィンダリアちゃんから吊されて現地まで空輸されてました。いや、ほんとお荷物っぽいシチュエーションです。
高いよ~。怖いよ~。寒いよ~。ついでに夜だから暗いよ~。こんな高さからパラシュート装備無しで落下したく無いよ~。
ちなみに、既に例の黒い鎧を着させられてます。何となく嫌な予感がしています。戦場についたら適当な高さでポイッて捨てられそうな気がしています。人間弾頭されそうです。
あ、そうそう。俺の右腕にしがみついていたマリリンですけど、ヴァニーちゃんの命令で強制的に黒鎧に着替えさせられている間に左腕を差し出してみたら、もぞもぞと動いて左腕にしがみつく先を変えてくれました。これで鎧を着れる……じゃなくて、ならば何か適当な物にしがみつかせられないかと試してみましたけど、温かくて生命を感じられるもの以外には移ってくれませんでした。というわけで、ヴァニーちゃんの身体に押し付けて、最終的にペガサスのウィンダリアちゃんにしがみついてもらいました。
「……やはりまだ戦闘継続中か。準備は良いか?」
高度が下がり、松灯りらしき炎が入り乱れている草原が眼下に広がっていました。真夜中なのに戦闘中の模様です。どっちかが相手に夜襲でもかけたのか、それとも暗くなってもずっと戦い続けているのか。
「オッケー。いつでもいけるよ」
「そうか。では、武運を祈る」
あ……急に浮遊感が……これ、もしかして……。
きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!
そんなご無体な!
誰か助けてーーっ!!




