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姪とオンライン!  作者: 漆之黒褐
第二節 二章 『ACCELERATION WORLD』
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冥土 no Dark Knight Sturm Kaiser X

 拝啓、皆様お元気ですか? あれから三日が経ちました。春の日差しも段々と凶悪となりつつある今日この頃、俺ちゃんは何故か目玉焼きが出来そうな程熱せられている全身鎧を着て馬に跨っています。

 何とかしてあの話を断ろうと、素性がばれては困ると言ってしまったのが災いして用意されたこの全身鎧。レイ君の鎧ほど禍々しい形をしている訳ではありませんが、真っ黒なんです。しかも肝心の顔を隠すフェイスマスクはどこの悪者ですかと言いたくなる様な有様。ついつい悪巫山戯で、漆黒の覇者ダークナイト・シュツルムカイザーXと名乗ってみたら、なんとその名前が登録されてしまいました。本名登録じゃ無くても良いんですね。流石ゲームです。

 皇国の女騎士ヴァニーちゃんに拉致監禁された挙げ句、可愛い顔して選択権の無いお願いを強引に頷かされた後、あれよあれよという間に戦場へと駆り出されてしまいました。宝物庫で眠っていた使い道の無い全身鎧をお城のメイドさん達に着せられ(ちょっと至福の時でした)、筋肉ダルマの騎士さん達に担がれ馬に乗せられ(生きた心地がしませんでしたよ)、兵隊さん達にガッチリ逃げ道を塞がれた状態で3日間ずっと馬の上でパカパカと。システムがちょちょいのちょいと働き、無意味に三日間待ちぼうけという拷問だけはありませんでしたが、気付いたら時間はあれから三日が経っていました。

 あらゆる交信を経たれているためシン君達にヘルプミーのSOSを伝える事も出来ません。というか、シン君達も一緒に時間飛ばしてくれてるのかな? そうじゃないと大変な事になるんですけど~。行方不明ですよ俺ちゃん。まぁ女騎士ちゃんに城へ連行されていく姿はシン君が見ているので、何か悪い事をして牢屋にぶち込まれていると思っていますが。今頃は俺ちゃん救出作戦が進行中かな~。のんびり王都観光をまだ楽しんでたらやだな~。

 んで、俺ちゃんは今、見渡す限り兵!兵!兵!というとっても怖い場所にいちゃったりします。目の前には敵国の兵士さんと思われる青鎧を着た、やる気満々の強そうな兵隊さん達の姿。俺の周りには自国の兵士さんと思われる赤鎧を着た、まるで覇気のない兵隊さん達の姿。

 こりゃ、あれだね~。やっぱあれなんだよね~。マスターコンバットウォーゲーム、略してマスコンだよね~。本当にやるのかな~。やだな~。

「漆黒の覇者ダークナイト・シュツルムカイザーX様……ぷぷっ……失礼。ご命令を!」

 あ、笑われた。ちみ、一番槍決定ね。

 などと思っていたら、突然に世界が灰色に染まって時間が止まりました。あ、これってもしかして……。

「やっほー、綺麗なおねぇさん。どうやらまた困ってるようだね~。僕ちゃんがまた助けてあげよっかー?」

 古の妖精三賢者の痴呆担当、僕ちゃん妖精ポックルくんが現れました。

「む……おねぇさん、今なんかムカツク事考えたでしょー。僕ちゃんは知謀担当だからねー。とっても偉いんだよー、えっへん」

 突然髭を生やしてエッヘンポーズ。芸が細かいです。

「んじゃ、サクサクいってみよっかー。おねぇさん、前にやった事あるから勿論やり方分かるよね? ちなみに念のためもう一度言っておくけど、僕ちゃんの声は兵士さん達には聞こえないし、僕ちゃんの姿も見えないからねー。忘れちゃだめだよー」

「分かっている。御前の事は空気だと思えば良いんだろ?」

「ひど! そんな事言うおねぇさんにはおしお……シッコクのハシャ、ダークナイト? シュツルムカイザーXって……それにその格好……あははははははっ! おねぇさん何それその格好、その名前! あはは、あははははっ! やば、お腹が痛い。笑い死にしそう……あははっ……いたた……あはははっ……いた、いたたっ……あはははははっ!」

 ポックルくんの方が俺にお仕置きされました。こちょこちょこちょこちょ。

「ちょっ、ギブギブ! あはははははっ」

「全員構え! 魚鱗陣形、防御体勢を取りつつ微速前進せよ!」

「はっ! 全員構え! 魚鱗陣形、防御体勢を取りつつ微速前進せよ!」「全員構え! 魚鱗陣形、防御……」「全員構え! 魚鱗陣形……」

「って、こらー! 僕ちゃん無視して勝手に始めるなーっ!!」

 サクサク行きましょう。サクサク逝っちゃうかもしれないけど。

 ででっ、ででっ、ででっ、ででっ、ででででっ。ちょっと寂しいからBGMスキルを使ってミュージックスタート。雰囲気作っちゃいます。

「何してんのよ、あんたは。ちゃんと仕事しなさい!」

 あ、女の子妖精ピクリちゃんまで現れた。今回はチュートリアルじゃないから出番無しという事で遊びに来たのかな? 早速ポックルくんの首を絞めて遊んでいます。

「まぁまぁピクリさん、ここは抑えて抑えて。ピクリさんはあまりこの方を相手にしませんでしたので御存知無いかも知れませんが、この方はそういう方なのです。かく言う小生も何度煮え湯を飲まされた事か」

 学者妖精プクーラくんも現れちゃいました。サービス開始からそれなりに時間が経ってますし、きっと暇なんですね。一気に賑やかになったな~。

『おーい、漫才するならもうちょっと横にずれてからやってくれ。正面にいられるとちょっと邪魔』

「前列、全力防御! 両翼後列、弓攻撃開始! 中央後列は詠唱待機!」

「いやはや、口と頭を両方同時に動かすとは。相変わらず規格外のスペックですね、おねぇさん」

『いいから退け。じゃーま』

「なっ、何ですって~っ! この私をいったい誰だと思ってるのですか!」

「くるじぃ、だずげで……」

「はいはい、小生達は素直に横へずれると致しましょう。おねぇさんを助ける事はしても、おねぇさんの邪魔をしてはいけませんよ。でないとヴァージニア殿にきついお叱りを受けてしまいます」

「くっ……後で覚えていなさいっ!」

「なんでもいいがら、だじゅげで……」

 あ、ポックルくんがポックリくんになった。チーン。

「右翼前列、防御交代! 中央第二陣、右斜め前進、右翼前列と入れ替われ! 中央後列、魔法援護開始!」

『んで、何しに現れたんだ、御前達は』

「並列思考しながら会話するのは大変でしょう。小生が一時的に時間の流れを止めましょうか?」

『時間の無駄だから話を進めてくれ』

「時間を止めちゃうから無駄にはならないんだけど……」

 あ、ポックリくんがポックルくんに復活した。でも首についた手跡が生々しいよ。

「おねぇさんがそれで良いのでしたら小生は構いません。小生がおねぇさんの前に現れた理由ですが、この状況の説明をヴァージニア殿に仰せつかりました」

「私は戦局の報告ね」

「僕ちゃんはおねぇさんの戦術サポート……かな? なんだかもういらない気がするけど。なんで戦力差があるのにアッサリ覆してるのかなぁ。僕ちゃんいらない子じゃん」

『要件は分かった。ポックルは帰って良いぞ』

「本当にお役御免!? 酷い! 僕ちゃん泣いちゃうぞっ!」

「あんたは五月蝿いから黙ってなさい! 記録にノイズが走っちゃうでしょ!」

「ピクリさんも声が大きいですよ。ここは小生に任せて、お二人は空のデートでも楽しんでて下さい」

「空からの撮影ね。分かったわ。ここから見ているだけでは見えない事も多いしね。いくわよポックル」

「羽根! 羽根を引っ張らないで!? もげちゃう!」

『こっちもそろそろもぐか』

「即行交代! 陣形変更、鋒矢陣! 激励唱和、蹂躙せよ!」

「これはこれは……話には聞いていましたが、早くも決着が着きそうですね。うかうかしてると小生が説明する時間すら無くなってしまいそうです」

 俺の号令を受けて兵士達が一斉に引き、大急ぎで三角の様な陣形から矢印の様な陣形へと変更致します。魚鱗陣形よりも突撃思考の攻撃特化陣形です。やる気の無い兵士さん達には、無理矢理死地に送り込む事でやる気を出させちゃいましょう。勢いは大切です。

 敵は正面にしかいないので魚鱗陣形は攻防駆に優れた一面を発揮してくれますが、それをわざわざダラダラ防御に徹しながらローテーション。中央第二列、第三列ととっかえひっかえして損害を抑えつつ、交戦時間を稼いでやる気の無かった兵士さん達に闘士をメラメラさせちゃいます。一度安全地帯の中央に引いた兵士さん達は、現実にハッと立ち返って損害確認。恨みパワーを充填ですよ。

 逆に、敵さんはやる気満々だけどほとんど陣形が無い様なものなんですよね。士気差と実力差を過信して最初からにやりムードでした。一応は色々命令して兵士さん達を動かしてますけど、進むか引くかのほとんど二択。細かい芸当は出来ないみたいです。

 んで、なかなか駆逐出来ない事に業を煮やした兵士さん達は、段々と士気が落ちて大振りも多くなってくる。片や徐々にやる気をアップさせてきた俺ちゃんの兵士さん達はまだまだ冷静です。とはいえ鬱憤は溜まっている事でしょう。

 そこで、待ってましたとばかりの全力全快の突撃命令でっす。うはははは、敵さん達がバッタバッタと倒れていきます。バッタバッタと倒されていきます。バッタバッタと蹴散らされていきます。

「まず今回おねぇさんが相手にしている敵の正体ですが、鎧の色を見て分かる通り、皇国の蒼天龍騎士団となっております。その構成は主に防御主体の熟練騎士達。但し第一線で活躍している騎士達ではなく、主に新米騎士達の育成を目的とした模擬戦用の部隊です。しかし見ての通りやる気も実力もあるのですが新人相手に連戦連戦で常勝ムードが出来ている状況です。ですので、隙を付くならその辺りですかね」

 もうとっくに付いちゃってるよ。舐めた態度で向かってきた先輩方を、若さパワーで圧倒です。

 っていうか、これマジもんの戦闘じゃなかったんだ。まだ模擬戦なんだね。通りで誰も本気で相手を殺そうとしていない訳です。怪我人ばかり続出させています。そのせいで、衛生兵がてんてこ舞いですね。

「そしておねぇさんが指揮している部隊は、次代を担う皇国の紅天龍騎士団の新米兵士さん達です。実戦経験はありませんがエリート教育を受けた貴族のボンボンさん達、その中でも真面目に己の腕を研いてきた未来ある若者さん達です。今回はおねぇさんの初戦闘という事でヴァージニア殿が頑張って裏から手を回してくれました。ですから、決しておねぇさんだけの力ではありませんので誤解なさらない様に」

『つまり俺と彼等の自信を付けさせる為という訳か。その情報、あちらさんも聞いてるのか?』

「伝えられていませんね。有頂天になっている彼等の鼻っ柱を折るのも今回の模擬戦の目的となっていますので」

『ポックルには?』

「知らされていません。彼、心理戦は苦手ですので」

『心理戦が苦手なのに知謀担当とは、聞いて呆れるな……やっぱ痴呆担当だろ』

「ちなみに彼の口癖は、勝負は時の運、だそうです」

 ダメだろ、それ……。

『他に何か説明したい事はあるか?』

「本当は敵部隊の人員構成や敵将情報、及びおねぇさんが指揮する部隊の人員構成と小部隊長情報等々をお伝えするつもりだったのですが、説明が必要ですか?」

『今頃聞いても時間の無駄にしかならないな……』

 敵軍中央を強引に突破した赤鎧軍団はその後左右に分かれ、追撃を仕掛けてきた青鎧軍団を包囲し始めていました。士気も鰻登りで後は放っておいても殲滅してくれる事でしょう。

 ……おろ、敵さんが俺ちゃんに向かって戦力をぶつけてきましたよ。起死回生の一手、敵将撃破を狙ってる模様です。対する俺ちゃんはというと、包囲殲滅戦に移行してたので俺ちゃんの前にいる兵士さん達の数が少ないこと少ないこと。

 窮鼠猫を噛むとは良く言ったものでして、元々の実力差と豊富な経験値も相成って、俺ちゃんピーンチ。出来る限り目立たない様にしてたんだけど、やっぱこの鎧姿じゃ無理だったみたいです。

「おや、これは……おねぇさんが前回のチュートリアルで見せた構図に似てますね」

『助言よろしく』

「小生は状況説明のみの担当となっています。おねぇさんへの戦術サポートはポックルのお仕事です」

 見放されました。

 目の前に展開させていた重装歩兵さん達が魔法兵の攻撃によって吹き飛ばされ、遂に俺ちゃん丸裸です。こんなダークな鎧を着ているぐらいだったら丸裸の方がマシだと思ってましたけど、本当に丸裸にされました。いえ、本当に脱いだ訳では無いですよ? 脱いだら俺、凄いんです。だって女性キャラなんですもの。

『きゃー。やーらーれーるー』

 逃げました。

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