メイド's compulsive event
「どうやら僕達は、過去に飛ばされたようです」
いや、もう何が来ても驚かないけど。へ~、俺達過去に来てるんだ~。凄いね~。タイムワープですよー。ゲームだからそういうのも当然ありですよね~。
「反応が思ったより薄いですね。皆さんは驚かないんですか?」
「リアルなら兎も角、ゲームの世界で過去に飛ばされてもなー」
「イベントとしてはありきたりの一つかと」
「では、その過去の世界が、プレイヤーの位置や動きも忠実に再現した世界だとしたらどうでしょうか?」
「うん? いったいどういう意味だ?」
「そうですね……例えば、今はゲーム内時間軸で約一ヶ月前です。その時、カズミ氏は何処で何をしていました?」
「ん~……」
こっちの世界の時間軸って計算し難いんだよなー。3倍世界だから、リアルだと10日前か。何してたっけ? 今週一週間だったらプチポ作りしてたってハッキリ言えるんだけど~。
「記憶にない」
「えっと……そう答えられると話が進まないのですが。では仮にカズミ氏は家に引き籠もっていたとします」
いやいや、例えでヒッキー扱いしないでよ。間違ってないけど。
「バックアップされた膨大な記録領域を再生しているだけの世界か……案外、詰まらん世界だな」
「あの……折角僕が説明しようとしてるのに、アッサリすっ飛ばさないで下さい」
巻きでいきましょう、巻きで。シン君虐め、楽し♪
「要はストーカーし放題って事だろ? あの時、シン君はあそこで何してたのか~、へー、ふーんって感じに。しかも中身いないから、悪戯し放題。ほっぺたツンツンして遊んでも本物のシン君には記録が残らない。シン君、一月前は何処にいた?」
「ほっぺたツンツンしながら聞いてこないで下さい」
「一ヶ月前だったらシンは海岸沿いで、すと……」
む、折角レイ君の口が滑ってくれた所なのに、シン君がシャットアウトしちゃいました。海岸沿いね~……あ、思い出した。そういえば俺ちゃんも、街中の海岸沿いで素材集めしてましたね。シン君は外でモンスター狩りかな?
「兎に角そういう事なので、プレイヤーの動きはあまり詳しく詮索しないようにして下さい」
「浮気現場とか簡単に抑えられそうっすね~」
「ユキちゃんの逢い引き姿も見られるかもな」
「そしたらファンクラブ会員のみんなで男の方をタコ殴りっすね」
あら、ユキちゃんってそっち系の人なんだ。てっきりレイ君が懸想している相手かと思ってた。ユキちゃん、ネットアイドルか何かなのかな~。
「それじゃ、そろそろ二手に分かれましょうか。日が暮れたら宿で合流しましょう」
♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪
という訳で、シン君と二人きりになれました。だって禍々しい鎧を着てるレイ君と一緒にいたら、ものすっごく高い確率でお巡りさんに捕まりそうだったし。その点、女の子のユリアちゃんが一緒にいれば、衛兵さん達も手荒な事を控えてくれると思います。
……却って勘違いされる可能性も無きにしもあらずだけど。結果は合流予定の夜をお待ち下さい。と言っても、PTチャットで報告してくれればすぐに判明するけどね。
「カズミ氏のログアウト予定時間も過ぎてしまいましたね」
「ここで俺だけログアウトさせられても困る。俺はみんながログアウトしたのを確認した後で良い」
「それがマリリンとセンのプレイ時間帯とずれている理由ですか?」
「いや? 単純に、夜9時就寝では寝付けないだけだ」
たまにこっそり天使の寝顔を拝見させてもらってるけどねー。むしろそっちが本命? 最近は猫ちゃん達が布団の上に乗っかってちょっと苦しんでいる寝顔を見る時もあったけど。ゲームの中に入れない一番下の姪、雪璃ちゃんを挟んで川の字になって仲良く寝ていまっす。
「そう言うシン君が9時に寝ている理由は? あまり早く寝ると勉強時間が無くなるだろ」
「僕はいつも朝起きて勉強してますから。ほら、早朝の方が頭が良く働くって言うじゃないですか」
「ずばり、朝のジョギングもしているとみた!」
「正解です。ちなみにレイも僕と同じで早起きですよ」
「うーん……レイ君はユダちゃんの親父さんに叩き起こされて、毎日に市場に連れて行かれてそうなイメージ」
「正解です……カズミ氏、もしかして普段は爪を隠してます?」
「能ある鷹はってやつか? さ~て、何の事やら」
口笛吹いちゃいましょう。曲目はフライデーナイトファンタジーで。その後には、お~とこには~じぶんの~せかいが~ある~って歌詞のアニメ映画が流れる予定でーす。
「どこまで本気でどこまで本当なのか。カズミ氏は本当に不思議な人ですよね」
「身体は女、心は男だしな」
「VR世界では性別は変えられませんよ。まぁ例外はもちろんありますけど。少なくともこのゲーム内では不可能です」
俺ちゃん、不可能を可能にしてしまう男です。女キャラになっちゃってるのは不運な事故ですけど。
そんなたわいない会話を楽しみながら、王都フェネシスでシン君とデートすること約3時間。途中、アイスクリームを買って食べてみたり、カフェでお茶してみたり、大きな教会に入って何かを祈ってみたりと、色々町を見て回りました。どうやら口では情報収集だと言ってても、シン君も王都は初めてで色々と目移りしている模様です。思い切り観光を楽しんでましたよ。
「次は何処を見ましょうか」
いつの間にかシン君と手を繋いでました。自然なタッチでした。リアルでは普段から誰かと手を良く繋いでるのかな?
――と、そんな楽しい一時も、少しして唐突に終わる事となりました。
♪♪♪♪♪♪♪♪姪とオンライン♪♪♪♪♪♪♪♪
「さて、貴殿に相談したい事というのは他でもない。貴殿の力を見込んで、貴殿に一軍を率いてもらいたいと私は考えている」
突然、俺を個室に拉致した女騎士さんはそう言ってきました。
国家機密に関わる話だという事でシン君とは強制的に引き離され、今は別行動中です。PTチャットも個別チャットもシステムで遮断されています。
「もう少し詳しく言うと、昨今戦力増強の為に少しずつ大陸外からの訪問者達を軍の編成に組み込み始めたのだが、自由人である彼等の参入を他の兵士達が嫌がってな。それでなくとも彼等の行動は目に余るものがあり、なかなか制御仕切れないのだ。かといって彼等の力は頼りになる上、生命の危機に瀕すると確実に離脱してくれる。回復も早く、再び参戦してくれる。つまり、死ぬ事が無く何度でも戦場に立つ事が出来る。これは非常に助かる能力だ」
俺の頭の整理が追いつこうが追いつかなかろうが、美人の女騎士さんは話を続けまっす。何となく話が例のマスコンに関連しているという事は分かりました。
「だが、現状ではまだ彼等は一兵卒という扱いにしか出来ない。招集を掛けても着の身着のままでしか応じず、しかも戦闘に報酬が無いと義務を放棄してしまう事も少なくない。戦場では命令を無視する事がほとんど、そんな者達に一軍を指揮させようなどとは誰も思わない。つまり、便利な使い捨ての駒としてしか彼等には利用価値が無い」
まぁ、ゲームだしね。マスコンに参加出来るのはいいけど、四六時中軍に行動を制限されてマスコン強制参加ってのはまず無理な話だろう。中にはコアなユーザーでも現れるかもしれないが、それでも少数。普通に考えて、普通の軍人として俺達は生きていけない、生きていかない人種である。
「かといって、傭兵として雇う金も無い。現状では兵士として起用する以外に無いのだ。しかしこのままではすぐに貴殿達大陸外からの訪問者達の興味を失い、貴重な戦力を確保する事が難しくなってくる。その先に待っているのは敗北。神聖フェネシス龍皇国は他の国々同様にミネルヴァ帝國によって滅ぼされ、歴史から姿を消す。それだけは何としても避けたい。そこで、貴殿の力を借りたいのだ」
かっくいい女騎士さんの話はだいたい分かりました。だけど、何故俺ちゃんがそんなに頼りにされているのかがまるで分かりませんでした。
シン君とデートしていると突然に現れた女騎士さん(たぶん二十歳未満だよ)。ただ偶然に遭遇し、そのまま何事も無く通り過ぎたと思ったら急に俺の肩をガシッと掴んで、話があるから城まで来いと。かなり強引なデートのお誘いでした。
んで、一緒にいたシン君はというと、それがこの特殊クエスト達成のイベント開始フラグだと睨み、直感即答で「はい、どうぞ」と。シン君も一緒にと駄々をこねてみたけど、シン君はお呼びでないという事で俺だけが女騎士さんに連行されちゃいました。
んで、個室へと御案内。地下に降りたので、たぶんすぐ近くには地下牢が。部屋の外には槍を持った兵士さん達が数名。秘密のお話だけど、知ったからには協力する以外の選択肢は無い的な感じでのご相談でした。所謂、強制イベントというやつですね。断っても選択肢ループが発生して、はいと答える以外にルートが用意されていない気がします。
「俺はただの一般人なんだが……」
素知らぬ顔をして答えます。だって、女騎士さんとは初対面の筈ですから。
例えキリッとした顔立ちの女騎士さんの名前がヴァージニア・ブルージェイドだったとしても。その肩書きが神聖フェネシス龍皇国、黄天龍騎士団、極東方面大隊、第七天翔聖伐部隊所属、特務騎士、第三位天馬皇騎士だっとしても。俺ちゃんには思い切り見覚えのある顔だったとしても。
白を切り通しますよ。だって、あの時はササメさん以外誰にも俺の顔を見せてませんからね。奇抜な黒衣装を着て仮面を付けた謎の吟遊詩人でした。だから、俺とヴァージニアちゃんは初対面。きっとこれはヴァニーちゃんの一目惚れから始まる恋の照れ隠し演武なのです。そうに違いないでーす。
ヴァニーちゃん……良い響きだな。白ウサギのバニーちゃんスタイルのヴァニーちゃんに是非是非奉仕されたいよ。君をお持ち帰りで一晩とか。
「謙遜するな。貴殿の戦術眼は確かだ。先のエルファシル強襲事件では、敵の戦術をいち早く看破し味方の被害を抑えた。誰にも気づけなかった事だ。あの報告が無ければ被害はもっと甚大なものとなっていただろう。それこそ私が町に辿り着く前にエルファシルが陥落していた可能性も高い。いや、間違いなく町の人々の命の大半は失われていただろう。あの街には私の知り合いも多くいるのでな。個人的にも感謝の言葉が尽きぬぐらいだ」
……あれ、なんか思ってた方と違う展開ですよ? てっきり俺ちゃんはヴァニーちゃんに仮面戦士の素顔を看破されたのかと思ってたんですけど。
さて、戦術眼って何だろう。確かに俺は敵の動きを読みはしたけど、報告はしていないんだけどな~。報告してないよね? 仲間内ならちょっと話したぐらいだけ。しかもあの時には既に街は襲われてたし。東の海からの攻撃をちょこっと予想したぐらいです。
「それに何より、敵国が送り込んできた最悪の刺客を抑えていてくれた。しかもかなりのダメージを与えてだ。流石に私もあれが全快状態にあれば、あれほど容易く撃破は出来なかった。むしろこちらが殺られていた可能性の方が高い。2重の意味で我が国は貴殿によって救われている」
あ、こっちもばれてる。なんで? NPCだから、全部筒抜けなのかな~。仮面も全然効果無しって具合に。
「先程からいったい何を言ってるのか分からないんだが……」
「……なるほど。貴殿は中々に奥床しい人物の様だ。報告は人伝だし、あの時は今とは全く別の姿をして、しかも仮面を付けていた。前者は兎も角、後者は貴殿と結びつく確かな証拠は無いな」
前者は結びつくんだ……シン君もしくはササメさん経由の情報漏洩かな? あの時は確かに2人とも何人もの人とコンタクトを取ってたみたいだし。
「だがまぁ良い。私が必要としているのは戦士としての貴殿の実力ではなく、戦術家としての貴殿の力なのだ。いや、それも正確では無いな。先にも説明した様に、現状では貴殿等大陸外からの訪問者を軍の指揮官に据える事が出来ない。しかし中には貴殿の様にそれなりの戦術眼を持っている逸材も存在する。古の妖精三賢者を唸らせる程の才覚を持った逸材がな」
古の妖精三賢者って、もしかしてチュートリアルクエストに出てきたあの妖精達だろうか? 知謀担当の僕ちゃん妖精ポックル、知識担当の女の子妖精ピクリちゃん、頭脳担当の学者妖精プクーラくん。懐かしいなぁ。まさかこんな所でその名を聞くとは。あの妖精ちゃん達、こっちの世界と繋がり持ってたんだ。
「具体的には何が望みだ? 言ってみろ。内容によっては考慮しない事も無い」
「それは私の台詞なのだが……良かろう。こちらの望みは、まず手始めに大陸外からの訪問者達を組み込んだ部隊の指揮を貴殿に任せたい。もちろん、それは貴殿の都合がつく時だけで良い」
「それはつまり、戦力は欲しいが扱いきれないので、専用部隊を設立し指揮系統も俺達に丸投げするという事か。部隊が壊滅してもそれは俺達の責任として処理出来るし、部隊での地位や優遇、土地などの報酬をちらつかせてプレイヤー同士で戦果を競わせる事で戦争への参加も促す。地位が上がれば部隊指揮が出来る様になるという前例は俺という訳か」
「話が早いな。そうだ。貴殿等は既存の軍律ではなかなか縛る事が出来ないため、ある程度自由に動く事が出来る義勇軍部隊を設立し組み込もうと考えている。我が国に属しているが、実質的には国営の傭兵団の様なものだな。部隊の軍律も余程逸脱しない限り貴殿等で自由に決める事が出来る」
うわ、随分とカオスと化しそうな部隊だね。ギルド単位で独自に動く小隊がたくさん現れたり、軍隊なのにソロプレイしてこちらの位置を敵軍に教えてしまったり、いつでも突撃思考玉砕パターンのプレイヤー盛り沢山だったり、普通に考えて傭兵団より質が悪い気がします。しかもルールまでこちらで決められると。うん、めっちゃ面倒臭そうです。
「なるほど。そのやたら面倒臭そうな立場にヴァージニアは指名を受けたから、手っ取り早く誰かにその仕事を押し付けようと考えていた。そこにちょうど俺が通り掛かってしまったと」
「……話が早すぎて怖いな。だが、その通りだ。タダでさえ私は肩書きが多いというのに、これ以上仕事を増やされては適わん。だから、私の休日を守りきるためにも力を貸してくれ」
あれ、そんな理由? 正義の為にとか、お国の為にとかじゃなくて、ただ単にヴァニーちゃんが休みたいだけ? そういえば、街であった時もヴァニーちゃんは普通に女の子してたような。騎士鎧は着てたけど、知り合いらしい街のお姉さん達と楽しく会話しながら話してましたね。アイスクリームを食べながら。
「それをする俺のメリットは?」
「ほっぺたにキスの一つぐらいだったらしてやらんでもないぞ」
ものすっごい安いな。実質タダじゃん。……興味はあるけど。
「失礼します。ヴァージニア様、急ぎお耳に入れておきたい事が」
「うん? ちょっと失礼」
回答を渋っていると、兵士さんの一人が部屋に入ってきて何やらヴァニーちゃんに耳打ちしました。そしたらヴァニーちゃんの顔に勝ち誇った笑みが浮かび上がりました。ん、あれ? 何だろう、この悪い予感。
「そういえばまだ貴殿の名を聞いていなかったな。良ければ名を教えてもらえるか?」
「……カズミだ」
「そうか、カズミ殿か」
そこまで言って、ヴァニーちゃんは剣を引き抜いて俺に突きつけてきました。
「カズミ殿、貴殿を住居不法侵入の罪で捕らえさせてもらう。何か言っておきたい答えはあるか?」
やっぱイエス以外の回答は許されない強制イベントだったのね。
見逃してもらうための交換条件として、俺ちゃんは可愛いヴァニーちゃんのお願いに対し首を縦に振るしかありませんでしたとさ。




